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第3話

　都から遠く離れたこの古い静かな森の中にある小さな古い家のことを白藤の宮は『鳥の巣』という名前をつけて呼んでいた。（白藤の宮は小さな子どものころからずっと空を飛ぶ鳥に憧れているようだった。だから自分の暮らしている家のことを鳥の巣と呼ぶことにしたのだそうだ）

　この人気のない、尋ねるものも、今はもう若竹姫のほかに誰もいない（白藤の宮は「わたしはもう忘れられているのです」とそう言っていた）この静かな場所に、もう白藤の宮は十年以上、一人で暮らしていた。（いろいろとお世話をしてくれるひとたちはいるようだったけど、白藤の宮は血のつながりのある家族とは誰とも一緒に暮らさないで、この家に本当に一人で暮らしていた）

　宮中で暮らしていた大きなお庭のあるようなお屋敷（家）とはまるで違うとても質素な作りの家。

　……、でも、白藤の宮はこの家をとても愛しているようだった。

　私の人生はこの静かな森の中で、……、鳥の巣で暮らすようになって初めて本当の意味を持つようになったんですよ。

　と、とても嬉しそうな顔でふふっと笑って、白藤の宮は若竹姫によく言っていた。（その笑顔があまりにも素敵だったから、その言葉は白藤の宮の強がりや嘘ではないように若竹姫には思えた。白藤の宮はもう都には未練はないのかもしれない）

　若竹姫は久しぶりに訪れた鳥の巣の中をゆっくりと観察する。

　確かにこの場所には、宮中にはない、穏やかで落ち着いた時間が流れている、と若竹姫は思った。

　そんな若竹姫のことを、なにか珍しいものでも見るような目をして、白藤の宮はお茶を飲みながら、ただじっと（なにかおもしろいおもちゃでも見つけたような猫みたいな顔で）見つめ続けていた。