勇者達との共闘 これからのこと
「「グォォーーーーーーー」」
2体のドラゴンは、真也達を見つけると威嚇する。 それと同時に、
「お前ら!すぐに戦闘態勢になるぞ!」
明確な指示はなかったが、勇者たちはその意思を汲み取ったようで、それぞれ配置についた。 冒険者達は、落ち着かない様子だったが、それでも自分たちのできることを探し出す。そんな中真也は、冷静に状況を判断していた。
(魔力を見てみたところ、1体が魔法特化で、もう1体が攻撃特化ってところか。 ぎりぎりの戦いになるだろうけど、俺が援助するわけにはいかないな)
そう思って、皆が戦っている背後で、隠密と認識阻害を掛け、彼らの戦いを見守ることにした。
「1体が魔法で1体が攻撃......しかもどっちも鱗が固くて攻撃が通らない!!」
勇気がそう言いながら、状況を分析しだす。 どうやら彼は、<勇者>の効果もあって、人一倍冷静なようだった。
「岡田君! <殴打> を使ってドラゴンの柔らかそうなところを集中的に狙うんだ! 森山さんや他の魔法を使える皆は岡田君が狙ったところに向かって魔法を放って!」
そう指示を飛ばす。 岡田達はその通りに動き、ドラゴンの首周りを狙い撃ちにする。そして、
「セアァァァッ!」
そういって勇気がドラゴンの首に、思いっきり剣を振るう。さっきまで狙い撃ちにされていて、さらにただでさえドラゴンの体で柔らかい部分に剣を振るわれたので、ドラゴンはかなりのダメージを受けたようだったが、首の切断までには至らなかった。 ちなみに、勇気が持っている剣は、王都の宝物庫にあった剣で、聖剣エクスカリバー、などと呼ばれているらしい。 <鑑定>を使って見てみた結果、品質はS+で、技術も<自動修繕>、などがついており、国宝級のものだった。 ちなみに、品質がS以上は、滅多になく、国宝として存在している程度だ。 冒険者でも、上位の冒険者が使っているものはA+などである。 そのため、真也の来ている服や剣は、完璧なイレギュラーなのだ。
「まだまだいくぞ! みんな! 頼む!」
そういって勇気は再びドラゴンに切りかかろうとするが、後ろからもう1体のドラゴンの魔法が飛んでくる。
「くそっ!」
そういって勇気が避けているうちに、切られたドラゴンは回復魔法をかけられ、完全にではないが回復してしまう。
「これじゃあ埒が明かないな。 みんな! 一度奥のドラゴンは無視して攻撃役のだけに専念しよう! 僕が身体強化を使って一気に切りかかるから、井上さんは僕に魔法が飛んで来たら結界で防いでくれ! そして、僕がドラゴンに攻撃を開始したら、それに続いてみんなも攻撃してくれ!」
そういって勇気が走り出す。 奥のドラゴンが魔法を放ってくるのに対し、井上恵がかなりの精度で結界を使って対応しているため、勇気に魔法は届かない。 勇気が<身体強化>を使い、ドラゴンに切りかかると、
「いまだ!!」
そう勇気がいう。 それと同時に、魔法や、固有技能による攻撃など、様々な技が飛ぶ。
「みんな! 油断するな! もう1体のドラゴンに備えるぞ!」
どうやら攻撃特化のドラゴンは倒したらしい。 勇気の声に再びみんなは戦闘態勢に戻る。
「グワァァァァァァァァァァ」
片方を殺されて怒ったのか、さっきよりも強い声で咆哮をする魔法特化のドラゴン。 いくらステータスが高くても、1人1人がSランクの魔物並みの強さを誇る勇者達を相手にするのは無謀だ。
「さっきと同じようにいくよ!」
そういって勇気が駆けだす。 身体強化でさらに速くなっている勇気の足は、すぐにもう1体のドラゴンのもとへたどり着き、切りつけると同時に、他の攻撃も放たれる。
「これで、終わりだ!!」
そんなセリフとともに、もう一度勇気がドラゴンを切りつけ、ドラゴンは動かなくなる。
「お前ら! よくやってくれた!」
ドラゴンが死んだのを確認した後に、団長の声がかかる。 団長や他の冒険者たちは、魔法などで多少援護していたが、勇者達とは根本的なステータスが違うため、戦いにはあまり貢献できていない。
「いえいえ、そんなことはありませんよ。 これも団長が訓練をしてくれたおかげです」
「そう謙遜するな。 ここまで強くなれたのはお前たちの実力だ! まだ訓練は続けるがな!」
そう団長が「ワッハッハ」と笑い、他の勇者達も戦いが終わったことに安心して警戒を解くと、
『「!?」』
奥から「ゴゴォォ」 という音が聞こえ、ドラゴンがいた奥の壁が崩れだし、その奥に階段が現れる。
「みんな。 戦闘態勢を解くな。 警戒したままあがるぞ」
そういって、騎士団長が先頭を行く。 それに続いて、みんなも階段を上っていく。 その会談は、少し長い階段であったが、みんなは警戒を怠ることをさせず、集中して上っていった。そして、上った先にあったのは、
「......扉、か。 また魔物がいるかもしれない。 戦闘態勢を整えて、いつでも戦えるようにしておくんだ!」
「みんな、準備はいいな? 開けるぞ!」
そういって団長が扉を開ける。 すると中にあったのは
「祭壇...か?」
剣でも刺さっていたら似合いそうな、祭壇だった。
「取り合えず近づいてみよう」
そういって、前後左右に警戒しつつ、祭壇に近づく。 扉から全員が離れると、「ギィィ」という音を立てて扉が一人でにしまる。 それに対し、少し怯えつつ、祭壇へと近づく、すると、
『よく来てくれた。 勇者諸君、それに騎士団長、冒険者諸君』
そう目の前の祭壇の方から声がする。 恐る恐るそこへ視線を向けると、そこには、残留意識のような、
「大賢者さま...?(爺?)」
大賢者改め爺が、いかにもな格好で、青白くなって出現していた。
『いかにも。 儂は昔に大賢者と呼ばれていたものじゃ。 とはいっても儂はもうこの世におらん。 今の儂は、生前、儂が残した残留意識というものじゃ。」
爺がそういうと、他のみんなは、信じられないといった様子を見せる。
『信じられんのも無理はない。 じゃが、この話は聞いてほしい。 今のお主らでは、魔王討伐を果たすのは難しい。 魔王を慕うやつらの中でも、比較的弱い方の、魔族でさえ、今のお主らと同程度の力を持っておる。それに加え、魔王配下の魔人たちは、その魔族よりもさらに強い。 魔人相手じゃと、相手が1人しかいなくても勝つことは難しいじゃろう。」
そう言われると、辺りが沈黙する。 Sランクの魔物でさえ、倒せるものなんてそうそういないのに、さらにその上がいると言われたのだ。 仕方がない。
『そこでじゃ。儂はお主らに、力をつけてほしいと思っておる。儂は、お主らに力を付けてもらうために、帝国にを3つ迷宮を作った。1つは、魔法が使えない迷宮。 もう一つが、物理攻撃ができない迷宮。 最後が、どちらも使える迷宮、普通の迷宮じゃな。 じゃが、どの迷宮も、最上層から魔物がさっきのドラゴンぐらい強いやつなんじゃ。 きっと攻略には時間がかかるじゃろう。 しかし、その迷宮を完全に突破した時、お主らには確かな実力がつく。 もうここらじゃレベルを上げることはできないだろうしの。 申し訳ないんじゃが、儂はそのダンジョンが今、どういう状況にあるかまではわからん。 儂が未来を見た時には、その辺りには立派な学院があったはずじゃ。』
そう爺がいい、一呼吸おくと、
『儂は残りの力を使って、一時的に魔王を3年間封印する。 じゃが、これが限界じゃ。 もう残留意識も残ることはない。 じゃから、後はお主らに託す。 迷宮は、他の者が発見できても入れないよう、封印してあるが、ある言葉を言うと封印が解けるようになっておる。 その言葉は、「大賢者の名のもとに、この迷宮の封印をとく」 じゃ。 お主らに拒否権はあるようでないことは間違いない。 しかし、時間は刻一刻と迫ってきておる。 これで儂の説明は終わりじゃ。 質問はあるかの?』
爺がそういっても、辺りは沈黙したままだった。
『無理もあるまい。 これより強い敵が出るんじゃからな。 じゃが、お主らはいずれ戦わなければならない。 そのことをしっかりと胸に刻んでおくんじゃ』
爺がそういうと、
「そうだよみんな! 僕たちは選ばれた勇者なんだ! 僕たちならこの世界を救うことができる! みんな! 僕たちはもっと強くなれるんだ! 絶対に世界を救おうじゃないか!」
そう勇気が言い出す、それに対して、みんなは「「おう!(はい!)」」といって返事をしていたが、俺はなぜそんなにも安心できるのかわからなかった。
『それを聞けてよかった。 最後に、儂から少しだけ助力をさせてもらう』
そういうと、爺から光の玉が出てきて、みんなの中へと入っていく。
『これは、その迷宮のありかを教えてくれるものじゃ。 お主らは、迷宮の近くで地図などをみたら、迷宮の場所が分かるようになった。 他にも、見なくてもなんとなくで迷宮の場所を感じ取れるようになったわい』
『そろそろ時間のようじゃ、儂は残りの力を魔王封印に使ってしまうから、それ以上のものを授けることはできない。 すまないな。 お主らの魔王討伐達成を願っているぞ』
そういって、爺は俺たちの目の前から光の粒になって消え去る。 それと同時に、俺の脳内に、
『やぁー、シンヤ君。 新しい体を大分使いこなせているようじゃな?』
そんな声が飛び込んでくる。 それは、さっきまで聞いていた爺のこえと一緒だった。
『消えたんじゃなかったのかよ......ていうか、どうやって話しかけてきたんだ?』
『<念話>っていう技術じゃよ! ちなみに、魔王を封印したのは事実じゃよ? あと、儂がお主に語り掛けて、それで返事をしたから、お主もこれから使うことができるぞい』
そう言われたので、ステータスを見てみると、確かに<念話>と書いてあった。
『それで、一体何のようなんだ? 爺』
いつまでも目の前の沈黙した状況が続くわけじゃないので、そう話を切り出すと、
『お主と一応話をしておこうと思ってな。 あと、お主には爺って言われるからなんか孫っぽいのじゃよ。 お主、魔王でさえもワンパンしてしまうから気を付けるんじゃよ? 別にしてもいいがの。』
そう言われたが、俺は特に魔王を討伐しようなどとは思わなかった。 むしろ、それよりも
『なんか強くなりすぎちまったから、むしろ傍観してみようと思ってるんだよな。 やりたいことは、色々あるが、有名になるとしずらくなるしな』
そういい断る。
『まあ、そういうと思っていたから別にいいんじゃが。 お主に、少し魔法のことをおしえておいてやる。』
そういって、一呼吸おくと、
『お主、まだ魔法を使いこなせていないじゃろ? 特に、重力魔法と空間魔法じゃよ。 無属性魔法は、お主が前使っておった<魔法破壊>なんかは主じゃから、特に問題はないの。』
そう言われてみると、確かにそんな魔法があったなと思い出す。
『あの2つはかなり便利な魔法でな、名前のままなんじゃが、重力魔法は、対象にかける重力を増減することができる。 他には、近くに別の重力を発生する物体を作り出すこともできる。』
『空間魔法も名前の通りで、空間を操ることができる。 瞬間移動とか、物体を入れ替えたりとかな。 使いこなせれば便利の魔法じゃ。お主は全ての魔法を”使え”て”知っている”。じゃから、使うときは、ただ想像すれば自然と使うことができる。』
俺は爺の説明をありがたく受け取った。
『あと、<糸生成>と<糸支配>はかなり便利にな能力じゃからちゃんと使いこなすんじゃよ!』
あの能力は俺も気に入っていた。 チンピラに絡まれたときに、糸に彼らを絡またり、糸でこけさせたりなど、かなり面白い能力だ。
『最後じゃが、これが一番重要じゃ。 お主、力が強すぎて、かなり困っているじゃろ? じゃから、この技能、<調節>、を使うんじゃ。 これは、任意発動型で、お主が自分のステータスを好きなように調節することができる。 お主は、<再生>に加え<不老不死>もあるから、死ぬことはないから、安心して下げることができるぞい』
『儂がお主に言いたいことは以上じゃ。 <念話>でいつでも会話はできるから、気になることがあったら、儂の顔を思い浮かべながら問いかけてくれればよい。 ではな』
そういって頭の中の声は遠ざかっていく。 ちょうどその後に、
「みんな! 魔法陣だ! 多分これで外へ出ることができる!」
爺が出た祭壇の前に魔法陣が展開される。
「みんな、準備はいいな? 取り合えず、今の話はあとですることにしよう」
そういい、順番に魔法陣の中へ入っていく。 それに続いて、俺も入ると、周りは迷宮の入口で、時間帯は朝になっていた。
「迷宮攻略の祝いをしたところだが、取り合えず今日はこれで解散としよう。 俺はこれから勇者たちを王都に連れて帰る。 これだけの情報が集まれば、後に王都に呼ばれるだろう。 その時にまた会おう」
そういって、騎士団長は勇者達を連れて、王都の方へと帰っていく。 その途中に、勇者達からも別れの挨拶を告げられ、俺たち冒険者は勇者達を見送った後、解散となった。
迷宮攻略組と別れを告げた後、俺は<飛翔>と<光速移動>を併用して、クラムへと戻る。 これがあれば、体感3秒ほどで着くことができる。
ギルド近くの路地裏に着陸し、隠密を解除して依頼達成の報告にむかう。 いつものように報告しようと思い、ギルドの中へ入ると、中はいつもと違い、ピリピリとした空気になっていた。 冒険者カードを取り出し、受付嬢に提出しようとすると、
「!? シンヤか!」
そういってアルレイドが近寄ってくる。 そして、
「頼むシンヤ。 お前にしか頼めない依頼があるんだ。」
そういってくる。 その次に、彼から放たれた言葉に真也は、ここ最近で一番驚いた。
「王都が、魔物の群れに襲われてる。 平均ランクはBで、中にはSランクの魔物も数匹確認されているらしいんだ。 王都を、救いにいってくれないか?」