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28話 正体の発覚

遺跡を出た俺とグレースはいつもより手間取った事もあり、6時間程かけてテドロアの街に到着した。

もはや普通に歩く必要もないんだが、急いで戻っても仕方がない事情があったのだ。

ちょうど門衛の交代の時間らしい。ちょうどマックスが出てくるところだった。

「マックスさん、どうも。」

そういって俺は通行許可証を差し出す。

「お前、生きていたのか! 5日も戻ってこないから、とっくに死んだものだとばかり思っていたぞ。」


遺跡を出る前に俺がアスタロートに指摘された勘違いとは、実はこれの事だった。俺がテドロアの街を出発してから既に5日が経過していたのだ。

その原因は、封印部屋に備えられた防衛機構が働いた影響だ。あの部屋には、魔法を使わずにアンダークロックの魔法と同等の効果を生み出す特殊な仕掛けが組み込まれていたのだ。

この仕掛けの効果は絶大だ。内部時間の流れが遅い為例え外部から侵入されたとしても、封印を破られる前に防衛部隊が突入する時間を数日稼ぐ事が出来る。防衛側にとっては時間が経過する程、増援が見込めるので有利になるのだ。

魔力的な仕掛けではないので、この影響から逃れようとするなら部屋を出るか、部屋そのものを破壊するしかない。当然あの部屋ではオーバークロックの魔法は効果が出ないようになっている。


お陰で体感時間が低下している事に全く気づかなかった俺は、その部屋の中でかなりの時間を過ごしてしまったというわけだ。

その結果、遺跡内部に居た時間は俺の見込みではせいぜい1日程度のはずが、現実は5日も経過していた。俺が朝だと思って起きた時間は真夜中で、魔法の明かりを頼りに歩いたせいでいつもより随分と手間取ってしまった。

どうせ真夜中に到着するのなら移動時間を短縮する意味がない。門限になると街の門は閉ざされてしまい中に入る事が出来なくなる。それなら、鍛錬の一環として歩く方が良いと俺は判断した。


「おっと、それどころじゃなかった。ちょっとこっちに来い!」

俺を見て驚いたかと思うと急に慌て出したたマックスに、俺は詰め所の中に引っ張り込まれた。

「悪いことは言わん。すぐにこの街を出たほうが良い。」

マックスのただならぬ様子から、何か切迫した事態になっているらしい。

「一体何があったんだ?」

「お前さんが何日も空けている間に、噂で街中でえらい騒ぎになっているんだよ。お前さんはこの街を滅ぼすつもりなのか?」

出し抜けに何を言い出すんだ? ちょっと本気で意味がわかりません…。


マックスの話は所々言葉を濁してくるせいで要領を得なかったのだが、纏めると次のような事だった。

どうやらベリルは北方の里にいたイビルメイジではないか。そしてあの悪魔はベリルが呼び出したものである。ベリルが何日も戻らないのは、悪魔を使ってこの街を滅ぼす準備をしているからだ。

と言う事の様であった。


思ったよりずっと早かったが、ついに俺の正体が発覚してしまったか。

死属性魔導師に対する世間のイメージなんてこんな物だ。

そもそも悪魔召喚陣という物は、暗黒属性適性を持つ者でもなければインプの使役ですら覚束ないのだ。

いくら俺に適性があるとはいえ、アスタロートの様な高位悪魔を使役どころか召喚すら出来るわけがない。

里にある書物では、それほど強力な悪魔を使役出来るようにはならない。巻末まで読破し、完全に理解して初めてレッサーデーモンを召喚出来る様になる。

勿論俺が召喚出来る悪魔は最高でレッサーデーモンまでだ。そして里にいる頃の俺はその事を隠し、召喚出来る最高の悪魔はガーゴイルだと公言していた。

それでも凄いほうだと思う。普通はガーゴイルでも相当難しいからだ。


俺がこの事を隠しておいた理由は、ぶっちゃけると保身の為である。里の中で忌避されているのを自覚していた俺は、いざという時の切り札として温存しておきたかったのだ。

死属性魔法に恐れをなした味方に背後から斬り殺されたなんて話は、実はそう珍しいものでもない。これは人の噂だけでなく、書物に幾つも散見される事実だ。

その中には兵站の不備で食料を腐敗させてしまった部隊が、自分達の不備を糊塗するために死属性魔導師のせいにして処刑したなんて話もあるくらいだ。

だから、死属性魔法を主体とする俺にとっては、臆病とも言える程に自衛手段を講じておく必要があったのである。


隣にいるグレースは俺がマックスと話をしている間、何も喋らず身じろぎもしなかった。それは、この出来事が俺の予想した範囲の内に収まっている為だ。

俺は遺跡からここまでの道すがら、俺の生い立ちやこれまでの出来事、そしてこれから起こり得る出来事を予めグレースに伝えてあった。

グレースが怒り、本気を出せばこの街の人間は一人残らず皆殺しにあってしまうからだ。

人間は自分勝手で無責任だと怒るグレースを宥めるのがとても大変だった。グレースにすれば、街の人間を助けた俺に対して勝手な憶測に基づいて排除しようとするような、そんな人間達が許せないのだろう。

俺は人間だから、彼らの気持ちがわからなくもないのでそこまで腹が立つこともなかったが、まあこれは半分諦めの様なものだ。

良くも悪くも、グレースは純粋だからな。だがそれで良いのだ。いつまでもそのままで居て欲しいと思う。


そのグレースだが、見た目の特徴は人間とほとんど変わらない。肌が少し灰色なだけだ。角や牙は無く、翼も生えては居ない。

今は魔法で肌の色を変えているから、見た目の違いは全く無い。どうみても普通の人間だ。見た目が良すぎるから目立ってしまうけれど。

ちなみに古文書には頭部に角と口に牙を生やし、背中にコウモリの翼を持つ悪魔のイラストが良く描かれているが、あれはただのステレオタイプだ。

悪魔と一言で言っても様々な種類が存在し、その生態も多様である。一目で悪魔だと分かるような者も居れば、中には醜悪な見た目の者も居る。

俺がグレースを抵抗なく受け入れられたのは、この外見によるところも大きいだろう。

ちなみにアスタロートは角も翼も生えている。牙はないし、コウモリのような翼でもないけどな。


予め分かっていた事とは言え、今回の話を沈静化する事はかなり難しい。先程の噂は事実を含んでいるからだ。

兵法によく用いられるのだが、流言を仕掛ける時はその噂の中に一部の事実を混ぜる。そうすることで、全体の信憑性が増すからだ。

人は信じたい言葉を信じる生き物だ。いくら突拍子がなくても、自分が信じたいと思う言葉を無意識に信じてしまうのだ。

だから、今回のように嘘の中に事実が混ざっていると、人は不信感を抱いてしまう。事実としての部分がある以上、噂の内容の全てを否定することが出来ない。

そうすると、人はその対象から距離を置こうとする。その真実を見極めようとして。

時として、否定しない又は否定出来ないという事は無言の肯定に繋がる。そうすると、ああやっぱり、となるわけだ。

(もっぱ)らやられる側ということもあり、俺は当然流言が好きではない。


噂の出処は、俺が元いた里の出身者だろうな。あくまで噂という形なので、対処が非常に難しい。

恐らく俺の事を追い出したいのだろう。老獪なやり方だ。

俺が直接報復すると一気にお尋ね者になるので、それはないと思っているからこそ出来る遣り口だな。

自分に被害が出ない様にしつつ、相手に嫌がらせをする奴に好感を抱けるはずが無いので、なんとかやり返したい。

イチイチ相手にしているとキリがないのだが、それでも俺は可能な限り報復するタイプだ。

今回偶々俺が標的になっただけで、こういう輩は次々に標的を変えていくのだ。他に被害者が出る以上、放置しておくこともまた罪だと思う。

だから、本気でやるなら直接攻撃しかない。その上で相手を黙らせる。

俺は本来イビルメイジであって、聖人君子でも聖職者でもない。敵を許すほど甘い男ではないのだ。

相手がこちらを社会的に抹殺しにかかっている以上、最低でも相手を社会的に抹殺する。

法に則ったやり方をしないなら、こちらも相手に合わせるだけだ。因果応報という言葉の意味を知るが良い。

俺が怖いと思うのなら、最初から俺に手を出さなければ良いのだ。元より俺は何もしていないのだから。

だが、今は時間が惜しい。今回は無視するしか無いだろう。それでも置き土産は残していくつもりだ。

イビルメイジは廃業したのだけどな。


「何度も言うが、俺達はお前が噂通りイビルメイジだったとしても、そんな事をするやつとは思っていない。衛兵一筋30年で主任務が門衛の俺が言うんだからな。これでも人を見る目はあるつもりだ。」

「忠告はありがたいが、大事な報告があるから一度は街に入らなければならない。」

「なるほど。もうすぐ陽が登り始める時間だからな。ここで時間を潰していくか?」

「俺の顔はそんなに知られていないから、ハンターギルドに入るまでは恐らく大丈夫だろう。ギルドには裏口から入るつもりだしな。

ともかくこれからのことがあるから、まずは市場に寄ってみるつもりだ。」

「そうか。だが念の為用心しておけよ。」

「わかっている。」


「そういえば、そちらの女性は誰なんだ? 初めてお見かけするが。」

やっと会話に余裕が出来たな。マックスは信用出来るし、紹介してもいいと思う。

「紹介するよ。彼女はグレース。俺の嫁さんだ。」

まあ結婚したのはついさっきだけどな。

「な、なんだと!? お前さんまさか結婚してたのかよ!」

マックスは天地がひっくり返ったと思うくらい仰天した。

驚きすぎだろう。まさかとはなんだ、まさかとは!

「失礼な。これでも俺は一応成人してるんだぞ。」

「それにしても物凄い別嬪さんじゃねーか。この野郎、うまいことやりやがって。」

「当然だろう。俺の自慢の嫁さんだからな!」

俺の言葉にグレースは恥ずかしそうに俯いている。

「ハイハイ。お熱いこって。」

子供までいる妻帯者にどうこう言われたくはなかったのだが、まあいいか。


その後少し雑談した俺達は、グレースの通行税として銀貨2枚を支払い、そのまま市場に向かうのだった。

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