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第1話 こっちにおいで。一緒に遊びましょう。

 あなたのいる、とっても静かな優しい雨の降る古い森の中の鳥の巣にて。


 こっちにおいで。一緒に遊びましょう。


 世界には小雨が降っている。

 悲しい雨。

 そう感じるのは、私が今、泣いているからなんだろうか?


 草太が一人でうずくまって、神社の軒下で泣いていると、がさがさと近くの木陰にある草むらで音がした。

 なんだろう? 草太は音のしたほうを見る。

 すると少しして、その草むらから一人の女の子が顔を出した。亜麻色の髪をした草太と同い年くらいの小学四年生くらいの女の子。

 その子は草むらの中からじっと、うずくまって泣いている草太のことを見つめていた。

 そうたは目を真っ赤にしたまま、じっとその見知らぬ女の子の顔を見つめた。

 ざーという小さな雨の降る音が聞こえる。

 草太とその女の子はそのまましばらくの間、そうして雨の中で、お互いのことをじっと見つめ続けていた。

 それから、その女の子は草むらの中から出てきて、草太の座っている神社の軒下のところにまで雨の中を移動をしてやってくると、「よいしょっと」と言って、草太の隣に、草太と同じ体育座りの姿勢で座り込んだ。

 それから横を向いて泣いている草太の顔を見つめた。

 草太も、同じようにその女の子のことを見た。

 その女の子はとても可愛らしい女の子で、でも、少し不思議な感じのする女の子だった。それはその女の子の服装が原因なのかもしれない、と草太は思った。その女の子はとても古風な日本の中世の人たちが着ているような赤い着物の服を着ていた。

 それは着物だけではなくて、靴も草履だったし、まるでおとぎ話の中から抜け出してきたような女の子だった。

 女の子はその髪の毛に赤い紐のついた黄色い小さな鈴をつけていた。

 草太はその女の子のことを、そんなことを考えながらじっと見ていた。

「どうして泣いているの?」

 その女の子は顔を草太の顔にかなり近いところにまで近づけて、そう言った。

 草太は黙っている。

「なにか悲しいことでもあったの?」

 女の子は言う。

 草太はやっぱり、黙っていた。

 するとその女の子はそれ以上草太に質問をすることをやめて、草太の隣で、さっきまで草太がそうしていたように、そこから世界に降る小さな雨の降る風景に目を向けた。

 草太はそんな女の子の横顔を少し見てから、女の子と同じように顔を少し上げて、世界に降る雨の風景に目を向けた。

 そこには灰色の空があった。

 二人はそのまま、じっと、なんの話もしないままで、雨の降る風景を見て、ざーという雨の降る音だけにその小さな耳を傾けていた。

 そうしていると、草太はなんだか、少しだけさっきまでの悲しい気持ちが自分の中から消えていくことを感じた。(それがすごく不思議だった)


 鳥の巣


 ……いつか、あなたの元に。


 春は、目覚め。

 夏は、育み。

 秋は、実り。

 冬は、眠り。


 春にあなたと出会い、

 夏に私はあなたの幽霊と出会い、

 秋に自分の影を踏んで、

 冬に私はひとりぼっちになる。


 森の奥


 はじまり、はじまり。


 おーい。なにしているの?


 都で暮らしている若竹姫が静かな古い森の奥に足を踏み入れると、そこには生い茂る深い緑色の森の中に建てられている、古い一軒の小さな家があった。(森の中を歩いているときに、姿は見えないけれど、どこか遠くから、鳥の鳴き声が聞こえた)

 古いけれど、とても綺麗に掃除や手入れをなされている、……そこに、その家があることが、少し不思議だと思うような、……そんな小さな家。

 その家には、一人の(とても魅力的な、でも少し変わった)女性が住んでいた。

 年のころは若竹姫よりも、ずっと上で親子くらいの違いがあった。

 その女性に会うことが、若竹姫がこの深い森の奥にまで、わざわざ遠くからやってきて、足を踏み入れた理由だった。

 その女性の名前を『白藤の宮』と言った。

「あの、お久しぶりです。……若竹です。若竹姫です。白藤の宮。……いますか?」

 木のいい匂いのする、小さな家の玄関の前で、若竹姫は言う。

 すると、少しして、家の中で誰かが動く音がした。

 森は、少し前に雨が降ったのか、木々の葉や幹は、しっとりと濡れていた。土も少し、ぬかるんでいる。白い靄のような霧も少し出ていた。そんな水気を帯びた森の中の空気は、とても新鮮で、気持ちが良かった。(それになんだか、少し神秘的な雰囲気を感じた。それは、この森の奥を訪れるときに、いつも若竹姫が感じる感情だった。……森は、まるで別の世界のようだった。都とは違う、不思議な世界。もう一つの世界。そこにあなたは、ずっと閉じこもるようにして、ずっと一人で暮らしているのだと思った)

「はい。いますよ。まだ、私は生きてます」

 がらっと言う音がして、木のドアが開くと、そこには白藤の宮が立っていた。

 掃除をしていた最中なのか、鮮やかな着物の上に白い前掛けと、頭に白い頭巾をかぶっている。

 そんな白藤の宮はまるでお化けのように、両手を自分の胸の前で、だらんとさせて、ふふっと笑いながら、小さないたずらっ子のような顔をして、若竹姫にそう言った。

 そんな、いつまも子供のままでいる白藤の宮を見て、若竹姫は「はい。知ってます」と、少し呆れた顔をしたあとで、くすくすと、小さく笑ってそう言った。

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