5話 ハンター登録
「ようこそ、テドロアのハンターギルドへ。初めまして。
私はユニーと申します。本日のご用件をお聞かせください。」
受付カウンターに行くと、ユニーさんというスレンダーな美女に声をかけられた。
年齢はおそらく俺と同じくらいだな。成人はしてるが、20歳は過ぎていないだろう。
「こちらに登録すれば身分証をいただけると、門衛のマックスさんから伺ってきました。」
「畏まりました。ハンター稼業を始められるおつもりでしょうか。
もしそうなら後ほどご説明致します。まずはこちらで登録をしましょう。
登録自体は簡単で、すぐに終わります。」
「わかりました。」
俺の里にこういうのは無かったので、細かい事情には疎い。だからまずは黙って言うことを聞いておく。
案内された先には奇妙な台が置いてあった。
「こちらの装置に手を触れてください。生体情報を読み取ります。」
指示に従い、台の上にある四角いタイルに手をおいてみる。
タイルが一瞬薄っすらと光った。
「ありがとうございます。次に登録するお名前をお聞かせください。」
登録する名前ということは、偽名でいいわけか。
「では、ベリルでお願いします。」
「次に、職業登録をしますので、特技があればお願いします。」
「えっと職業登録と特技って何でしょう? 身分証に必要なのかな。」
「どういう方なのか簡単に把握するために必要なのです。
仕事の時に有利になることもあるので、特技登録した方が宜しいですよ。」
「なるほど。でも、特技ですか…。得意という程のものは特にはありません。」
本当は魔法なのだが、一先ず黙っておく。
「これまでのご経験でお使いになられたものとかでも構いません。これまでどんな事をなさって居られましたか?」
「村に居た時は畑の手伝いをしていたので農作業が出来ます。それと狩猟もしていました。」
「狩猟されていたんですね。じゃあ弓とか使えますか?」
「そうですね。弓と槍、後は罠を使っていました。」
「じゃあ弓と槍は使えるということですね。他にはございますか?」
「俺は頭が良いと言われて、村長に読み書きと計算を教えて貰いました。あとは魔法が少し使えます。」
「え!? 魔法をお使いになられるのですか。それなら魔法が特技と言えるんじゃないですか。
どの属性の魔法が使えますか?」
ユニーさんが笑顔になる。どういうことなんだろう。
「そんなに驚くことなのかな。全員ではないでしょうけど、使える人は割合に多いんじゃないですか?」
「そんなことありませんよ! 百人に一人とか、それ以上とか言われていますから。
魔法が使えるだけで凄いんですよ。それにこの辺りの魔導師は、国に仕官するか軍隊に入る方が多いです。」
どうやらハンターギルドに来る魔導師は、俺が思ったよりもずっと少ないらしい。
ということは、この笑顔は期待されているのだろうな。
「ああ、いや。俺の適性は無属性で、せいぜいクリーンの魔法で身体を綺麗に出来るくらいですので。」
俺が最も得意な魔法は死属性なのだが、ドン引きされるのでごまかすことにする。
「うーん、そうですか。それなら特技としては言いづらいですよね。」
「公衆浴場で働くつもりはないですから。」
「でも、せっかくの才能がもったいないですよ。他の無属性魔法を覚えてみてはいかがですか。
魔力効率は悪くなりますが、覚えておけば適性外の魔法でもある程度は使えるそうですから。
もし誰にも師事したことがなければ、この街は優秀な魔導師が多いので習うのも良いと思います。」
めんどくさい話になってきたな。ディサーンメントマジックより優秀なわけがないと思う。
「そうですね。そういうのも良さそうですよね。生活が安定したら考えてみようかな。」
俺は適当にそれっぽいことをいって、この話題を終わらせた。
「一先ずこれまでの内容で登録しましょう。特技は、弓、槍、読み書き、計算で。
あと、登録職業はどうされますか?」
「アークメイジでお願いします。」
本当はイビルメイジなんだが、そんな事を言えば大騒ぎになるので言えるわけがない。
「ええええっ!? でも特技に魔法載せてませんし、先程の話だとクリーンだけなんじゃ…。」
「そのうち誰かに師事する事を視野に入れますので、それでいいです。」
「魔法が使えたら特技に入れなければいけないというわけではないですし、
規則に反してもいないので駄目ではないのですが…。本当に宜しいんですか?」
「狩猟は単独でするつもりですし、他人に見せないなら絡まれることもないでしょう。
だから職業を主張することもないですし、遊びのつもりです。目標は大きく!ってね。」
「登録は遊びじゃないのですが…。まぁ他の人に見せないなら確かに何でも良いですけどね。
では、その内容で登録致しました。」
どうやら通ったようだ。職業登録はある程度自由に変えることが出来るらしい。
ある程度というのは、魔法も使えないのに魔導師を登録することは出来ないそうだ。
最低限の詐欺防止対策らしい。本物の魔導師なら魔法でどうとでも出来るので、この程度で良いそうだ。
俺のアークメイジの職業登録を見られたとしても、実際全属性の魔法適性を持っているので問題はない。
大抵の場合は、大ホラ吹きとして笑いの種になるだけで終わるだろうしな。
そもそも偽名が可能な時点で、詐称も何も無いと思うのだが。
ユニーさんが刻印されたプレートを渡してきたので受け取った。
小さい文字でびっしり書かれているのかと思いきや、それほど多くは記載されていない。
「皆さん最初は驚かれるんです。プレートの上に手をかざしてみてください。
そうすれば必要な情報がきちんと読み取れるようになっています。」
なるほど。ちょっとしたマジックアイテムらしい。内容を確認したが間違っては居ない。
「こちらには輸血の時に必要な情報であったり、病気治療の際に既往歴が書き込まれたりもします。
肌見放さずお持ちになることをおすすめ致します。」
「わかりました。」
「以上で登録作業が終わりました。それでハンター登録は今なさいますか?」
「登録に際して、何もデメリットがないのでしたら登録します。」
「わかりました。登録の際は説明する規則なので、簡潔にお伝え致します。」
御存知の通りハンターギルドは、狩猟者のためのギルドとして出発しました。
そのため、狩猟成果物の買取や解体業務を行っております。
そして今や遺跡の発掘やダンジョンの探索を行う探索者の登録管理も行っています。
護衛や戦闘、事件の解決依頼等もこちらで承っており、そういった事に関する依頼者と探索者の橋渡し的な業務も行っております。
なにかお困り事の際は、我々ハンターギルドをご利用ください。
今や全国組織になっておりますが、それぞれ独自に運営されております。
国ごとに政府があるのと同じ事ですね。なお、ハンターギルドは重複加入が可能なギルドです。」
要するにハンターギルドはいわゆる『なんでも屋』の様相を呈しているというわけだ。
「ちょうふくかにゅう?」
「ええ、戦士ギルド、魔術師ギルド、商人ギルド等の様々なギルドがあります。
ほとんどの方がハンターギルド以外の他のギルドと重複加入されています。」
「わかりました。」
「ご興味がお有りかわかりませんが、依頼についてもご説明しておきます。
ここでは簡単なものから、それこそモンスター討伐などの命がけになる依頼まで幅広く取り扱っています。
狩猟の成果が思わしくない場合に簡単な依頼を受けて、生活費の足しにされる方も多いです。
ベリルさんは森へ入られるでしょうから、予め薬草募集の依頼を見ておかれると宜しいかと存じます。
採集依頼が常時出ているものが多いので、割と人気がありますね。
勿論、狩猟の成果物も常時買取させていただいております。
なお、信用度が上がりますとそれなりに高額な依頼を受けることも可能です。
とはいえ、高額依頼の殆どは危険度もそれなりに高いので、見向きしない方が多いですけどね。
大体の説明は以上です。何かご質問はございますか?」
「この辺りだと、良い狩猟場はどちらになりますか。」
「おすすめは、東にあるラコックの森ですね。
西のテドロア大森林も良いのですが、今は事情があってあまりおすすめ出来ません。」
俺が昨日居たのが、そのテドロア大森林なんだが。
やはり何かあったようだな。とりあえずスルーしておく。
「じゃあラコックの森に行ってみます。ありがとうございました。」
ユニーさんに丁重に礼を言い、その場を去る俺。
「あんちゃん、狩猟するのかい?」
声をかけてきた方を見やると、年の頃は50歳くらいだろうか。
ムキムキの筋肉にやたら日焼けした肌の中年の男が声をかけてきた。
「ええ。村では良く狩猟をしてましたし、肉が好きなんで猟師をしようかと思いまして。」
「そうかい。弓矢と罠猟のどっちが得意なんだ?」
「どっちもそれなりに得意ですけど、それぞれ一長一短がありますから。
両方やるのが良い猟師の条件みたいな物なので、一杯勉強しましたよ。」
「ほう、そいつは良い。旨い肉が手に入ったら是非ギルドに回してくれよな。」
なんだろう。お節介焼きではあるんだろうが、これは酒飲み親父のセンもあり得るな。
そう考えるとあの肌は日焼けじゃなくて、酒焼けのように思えてくるから不思議だ。
どっちも焼くという点では共通している。まあそんなことどうでも良いな。
「がんばります。まずはラコックの森に行ってみるつもりです。」
「それが良いな。ところで弓矢とか罠は持ってるのかい?」
「宿に置いてきてますけど、一応持っていますよ。」
これは嘘だ。既に宿は引き払っているし、物は空間収納に入っている。
魔法で狩るつもりだから、実際には使わないがね。
「余計なお節介だったみてえだな。それなら心配なさそうだ。」
「いえ、ご丁寧にありがとうございます。売れるように頑張ってきます。」
丁寧にお礼を言っておく。こいつが世渡り上手の必須スキルというやつだ。
だが、他の人にも声をかけられたら面倒だな。
何せ俺はハンターギルド創設以来の期待の新人なのだから!
誰がそんなことを言ってるのかって? 勿論俺に決まってる。文句は言わせないぜ。
そんな事を思いながら俺は足早に建物から出て、勧められた東の森へ向かった。




