18話 茶番
気配がドンドン近づいてくる。
「お出ましのようだな。毎度ご苦労な事だ。」
ルインが呟いている。慣れているのだろうか、これから戦闘かもしれないのに妙に落ち着いているな。
やがて対抗勢力と目される奴らが建物の中に入ってきた。性別は不明だが、総数は10人程だった。
俺はその中に変わった気配を感じ取った。
グレースを見ると、俺に目で合図してくる。やはり気づいたようだな。
「今日こそ返事をきかせてもらうぜ。さっさと俺にギルドマスターを譲りやがれ!」
入ってくるなり男が叫ぶ。これまた凄くオレ様キャラが現れたもんだ。
「しつこいぞ、カースン。おやつでもないんだから、ホイホイ渡せるわけがないだろう?」
その例えはどうなんだ。クールなイメージが台無しだ。
「何だよルイン。助っ人でも頼んだのか? 外部から人を呼ぶなんて、気概がない証拠だぞ。そんなことでやっていけるのか? さっさと俺に譲ったらどうなんだ。」
「はぁ!? 何いってんだお前。これは俺の人徳の現れだいうことが何故気づかないんだ。その理解力の無さには呆れ果てるばかりだね。その程度ではとても俺の代わりなんて無理だろう。」
「なんだとお!」
互いに罵ってはいるのだが、しかしこの感じは何なのだろうか。カースンの言葉は確かに乱暴なのだが、違和感が有りまくりである。馴れ合いのような雰囲気すらあり、脅しに来ているようにはとても見えない。
対抗勢力というからにはバチバチにやりあっているのかと思ったのだが、どうやらそうでも無い様である。なんでこいつらは口喧嘩をしているのだろうか。
そんな事を考えていると、カースンが一歩前に出て得意気に語りだした。
「フン、まあいい。人徳がどうとかはこの際関係がない。要は強いやつがギルドマスターを張ればいいのよ。そんなわけで、この前言ってた代表戦で決着をつけようじゃねえか。」
「望むところだ。」
カースンの言葉にルインが応じる。どうやらこの流れは、以前に決まっていた事らしい。
「当然こっちは俺が出る。といいたいところだが、お前がその助っ人を出すってんなら、俺のところもグレイヴを出す。」
「フン。それは聞いてみないとわからねーな。おい、ベリルさんとやら。早速だが力を見せてもらえないか。」
その言葉に俺は訝しんだ。
「いや、力を見せろって言われてもな。決着をつける大事な代表戦なのに、勝てるかわからない様な俺に任せて大丈夫なのか?」
「なあに、あんたなら大丈夫さ。」
「おいおい、めちゃくちゃ気楽に言ってくれるな。俺はアサッシンじゃないんだぞ?」
「じゃあそっちのお姉さんでも構わないぜ。紹介状に書いてあったが、ふたりとも滅茶苦茶強いんだろう?」
確かに助けに来たのは事実だが、既に俺は他の事を実行中である。それをしながら戦闘もこなすとかぶっちゃけ面倒くさい。
「相性以外にも時期やタイミングというものがあるからな。強いという事と、勝てるという事はまた別の話さ。」
「フッ。否定はしないんだな。」
「確かに今なら勝てるだろう。そちらも姿を見せてくれているからな。」
アサッシンは正々堂々などという言葉からは程遠い存在だ。彼らの本領は正面からの戦いでは無いのだ。
「それなら問題ないだろう。頼んだぞ。」
やけにしつこく頼んでくるな。性がない。グレースに頼むか。
そう思った俺であったが、ふと気になってルインを見ると、何故かやたらと緊張している事に気がついた。
なんだろう。俺の中で先程感じた違和感が大きくなってくる。俺は返事を一旦保留し、悩んでいるフリをして場を少し観察することにした。
すると、メイド服を着た金髪の美女だけでなく、相手側のカースンからも緊張を感じ取ってしまった。
何故カースンまで緊張するんだ? そんなに大事な事なのか? 彼らはまるで俺の返事を気にしているような感じではない。一緒になって何かを確認しようと必死に感覚を研ぎ澄ましているようだ。
そこで俺はふと気がついた。違和感の正体はこれか。俺はそれに気づくと、思考のパズルを組み立てていった。急速に絵図面が出来上がっていき、こうして漸く1つの仮説が出来上がった。
「ああ。わかった。引き受けよう。」
そう言って、俺はカースンの随伴員の一人に素早くエアカッターの魔法を放った。
バチッ!
大きな音がして、魔法が消滅した。
「ネロス!」
「消滅した!?」
いきなり魔法で攻撃したからだろう。周囲の人間は驚いていたが、俺も魔法がほとんど効果を現さなかったことに驚いた。
今の魔法は、まともに喰らえば真っ二つになっていてもおかしくは無い威力だ。勿論腕を狙ったのだが、無効化されるとは思わなかった。
ネロスという名前らしいが、やはりこいつは普通ではない。いきなり放った俺の魔法を防ぐ事は、相当難しいはずだからだ。
「これではっきりしたな。茶番はもう良いだろう。あんたらが捜してたやつは、どうやらこいつのようだぞ。」
俺の言葉にルインとカースンが頷き合う。
「どうやらそのようだな。皆下がれ! 裏切り者はネロスだ。」
バっと皆が散開し、戦闘態勢を取った。
やはりこれは裏切り者を燻り出すための茶番だったか。元々対抗勢力などというものは存在しなかったのだ。
「い、いきなり攻撃してくるなんて、ゆ、許せないんだな!」
その言葉にルインだけでなくカースンも呆れた顔をしていた。
「まさかてめえが裏切り者だったとはな! 仲間を殺しまくったお前が言うんじゃねえよ。」
「仲間? お、お前ら全員元から仲間じゃないんだな。ちょうどいいから、今ここで死ぬんだな。」
メキメキメキッ……バリィッ!
いうが早いか、ネロスという男の背中が盛り上がり、上着が裂けていく。骨が曲がっていくからか大きな音を立てながら、その姿が変わっていく。
変化した姿は、腕が背中から4本突き出しており、足も更に2本が生えている。腕の形はどうみても人間のそれではない。明らかに人間とはかけ離れた醜悪な姿だ。
「この化け物め!」
近くに居たアサッシンが素早くネロスに斬りかかる。しかし、ネロスは斬撃を背中の腕で受け止めると、別の腕でそのアサッシンを殴り飛ばした。
「ぐああああっ!」
殴られたアサッシンが、悲鳴をあげながら3メートルほど吹き飛ばされた。
魔法を使った形跡もないのに素手?で斬撃を受け止める等、最早人間ではない。これがアルケニー達が言っていた異形の者か。
殴り飛ばされた仲間の姿をみた他のアサッシン達が、ネロスに一斉に飛びかかる。
その状況をみて、さすがに危ないと感じたのかネロスが突然消えた。アサッシン達は突然の事に戸惑っている。
「空間跳躍だ! 皆背中合わせになって、一箇所に集まるんだ。バラけていたら、奴が背後から不意打ちしてくるぞ!」
俺は素早く大声で警告を出し、魔法を準備する。
奴らとの最初の遭遇から、数日が経過している。その間に俺は奴らがアルケニーを狙った理由と共に、空間跳躍への対策を考えていた。
空間跳躍をされると探知系の魔法やスキルが一切通用しなくなり、不意打ちを受けやすくなるからだ。
「皆動くなよ。グレース!」
「ええ。スパイダーウェブね!」
俺達は兼ねてより打ち合わせていた通り、暗黒魔法のスパイダーウェブを周囲に放った。すると、部屋中に魔法で作り出された粘着性が抜群の白い蜘蛛の巣が張り巡らされた。
これで突然現れても魔法の網が奴らを絡め取るだろう。事前に察知出来ないのなら、物理的に探知するしかない。だから俺は別の魔法を使って、物理的な方法でアプローチしてみることにしたわけだ。
「あの空間跳躍のクールタイムがどれくらいになるかだな。」
「連発はしてこないんじゃないかしら。」
「そうだよな。でなければ、すぐにでも襲いかかって来ているだろうしな。まさか来ない腑抜けというわけでもないだろうが。」
ここでやつに逃げられると面倒なので、聞こえているかわからないが襲ってくるように挑発してみる。
すると俺の頭上の空間に揺らぎが生じた。
「し、死ぬんだな!」
何故こんな時にも吃っているんだこいつと思いながら、 俺達は落ちてくる奴を見上げた。
その姿が落下途中でピタリと止まる。
「な、なんだこれは! ネバネバするんだな。動けないんだな!」
予想通り、奴は蜘蛛の糸に絡まって藻掻いている。だが暴れれば暴れるほど、蜘蛛の糸というものは絡みついて余計に外せなくなるのだ。
「いくら能力が優れていても、肝心のオツムがそれではな。お前らは上から下まで愚か者ばかりと見える。」
俺は心底馬鹿にしたように言い、奴を挑発する。こいつは所詮下っ端にすぎないが、上手くいけば情報なり、仲間を引っ張り出せるかもしれないからだ。
「も、もう頭に来たんだな。全員でお前を殺してやるんだな!」
そう言いながらも、まだ奴は藻掻いている。
「おーい、いつまでそこで藻掻いてるんだ? 俺はここだぞ? とっとと掛かってこいよ。」
「う、うるさいんだな! ちょっと待つんだな!」
挑発されることに慣れていないのか、ネロスは顔を真っ赤にして、めちゃくちゃに藻掻いている。
その姿がフッと掻き消えてその場に居なくなった。
「グレース、どうだ?」
「おおよそ3分ってところね。意外とクールタイムは長いみたい。」
「まあ戦術的に見ればそうだな。だが、戦略的に見れば3分は短い。早く始末するに限るな。」
「そうね。上手く引っかかってくれた事だしね。」
グレースの目線の先には、先程俺が生み出した魔法の蜘蛛の巣から伸びた糸が漂っていた。その糸が建物外へと続いている。
「ああ。さて、さっさと一網打尽にしてやりますか。」
「ベリルさん、これは一体!?」
糸に気づいたメイド服の美女が、すぐに俺に尋ねてきた。
「どうせ空間跳躍するだろうと思って、目印をつけておいたのさ。魔法で出来ているから、ヤツにこれは切り離せないんだよ。」
跳躍を連発するところを見て、切れることはないと思っていたがどうやら上手くいった。
別次元へ跳躍されていたらさすがに糸は切れてしまう。だが、次元を超えるのは多大な力を消耗するはずなので、それはないと俺は予測していたのだ。
ちなみに正確な距離はわからないが、距離によって糸の太さが変わるので、見ればおおよそどのくらい近くにいるのかは判断出来る。
「ルイン、カースン、あの糸を辿っていこう。どうやら近くにいるみたいだ。この機に奴らを殲滅するぞ。他の者は待機だ。」
「おう!」
二人の声が呼応する。やっぱりこいつら仲良かったんだな。
俺達は建物を飛び出し、糸を辿って奴らの元へ直走るのだった。
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