21話 コネクション
※章毎の話数に変更しました。こちらは変更前は54話になります。
あと、あらすじの内容を抜かして本文を作成していたため、そのうち追加修正する予定です。
『あらすじ』の意味がわかっておらず、申し訳ございません。お恥ずかしい限りです。
「なあ、俺達って結局いらなかったんじゃ?」
「色々考えてたんだが、全部無駄になったな。」
ルインがふと漏らした言葉にカースンが同意した。
二人をを連れてきたのは、ぶっちゃけグレースへのストッパーのためだった。
全力を出すのを抑えるようにしておかないと、都市部で本気を出されると街が丸ごと壊滅するからだ。
「そんなことはない。奴から情報を引き出すために来てもらったんだからな。」
これは本当のことだし、きちんとフォローしておく。
「こう言っては何だけど、もうちょっとおとなしく戦えないのか?」
「一応配慮してるよ。だが市街戦でもないのだから、別にこれで良いんだよ。」
「いや、でもなあ…。守ってもらったからか実感はあまりないが、普通に考えたらさっきの大爆発で衝撃波とか轟音とかすごかっただろう。これ絶対大騒ぎになってるぞ。」
「天井部分にも結界張ってたし、ちょっと揺れたくらいじゃないかな、多分。まあ大丈夫、大丈夫。」
「めちゃくちゃ適当だな…。完全に他人事みたいだぞ。」
「あんなド派手な戦い方して平気なんだもんな。俺達アサッシンの世界とは正反対だぜ。」
「そんな事言われてもな。俺には後ろめたい事なんて何もないからな。堂々としていないと、逆に怪しまれると思うのだが。」
「いやいや、『常識』とか、『近所迷惑』って言葉知ってるか?」
「常識とは人種や土地毎に違う物だからな。遺跡の近所っていっても、ここは枯れた遺跡じゃないか。誰にも迷惑なんてかからないよ。」
「だからって塵にして良いわけじゃないと思うぞ。」
「ベリルの常識、世界の非常識。」
すごい言われ方をした気がする。なんだその非常識の塊みたいな扱いは…。
「君達も魔導師やってみたらわかるって。こんなの普通、フツー。」
「そんなこと絶対無いから!」
そんな会話をしながら、俺達はひとまずアサシンギルドに戻ってきた。
警戒態勢を維持しているようで、まだ全員がその場に居た。
「ルイン、無事だったか! カースンも。」
「爆音とすごい揺れがあったけど、心配なかったみたい。良かったわ。」
待機組に奴らを全て倒したので安心するように伝えると、彼らは安心したようで警戒を解いた。
だが倒し方を聞いた彼らがポカーンと口をあけて聞いていたのは、とても印象的だった。熟練の暗殺者でもあんな表情をするんだな。
その後ルインとカースンが事の次第を伝えると、彼らの顔は急に真面目な顔になり、その評定は険しくなっていった。
「つまり根本的な脅威は去っておらず、いつまた同じようなことが起こらないとは限らない、というわけか。」
「そこの男の非常識さは置いておくとして。これは、こちらから打って出るしかないのかもしれないわね。」
「それについてはいきなり行動を起こすわけにはいかないが、まずは各所と連絡を取って連携していったほうがいい。」
何やら失礼な言葉が聞こえた気もするが、多分気のせいに違いない。
打ち合わせが始まったようだから、そろそろ戻ったほうが良いだろう。俺は部外者な上に、依頼された事も無事達成出来た事だしな。
「では、俺達はそろそろ戻ることにする。」
すると、腰を浮かせかけて俺達にルインが頼み込んできた。
「待ってくれ。これは根本的な対策が必要になる。お前の知恵も必要になるかもしれん。もう少し助けてくれないだろうか。」
確かにライゼガーヴには助けてやってくれと言われているから、そう言われるとここで断るわけにもいかないか。
「わかった。だが、まだ俺達にはやることがあるから手短に頼みたい。」
孤児院に預けっぱなしになっているヴァルテルとカチアの事を、俺は脳裏に思い浮かべた。早く安心させてあげないといけないな。
「それはこちらも同様だ。そんなに手間はかけさせんよ。」
「それなら構わない。」
ルインは改めて一同を見渡した。
「まず状況を整理すると、現在この国にいる奴らは全滅した。そして、奴らの仲間は国外にいる。」
その言葉を継いで、カースンも口を開いた。
「そうだな。ネロスが隣の国と言ってたんだが、それはおそらく6カ国統合前の国割の事だろうな。今このワーレスにちょっかいを出すような国があるとは思えん。」
「やはり旧国家『サルダイン』の首都『パートラス』か。やはり奴らの仕業で確定だな。」
「しかし、そうなると迂闊に手が出せないぞ。あちらに非があるからといって、こちらが同じ轍を踏むわけにはいかない。」
「まずはシーフギルドと国家に連絡をとるべきだろうな。」
「シーフギルドは良いとして、国家の方は誰かツテがあるか?」
様々な意見が出る中、俺は疑問を口にした。
「これまでの暗殺依頼はどうやって受けていたんだ?」
「依頼は一方的に使者が来るだけだから、誰も知らないのさ。貴族が直接依頼になんぞこないからな。」
「そういうわけだ。仕方がない。木霊を頼ってみよう。」
「俺達も同行しよう。依頼達成の報告もしないといけないしな。」
その言葉の後に、シーフギルドは後にするか。という俺の呟きに、グレースが助言をしてくれた。
「ベリル、シーフギルドには接触しなくてもいいんじゃないかしら。偶然とはいえ情報が手に入ったのだし、必要ならあちらから接触してくるでしょう?」
なるほど、さすがはグレースだな。確かに会いたいわけでもない相手に、態々こちらから接触する必要もない。
「では俺はシーフギルドに連絡してくる。カースンはベリルと一緒に木霊を頼ってみてくれ。」
「わかった。でもいいのか? リアーヌに会いたいだろうに。変わってやるぞ?」
カースンはルインに心底同情するような、心配するような口調で語りかけた。
「うるさい! あっちはギルドマスターの俺が行かなきゃならんだろうが。ともかく任せたぞ。」
「ハイハイ。」
咄嗟に怒鳴るルインに対し、肩を竦めて何やらニヤつくカースン。こいつ絶対からかって楽しんでいるな。
「ともかく行ってくる。」
そんなやり取りを横目に見ながら俺達はアサシンギルドを辞し、『スカーヴァティー』に戻ったのだった。
『スカーヴァティー』には既にライゼガーヴが戻っているようだった。
「私も今戻ったところだ。先程の依頼については、承認の確約を貰ってきたぞ。問題なく進むだろうから安心してくれ。そちらもカースンがここに居るという事は、無事に解決したようだな。」
「それが…。」
ライゼガーヴにカースンが状況を説明した。
「先程の地響きはお主の仕業だったか。街中が大騒ぎになっているぞ。しかし、噂に違わぬ非常識さだな。」
ここにも失礼なことをいう奴が居た! やるべきことをやっただけなのに、何で皆俺を非常識扱いするのかな。
「どこが非常識なんだ? ちゃんと結界を張って、街に被害が出ないように配慮しているぞ。」
「それはツッコミ待ちなのか?」
「ですよねー。」
ライゼガーヴの言葉に同意するカースン。君らは何で連帯しているんだ?
「俺は至って真面目だ。」
「何でもふっ飛ばせば良いというわけではないだろうが。まあ良いわ。それよりも国家へのツテなんだが、あるといえばあるが、無いと言えば無い。」
「ベリル、どういう意味なんだ? 俺は謎掛けとかそういうのは苦手なんだ。」
ライゼガーヴの言葉が理解出来なかったカースンが俺に振ってきた。
「つまり普通の部署へのツテはあっても、今回の件について直訴出来るようなレベルのツテは無いってことでしょうね。」
「その通りだ。せっかくワーレスという国家が纏まりかけてきたこの時期に、そのような騒ぎを起こせば恐らく良い顔をしないだろう。王家に連なる方でもなければ、中々重い腰をあげようとはしないはずだ。」
「そのような騒ぎとは何だ! 俺達は仲間を殺さたんだぞ。」
カースンがライゼガーヴの言葉に憤る。
「上の連中にとって、下の者の命なんて意に介すわけがない。お前もそれは分かっているはずだ。」
「それくらいは俺にだってわかっている。だけど、もう俺達だけの問題じゃなくなっているんだ。誰かが伝えないと、この国は大変なことになる!」
「わかっている。他人事だと思わずに当事者意識を持てる者でなければ、このような話をしても無意味だろう。そういう意味でツテがないと言ったのだ。」
「くそっ。どうにもならないのかよ。」
どうにもならないというライゼガーヴに対し、カースンも悔しそうだ。
「ともかく、こちらも出来る限り他を当たってみよう。」
「俺も出来ることをしよう。完全に侵入を防ぐ事は無理だが、王都を結界で覆えば少なくとも直接空間跳躍してくる事はなくなるはずだ。」
奴らが混沌の勢力に関わりがある以上、このまま放っておくわけにはいかないからな。どの道しばらくは王都に滞在しなくてはならないから、その間にやってしまおう。
それとグレースにはでおくつもりだ。
「それは助かる。それまで警戒を緩めないように俺から皆には伝えておこう。」
それぞれの役割を果たすため、その場で解散となった。
孤児院に戻った俺達はシスター・オリヴィアに早速面会した。
「おかえりなさい。先程大きな揺れが有って街中が騒ぎになっていますけど、お二人共無事で何よりでした。」
「俺達は大丈夫ですよ。それより、ヴァルテル君とカチアさんは大人しくしていましたか?」
「元気一杯で、他の子達と仲良く遊んでおりましたわ。」
「それは良かった。ところで、私達は所用で数日ここを離れます。またしばらく彼らをお願いしたいのです。」
そう言って俺はシスター・オリヴィアに金貨を5枚程渡しておいた。
「度々のご寄付をどうもありがとうございます。それは構いませんが、すぐに旅立たれるのですか?」
「いえ、旅に出るわけではなく王都周辺に居ますよ。忙しいから戻ってこれないだけです。」
それに、お土産を買うのを忘れていたので、今彼らに見つかると不味い事になるのだと俺は付け加えた。
「わかりました。いってらっしゃい。貴方達にハーネス様のご加護があらんことを。」
孤児院を出た俺達は、俺とグレースはここで二手に分かれる事にした。
「奴らが空間跳躍でここに来られないように、俺はこれから王都周辺に結界を構築する。どれだけ急いでも4~5日はかかるだろう。その間にグレースにはアルケニーのところへ行って、ディメンション・クロスポイントの確認を頼みたい。」
「わかったわ。発見したら指輪で連絡するわね。」
「すまないが頼む。」
結界を構築する間、俺は野宿するつもりだ。宿は1日しか取っていなかったから特に問題はない。
結界構築中に、勇猛の先触れの事やアルケニーの事等ある程度の問題が片付くだろう。
ヴァルテルとカチアについては孤児院に任せておけば良い。それが終わったら出発出来るな。
ある程度問題解決の目処が立ったことから、俺は割と楽観的だった。
しかし、俺の目論見はその数日後に脆くも崩れ去るのであった。
「やっと義兄様に追いつきましたわ!」
やっとシアが追いつきました。
今回もお読みいただき、誠にありがとうございます。
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