合成の使い方 新たな剣との出会い
真也がAランクになってから1週間、適度に依頼をこなしつつ、この街の情報と、王都の情報を収集していた。 この街の名前はクラムで、王都からは近いが、間に山一つあるらしい。 改めて見てみると、かなり広い街で、王国ないでは王都に続いて2番目に栄えていると言われているらしい。他の勇者たちの情報を聞きたかったが、どうやら召喚されたという噂だけ広がっているらしく、情報は全くなかった。
今日、真也は、忙しくていけなかった鍛冶屋に向かっていた。 この街の鍛冶屋は王国随一の腕前らしいが、厳しい性格の持ち主で、実際に武器を作ってくれたりは滅多にしないらしい。
「ここか」
そういって真也は、アルレイドに教えてもらった道のりをたどり、その店だと思われるところの前にたどり着いた。
「......」
中に入ると、強面なおっさんが座っていた。 おっさんは俺に声をかけることもなく、ただこちらに視線を向けて、そらした。俺は、その雰囲気にのまれずに、取り合えず求めているアダマンタイトで作られた剣がないか鑑定して回る。 中には、豪華そうな見た目なのに、品質がCだったりするものもあった。 奥の方へ行くと、アダマンタイトやミスリル、オリハルコンの武器もあった。それを見て、
「どれも違う。 ここにはあるやつはどれも足りてない」
思わずおっさんがいることを忘れてそういうと、後ろから声がした
「坊主、それはいったいどういう意味だ?」
鋭く低い声で、まるで脅してるかのような声に驚きつつ、俺は目の前で、魔法鞄から剣を取り出し、鞘から抜きながら、おっさんに向かって正面からいった。
「この剣と同じぐらい優れている、アダマンタイトの剣がないということだ」
そういいながら、剣をおっさんの目の前で見せびらかす。すると、
「お前! この剣は一体どこで手に入れた!?」
おっさんがいきなり立ち、肩を揺らされながら言われた
「迷宮で手に入れたんだ。」
そう答えるとおっさんは、小さく舌打ちし、思いがけない言葉を言った。
「俺がそれに並ぶ剣を作ってやる。」
「......え?」
思わずそんな言葉が漏れてしまうぐらい驚いた。
「俺がそれと同じぐらいの剣を作ってやるといったんだ。 アダマンタイトで作りたいんだろ? なら自分でそれをとってこい。 俺がギルドに指名依頼をしておく。 報酬はその剣だ」
そんなことを言い放つ。 そのおっさんの誠実さに対し、俺は後で合成するかもしれないということを隠しておけなかった。
「おっさん。 その気持ちはありがたいんだがな、その先が重要なんだ」
「・・・なに?」
少し動揺したのか、そういいながら振り返ってくる。
「俺の技で、ものとものを合成して新しいものを作り出すってのがある。 俺はそれを使って、オリハルコンとアダマンタイトの両方の性質をもつ剣を作るつもりなんだ。 それでもいいのか?」
そういうとおっさんは、
「構わない」
そう言い放った。 それに対して俺が呆気に取られていると、おっさんはしてやったぜ、と笑いながら、
「武器をどう使おうとそいつの自由だ。 それにな、俺は、そんなこと言われたらその合成とやらを使ってできた剣を見てみたくなってきちまったぜ」
そうおっさんはいった。
「ギルドに指名依頼を入れておくからな。 名前はなんていうんだ」
「シンヤだ」
「そうか。わかった。 さっさと取って帰ってこい」
そういっておっさんは奥へと消えていった。
「まさかあのおっさんがあんないい人だったとはな......まあいいか、取り合えずアダマンタイトがある場所をさっさと探して取りにいくか。」
そういって真也は鍛冶屋を出て、隠密のローブを使い、街へと情報収集をしにいった。
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情報収集を終え、昼食と取り終わったあと、真也はギルドへ指名依頼の受付に向かった。
「すいませーん。 シンヤです。 指名依頼を受けに来ました」
そういうと、ギルド内はざわめきはじめる。 ここ数日で、いきなりAランクになった真也は、かなりの有名人になった。
「おい、あいつ、あのAランクだぞ」「最近いきなりAランクになったやつだろ?」「あら、意外といい顔をしているのね」
そんな声が聞こえてくるが、全て無視し、受付嬢の方へ行く。
「シンヤさんですね。 はい。 確かに指名依頼が入っています。 アダマンタイトの採取ですね。では、冒険者カードを提出してください」
そう言われ、冒険者カードを提出し、いつも通り依頼を受注して、さっき情報収集しておいた時に、結局方向が分からず買った鉱山への地図を見る。 地図を見ると、街からはそこそこ離れていて、馬車で3時間ほどかかる場所だった。 もちろん、真也にそんな常識は通じない。 隠密のローブで<隠密>を使用した後、最近使うことがなかった<飛翔>と、<光速移動>を合わせて使う。<飛翔>を使う際には背中から純白の翼が生えてくるのは毎度お馴染みだ 体感3秒ぐらい飛んだ後に、見るからに鉱山っぽい場所があったのでそこに着陸する。 鉱山の周りには、トロッコなどの道具がならべてあるが、人が誰もいないことに不気味さを覚えつつ、鉱山の中へと進んでいく。
鉱山の中は、既に灯りが置いてあり、思った以上に明るかった。 広い鉱山の中の洞窟を探索していると、鉄などの他の金属が見られた。 下へ下へと行くこと2時間半、全く意識していなかったせいで反応がおくれてしまったのか、かなり近くに魔物の反応があることがわかった。急いでそっちの方向に向かっていくと、そこには
「グワァァァァァ」
背中に鉱石を生やした、でっかい亀がいた。 そして、周りには
「すげー、めちゃくちゃきれいだな」
紫色の光を放つ、鉱石がたくさんあった。 試しに<鑑定>を使ってみると、
--------アダマンタイト鉱石------------
紫色の光を放つ、魔力伝導率にとてつもなく優れた鉱石である。
と表示された。 アダマンタイトを発見できたことに喜びつつ、目の前の亀も鑑定してみた。
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アダマンタイトタートル
体力:400
魔力:500
筋力:100
俊敏:100
耐久:650
アダマンタイトの周りを好む亀の魔物、非常に硬く、物理ではあまりダメージを与えられないというが、アダマンタイトの名の通り魔法に長けていることから、近寄ることも難しく、討伐は中々に難しいとされている。
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「まあ、そんなところだよな」
真也はそのステータスを見て、少し残念そうにそういうと、剣を取り出さずに、拳を構えた。そして、
「ふんっ」
亀の前の空間を殴った。すると、その勢いによって生じた衝撃によって物理ではあまりダメージを与えられない亀さんは弾け飛んだ。
「カメさんの固さより、俺の鋭さの方が勝ったみたいだな」
そんなことをいいながら、残ったアダマンタイトタートルの魔石を回収して、アダマンタイトの採取に取り掛かる。 採取の仕方は、力任せに思いっきり引っこ抜いたら案の定抜けてしまった。次々とアダマンタイト鉱石を引き抜いては魔法鞄の中に突っ込む。そんな感じで、鉱山でのアダマンタイトの採取は終わった。
ゆっくりと空の旅を楽しみながら、冒険者ギルドの近くの路地裏に着陸し、<隠密>を解除してギルドへの中へ入っていく
「採取が終わりましたよ」
そういって魔法鞄の中からアダマンタイト鉱石を取り出す。
「いつも通りおかしな速さですね。 どうやったら馬車で行くだけで3時間掛かるところを、3時間で帰ってきちゃうんですかね......」
そんなことをいいながら依頼を達成させてくれる。 俺自身も、おかしなことには気付いているが、隠すのも面倒なので何もしてはいない。 アダマンタイトタートルの魔石を出して買取をお願いした時も、受付嬢は同じような反応をしていた。 俺は受付嬢に同情した。ちなみに、アダマンタイトタートルの魔石はAランクなので、大金貨1枚だった。
依頼を終了し、大量のアダマンタイト鉱石を魔法鞄の中に入れ例の鍛冶屋への中へと入っていく。
「おっさん、取って帰ってきたぞ」
そういうと、おっさんは受付嬢と同じような反応をしていたが、俺はスルーした。
「ああ、確かにアダマンタイトだな。 これでお前の武器を作ってやる。 魔力伝導率の高さを重視するんだろう?」
そう言われたため、俺はもちろん肯定する。
「そうだよな。それに加えて最高位の品質となると......まあいい、1週間で作ってやる。1週間後に取りに来るんだ」
そういって、おっさんはアダマンタイト鉱石をもって奥へと消えて行ってしまった。その日は、少し疲れていたため、さっさと宿に帰って食事を食べてから眠りについた。 宿は変わらず同じとこを使っている。
それからは、特に何かすることもなく、情報収集をしたり、<全魔法理解>によって使える魔法の種類を確認したり、隠密を使って空の旅を楽しんだりしていた。 金に困ることはなかったため、そんな風に適当にすごしていたら、すぐに1週間は過ぎていった。
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そして、1週間後、俺は今、例の鍛冶屋前にいた。 深呼吸をして、中へ入っていく。
「来たか。 こっちにこい」
入ると同時に、俺のことを待っていたのか、案内される。おっさんに続いて奥へと進んでいくと、そこには、
「ッ......」
思わず息を飲むほどの美しさを誇る紫色の長剣があった。 はやく見たいという欲に負け、鑑定を使ってみると、
-------------アダマンタイトの剣-------------
限界まで研ぎ澄まされたアダマンタイトによって作られた剣。魔力伝導率に圧倒的に優れており、体の一部のように魔力を流し込むことができるだろう。
<自動修繕> <硬化> <魔力操作> <衝撃>
品質:S+
「どうだ?」 そういいながらおっさんがこっちに視線を向けてくる。
「完璧だ。 おっさんも早くこの先を見たいだろ? 少し早いかもしれないが、もうやってみてもいいか?」
早いかもしれないが、それよりも早く合成してみたいという思いが先へ行き、そういった
「もちろんだ。 やってくれ」
おっさんの同意も得たので、俺は合成を開始することにする。オリハルコンの剣を魔法鞄から取り出し、鞘から抜く。 抜いた後の神秘的な輝きに、目を奪われるが、意識を離し、合成のことを考える。
「じゃあおっさん、始めるぜ........<合成>」
俺がそう言うとともに2つの剣がよりいっそう輝きだす。
目指すのは長剣。 なんでも切ることができ、折れることがないそれは、魔力伝導率にも優れている。持ち手は白く輝き、ブレードの部分は水色、紫色、に彩られたそれは、神秘的な輝きを放っている。 これを繰り返し強く思う。 そうして時間が過ぎるうちに、光が徐々に収まっていく。 そしてその先にあったのは、
『「......」』
俺が強く思ったものと同じものだった。 あまりの美しさに、二人して息を呑む。
そうして時間が過ぎていくうちに、先に口を開いたのは俺だった。
「なあ、おっさん。 この剣に、俺が名前を付けてもいいか?」
その俺の質問におっさんは無言で肯定する。
「ありがとう、おっさん。そうだな、お前の名前は......"ディーヴァテイン"だ。」
神々しいは英語にするとdivineである。そこから少し変えさせたものだ。
「さて、取り合えず性能を見てみるとしようかな.....<鑑定>」
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<聖魔剣ディーヴァテイン>
オリハルコンとアダマンタイトを合成して作り合わせた世界に一つしかない剣。この剣に、切れないものはなく、折れることはない。 また、魔力伝導率もトップであり、体の一部に流すように魔力を流し込むことができる。
<自動修繕> <破壊不能> <全魔法属性> <硬化> <衝撃>
品質:SS
「ッ......とんでもないものを作っちまったな。 今までのオリハルコンの剣が品質:S+ってなってたんだが、これはそれを超えた品質:SSだ」
「ははっ、想像通りだ。 想像通りとんでもないものだったな!」
そういいながら、ハッハッハッとおっさんは笑っていた。
少し剣を眺めていた後、おっさんに腰を90度に曲げて礼をいい、店を出ようとすると、
「ほら、忘れんな」
そういって渡されたものは、俺が前まで使っていた鞘と、他のアダマンタイトの鞘だった。
「金はいらねぇ。 持っていけ。 絶対に立派な冒険者になるんだぞ」
そう言われ、俺は思わず泣きそうになってしまうが、必死にこらえて、
「ありがとうございました!」
似合わない態度で改めて礼をいい、店を出た。 宿に戻った後に、鞘同士で合成を行った結果、純白に輝く鞘になった。 それを鑑定で見てみたところ、案の定品質はSSだった。
その日はもう昼過ぎになっていたが、気分がよかったためギルドへいって依頼を受けようと思い中へ入ると、
「おいシンヤ、ちょっと来てくれ」
そういってアルレイドに声をかけられた。特に問題もないのでアルレイドについていこうと、向かった先は前に行ったことがある二階の部屋だった。中に入って座るよう促されると、アルレイドから話が始まった。
「シンヤ、王国から、このギルドに依頼がきた。 どうやら、勇者達が、迷宮攻略をかなり進めているらしく、さらに下層へいくために、優秀な冒険者を募ってほしいとのことだった」
勇者、その単語を聞いて、シンヤは自分の体が急速に冷えていくのを感じたが、必死にこらえ、アルレイドの話を続けさせた。
「そこで、俺は王国にお前を推薦したいと思うんだが、どうだ?」
そう聞かれた。 俺としても、勇者達の動向は気になるし、どれくらい強くなったのかも見てみたかったため、肯定した。
「そうか、よかった。 迷宮攻略は、2週間後、王都近くの迷宮で行われるそうだ。 近くなったら馬車をが来るから、お前はそれに乗っていってくれ」
そう言われた。 しかしシンヤは、自分の名前がバレるのはまずいと思い、アルレイドに話した。
「俺は勇者達に自分の名前を離したくないんだが、王国には、シンという名前で依頼を受けることにはできないか?」
「そうか? 勇者と一緒に迷宮を攻略できるなんて、名誉なことなんじゃないかと思うが、お前がそういいなら大丈夫だぞ」
そういってアルレイドは少し戸惑いつつも頷いてくれた。 その後、最近のことについて話をしたり、新しい剣について話をしたところ、アルレイドもあまりの美しさに、驚いていた。
その日は、依頼を受けるのを辞め、シンヤは宿に戻った。 食事を食べた後、体を洗い、湧き上がってくる複雑な感情を考えていたら、シンヤは気付いた時には泣いていた。 最近、涙もろくなったな、と思いつつ。 今日新しく生まれ変わった、愛剣であるディーヴァテインを抱えながら眠りについた。 その時の真也は、何かに抱き着いていないと落ち着けないような心境であった。