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31話 透ける思惑

「つまりあれは自然現象の結果ではなく、あの周辺を人為的に崩落させて遺跡を出現させた者が居るということか。そして実行したのが誰で、そして何が目的だったのかを国は把握している。」

「流石に頭の回転が早いようだな。まあ、端的に言えばそういうこったな。」

「国家直属の諜報機関の1つ、通称バタフライズが直々のお出ましとは相当厄介な相手なのか?」

「ほう…。所属までは言ってなかったと思うが?」

「辺境とは言え、これでも地方領主の軍属だったからな。今や中央組織に吸収されたとはいっても、自分の監視役の事くらいは知っている。」

俺は適性が発現し魔法を覚えだした5歳の頃から、常に監視されていた。完全な秘密組織ではなかったので、調べる機会はいくらでもあった。

監視の理由は、暴走や反逆をされた場合に最も危険な存在はイビルメイジだからだ。死属性魔法で国土を滅茶苦茶にされると、どんな強国であってもやがては滅びてしまう。食料が無い国家ほど無意味な存在はないのだ。

そのため、どこの国でも監視は必要な措置だと正当化している。ただ、監視、敬遠や拒絶をすることで人の尊厳を軽視しているという事実を無視する限り、反逆される不安から彼らが逃れる事は不可能だろうと俺は思う。まあこれについては、卵が先か鶏が先なのかという話かもしれないが。


「じゃあこれは知っているか? 6カ国統合後におめーの暗殺計画があったのをよ。」

「そんな大それた話じゃないが、たかだか3人の話なのに良く知っているな。」

俺が里を出た直接の原因は、父親の再婚相手が俺にとんでもない汚名を着せる計画をしていたからだ。

だがそもそも俺がその情報を知り得たのは、俺に対する暗殺計画を察知した事に端を発する。

その暗殺計画も稚拙な物だった。狩猟中に流れ矢に見せかけた矢が飛んできたり、不自然な落石があれば、誰でもおかしい事に気が付くだろう。

最初は父親の再婚相手の仕業かもしれないと思ったのだが、そういう直接的な事をする勇気はあの女にはない。

それで詳しく調べてみると、首謀者達は3人組であることがわかった。こういっては何だが粋がっているだけで頭の巡りがあまり良くない男達だった。


俺が気をつけていれば実害はないことから放置していたのだが、その対象が俺だけである内はまだ良かった。

俺に被害が無いことに業を煮やした奴等が知恵を絞り、父親の再婚相手を上手く丸め込んで冤罪計画を持ちかけた事でその状況が一変した。

その計画にシアという再婚相手の連れ子が巻き込まれそうだったため、俺は里を出たのだ。

年頃の女の子がトラウマになったら可愛そうだったからな。


つまり今の俺にとって、この情報自体に大した意味はない。その上で敢えてこの話を出してきたという事は、これから話す情報に高い確度があるということを示したかったのだろう。

「お互いの手の内を確認したところで聞くんだが、おめーはあの遺跡が何かわかったんだな?」

「そっちが把握している内容と同じかどうかは知らないがな。」

「ここで腹の探り合いをしていてもしょうがねえが、ちとヤバイ話になるんでな。シュタイナー、あれを頼むわ。」

ブレイズの言葉にシュタイナーはサイレントガードナーを起動し、アレクシア嬢が素早く扉の鍵を掛けた。


「こいつはここだけの話ってやつだ。シーフギルドでも俺とサブマスターしか知らない機密事項だからな。

そもそもの事の始まりは、3年前にお隣のラゲル神国で発生した内部対立だった。

知っての通り、あそこは邪神アコラゲルを信奉する宗教『アコラゲルム教』が統治している宗教国家だが、急な教皇崩御でナンバー2とナンバー3の対立が激化してな。あまりに急な崩御だったので、暗殺の可能性が疑われたのも激化した要因の一つだ。

ただ、どっちもどっちな奴等でな。ひょっとすると共同作業だったかもしれないとも噂される始末だ。

その内部対立が激化した頃に第三の勢力が現れた。そいつらは元々少数派だったんだが、中立派を取り込んで一大勢力を築きやがった。結局出し抜かれてこの勢力にまんまと教皇の座を奪われたわけだが、教皇就任直後に奴等は本性を現した。

全ての者に生きる権利がある。例え混沌の者であっても命は同じ。今こそ共に手を携えるべきというわけだ。

正直、寝言を言ってるようにしか聞こえないんだが、取り込まれた中立派も気づいたときは後の祭りってやつよ。」


「では今回の件はそいつらの差し金ということになるのか?」

俺もシュタイナーと同じ事を考えた。

「残念ながらそれがわからねーんだよ。翌日にはその新教皇も暗殺されたからな。犯人は元々その第三勢力を陰から操っていた組織の仕業と見られているが、未だに詳細は不明だ。主要な人物も軒並み暗殺されていたようだしな。」

それではもう国家として強い力は発揮出来まい。

「じゃあ結局今回の相手はわからないってことですか?」

アレクシア嬢が疑問を口にした。

「正直相手はわからねえな。ただ、確度は高いという事で結論が出ている。」

つまり憶測の域を出ては居ないが、恐らくそうだろうという結論なわけか。


「なるほどな。その情報が極秘裏にもたらされたのが2年前で、その頃から情報を受け取った6カ国間で統合の話が進んでいたということか。」

「1年という短期間で統合したせいで、色々と歪が出ていてな。昨日と今日で全く違う仕事をしていたりと、お陰でてんてこ舞いの毎日だぜ。」

俺の推測に、ブレイズがおどけて返してきた。


「何故いきなり6カ国統合に話が繋がるのでしょうか。」

「意思統一を図りやすい宗教国家が、統治機構を含む国家の内部を短期間でズダズダにされた。明日は我が身の小国にとって、これはかなりの脅威に映った事だろう。このままではどこの国もラゲル神国の二の舞だとね。

戦争ともなれば、小国から脱落していくのが道理だからな。小国から脱するために打てる即効性のある方法は、統合しかないわけだ。幸い戦争続きでお互い兵の練度は高いわけだしな。」

「それは理解出来ますが、何故そこまでするのかという説明に今ひとつ情報が足りないと言うか…。」

質問に対する答えとしては、納得しかねるというアレクシア嬢。

「肝心なところを隠すと、そういう話になるわな。やはりベリルは分かってるみてーだな。まあ詰まる所、今回の裏には混沌の勢力の居る可能性が高いって事だな。」

「混沌の勢力!? 『魔神殺しの大賢者』が討滅したといわれる存在ですか。」

「一応はそう伝わっているが、当時の人間は皆死んでいるから真相は誰も知らねえけどな。」

俺さっきまで会ってたわ。てかグレースの上司だしな。ややこしいくなるから黙っておくけど。


「あの遺跡も恐らくそれに関連してるんじゃねーかと、国家(おれら)は睨んでる。」

「何故そう思う?」

「突然現れた遺跡に悪魔居て、何かを守っているらしいという報告をシュタイナーから聞いている。突然現れたってことは、出来たばかりのダンジョンか、元からあった遺跡のどちらかしか無い。

悪魔が自然発生する事はない以上、以前からあった遺跡とみなすべきだろ? そしてこれまで存在が確認されていなかったということは、埋まっていた可能性が高いわけだ。

おまけに先日出てきたのは高位悪魔だよな。そこまでして守らせる物なんてそうある物じゃない。その辺りの事を報告したら、王宮のお偉いさんから昔の記録が見つかったと連絡が来てな。さっきの答えに行き着いたってわけよ。

どうだ、当たっているだろう?」

そこまでわかっているなら隠す必要はないかもしれない。どこまで開示するかは別としてだが。

「そうだな。」

ブレイズの言葉はハッタリの可能性があるので、俺は短く答えるに留めた。


「そうなると、目的の物は混沌の勢力に絡んだ何かということになるわけだ。はっきりとどういいう奴が掘り起こそうとしたのかはわからねーが、ラゲル神国の第三勢力を操っていた組織の可能性が最も高いだろうな。」

「そうかもしれないな。」

「そういうわけで、おめーに確認したいわけよ。あの遺跡にある物とはなんだ? あの悪魔の正体は?」

「遺跡崩落を起こした連中はどうなったんだ?」

ブレイズの質問を無視して俺も質問で返す。

「確認されていないからわからんな。そもそも状況からみた憶測でしかねえから、自然崩落の可能性もゼロじゃねえしな。」

可能性としてゼロではない、か。アスタロートなら知っている可能性があるな。そう思ってグレースを見ると、ほんの僅かに首肯した。

やはり知っていたか。でも敢えてそれを俺に言わなかったということは、とっくに始末している可能性が高いな。


「今の段階で詳細について話す事は出来ない。そちらの組織に内通者が居ないとも限らないからな。

だが現段階で言っても問題がない事については教える。まずあそこは混沌の勢力に関する事で間違いはないようだ。それ以上は俺も詳しいことはわからん。

遺跡内部で俺が見つけた物は、魔法陣と白骨の遺体だ。物品も色々とあったが、宝石等の遺跡では良く見つかるような物だっだ。

あの悪魔は遺跡を防衛していたようで、俺への呼び出しは二度と入るなという警告だったよ。近づきさえしなければ襲うことはないとも言われたけどな。

それから、既に遺跡は入口が落盤でふさがっているので中には入れない。入口自体も俺が隠蔽しておいたので、誰かが迷い込むこともないだろう。」


「今回の遺跡に関してはそんなところだな。それと国家(こっち)の思惑についても話しておく。

実は最近になって、大したこと無かったはずの組織が突然力をつけたというのがいくつも報告されている。ラゲル神国の時の様になるかもしれん。

そんなわけで芽は早い内に摘むべきだということになってな。元よりそのために6カ国統合したというのもあって、目下のところ調査中だがかなり怪しい組織があるんだ。

そこで、早い話がおめーに協力を仰ぎたいって国家(おれら)は考えているわけよ。

おめーは全属性適性の所持者らしいからな。混沌の勢力とは必ずやり合う運命にあるらしいし、その組織が何か関係を持っていれば必ず正体を現すはずだ。

どうだろう、協力して貰えるだろうか? そうすりゃ延期になっているベリル暗殺計画を凍結出来るって物なんだがな。」


浅はかだな。思惑などと勿体ぶっていたが、考えていることが透けて見えるぞ。これだから諜報機関の奴は嫌いなんだ。

恐らく自分たちに迷惑な者同士をぶつけて消耗させるつもりなのだろう。俺には殺さない代わりに協力しろということらしい。少なくともここですぐに殺されるよりは、少しでも長生き出来るだろうと言いたいわけだ。


だが俺と交渉するブレイズには大きな誤算があった。彼はグレースの事を知らないのだ。

俺は果たしてどういう言葉をかければ良いのだろうかと、頭を悩ませるのだった。

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