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3話 テドロアの街

洞窟から出た俺は早速自分を対象にディサーンメントマジックを使う。

『知りたいことは何ですか?』

無機質な声が返ってくる。これには最初飛び上がるくらい驚いたものだ。

今となっては慣れたが。ちなみに雑談を持ちかけても相手をしてくれたりする。

でも無機質な声のままなので、あまり楽しくはない。

「近くの街にはどっちへいけばいい?」

別に声に出さなくても応答は出来るが、ずっと無言はつまらないので声に出す。

近くに人がいたら、俺はブツブツいってる危ないやつに見えることだろう。

『ここから南東へ5時間ほど歩けば、テドロアという街に到着します。』

優秀なことに聞かれたことに付随する情報も纏めて教えてくれる。

「ありがとう。」

別に礼をいう必要はないのだが、人間相手みたいに感じることが多いので偶に礼をいうようにしている。


ディサーンメントマジックは、いわゆる識別魔法とか鑑定魔法というものだ。

本来このような使い方はしないのだが、修得修行中に偶然発見した。

魔法発動時に鑑定対象を指定する必要があるが、その時手に何も持っていなかった俺は使用対象を自分の頭の中にした。

もっと魔法が使いたい、自分の知らない真理が知りたい、生き抜く術が欲しい等と思いながら。

すると魔法が発動した際に、先程の無機質な声が聞こえてきたのだ。

色々質問をした結果、辞書のように色々と知りたいことを教えてくれる便利な魔法だと分かった。

後で知ったことだが、どうやら少し詠唱の文言を間違えており、皆が使う鑑定魔法とは少々異なっていたようだ。

本来は対象にまつわる情報がわかるもので、俺のようにあらゆる知識が手に入るわけではない。

この魔法の存在により俺は更に多くの魔法を修得し、様々な知識を身に着ける事が出来た。

里を出て3日になるが、俺はこれまで独りで修行や鍛錬をしつつ旅を続けている。


ガサガサッ・・・。

樹海の中を歩いていると風もないのに草が揺れる音がする。少し遠いから分かりづらいが、何かの動物だろうか。

「そこだ!」

気配を感じた俺は、その方向に風属性のパラライズの魔法をかけてみる。

何かが倒れる音がしたので近寄ってみると、そこそこの大きさの猪が完全に麻痺して横たわっていた。

里でも猪は良く食べていたので、馴染みの食料が手に入った事はとても嬉しい。森の恵みに感謝だな。

猪の頭に手を添えて風属性のショック魔法を使い、意識を刈り取る。その後風属性のエアニードルで眼球から脳を破壊する。

猪は横たわったまま、悲鳴をあげることもなく即死した。我ながら随分と簡単に出来るものだ。

暴れられると体中に血が巡って味が落ちるので、このような手順を踏んでいる。

早速解体して食料の確保に取りかかることにした。

死んでからそのままにしておくと、胃等の内容物が腐敗して熱を持ち、肉が痛んでしまうのだ。


俺はまずはクリーンアップの魔法を使い、身体を綺麗にする。

猪は寄生虫避けのために、泥を体中にこすりつけるから汚れている。

そのためかなり重くなっているから、これを洗い落とさないと毛皮が使えない。

里に居た頃は熱湯をぶっかけつつ皮を剥いでいた。そうすると綺麗に皮が剥がれるので解体しやすいのだ。

しかし今や俺には死属性以外の魔法があるのだ。態々毛皮を無駄にする必要はない。

いずれこういう機会が訪れると思っていたので、解体魔法を編み出しておいた。

こんなに早く使う機会が巡ってくるとは思わなかったけれど。


その魔法は、各部位ごとに選別して解体出来るだけでなく、寄生虫も除去する我ながら優れた魔法だ。

俺は解体魔法を発動し、一瞬で皮、肉、内臓、骨、体液に分離する。

内臓も食べられる部分があるので、無駄にしない。

猪の場合、食べられるのは心臓と肝臓と腎臓、それに睾丸くらいだな。

それぞれの部位を大きな葉に包んで空間収納に放り込んでおく。

1回でとても食べ切れる量ではないので、焼き肉にしたり煮込み料理にでもするか。

後は少し干し肉も作ろうと思う。

空間収納があるから別に生のままでもいいのだが、干し肉はまた違った味わいがあるから嫌いではない。


骨と体液は使い道がある。生物の体内には塩分が蓄えられている。

塩がなかったら死ぬしかないから当然だが。それを抽出する魔法を作ったんだ。

里では塩はとても貴重な物資だった。産地でも無ければ気軽に使える物ではない。

塩分を抽出して凝固させる。あまり大量には取れないが150グラム程取れた。

あと皮下脂肪が大量にあるが、そちらは燃料等に使えるので取っておく。

獣脂は臭いので俺はほとんど使わないが、他に石鹸等の用途で使うことが出来る。

抽出済みの骨や体液、それに残った内臓は不要なので、穴を掘って残滓として処分した。

こうしないと疫病の原因になってしまう恐れがあるからだ。


行きすがら、ところどころ群生している薬草も採集しておく。

あまり採集に時間をかけると夜までに街に到着しないので、程々にしている。

魔法で身体強化すれば移動時間を短縮出来るけど、今は別にそこまで薬草が必要ではない。

それに洞窟で回収した材料もあるからな。

途中で猪2匹見かけたので狩っておく。どちらも平均的な大きさだった。

解体したら内臓等を除いて生肉が33~34キロになった。こちらは売って現金収入にしよう。


夕暮れになって、ようやく樹海を抜けて街道に差し掛かることが出来た。

あとは道なりに進めば、陽が落ちる頃には街に到着するだろう。

しばらく歩いていると、田畑が広がっているのが見えてきた。

そこから30分ほどしてようやく街にたどり着く。太陽も沈んでおり、辺りは既に暗くなっている。


入口に門衛が2人立っているので挨拶する。

「見たことがない顔だ。街の住民じゃないな。身分証はあるかい?」

中年の方の門衛が話しかけてきた。

「田舎の村から出てきたところなんだ。そんな大層な物は持ってないよ。」

勿論本当は持っている。だが、死属性魔導師としての認識票なので、そんな物は使えない。

見せようものなら、この街一体が大騒ぎになるだろう。それほどに嫌われているのである。

あと、里というと変に勘ぐられる可能性があるので、村ということにした。里は村の集合体のことだ。


「そうか。まあ見た目悪いやつには見えないしな。通行税は銀貨2枚だが払えるかい?」

「いや、お金は持ってないんだ。代わりに猪の肉ならある。」

俺はザックから取り出したように見せかけて、空間収納から大きな葉で包んだ猪肉を取り出す。

元々里のような田舎は物々交換が基本だからな。大抵の奴は現金を持っていない。

それに俺は金目の物は全部置いて里を出たので、銅貨1枚すら持っていない。

洞窟で手に入れた宝石や短剣は空間収納に入っているが、

田舎者が宝石とかゴロゴロもってたら不自然極まり無いので黙っておく。


「田舎ならそうなるわな。ここへは仕事を探しにきたクチかい?」

「そんなところだ。どうすれば良い?」

「うーん、本来なら肉を売って貰って、代金の中から金を徴収するんだがなあ。

お前さん、その様子だと宿にも泊まれんだろう。しょうがないな。

宿を紹介するからついてきてくれ。そこで肉を買い取って貰うとしよう。

俺はこの街で衛兵してるマックスってんだ。おまえさんは?」

「俺はベリル。前途有望な無職だ!」

「なんだか凄そうに聞こえるが、ただの無職を威張られてもなあ。」

俺の会心の答弁に対して、苦笑いで答えるマックス。俺だって好きで無職になったわけじゃない。

「まあいい、ついてきな。イワン、案内してくるからすまんがここを頼む。」

どうやら街に入れてくれるらしい。俺はマックスの後をついていった。


5分ほど歩き『大木の小鳥亭』という建物にたどり着く。

酒場を兼ねた宿屋のようだ。2階建てで割と大きな建物だ。

酒場は20席程で既に何組か客がいる。割と繁盛しているようだ。

「いらっしゃーい、何名様? あら、マックスさんじゃない。どうしたの?」

「ごきげんよう、ポワンさん。忙しいときにすまんね。こちらの兄さんが現金を持っていなくってね。

すまないが、持ってる猪肉を買ってやってくれんかね。」

「どうも、ベリルと申します。田舎から出てきたもので、通行税が払えなくて。

こちらの肉なんですが猪肉1頭分あります。いかがでしょうか。

あと出来れば、今晩の宿もお借りしたいのですが。」

これから世話になるのだ。俺は他人に対して基本的に低姿勢だが、ここは特に気をつけておく。

「ちょっと見せてもらうわね。ま~ぁ、これはすっごく良いお肉だわ!

血抜きとか下処理も完璧にしてあるし、何より鮮度がいいわね。

これならそうね…金貨1枚で買わせてもらうわ。

それと、うちは素泊まりなら銀貨3枚、朝夕の2食つきなら1泊銀貨4枚よ。食べるのはここでお願いね。」

「ありがとうございます。食事付きでお願いします。」

「どうもありがとうね。お肉はそこに置いてくださって結構よ。

お代は2食付きで1泊分の4枚を差し引いて、大銀貨9枚と銀貨6枚お渡しするわね。

それと、マックスさんもありがとうございます。ちょうど困ってたのよね。

あの騒ぎで品薄になったでしょう? おかげでうちも助かったわぁ。」

「なあに、いいってことよ。困った時はお互い様だぜ。」


「マックスさんありがとうございました。」

銀貨3枚をマックスに渡してから俺もお礼を言っておく。

「1枚多いぜ。」

「それはお礼の気持ちです。」

先程気になる話が出てきたが、こういうのは下手に突っ込むと

自分にも絡んできて面倒事に巻き込まれる可能性があるので、その話題はスルーしておく。

「こっちも仕事なんだからそこまで気にしなくていいんだが、ありがたく貰っておくよ。

俺はこれで門に戻るけど、ベリルは明日になったらハンターギルドに行くと良い。

登録さえすれば身分証が手に入るからな。」

「わかりました。」

そういってマックスは帰っていった。


【貨幣価値】

銅貨10枚 = 大銅貨1枚

大銅貨10枚 = 銀貨1枚

銀貨10枚 = 大銀貨1枚

大銀貨10枚 = 金貨1枚

金貨100枚 = 大金貨1枚

大金貨100枚 = 白金貨1枚

白金貨100枚 = 大白金貨1枚


おおよそ銅貨1枚を10円という風に見積もっています。

なので、おおよそ銀貨1枚で1000円、金貨1枚で10万円と思っていただければ。

猪肉は1グラム3円の買取で、33~34キロとして10万円 = 銀貨100枚

という塩梅です。

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