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23話 突然の謁見

結界を設置した翌日の事だ。

本日の俺の予定は朝から衛兵詰所に顔を出して現場検証に付き添い、その後グレースと合流して孤児院に行ったりと様々な用事を済ませるはずであった。

ところが、俺は今ウェルブラスト中心部にそびえる王城の中にある謁見の間に何故か居た。しかもここには旧国家の最高権力者がいるにも関わらず、場はざわめいており静寂とは程遠い状態にあった。


実は、朝早くに王城から使いの者が『河のせせらぎ亭』に乗り付け、至急登城するように俺に申し付けたのである。馬車に同乗するように言われ、そのまま馬車に同乗したのではあるが…。

到着してすぐに案内された先が謁見の間であり、何の説明もなくいきなり謁見させられたのだ。それが今の俺の現状である。そんな俺は玉座を前に片膝を付き、頭を垂れていた。

しかし俺はあまりの急な展開に、頭が全然ついてきていなかった。思わず頭を抱えそうになったが、今どこにいるかということを考えると憚れるような場所である。

正直少し頭痛までしてきたのだが、周囲の様子を伺っていると何故俺がここに呼び出されたのか、その背景が何となく分かってきた。




ここで国家について、少し説明しておこうと思う。

現国家『ワーレス』は旧王国『レットリムア』『サルダイン』『イヴァーツク』『ヘムルテッド』『トゥルラーテ』『ミルスレーヌ』の6カ国が合併して出来た国家である。

現状は王国を名乗ってはいるのだが、4年後には帝国に体制移行することが確定している。これは周知の事実である。


ワーレスにおいては、貴族制はそのまま継続で、王族以外の位階は据え置きとなっている。

しかしながら王族6家は別で、旧国家名の冠した皇家として再編されている。それに伴って王、王妃、皇太子、王子等の呼称も変更された。

現状は旧体制トップによる合議制となっているが、将来的に皇帝を奉じる事となっており、現在皇帝は空席である。

その皇帝の選出については、六カ国統合の際旧体制トップではなく次代より選出される事で決定している。


その選出方法であるが、統合より5年以内に大変優れた功績をあげた者から選ばれる事とされている。

つまり、皇帝が選出される4年後には現国家『ワーレス』は帝国として再出発することとなっているのだ。



この六カ国統合は性急ともいえる程に短期間で行われたため、統合当時は各所で混乱をきたす事が多かった。

だが統合から1年経った今となっては、まだ随所に問題が残ってはいるものの、それなりに落ち着いてきているようだ。

統合による混乱に対する不満の声が、最近とみに減少してきているのがその表れであるとする見方もある。

不満の声が減少したのは、この統合に伴い軍事のみならず行政システム等でも効率化が図られ、質的向上と経費の無駄の削減といった良い効果が表れてきていることも一因であるらしい。

六カ国統合は、今や国民には概ね良い印象で受け止められていると言えるだろう。



ただ、これは国民といっても一般庶民に限ってのことであり、特権階級は別であった。

統合に伴って皇族、貴族は1国としては膨大な数に登った。元々旧体制化においても統治に必要な為政者の必要数に対して、王族、貴族家の数はそれよりも遥かに多かった。

これは血を絶やさぬためであったり、戦争や不慮の事故等によるお家断絶があっても国家としての命脈を保つための必要な措置でもあった為だ。

だが六カ国統合によりあらゆる面で効率化が進み、需要に対して供給過剰状態が進んだ結果、抜本的対策が必要とあった。

最もこれは統合計画時に既に指摘されている事であり、そのための方針も既に決定されている。

それは皇族、貴族という括りではなく、個人単位での選別という方針であった。


この選別というのが、貴族社会に大きな衝撃を与えることとなった。

選別は、これまで役職にあった文官、武官であっても別け隔てなく対象とされたのである。

行政システムの効率化により文官のポストが減少し、国境が大幅に減少することにより武官のポストも減少することは避けられないためだ。

国家において貴族の多くは文官、武官職にある者が殆どであった。

自領を持つ貴族ならまだしも、持たぬ貴族は職を失うと没落一直線である。自領を持つ貴族にしても、何よりも名誉を重んじる彼らにとって、職を失うのはやはり痛恨であろう。

そのため貴族は生き残りをかけ、必死にならざるを得なくなった。

当然これまで特権の上にあぐらをかいていた者も、悠長に構えていることは出来なくなった。



だが、それを上回る程に必死な者達が居た。それは、王族から皇族となった者達であった。

職を殆ど持たない皇族を選別することは容易ではない。そこでまずは身分制度を変更し、立ち位置により位階を変更することとなった。

具体的には、これまで王、女王、王配、王妃、王弟、王子、皇太子、皇太孫等といった呼称を撤廃し、新たに創設したのである。

なお、この区分の基準は、年齢ではなく世代が基準となった。


まず、旧体制化における王や王妃、王弟を第一世代『ハイ・カイザネス』とし、その子達を第二世代『ミドル・カイザネス』とし、第三世代を『リトル・カイザネス』とした。

特に旧体制化のトップであった者については、必要に応じて特別称号として『キング・カイザネス』、『クイーン・カイザネス』として区別することも出来るとされた。

そして六カ国統合の成立をもって、それまでに出生していた者は全員皇族として地位は終生保証とされた。



ただし、既に自身の後継者たる者が出生している者については問題はないのだが、そうでない者については別の問題が存在した。

自身が一定の功績を立てたり、特別な地位を得ていれば皇族たる血筋を保ち得る、と定められた為であった。

つまり功績を何も立てる事が出来なければ、自らはともかくその血筋に生まれた者は皇族から除外される、というのである。


もし功績を立てず、特別な地位を得ていない状態で子を為した場合、その生まれた子供は第四世代『コモン・カイザネス』として準皇族扱いとされてしまう。

さらに、そのままの状態でその準皇族の子供が子を為した場合、その子は第五世代『コモン・カイザネス・リーベリ』として平民になってしまうのである。

準皇族は貴族と同列とされるのだが、立場的には宙に浮いたような状態であり、微妙な存在であるといえる。


無論その準皇族となった子が功績を立てるか、特別な地位に就くことが出来れば皇族として存続が許されるのだが、当然これは不名誉な事である。

よって、貴族よりも名誉を重んじる皇族としては是が非でも功績を立てなくてはならず、今や皇族・貴族は皆必死なのであった。



世代と呼称をまとめると次のようになる。

第一世代 ハイ・カイザネス 元国王達 上位皇族

第二世代 ミドル・カイザネス 元国王達の子供 中位皇族

第三世代 リトル・カイザネス 元国王達の孫  低位皇族

第四世代 コモン・カイザネス 元国王達の曾孫 一般皇族

第五世代 コモン・カイザネス・リーベリ 元国王達の曾々孫 平民

※旧体制トップはキング・カイザネス又はクイーン・カイザネスと呼称する事もある。




国家が今このような状態で、そこに数日前に容易ならざる事件がこの旧王都にて発生したのである。

よくよく考えれば、国家防衛的な観点からも、はたまた功績や栄達の機会が巡ってきたという点からも、呼び出されて然るべき事態ではあったのだ。

つまりは、並み居る方々のそれぞれの思惑を抱えての謁見ということになる。ある者は警戒心からあらゆる感情をその眼に宿し、またある者はその野望を内に秘め、この場に臨んでいるのであった。



このような場に知り合い等居るはずがないと若干センチメンタルになりかけた俺であったが、列席者の中に衛兵中隊長のオットー准男爵を見出した俺は少し安堵した。

だが、すぐに声をかけられた俺は、安堵している場合ではないと気持ちを切り替えた。

「そなたがベリルと申す者か。面をあげよ。」

威厳のある声が響き渡った途端、謁見の間が静まり返った。

俺は声に従い、顔をあげた。当然謁見の作法なんてものは知らないので、失礼でなければ良いのだが心配しても仕方がない。

目の前には当然国王陛下が居た。いや、今はハイ・カイザネスもしくはキング・カイザネスと呼ばれる御方である。

「先日我が都市ウェルブラストにおいて大いなる事件が発生したと聞く。各部署から詳細を聞いておる。そちの尽力により大した犠牲もなく、被害も微小であったと聞く。そのことに相違ないか。」

やはり呼び出しはその件か。ふわっとした話し方から見るに、細かい話がこれから出てくるのだろうか。頭の痛い展開になるのは勘弁して欲しい。

しかし、問いかけにたいしてどうしたものか。平民の俺が王様に直答しても良いとは思えないのだが。不敬罪で処刑とかなったらたまらんぞ。


「直答を許す。」

困った俺が列席者の方に視線を向けると、それを察した陛下から直接ご許可をいただけた。

「はっ。左様でございます、陛下。」

「またハーネス教の孤児院を助け、この国にも将来大いなる富をもたらす道筋をつけたと聞く。そのことに相違はないか。」

「はっ。ですが、そのような大層な事は為しておりません。我が力微力なれば、これも陛下の御威光の賜物と存じ上げ奉ります。」

「うむ。そなたの働き、誠に天晴である。この『キング・カイザネス』アルフォンソ・レットリムア3世、礼を申すぞ。」

「もったいなきお言葉。身に余る光栄にございまする。」

うーん、この言葉遣いで良いのだろうか。何も言われないから問題ないと思いたい。


「よって、そちの功績を讃え、褒美を取らせるものとする。申請のあったとはいえ、本来であれば叙爵してやりたいところではあるのだが、知っての通り今貴族は余っておってな。余程でなければ叙爵は出きんのだ。故に他に何か望みがあれば遣わそうと思う。何が良いか?」

変に細かくつっこんで話をされたらどうしようかと思っていたのだが、どうやらそういうことはないらしい。あまりにあっさりとした展開で助かったのだが、しかしこれはまた随分と大盤振る舞いだな。言葉通りに捉えれば、だが。これは辞退したほうが懸命だろう。


「いえ、褒美などと、そのようなものは…。」

そこまで言いかけた俺であったが、その時突如ひらめいてしまった。逡巡したものの俺は考えを改めた。

「でありましたら、1つお願いしたき儀がございます。」

俺の声に周囲の列席者がざわめき出した。やはり無礼な事なのだろうな。

「皆の者静まれ! この者は貴族にあらず。不作法を咎めてはならん。それでベリルよ、何が欲しいのだ。申してみよ。」

「お人払いをお願いしとうございます。陛下に言上したき大事なお話がございます。」



俺の言葉を聞いた列席者の間に緊張が走った。

「貴様! よもや平民の分際で不敬な奴め!」

陛下の側近くにいた甲冑騎士が声を荒げて、腰の剣に手をかけようとした。この場で帯剣出来るのは近衛兵くらいのものなので、この人物は近衛隊長と思われた。

「よさぬか。」

「しかし、陛下。この者は平民ではありますが、力ある者にございます。信用がなりません。万が一を考えますと、陛下の安全を預かる者として、この者を近寄らせる事は承諾出来ません。」

近衛からみれば確かにそうか。しかし信用と言われてもなあ。身元を保証してくれる知り合いの貴族なんて、普通平民に居るわけがないのだが。

俺は困ってしまい、何か他の方法はないかと知恵を振り絞ったのだが、とっさに良い考えが思いつくはずもなかった。


「フン。」

近衛隊長はそれ以上何も言わず沈黙を保った。職務上先程の事は承諾出来ないというだけで、他に思うところは無い様だ。職務に忠実なだけで、嫌な人ではなさそうだ。

とはいえ、せっかくの機会をフイにしたくもない。なんとか人払いを出来ないものだろうか。



そんなことを考えていたところ、驚くべき事が起こった。

先程謁見の間に現れた人物が、突然高らかにこう宣言したのだ。



「その方の事は私が保証致しますわ。この『ミドル・カイザネス』シルスティーアがね!」



あれ、なんでこんなところにシアがいるんだ?

今回もお読みいただき、誠にありがとうございます。

もし宜しければ、評価やブックマークをしていただけたらとても嬉しいです。

執筆の励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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