22話 都市結界
※章毎の話数に変更しました。こちらは変更前は55話になります。
あらすじ等は時間をみて少しずつ書いて居ます。1章の前のプロローグにしたいなと思っていますが、未だ固まっていません。もうしばらくお待ちいただけましたら幸いです。
孤児院を後にした俺は、ウェルブラストから外へ出た。
戻るにはまたお金を取られるのだが、これは仕方がない。
旧王都ウェルブラストは、巨大な城塞都市だ。
具体的な数字は国家機密のため非公表だが、俺が確認したところその一辺は約6~7キロ程あり、人口も約20万人程が居住していると思われる。
この規模の都市全体を結界で覆うためには、様々な工夫が必要となる。
当然のことだが、都市結界は魔法陣を描くというわけにはいかない。そのため都市結界の構築は、かなりの力技だが装置を作りあげて魔法陣と同じ効果を発揮させることで解決する事になる。
都市結界に限らず結界全般に言えることだが、結界強度や耐久性は脆弱では意味がない。また作動時間が短くても、やはり使い物にはならない。
その対策として、結界は強力な物にして永続性を持たせるつもりだ。
結界の動力は魔力である。動力といえば魔力結晶が一番使いやすいのだが、これは貯蔵魔力を使い切ってしまえば効果は無くなってしまう。
だから永続使用するためには、外部から魔力を取り込む必要がある。
作業工程としては、まず魔力を集積して作用させるユニットを作る。中空だが直径30メートルほどの巨大なサイズ水晶体を作り上げ、その表面に魔法で吸魔の術式を刻んでいく。
表面が出来上がったら、今度は水晶体の内側に与えたい効果や制御機能等を書き記していく。閉じられた立体の内側に文字を刻むなんて事は、当然物理的には不可能だが魔法なので問題なく行える。
かなり手間のかかる作業だが、丁寧にすればするほど効果の高い物が出来上がるのでここは一切手を抜く事が出来ない。これを3個1セットとして2セット用意する。
次にディサーンメント・マジックを使い、結界を設置するのに効果的な座標を正確に割り出す。そしてその座標の地中に埋め込んだユニットの動作チェックを行った後、ポイントの目印となる祠を設置して防衛機構を用意する。
最後にユニット同士を結合し、魔力調整をして完全に作動させる。これで完了するはずだ。
所要時間は、ユニットの作成だけで丸々1日は掛かると見ている。移動して埋め込む作業は、1箇所半日と計算して6箇所で合計3日は掛かるだろう。最後にユニットの結合作業で1日はかかるはずだ。
澱みなく作業を終わらせてとしても、大凡5日間の大仕事となる。
本当はこんな大掛かりな作業は面倒なので独りでやりたくはないのだが、これをやらないともっと面倒な事になるので仕方が無い。
俺は手始めに魔力集積ユニットを作成した。このユニットを使って大気中や地中の魔力を集めて蓄積し、それを結界の展開と維持に利用するのだ。
当然これだけでは限られた魔力を集める事は不可能である。そこで地脈からある程度強引に魔力を引き寄せパイパスを繋ぐ必要が出てくる。その術式は当然水晶体内部に刻み込むのだが、ここが腕の見せどころであり、同時に大変苦労するところでもある。下手な術式だと魔力の取り込みや利用が非効率となる上、無駄に文字数が多くなるので、他の効果等を刻み込める量が少なくなってしまうのだ。
だが苦労すればするほど効率の良いシステムが構築されるので、努力が報われ易くもあり、その分とてもやり甲斐がある。
この規模の物を作った経験がなかったので最初はかなり苦労をしたのだが、6個も作っていれば流石に最後は手慣れたものだった。
次に俺はウェルスブラスト全体を結界で覆い、尚且それが正三角形になるような座標を割り出し、その頂点3箇所に1個ずつ埋めていった。
埋設には土壌を改良する土属性魔法が大いに役に立った。それでもかなりの大きさなので、穴を掘るだけでも大変苦労した。
ユニットの埋設後、土を埋め戻し祠を設置した。そして更にその上にグレースに呼び出してもらったガーゴイルを防衛戦力として据え置いた。
祠にはガーゴイルへの魔力供給装置と連絡装置が備わっており、傷ついたガーゴイルを修復する機能とガーゴイルや祠が破壊された場合に警報が俺に飛ぶ機能がついている。
同様の作業を他2箇所も行い1セットが出来上がると、2セット目として王都中心を基準に頂点を180度反対の位置3箇所に指定し、俺は同様の作業を行った。
こうして防護結界の三角形と、増幅結界の逆三角形を組み合わせた六芒星結界陣が完成した。
少し時間は戻る。ユニットを作成し、3箇所目の埋設が完了したところで、グレースから連絡が入った。
「ベリル、聞こえているかしら。ディメンション・クロスポイントを発見したわ。力場としてはあまり大きくないわね。」
誓いの指輪からグレースの声が聞こえて来る。距離的に2日以上離れているのだが、感度も申し分が無い。
「ちゃんとグレースの綺麗な声が聞こえているよ。予定通り、封印をお願いするよ。」
「アスタロート様がお見えになられたら作業を始めるわね。1日もあれば終わると思うわ。」
綺麗なという部分に反応したようで、グレースは若干嬉しそうな声で返事を返してきた。
グレースの言葉の通り、今回の封印作業はアスタロートに依頼している。
今回発見したディメンション・クロスポイントついて、俺は事前にグレースを通じてアスタロートと相談をしていた。
俺の予想では、混沌の勢力の次元と直接繋がるポイントではないだろうとは思われた。もし直接繋がっていれば、手勢があの程度の数である訳がないからだ。
ただ、先日戦った奴らは混沌の勢力そのものではなかったが、混沌の勢力の特徴が散見する存在でもあった。
グレースの目を通じてアスタロートに確認してもらったので、これは間違いの無い事実だ。
そこで推測し導き出した答えは、恐らく混沌の勢力の次元と繋がった別の次元の存在が取り込まれてしまい、それがこちらに攻めてきたのだろうということだ。
あちらの次元の存在全てが混沌の勢力に完全に取り込まれたかどうかはわからないが、少なくともいくらかはこちらに攻めてきているのは確かなのだ。
アルケニーのところからあちらの次元に殴り込みを仕掛ける事も検討したのだが、乗り込んだ後に別のポイントからこちらの次元に逃げ込まれたら意味がないということになり、この案は無しとなった。
ここはひとまず封印し、隣国にも存在するとされるポイントを見つけてからどうするか判断することにした。
あちらの次元を精査し、他にもポイントがあれば全部封印する。もしくは、あちらへ乗り込み平定する。今の所考えているのはこのどちらかである。
平定するのは大変なので、全部塞いでしまって素知らぬ顔を決め込みたいとは思っている。ただ、更に別の次元を経由し、再びこちらに侵攻されると非常に面倒ではある。
そうはいっても、俺が生きているうちに攻めて来ることは無いとは思うけれど。
まあ結論を急ぐ必要はない。そのうち判断すれば良いだろう。
それから俺は予定通りに作業を進め、夕暮れ刻になってようやく都市結界の起動が完了した。
結局きっちり5日も掛かってしまった。作業的に野宿せざるを得なかった事もあり、今回は俺も流石にくたびれた。
本来は空間跳躍を封じる効果を持たせるだけで良かったのだが、せっかく設置するのだからと欲張って色々機能を追加した結果、作業工程に遅れが生じていたのだ。
おかげでこの5日は食事も空間収納に入れてある物で適当に済ませ、樹上で寝るというような粗雑な生活を送っていた。
だがその甲斐もあって、非常に有用な結界が構築出来ていた。結界内にいる人は病気に対する抵抗力を向上させ、怪我や病気の治癒速度が多少上がるという効果を持たせることが出来たのだ。
ただ、あまりに強力な物を使うとそれだけ消費する魔力の桁が上がるので、あくまで微増という程度ではある。それでも1日立てば結果は全く違ってくるはずだった。
全ての作業を完了した俺は、祠の前で地面に仰向けに寝転がり一息つこうとした。その時、ちょうどこちらへ近づいてくる集団を感知した。
人数は13人で全員武装をしているようだ。街の外とはいえ、この辺は拓けており盗賊が出てくるようなところでもない。
恐らく巡回警ら中の衛兵だろう。ただ、それにしては人数が多いのが少し気にはなるところだ。
まあ俺は悪いことは何もしていないし、別段気にすることもないだろう。
そう思って暫くして横になっていると、俺を発見したのか誰何する声が聞こえた。
「何者だ。こんなところで何をしている。」
俺は上半身を起こし、声の方に顔を向けた。
そこには完全武装をした兵士が整列していた。よく訓練された衛兵といったところだな。
話しかけてきたのは先頭にいる隊長のようだ。人数的にいって中隊長か。それなりに偉い人ではある。
これは地の性格を隠して、下手に出ておいたほうが良いな。そう思った俺は、起き上がりその場に座って相手を見上げた。
「これはどうもご苦労様です。私は疲れたので、少し休憩したくて横になっていたのです。」
「こんな野外でか? いくらこの辺りは治安が良いとは言え、魔物が全く出ないわけでもないのだぞ。」
「雑魚がいくらきても私は殺せませんよ。」
ふむ、と少し考える中隊長だったが、別のことを俺に尋ねてきた。
「ところで、ここ数日街の外部数カ所で幾度となく不審な閃光が出ていると通報があった。本日もこの辺りで確認されているのだが、何か心当たりはないか?」
そういいつつ、中隊長は俺の後ろにある祠に目を向けた。
莫大な魔力を使って作業をしていたため、周囲に閃光として漏れまくっていたのだろう。まさかウェルブラストの住民に通報されるとは思わなかったが。
「閃光なら多分俺ですかね。実は我が家に代々伝わる不思議な踊りの練習をしていたのですが、やはり後光が差していましたか。分かる人には分かってしまう。威厳というものは、中々に隠すのが難しいものですね。」
だがここはサラッとボケをかまして様子を見てみる。
「後ろにある見慣れぬ祠は何か関係があるのかな。」
ところが、俺のボケは残念ながら見事にスルーされてしまった。こちらを見る目に変化はない。つまり最初から信用されていないということだ。これは誤魔化しても駄目だろうな。
「冗談ですよ。でも不審と言われるのは正直心外ですね。私はこのウェルブラストに加護を与えていたのです。」
「それは一体どういう事だ?」
「ちょっとした結界を街に張り巡らさせていただきました。魔導師でもなければ術式をご理解いただくのは難しいとは思いますけどね。気づいた人は皆びっくりしているんじゃないかな。」
それまで大人しく話を聞いていた衛兵たちであったが、俺の言葉を聞いた途端に彼らの殺気が膨れ上がった。
「怪しい奴め! 貴様を拘束する。大人しくしろ!」
何故かはわからないが、何か大きく勘違いされてしまったようだ。別に怪しくなんてないのになあ。
「ええ!? いやいや、最初から大人しくしているじゃないですか。それにまだ私の話は終わっていませんよ。ちゃんと話の続きを聞いてくださいよ。」
「問答無用だ。話は我々の詰所で聞かせてもらおう。」
「はぁ、わかりましたよ。抵抗しませんから、縛るのはやめてください。大人しくついていきますから。」
こうして俺は勘違いした衛兵達にウェルブラストの衛兵詰所まで連行されるのであった。通行料は取られなかったので、お金を節約できたとでも思っておこう。
「ベリル殿、話を聞かず、誠に申し訳ない。我々もこういう任務をしているので、何事につけても疑わざるを得ないのだ。」
中隊長のオットー准男爵が俺に平謝りをしてきた。
衛兵詰所に連れてこられた俺であったが、結界の効果を説明し自分の指に傷をつけて治りが早いことを見せつけた。ついでに衛兵の中で怪我をしていた数人を治療し、何とか誤解を解くことが出来たのだった。
「貴族の方がそんな簡単に頭を下げないでください。こちらこそ申し訳ありません。私も最初から身分証を見せておけば良かったですね。」
「まあ貴族といっても準男爵だからね。気にしないでくれ。それよりもとてもすまないのだが、我々が理解出来ない以上、このまま放免するというわけにはいかないのだ。魔導師の派遣を依頼し、調査出来てから完全に嫌疑が晴れることになる。一応問題ないとは思うので今日もう陽が暮れた事だし帰ってもらっていいが、明日以降にまた来て貰えるだろうか。」
「わかりました。」
面倒ではあるが、衛兵はこれがお仕事なのだから仕方がない。俺もお尋ね者になりたくもないし、祠にも効果等を記述したプレートを貼り付けてある。あれを見る人が見ればちゃんとわかるはずだ。
グレースは明日戻ってくるが、今はまだ居ない。明朝にまた衛兵詰所に行かないといけないので、今日は孤児院に戻るのは無しだな。
そう考えた俺は、その日は『河のせせらぎ亭』に宿泊することをオットー準男爵に伝えておいた。
さて、明日はどうするかな。俺はベッドに横になりながら明日の予定を考えていた。
別に悪いことはやっていないのだから、当然俺に後ろめたい事もない。明日衛兵詰所に顔を出して協力すれば、恐らくお昼前には開放されるだろう。
グレースと合流したらライゼガーヴに報告しに行こうか。その後はお土産を買って孤児院に戻るかな。
買うといえば、弓も買わないといけないんだった。あの弓は強すぎて使えないからなあ。それにそろそろお金を貯めなきゃいけないな。
そういえばハンターギルドに顔出しもしていなかったし、明日孤児院の後に顔を出してみようかな。
そんな感じで明日の予定を組んだのだが、その予定は翌日早朝から崩される事となった。
使いの者が来て王城から突然の呼び出しを受けた俺は、今偉い人の前に居るのである。
どうしてこうなった?
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