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第7話

 二人は長い時間、言葉をしゃべらずにただじっとそういていた。

 その間、若竹姫は目をつぶり、白藤の宮は若竹姫の美しい黒髪をそっと何度か優しく撫でてくれた。(なんだか、とっても、なつかしい感じがした。若竹姫は闇の中で風の運んでくる緑の森の匂いと、とてもいい香りのする畳の匂い、それからぱちぱちと気持ちよく弾ける火の音を聞いていた)

 鳥の巣の中には気持ちのいい風が吹いていた。(ちりん、と誰かが家の中を訪ねてきたように、その風が鳥の巣の縁側にかけてある赤い金魚の模様の入った風鈴を一度だけ鳴らした。私がたずねてきたときも、鳴ったのかな? とその音を聞いて若竹姫は思った)

 森に吹く、少し雨の残った匂いのする、湿った風。夏の風だ。

「……もう、夏ですね」

 そんな夏の風の中で久しぶりに白藤の宮がそう言った。

「はい。夏です」

 目を瞑ったまま、若竹姫はいう。

「都ではお祭りの季節ですね」

 白藤の宮がいう。

「はい。お祭りの季節です」若竹姫は言う。

「ずいぶんと懐かしい思い出です。山に灯る大きな、大きな明るい篝火を見たり、夜空に咲く、とてもたくさんの綺麗な『黄泉送りの花火』を見ました」

 なんだかとても懐かしいな、と言ったような昔を思い出したような(童のような)声で白藤の宮は言う。

「今年はとくに去年の終わりごろから、流行病や飢餓、それにいろんな、とても大きな災害が続いたので、たくさんの人たちが亡くなりました。きっと例年以上にたくさんの黄泉送りの花火が打ち上げられると思います。花火職人の友達がそんなことを言っていました」若竹姫は言う。

 今年は本当にたいへんな年だった。(ようやく復興のめどがたったけど)都はまるで違う街になってしまったかのように、いっときは荒れ果ててしまっていた。

「花火職人の友達がいるのですか?」

 まあ、とでも言いたげな、とても驚いたと言うような、(あるいは、とても好奇心に満ちた弾んだ声で)白藤の宮はそう言った。

 その白藤の宮のなんだかとても楽しそうな声を聞いて、しまった、と思いながら、若竹姫はそっと目を開けると、ずっと動かしていなかった頭を動かして上を向いて、白藤の宮の自分を見ている驚いた顔を見ながら「はい。います」と(隠しごとをしないで)そう言った。

「その花火職人の友達は男の人ですか?」と白藤の宮は、(どうなんですか? と言いたげな顔で)にやにやとしながらそういった。

「違います。女の子です。とても素敵な女性ですよ」とそんな白藤の宮の顔を見ながら、(残念でしたね、と言ったような顔で)若竹姫は言った。

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