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26話 初めての仲間

闇が薄れるとそこには1体の悪魔がひざまずき、高位悪魔に頭を垂れていた。

「我が命に従い、この者を補佐せよ。」

「ハハッ!」

呼び出された悪魔は何も聞かずに即答した。そういえば、悪魔は上位者の命令には絶対服従だったな。

悪魔が立ち上がりこちらを向く。これまた物凄い美人だな。おまけにスタイルも抜群のようだ。

その女悪魔は何も言わずにこちらを注視している。


「えーと、そんなに見つめられると照れるんだけど?」

だが、俺の言葉は無視された。悪魔は何の反応も示さない。

俺に何か言いたいことがあるのだろうか。命令とはいえ、人間如きを補佐するとなれば何かあるに決まっているが。

ちなみに、悪魔が人間に惚れるわけがないと思うので、そういう考えは排除した方が良いだろう。


「おい、せめて紹介くらいしてくれないか?」

俺は高位悪魔に助けを求めた。

「先程紹介したであろう。我が配下を遣わすとな。この者がそなたを補佐する事になる。」

「それだけ?」

「他に何がある。気になることがあるなら本人に聞くが良い。」

反応してくれないんですが…。いきなりの無視とか心が痛い。


困惑する俺を尻目に高位悪魔がさっさと階段を上りはじめた。

そのまま後に続いた俺達も執務室へ戻った。

「一通り説明も終わった。余も忙しい故、そろそろ失礼させてもらうぞ。あの者もここへ呼び戻さねばならんことだしな。」

気づけば相当時間が経過していた。俺も一度街に戻らなければいけないな。


「少し寝たら俺もここを出るよ。」

「こんなところで寝ずとも、転移して街へ戻ればよかろう。物好きなやつだな。」

「いや、俺はまだ空間転移は修得してないんだ。」

『魔神殺しの大賢者』みたいに色々使えるようになりたいとは思っているが、俺は色々と修行中の身だからな。

「我らのように生まれた時から使えないとは、人というのは不便なものよな。」

「その代わりに、人間は多様な生き方が出来るんだ。」


上位の天使や悪魔は生まれたときから高い能力が与えられている代わりに、常にその役割に縛られるからな。

逆に下位の天使や悪魔は縛る役割が無かったりする代わりに、与えられた能力もそれに合わせて低くなる。

天使や悪魔も人間の様に努力して成長することは出来なくもないが、伸びしろがあまり無い。

また、上位と下位では絶対的な差があるため成り上がることもできない。

そんな事情から、努力しようとするやつはまず居ないらしい。


「そなたがここを出たら入口を塞ぐ故、後はよろしく頼む。もし余へ連絡したい事があれば、その者に伝えるが良い。」

「戻る前に聞きたいことがあるんだ。俺の名前はベリル。そちらの名前を教えてくれないか?」

「我ら悪魔に名前はない。だが、そうだな…。彼の者は余のことをアスタロートと呼んでいた。アスタロート、略してアッシュとな。そなたもこの名で呼ぶが良い。」

「わかった。アスタロート。今来てもらった配下の名前は?」

「その者には名は無い。」

なら、後で相談して決める方が良いな。適当な名前を付けるような失礼な事はしたくないし、本人が気に入らない名前もつけたくない。


「これが最後の質問だ。俺が大変だと言ったのは何故だ?」

その事かと呟きつつ、アスタロートが俺の目を見つめてきた。

「稀有な能力を持つ者は、その異能ぶりから皆苦労しておる。特にそなたは全属性適性の保有者だ。

守護者となり、混沌の勢力との関わりからは逃れられぬ運命よ。我らとは違って盟約こそないが、そなたも役割に縛られるという立場は同じだからな。

今まで苦労してきたとは思うが、これから更なる苦労をそなたは重ねていくだろう。運命に押し潰されない様にな。」

「そちらもな。」

俺の言葉にアスタロートは意外そうな顔をする。


「歳を積み重ねているという事もあるだろうが、その様な事を言うという事は、それなりに苦労しているはずだと思ってな。歳が幾つなのかは知らないが、三千二百年も待たせて本当にすまなかった。感謝する。」

自然と謝意が俺の口をついて出た。

アスタロートは三千二百年もの間、魔力が徐々に失われていく封印を見守りながら、一向に現れない全属性適性の保有者を待ち続けていたに違いないのだ。長かった等と、一言ではすまないだろう。

「そう思うなら、己が役割をしっかりと果たすが良い。」

「ああ、そうさせて貰うさ。」

正直面倒だとは思うが、遥か昔から封印を守り続けている奴がここに居るんだ。俺だけが逃げるわけにはいかない。


アスタロートが姿を消し、部屋の中には女悪魔と俺が残された。アスタロートは恐らく魔界に帰ったのだろう。

「さてと、俺の名前はベリルだ。これから長い付き合いになるんだ。よろしく頼む。」

俺は女悪魔に向かって挨拶をした。俺の初めての仲間なのだ。礼儀正しくしないとな。

それに、これからお互いの背中を預けることになる訳だから、仲良くやっていきたい。


「定命の者に付き従うつもりはない。命じられた事とはいえ、我とお前はあくまで対等の関係。人を見くびるつもりはないが、馴れ合うつもりもない。」

高圧的な悪魔が多いとは聞いていたが、アスタロートといい、こいつも珍しい奴だな。

「それで良い。主人や配下なんて面倒な関係はいらない。仲間なら大歓迎だけどな。」

「わかった。ベリルと言ったな。こちらこそ宜しく頼む。」

素直だな。面倒なやつじゃなくて本当に良かった。


「ところで名前がないと聞いたんだが、それは本当か?」

「我は生まれて二十年と経っていない。名がなくて当然だ。」

歳の差はあまりないわけか。変に気兼ねしなくてすむからありがたいことだ。

ひょっとしてアスタロートなりに気を使ってくれたのだろうか。これが年の功というやつなのか。

「これから一緒にやっていくのに名前がないと不便だから、何か名前があったほうがいいな。何か希望はあるか?」

「え? 名前をくれる? でも希望だなんて…。名前なんて、そんなこと考えもしなかった。」

「うーん、せっかく女の子に生まれたんだし、可愛い系の名前がいいか? シャーロットとかオリビアとか。」

「シャーロット。とても素敵な名前…。」

なんだか少し雰囲気が変わった気がする。


「他にもエマ、オリビア、エミリー、アリア、カミラ、スカーレット、グレース、レイラ辺りも良さそうだな。」

「ベリルはどれが良いと思う?」

候補を一杯あげたところ、目を輝かせ出した。悪魔とはいえ、こういうところをみるとやはり女の子なんだなあと思う。

「そうだなあ。グレース、レイラあたりが良さそうに思う。グレースは神の恵み、幸運、上品な、優雅な、優美、気品のあるなどの意味があるらしい。

レイラは、夜に生まれた、暗い美しさ、夜という意味があるようだ。

君の立ち振舞はまさにグレースのようだし、現れた時の漆黒の球体はまさにレイラのようだった。」

この女悪魔の見た目は、人間の成人女性と比べて全く遜色が無い。ガラスの様に透き通った肌をしていて、プロポーションが良すぎるというのはあるが。


「よく考えてくれたわね。それなら、そのどちらかにしましょう。」

「俺はグレースが良いと思う。」

「何故? 私は悪魔。神の恵みという言葉とは掛け離れた存在よ? レイラのように夜というのがふさわしいのではなくって?」

「悪魔に生まれたのは偶々だろう? 別に悪魔にだって神の恩寵があっても良いと思う。あと美しさという意味は、どちらにもあるから選考材料から外れる。

それと、君は俺に初めて出来た大事な仲間だ。今日俺が君に会えたのはまさに幸運そのものだと思っている。君は俺にとっての幸運の象徴で居てもらいたい。

だから俺が希望する君の名前はグレースだ。」

俺の気持ちを正直に伝える。別に悪魔に恩寵があってもいいじゃないか。悪魔が幸せになってはいけないという事もないはずだと。


「もしかして、ふざけてるの? それとも、本気…なの?」

「ふざける訳があるか! 名前は君に一生ついてまわる大事な物なんだ。本気で考えたに決まっているだろう。」

「本気なのね…。疑ってごめんなさい。」

おおう、真剣に謝られたよ。俺も熱くなりすぎたらしい。申し訳ない。

「それだけ君も真剣なんだろう。ならこれ以上、お互いに気にしないほうが良い。」


「グレース…。私の名前はグレース…。うん!」

自分の名前を確かめるように何度もつぶやいているグレース。やがてその顔に満面の笑みが浮かぶ。

「私はグレース! 気に入ったわ。ありがとう、ベリル。素敵な名前を貰えて嬉しいわ。」

グレースは本当に嬉しいのだろう。ピョンピョンと飛び上がって喜んでいる。

最初は表情が硬い美女だとおもったが、笑うとトンデモなく可愛い。カワ美しいとでも言うのだろうか? それほどに魅力的な笑顔だった。


「どういたしまして。グレース、改めてよろしく。」

「はい。これから宜しくお願い致します、旦那様。」

俺の思考が一瞬硬直した。

「ハア!?」

こいつはいきなり何を言っているんだ? グレースの突然の嫁宣言に、俺は本気で戸惑った。

「そういう意味ではないのですか?」

グレースはすごく悲しそうな顔をした。

我とか言ってたが私になってるし、馴れ合うつもりは無いとか言ってたのに、今は泣きそうになっている。最初の態度はどこへいったんだ!?


「ど、どどど、どういう…意味ですかね…!?」

「えっ? えっと、その…、違うの…?」

目尻に大粒の涙をためて、今にも泣き出しそうな顔だった。

ウワーッ!? 女の子にそんな顔をされたらキツすぎる。

「えと…その…チガ、チガくないです……。」

俺はその大粒の涙に陥落してしまった。満面の笑顔の後に、その涙はずるいだろう。俺の良心に直撃する強烈なダメージが…。

なんでこんな事になった。あの流れで断れる男はいないだろう。まるで悪魔みたいな手口じゃないか。

そういえば、こいつ悪魔だった…。駄目じゃん。

俺は頭を抱えてしまった。


だが、今は気にしていてもしょうがない。

「えっと、グレースはどうする? 俺はこれから日課の鍛錬して寝るけど。ここはどうやら安全なようだしな。」

アスタロートみたいな高位悪魔が守護している上、この遺跡の周囲に魔物はいないからな。高位悪魔がいると分かっていて、人間が来るわけもない。

「私も出発の用意をしてきます。後ほど合流しましょう。」


翌日アスタロートに事情を説明した俺は、自分のあまりの迂闊さに死にそうになった。

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