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5話 新たなる出会い

森を出て2日が経過し、俺達は旧王都ウェルブラストに到着した。

ウェルブラストは現国家『ワーレス』として統合する前の国家である『レットリムア』の王都であり、城塞都市としても名高い。俺の運命を狂わせた6カ国統合の舞台の1つでもある。

旧国家レットリムアは建国三百年程の比較的若い国家だったのだが、元々は少国家群の1つに過ぎなかった。それが戦争によって周辺国家を侵略し、軒並み吸収することで統合前の国家の形が成立したと聞く。歴史が浅い故に、熱心に歴史研究を重ねていた国家であった。


この旧王都ウェルブラストは、遷都された物ではなく建国当時から続く都市であるため、他国に比べて区画整備がほぼ進んでいなかった。通りには様々な店が立ち並び、統一感が全く感じられない。そのため景観が良いとは言い難く、洗練された都市に比べると多少見劣りしてしまうのは仕方の無いことだろう。

ここに来たことは無いのに何故俺がこんな事を知っているのかと言うと、観光ガイドブックにも載っているほど有名な話だからだ。諸外国にはレットリムアの田舎者という呼び名が嘲笑とともに定着していた程なのだ。


周辺国家統一を急ぐあまり、どうやら内政に回す予算や人員の余裕が無かった為らしい。さすがに王宮だけは立派な建物にしたらしいがそれ以外はおざなりであり、建国当初は政策もかなり大雑把だったようだ。そのため、この国は『様式美などよりも効率、形式よりも実利』等という気風を好むようになった。

これは言葉だけでいうと無駄を省いて合理化されたようにも聞こえるが、国家として見れば他国からすると一切余裕のない田舎の貧乏国家に映る。

様式美というものは確かに無駄があるかもしれないが、それ自体は洗練されている事が殆どだ。儀式などもその1つであり、芸術の域に達した物も多い。

しかしレットリムアでは、様式美などという物は無駄な物であるとしてその一切が排除されてきた。レットリムアの田舎者等と揶揄されるのも、それが理由だ。


だが、そういった点で見下されるような事はあっても、国家としての格は決して低くはなかった。

この国は文化的な面では他に劣っていたものの、軍事力では他より一歩抜きん出ていたからだった。

城壁も堅牢であり、籠城すれば2年は保つと言わしめる程である、ただ実際に籠城戦となったことがないため、あくまで外交のための宣伝工作の一貫だと当時から言われていた。


国家機密に属するため総人口は非公表となっているが、旧王都なだけあって当然テドロアの街よりも遥かに多い。

この都市が大きくなったのは、北側に流れる河川のお陰で物流が活発である事と、南東に半日ほど行くと存在する鉄の採掘場のお陰である。

河川から取れる魚だけでなく、鉄鉱山のお陰で工業製品も豊富にあり、取引する商材に困らない。物流が活発になると商取引も活発になり、多くの人が流入してくる。農作物を始めとした食料品も物流に載って大量に入ってくる。そして流入した人口は労働力となり、商品の新たな売り先ともなる。

そんな状態だからビジネスチャンスがそこら中に転がっているわけで、商売で一旗挙げて成り上がる事も夢ではない。そういった環境がウェルブラストにはあり、人の心を惹きつけて離さないのだ。

6カ国統合を果たした事によりここは政治の中枢を司る所では無くなってしまったが、未だ多くの人が住み続け、人口も増加し続けていると聞く。


ここには当初の目的だけでなく、先程の件の情報収集を行うためも、まず城壁の中に入らなくてはならない。

だが、さすがは旧王都というべきか中へ入るにしても、長蛇の列に並ばなければならなかった。

ここには老若男女の様々な人がいる。大半は商人だが、旅の者もそれなりに混ざっている。俺達のようなハンターらしき者も居た。



大人しく順番待ちをしていると30分ほどで入口に近づいた。あと5分もすれば俺達の番が回ってくる。

中に入ったらまず宿を探さなくてはならない等と考えていると、俺達の前にいる二人組が衛兵と揉めだした。

何事かと思ったが耳を澄ますまでもなく衛兵が大声を出し始めたので、話の内容が聞こえてきた。


「駄目だ駄目だ! 通行料が払えないようでは中に入れるわけにはいかないと、何度言ったら分かるんだ!」

「そこをなんとかお願いします。二人で銀貨10枚なんてとても払えません。この通りです。」

女の声だ。顔はこちらを向いていないのでわからないが、子供の声に聞こえる。

「もう何日もここで待ちぼうけなんだ。ずっと何も食べてないから、ここままだと死んじゃうよ。」

こちらは男の声だ。やはり顔はわからないが、同じく子供の声のようだ。

「気持ちはわかるが、これも規則なんだ。大体、子供だけを中に入れるわけにはいかん。」

「なんでだよ!」

やはり子供の声だ。男の子が怒っている。


「通行料すら払えない者が都市の中でどうやって生活していく? ここは食事も安くはない。そうなると、路上生活者になるのが目に見えているだろう。治安維持を担う我々が、そんな事を容認出来るわけが無いだろう?」

責任者のように見える中年男性の衛兵は、怒るでもなく男の子を冷静に諭す。確かに彼が言うことは正論で、職務上の立場としても当然の事だった。

二人は孤児なのだろうか。世の中には危険が多いので、孤児となってしまった子供達がそれなりにいる。ただ、大抵は周りが助けてくれるものなので、こうして二人で旅をする者はとても珍しかった。


「住み込みでも一生懸命働くから。」

「働きますから。」

二人共必死である。それはそうだろう。移動するにしても、ここから隣の街まで数日はかかる。既に何日も食事を取っていない二人が生き残れるはずがないのだ。

衛兵達もそれはわかっているのだが、彼らの職務上子供達の通行を許可することも出来ない。

その証拠に、衛兵たちは同情と困惑がせめぎ合った顔をしていた。

「ベリル…。」

グレースが俺の顔を見てくる。その顔には助けてあげたいと書いてあった。

「ああ。そうだな。」

俺も気持ちは同じだった。ここは介入することにしようか。


「ちょっと良いですか?」

俺は衛兵達に声をかける。

「何かな? 順番ならもう少し待ってもらえないだろうか。」

「いえ、お互いがお困りのようでしたので、俺達が手助け出来ればと思いまして。」

このままいってもお互い納得が行かない結果にしかならないだろうしな。

衛兵は勿論だが、二人の子供も驚いている。


「手助けとは、一体どうするというんだね?」

「俺達が街にいる間、その子達の面倒を見ようかと思いまして。勿論通行料も俺達が一緒にお支払いしますよ。」

「なんとありがたい! そうしてくれると、こちらとしても大変助かるよ。」

「エエーッ!!」

子供達が絶叫している。まあ驚いて当然だろうな。普通に考えて、見ず知らずの俺達が彼らを助けるメリットは無いのだから。

「まさか僕たちを取って食べるつもりだな!? そんなことさせないぞ!」

「そうよそうよ!」

男の子の言葉に女の子が同調する。

「今どき子供を食うって…。俺は魔物か未開の蛮族か? いや失礼。未開の蛮族でも人は食わないわ。」

「ううっ…。」

男の子が咄嗟に出た自分の発言を思い出し、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしている。

「そうよそうよ、まったく。ホント、ヴァルは慌て者なんだから。恥ずかしいったら無いわね。」

「カチア…。」

ヴァルと言われた男の子が、カチアと言う女の子に絶句している。

「何よ! 貴方が言ったことでしょう!」

「その辺にしときなよ。ヴァル君が可哀想だろう。」

「フンッ。」

このカチアって子は中々良い性格をしているな。お兄さんも思わず怖い顔をしたくなったよ。勿論しないけどさ。


「心配しなくても少し面倒を見るだけだよ。二人が自立出来るように支援する。俺達もずっと一緒に居てあげることは出来ないからね。」

「本当に良いの?」

「大丈夫だよ、ヴァル君。俺はベリル。こちらはグレースだ。中に入ったら宿をとって、食事にでもしよう。二人共お腹が空いているんだろう?」

二人のお腹がずっと鳴り続けていたからだ。

「気安くヴァルって呼ぶな! 僕の名前はヴァルテルだ。」

男の子の気に触ったようで、ちょっと怒らせてしまった。

「ああ、すまなかった。ヴァルテル君。改めてよろしく。」

「よろしくね、ヴァルテル君。」

グレースが笑顔でヴァルテルに挨拶した。

「は、はい! よろしくお願いします!」

ヴァルテルが直立不動の勢いで返礼する。よく見ると顔が真っ赤になっている。さてはグレースに惚れたかな。

「カチアさん、君もだ。これからよろしくな。」

「よろしくね、カチアさん。」

「ええ。よろしくお願いします。」


俺達は簡単な入場のやり取りをした後、銀貨20枚を衛兵に支払い、この二人を連れて街に入った。

助けたのは親切心からの行動だったのだが、この後まさかこの二人に俺達が振り回される羽目になるとは思っても居なかった。


お読みいただき、誠にありがとうございます。

如何でしたでしょうか。面白くお読みいただけたら嬉しいです。

もし宜しければ、評価やブックマークをしていただけたらとても嬉しいです。

執筆の励みになりますので、どうぞ宜しくお願い致します。

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