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17話 アサシンギルド

体調を崩して更新が遅れております。申し訳ございません。

暫くして俺達はアサシンギルドの区画に入った。

ここは街の南東の位置しており、旧街といわれるスラムに程近い場所になる。

外観は古い建物のようだが、石造りで丈夫な造りになっているようだ。

2階の壁には矢狭間が多数設けられており、これならば拠点を攻められてもそう簡単には落ちないだろう。

1階部分は酒場になっていた。しかし思っていたより建物自体が小さい。これがギルドと言われてもにわかには信じがたい話だった。

とはいえ俺は遊びに来たわけではないのだ。そのまま中へ入ろうとすると、入り口のスイングドア脇に座り込んだ男が俺を呼び止めた。


「兄ちゃん、悪いがここは会員制なんだ。余所をあたったほうが良いぜ。」

「木霊の紹介状を持ってるから大丈夫だ。」

木霊というのはライゼガーヴのことを指す。名前をそのまま言うと不味いから、こんな変な渾名をつけているそうだ。

「通りな。」

男は紹介状を確認もせずに俺を通した。こういうやり取りは慣れたことなのだろうな。



そのまま建物の中に入ると、酒場にしては異様な光景がそこにはあった。客席として3つの丸テーブルにそれぞれ椅子が3つずつ置かれていたが、異様なのはそこではない。

奥にはカウンターが1つあるだけで、酒も何も置いては居なかったのだ。客は誰もおらず、カウンターに男が一人立っているだけ。

ここは酒場としての体裁すらとってはいなかったのだ。建前とはいえ、普通はカモフラージュとしてそれなりの体裁は整えるものなのだが。


「梅が咲いたら木霊が響いた。燕は魚が釣れてるかい?」

俺は紹介状を差し出しつつ、男にライゼガーヴに言われた言葉をそのまま伝えた。言葉の意味がよくわからないが、まあこういうのは気にしても無駄だと思う。

「何の魚だ?」

「尻尾を咥えた骨魚だ。」

質問が来たので答えを返すと、男がすぐに奥への隠し扉を開いてくれた。

そのまま奥に進むと地下への長い階段があり、降りていくとそこには巨大な地下空間が拡がっていた。

これまでにアサッシンに殺された人間の怨念が籠もっているのだろうか、底冷えのする寒さが一瞬肌に感じられた。

ギルドマスターは一番奥にいると聞いているので、俺達はそのまま奥へ向かった。地下についた時点から常に複数の視線を感じるが、気にしていても仕方がない。


この地下空間は古い石造りの建物が立ち並び、最早街の様相を呈している。街の地下に遺跡があり、アサシンギルドが占拠してそのまま利用している様だ。

恐らくはこの遺跡があったから、ここに城塞都市を建設したのだろうな。元々ここはシェルターだったに違いない。

だが、同時に俺は納得もしていた。確かにこれだけ広い空間があれば、攫ってきた大勢の子供を逃げ出さないように隔離してアサッシンとして養成することも可能だな。

しかし今となってはこの規模が弊害になっているとも言える。これだけ遺跡が大きければ出口も1つや2つではあるまい。

監視する場所が多い上に、相手が空間跳躍で事前に潜入していればその発見は困難を極めるだろう。

そんな事を考えていると、情報通り最奥にこの遺跡内で最大の建物を見つけることが出来た。

外観はどう見ても教会である。元は何を祀っていたのか等は何も伝わっていないらしく、祭祀に関わる物も遥か昔に撤去されているそうだ。



「邪魔するよ。」

俺は声をかけてノックせずに中に入った。何故なら既に扉が開いていたからだ。

中に入ると10人程が集まっていてこれから話し合いでも起ころうかという雰囲気だった。その場にいる者の視線が一斉に俺の方を向いていた。

「誰だ!」

俺を誰何した鋭い声は若い男のものだ。

良く見ると集まっている者の服装はバラバラで、一般市民のような格好をした者やひと目見てアサッシンとわかる服装の者もいれば、中には執事服を着た者や地味なメイド服を来た女性まで様々だった。

「木霊から言われてここへ来たんだ。助けてやってほしいと言われてな。」

俺は視線を無視して若い男に話かける。

「証拠は?」

「紹介状がある。そうでもなければ、初めての者がこんなところに来れないだろう?」

俺は若干おどけてみせる。その言葉をきいて、皆ホッとしたのか雰囲気が若干和らいだ様だ。

何故推測なのかというと、誰も彼もが無表情だったからだ。喜怒哀楽を簡単には表に出さないのだろう。さすがはアサッシンの集団というところか。


最初の若い男は俺が差し出した紹介状を受け取り、文面に目を通している。取り仕切っているところを見ると、この者がギルドマスターのルインなのだろう。文面とこちらの顔を何度も見比べて、何度も頷いている。

「なるほど。強力な魔導師というわけか。とても危険な状況なのに良く来てくれた。援軍ありがたく思う。」

「お互いの利害が合致したからな。結果として援軍になっただけのことさ。」

「その方がわかりやすくて、こちらとしても助かる。いきなり背中を狙われたんじゃ話にもならないからな。」

「なんだそりゃ。本職にそれを言われたら返す言葉がないぜ。」

俺は思わずニヤリとしてしまう。もっと硬い連中だと思ったが、中々に面白い人物のようだ。


「しかしそちらの女性については強いようだとしか書かれてはいないが、本当に大丈夫なのか?」

ライゼガーヴが紹介状を用意していたのは会合前のことだから、あの時点でははっきりと確証が持てなかったのか、それとも書くのを躊躇ったのか。

どうも後者が理由な気がするな。グレースが悪魔であるという事はあまり言わないほうが良いだろう。俺もそれに乗っかり、ごまかすことにした。

「なんだよ。そっちにだって凄腕の美女が居るだろうに。」

俺はそう言うと、先程のメイド服の女性に一瞬だけ視線を向けた。

すると急にルインの目つきが鋭くなった。俺がふざけていると思ったのか、もしくはメイド服に気があるとでも勘違いしたのだろうか。


「グレースです。夫のベリル共々一時的にお力になります。」

グレースはそういってメイド服の方を向き、手にしたブロードソードをカチリと鳴らした。この剣は先程ライゼガーヴから貰ったものだ。

女性は一瞬キョトンとなり暫しの間無言だったが、プッと吹き出すと急に笑い出した。

「アハハハ。残念ね、ルイン。あちらの美女には、既に頼もしいナイトが居るみたいよ。」

俺の切返しが悪かったのだろうか。とても可笑しそうにメイド服が笑っている。別にここで嫁自慢をしたわけではないのだが。

ルインは口を噤んでいるが視線は元に戻っている。今のは何だったのだろうか。まあ気にしてもしょうがないな。



「さて定刻を過ぎてしまったが、これから会議に入る。ちょうど援軍が来てくれたというのもあるので、奴らに対する対処を検討したい。何か気づいたことはないだろうか。お二方も遠慮せずに言ってくれ。」

ルインが進行役となり、会議が始まった。襲撃に備えてなのか、会議といっても全員立ったままである。

「ならお言葉に甘えさせてもらうけど、良いかな?」

早速俺は挙手して発言権を貰う。こういう初めてのところの会議では部外者は黙っていたほうが良いと思うのだが、悠長に構えているわけにもいかないので俺は思ったことを口に出させてもらうことにした。

「何かな。」

「初めてきたところなので聞きたいことは色々あるんだが、あまり時間もないだろうから確認をさせて貰いたい。」

俺はそう前置きして、現状確認をすることとした。



問答の結果、様々な情報を得ることが出来た。

まず敵は外部勢力であり、彼らが持つ情報を確認したところ相手はやはり空間跳躍を使うようだ。

また対抗勢力については交戦はしていないものの当然非協力的なため、その分防衛戦力の減少へと繋がっている。これが今窮地に陥っている主要原因の様だ。

そして今攻撃してきている相手について、検討はついているもののはっきりとした確証がないのだそうだ。

そのため現状では討って出るわけにもいかず、防衛に専念している状態である。

「要するに、ミッションとしては4つある。1つめはここを防衛すること。2つめは襲撃者を抹殺すること。3つめは対抗勢力を説得すること。4つめは外部勢力を完全特定し壊滅させること。というわけだな。」

「その通りだ。どれも一筋縄ではいかなくてな。こうして対抗策を練っているというわけさ。」

俺はライゼガーヴに感心した。あの爺さん、外部の人間の割にここの問題点を把握していたのだろうな。これは人海戦術でどうにでもなる話ではない。

流石と言わせて貰おう。魔導師の事は良く分からなかったのだろうが、それでも俺をここへ寄越したのは正しく正解だったな。



「なら1つずつ解決していこうか。1つめと2つめは多分すぐに終わるだろう。俺に任せてくれないか。」

そういいつつ俺は魔法を展開した。

「どうするつもりだ?」

「俺は魔導師だからな。色々と手があるのさ。というか既に1つは裏で実行中だ。それで悪いんだが、襲撃してきた相手の事について詳しく教えてくれないか。」

今は情報が1つでも欲しいのだ。彼らは有益な情報を持っている可能性が高い。

俺が次の言葉に繋げようとした時だ。


キーン!


建物内に小さいが鋭い音が響き渡った。

警戒音だろうか。音が聞こえたと同時に、この場にいる俺とグレース以外の全員が身構えた。

「どうやらその質問に答える前に、3つめの問題が先にやってきたようだな。」

ルインが低く呟いた。どうやら対抗勢力のお出ましのようだ。



問題が向こうからやってきてくれるとは話が早くて助かる。

そう考えた俺の判断は間違ってはいなかったのだが、大体こういう時は面倒事も一緒にやってくるものだ。

そして俺のその感覚も間違ってはいなかったのである。

本日もお読みいただき、誠にありがとうございます。

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