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9話 説教

俺の拒絶に対し、アレクシア嬢は驚いた顔をする。

「お時間を取らせてしまって誠に申し訳ございません。

ですが少々確認したいことがございまして、お時間をいただきたいのです。」

「お断りします。」

「そこをなんとかお願いします。」

再度断る俺に、食い下がるアレクシア嬢。

「いや、急用が出来たのでめんどくさいからいいです。」

「本音が出てますよ…。」

おおっと、根が正直者だからつい口に出てしまった。


「ともかく、明日また来るので下の受付で受け取れるようにしておいてください。

それでは失礼します。」

確かに断ると余計に目立つことくらいは俺にもわかる。

でもめんどくさいことになるのが目に見えてるからな。大人しくしておく理由もない。

というわけでとっとと帰ることにする。

「まってくださいー! ここで帰られちゃうと私がギルドマスターに怒られちゃうんです~。」

アレクシア嬢が叫びながら俺の服の裾を掴んでくる。

よく見たら目に大粒の涙を浮かべて、俺に必死に懇願している。

「いや、俺には関係ないんで。」

例え美人でも涙なんて銅貨1枚にもならん。

「お願いします~。どうかお慈悲を~!」

おい、出来る秘書はどこへいった!? 鼻水出しながら泣いてるぞ。美人が台無しだな。

だがここまで泣かれると、俺がどこかの悪代官みたいじゃないか。

アレクシア嬢の最初のイメージが完全に壊れたわ。残念すぎる。


しかしここまでするということは、これは何か理由があるな…。

「そこまで言うなら待つけどさ。俺はここに義理なんて無いから。

俺が言ってる意味わかるよな?」

「ありがとうございます。すぐにギルドマスターが参りますので。」

一瞬で涙と鼻水を拭き取りキリッとした表情になるアレクシア嬢。

変わり身はえー…。まあいいけどさ。

ただ、俺の言葉の意味はわかっているのだろうか。

わかってて言ってるのなら、良い性格してるなと思う。


待つこと5分。こちらへ向かってくる足音が聞こえてきた。

どうやらギルドマスターとやらがお出ましのようだ。

「待たせたな。」

と言いながら、50歳くらいの筋肉質のおっさんが部屋に入ってきた。

おっさんはそのままアレクシア嬢の隣、つまり俺の対面に腰掛けた。

いかにも元冒険者ぽい風貌の中年のおっさんで、ブロードソードを帯剣している。

「おまえさんがベリルか。俺はシュタイナーだ。ここのギルドマスターをしている。」

こいつは面倒くさそうなやつが出てきたな。

挨拶をしてきたおっさんを無視して俺はアレクシア嬢に対し、できるだけ冷たい態度を意識して問いかける。


「おい、ギルドマスターが来るとは聞いたが、他にも来るとは聞いてないんだけどな。

話が違うと帰っても良いんだが?」」

「えっと、ギルドマスターしか来ておりませんが。」

「じゃあ扉の外の二人は何なんだ?」

「ええっ?」

驚くアレクシア嬢だが、俺は足跡から3人来たことを察知している。

確かに扉は閉まっていたので音は聞き取りづらかっただろうが、

この程度聞き分けられないようでは、森で獲物を見つける事など不可能である。

「いや、これはすまん。俺の判断で呼んだからアレクシアは知らなくて当然だ。

二人には話が進んだら入ってきてもらおうと思っていたんだ。」

アレクシア嬢の代わりに、シュタイナーがあっさりと答える。

3人から敵意を感じなかったから、事実その通りだとは思う。

どうやらこのやり取りの意味をおっさんは分かっているようだ。

出鼻を挫き、この後の交渉を有利に運ぶために仕掛けたということをな。

本当に面倒くさそうなやつだ。まあ結果は見えているけど。


「どうせ後で紹介するつもりだったが、まあちょうどいい。入ってくれ。」

シュタイナーに促され、おっさん二人が入室してきた。

一人は見た目60歳を超えた白髪の痩せ型で、神経質そうな顔をしている。

このおっさんはグレイと名乗った。解体部門の長をしているらしい。

もう一人のおっさんは50歳くらいで、白髪交じりで少し肥満体型である。

このおっさんはロランというらしい。流通販売部門の長だそうだ。

やはり大仰な話になってきたか。これは一戦やらかすしかなさそうだ。

俺は対決する覚悟を決める。疲れるから説教はしたくないのだがな。


二人の挨拶を待って再度シュタイナーが話し始めるタイミングで、俺は機先を制して口を開く。

「新人ハンターの初納品に際して、このギルドはいつもこんな仰々しいことをするのかな?」

会話の主導権はあくまでこちらが持つ。

「そういうわけではないさ。あんたの持ってきた物について聞きたいことがあってね。」

「お断りします。」

俺は間髪を入れずに断る。

「まだ何を聞きたいかも言っていないんだが…。」

鼻白むシュタイナー。さっきから会話の主導権が握れないからだろう。どうにも会話に勢いがない。

ただ、何を聞きたいのかは既に分かっている。どうせクイックバードの羽毛のことだろう。

どうみても薬品なんて使ってないしな。鑑定すると『奇跡の品質』となっていることから、どうやって作ったのかを知りたくてしょうがないのだろう。だが教えるつもりはない。

ちなみに、品質は最低品質、低品質、通常品質、中品質、高品質、最高品質と通常は6段階ある。

だが通常の枠組みを突破した物は、究極の品質、奇跡の品質、神域の品質という区分になるようだ。


「いや、たかが鳥の羽の納品ごときで、毎回こんな対応されたら面倒くさいんでね。」

「それがわかっているなら…。」

口をはさもうとするシュタイナーを手で制しつつ、俺は話を続ける。

「俺はただの新人ハンターで、別にクイックバード専門の猟師ではない。

しかしながら飯の種を簡単に明かすほど、世間知らずでもないんだよ。」

「そこまで理解しているなら話が早い。勿論無料で教えてくれというつもりは全くない。

情報提供という名目でそれなりに支払いはさせてもらうつもりだ。」

「ほう? この情報に対して対価を支払うと、そいういうわけですか。」

「うむ。ついては買取も含めて、金貨100枚でどうだろうか。」

俺が話に乗ったと思い、提示してきた金額は10年くらい遊んで暮らせる金額だった。


だが、これではっきりとわかった。やはりこいつらは馬鹿だ。

「はっきり言わせてもらいますけど…、馬鹿としか言いようがないな。

教えられるわけがない。俺にはその義理もメリットもないからな。」

「なっ!?」

俺の辛辣な言い方に、思わず絶句するギルドマスター以下4名。

「今回のこれは偶々手に入ったということにしてもらえないかな。

古代文明とか先史文明の遺跡で発掘されたとかでさ。」

俺は落とし所を用意した。乗ってくれれば良いのだが、恐らく乗らないだろうな。

「そんなこと出来るわけがない。お前はその価値がまるっきりわかっていない!」

「あんたらこそ全然わかってないな。良くわからずに納品した俺も迂闊だったが。」

「分かってるに決まっているだろうが!」

「あれだけの金額が不満なのか!」

「新人のくせに守銭奴めが!」

声を張り上げるシュタイナー達。目の前にいるんだから、そんな大声出さなくても聞こえてるぜ。

守銭奴呼ばわりしたのは流通販売部門の長のロランだ。後で覚えてろよ。


「いや、そちらが何もわかってないから俺はそういっただけなんだが。」

「義理ならあるぞ。ギルドメンバーはギルドの要請や命令を聞かなければならないんだ。

こいつは要請の形をとっているが、実質命令なんだよ。間違いなくな。

どうしても拒否するというのならお前は登録を抹消され、二度とハンターとして活動できなくなる。」

「抹消するならお好きにどうぞ。買い取らないというのもおたくらの自由だ。

だが、別に登録しなくても狩猟は出来る。そこまで制限する権利はおたくらにはない。」

ハンターギルドは各町で独立した組織である。

偽名を使える以上、面倒ではあるが他の街に行ってもいいのだ。

どうせ登録してまだ1日だから、実績もないので気楽なものである。

「ほう、新人ハンターがギルドに対して喧嘩を売るというのか。

黙っているほどこちらも大人しくはないのだが?」

剣呑な雰囲気になってきた。ただ、態々自分の部屋へ招くのに帯剣しているということは、最初からこういう方向性も視野に入れていたと見るべきだ。

仕方がない。これは説教モード発動だな。

「登録1日目の新人ハンター如きに、ギルドが威信をかけるということか?」

「お前のもたらす情報にはそれだけの価値があるということだ。」

あくまで引く気はないようだ。


「では、たかが鳥の羽毛に街の者全員の命を賭けて、その矜持とやらを見せて貰おうか。」

俺は言葉に凄みをもたせる。ただ、このままいくと結果的に間違いなくそうなる。

無論俺が手を下すわけではなく、だ。

「あくまで拒否するということは、ここでお前は死ぬということになる。」

「面白い冗談だ。俺を殺して情報をどうやって手に入れるつもりだ?」

「ふん、なめるなよ小僧。ギルドというのは体面が大事なんだ。

新人ハンターの雑魚一人相手に、ギルドが舐められて黙ってるわけにはいかないんでな。」

「それこそ面白い冗談だな。たかがその程度の実力で俺を殺せるわけがないだろう。

俺を殺したければ神々でも呼んでくるんだな。」

俺自身の戦闘力がどの程度なのか調べると、ディサーンメントマジックに鑑定結果としてそう言われただけだが。

俺は戦争経験もないので、当然そこまで実感があるわけではない。


「黙って下手に出ておれば、新人が随分と増長したものだな。若造が俺にかなうわけがないだろうが。」

シュタイナーが眼力をこめて威圧してくる。その程度の威圧が俺に効くわけがない。

だが、グレイ達3名にはそうでもなかったようだ。顔を青ざめて震えている。

「フッ、その程度か。余程命が惜しくないと見えるな。」

俺も対抗することにして、魔力をこめて軽く威圧をかける。はっきりいってシュタイナーとは桁が違う。

その途端、シュタイナーはかなり辛そうな顔になり、青ざめるどころかほとんど土色になっている。

「は、はったりだ…。」

シュタイナーが声をなんとか絞り出す。ほう。まだ口が聞けるとはな。

これがギルドマスターの矜持というやつだろうか。隣にいるアレクシア嬢は既に泡を吹いて気絶している。

「お前が思うよりも、闇の深淵はずっと深きところにあるのだよ。

その身をもって知りたければ、遠慮はいらん。とっとと掛かってくるが良い。」

「ぐ…、ぐはっ……。」

シュタイナーが苦痛に呻く。そろそろ限界だろう。俺は威圧を緩めてやることにする。

「ハァ…ハァ……。」

顔面蒼白のまま肩で息をするシュタイナー。グレイとロランも気絶する寸前だった。


「わかった…。俺の負けだ。条件を聞こう…。」

「ふむ。あくまで俺から聞き出すのは既定路線なのか。

しかし、お前はさっきの俺の言葉を聞いていなかったのかな。

俺はさっき『たかが鳥の羽毛に街の者全員の命をかけて』って言ったよな?」

「そういえば言っていたが、ただの脅し文句だと思っていた。どういう意味だ?」

「だから馬鹿だと言ったんだ。俺が素直に情報を渡したら、この街全員死ぬことになるぞ。」

「な、何をいってるんだこいつは!?」

「あのな、俺が出した羽毛はこれまでにない高い品質だったんだろう?

お前達はそれがとんでない大金になると思ったわけだ。

もし俺がその情報を提供したとしよう。あんた達はどうするんだ?」

「量産して売りに出す。あれだけの品質だ。相当稼ぐことが出来るだろう。」


「そうだろうな。市場はあんた達に独占されるわけだ。

そうなると、まず一つ。既存の業者が路頭に迷うことになる。その恨みの矛先は当然あんた達に向く。

後先考えずに目の色を変える程なんだ。それほど日をおかずに市場を席巻するだろう。

そんな物が出回って、他の業者が太刀打ち出来るわけがない。

生産業者は当然として、大量在庫を抱えた商人もだ。

多少頑張ったところで、いずれ全員廃業になるのが目に見えている。

棲み分けできるなら多少は生き残るだろうが、おそらく無理だな。

そうなってしまうと、特殊な薬剤の利権を失うことになる奴等にすれば死活問題だ。」

「しかしそんなものはこれまでの産業でも何度も起こってきたことだし、

これからも起こりうることじゃないか。栄枯盛衰は一つの時代の流れに過ぎん。」


「そしてもう一つ。他のやつらが黙って見ているのかという点だ。

強欲なやつはどこにでもいる。巨大な力を持ったものが欲に走ればどうなるか。

この都市なんてひとたまりもないぞ。

情報を吐かされてあんた達も、目撃者となりうる街の住民も全員殺される。」

「何を言っている。ここはどこにでもある田舎の村じゃないぞ。

騎士団も常駐する列記とした地方都市だ。」

「相手が国家で、大貴族達とそれらに結託した出入りの豪商達が相手だとしても、か?」

「なっ、なに!?」

「巨大な利権は強大な相手を呼び込むもんだ。それだけの利益に国家が動かないわけがない。

国家ほど巨大な暴力組織はないぞ。その気になれば地方都市なんて一瞬で踏み潰される。

あんた達が律儀に守ってくれるだろうと思っているお味方の騎士団様も、当然攻めてくる。

国家の命令に従う手足の如き存在なのだから、敵側になって当然さ。

あんたらが分かってないといったのは、そういう次元の話だよ。

たかが金貨100枚で、折角掴んだ未来は死ぬ未来ってな。

死にたいなら止めないが、せめて他人へ迷惑をかけずに独りで死ね。」

説教したのはベリルの方でした。

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