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24話 生命属性適性

高位悪魔の後に続いて、俺は隠し部屋に入った。

ここには以前に見かけた魔法陣がそのまま残されている。記述の間違った魔法陣だ。

あの時はわからなかったが、今ならこれの意味がわかる。

「この魔方陣は撹乱用のダミーだったのか。」

「その通りだ。白骨化した遺体も元々侵入してきた野盗の成れの果てだ。ここには全く関係が無い。」

ニヤリと笑う高位悪魔。しかし、よく考えたものだ。ご丁寧にマジックアイテムまで置いてあったからな。

ここに何の予備知識も無く入れば、これを発見するだけで俺の様に満足する事だろう。

この仕掛けは、人の真理を知る事に長けていなければとても考えつかない。知恵という物はこうやって使うのだという良い例だ。

なるほどな。とても勉強になった。

だが、これだけではここに何の用があって俺を案内したのか説明がつかない。


「少し待っておれ。」

俺が疑問に思っていると、高位悪魔が小声で何かをつぶやいた。

すると、床に置かれた骨だけの遺体が赤黒く不気味に光りだす。どうやら頭蓋骨内部が発光しているようだ。

高位悪魔は持ち上げた頭蓋骨を魔法陣の中心に置き、今度は何かを詠唱している。

詠唱が20秒程続いただろうか。頭蓋骨が地面へ沈み始める。

完全に埋没すると、今度は魔法陣全体が青白く発光し、激しく明滅し出した。


これはまた随分と慎重な事だな。強引に突破しようとすると、恐らく何らかの罠が作動するようになっているのだろう。

即死罠か、警報か、あるいは空間自体を吹き飛ばして隠滅を図るのか。何れにしても碌な目にあわないだろう。

明滅が10秒ほど続いた後完全に光が収まると、魔法陣の中に地下への入口が現れていた。


そうか、これはダブルシークレットルームか!

俺は流石にその可能性を考えてはおらず、全く気がつかなかった。

これは隠し部屋の中に本当の隠し部屋への入口を隠して、侵入者の目を欺く方法だ。

隠し部屋を発見した者は、まさかそこに更に隠し部屋があるなどとは思わないものだからだ。

最初の隠し部屋は、言わば囮として用意された部屋なのだ。

さも、そこが重要な部屋であるかのように装う事で、侵入者には目標を達成したと誤認させる事が出来れば成功だ。

その部屋より更に奥に、もっと重要な部屋があるという事実に気づかれることはないだろう。

ここを作ったやつはかなり慎重な性格だったようで、俺はまんまとしてやられたというわけだ。


「行くぞ。」

高位悪魔が降りていくので、俺も再び後について階段を降りる。そこには、巨大な空間が広がっていた。

部屋の全ての方向から重力を感じる。つまり全ての壁面が床となり、壁にもなり、そして天井となるのだ。ここは明らかに普通の空間ではない。

全ての壁には何重にも描かれた巨大な魔法陣が描かれており、そこから虹色の光を発している。

空間の中央には、巨大な球体のモニュメントの様な物が浮かんでいた。


「そなたは空間魔方陣を見るのは初めてなのか。」

なるほど。入口を含む部屋の6面全てに描かれた魔法陣が相互に作用して、この部屋の状態を含む全てを保っているわけか。

しかも積層型のようで、1面だけをみても魔法陣が幾重にも積み重なっている。この方式ならば、小さな空間でも圧倒的な情報量を描き込めるというわけだ。

これはとんでもない魔法技術だな。人の身で構築出来るものとはとても思えない。まともにやったら百年かかっても無理だろう。

「無いな。しかし…。」

「どうかしたのか?」

この部屋には魔力が満ちているのだが、俺は若干の違和感を感じていた。

この規模の魔方陣にしては、魔力が弱いように感じるのだ。

俺は素直にその感想を口にすると、高位悪魔はうなずいた。


「ここに来てもらったのは、それと関係があるのだ。まずはこれに魔力を注ぎ込んでもらいたい。」

「何かの装置のように見えるが、これは何だ?」

「これは封印に魔力を注ぎ込むための変換装置と増幅器(ブースタ)だ。

異次元はこの世界と(ことわり)が違うのでな。普通の魔力では封印を構築出来ないのだよ。

ダイレクトイグニッションシステムを採用しているから、変換ロスもそれほどは無いはずだ。」

言ってる事の意味はよくわからなかったが、言葉におかしなところはないと感じる。俺は素直に従い、指示された通りの場所に手をあて魔力を注ぎ込んだ。


すると、俺の身体から物凄い勢いで魔力が吸われていく。俺から出る魔力が青い光となり、装置の中に消えていった。そして装置からは赤黒い光となった魔力が出てモニュメントにまとわりついていく。

装置から全く音は聞こえないが、問題はないようだ。どうやらこの装置には、青白い光を赤黒い光に置き換える役割があるようだった。

「この赤黒い光は混沌の世界と混じり合った魔力だ。先程の頭蓋骨にも使われている。」

しばらくして俺からの魔力吸収が止まり、装置が自動的に停止した。

容量が一杯になった事は状況的に何となくわかるのだが、インジケーターがついていないので合っているかどうかはわからない。


「魔力充填はつつがなく完了したようだな。大儀であったぞ。」

どうやら頼みたかったのはこれのことだったようだ。

「さて、色々とわからない事は多いが用事は終わったことだし、報酬の方をだな…。」

「何を言っておる? 用件はこれからだ。」

俺の言葉に高位悪魔が被せてきた。


「まず説明しておこう。改めて言うまでもないが、これは『ディメンション・クロスポイント』を塞ぐ封印の1つだ。

見ての通り、我々の世界の魔力を変換して封印を維持している。

この封印は膨大な魔力を貯蔵出来るが、自動的に精製する力はない。

ここまでは良いな?」

「ああ。」

「この魔力の貯蔵は余には出来ない。むしろそなたにしか無理なのだ。そこで、そなたにはここ以外の魔力の充填を頼みたいのだ。」

何やら大変そうな依頼であった。

「いや、ここ以外にも百箇所あるって言ってたよな。俺はそんな面倒なことはやりたくないぞ。」

「拒否しても構わんが、その場合は近隣の者全ての命が保証出来なくなる。」

さすがに俺も顔が引きつる。こんな凶悪な奴が相手では自分の身を守ることすら危ういのに、街の住民を全員守ることなど不可能だからだ。


「そう怖い顔をするな。これは別に脅しているわけではないのだ。

ところで話は変わるが、そなたは属性という物についてきちんと理解しておるのか?」

「自然の理のことか。一応魔導師をやっているからな。俺にもそれなりに知識はあるさ。

魔法には無、火、水、風、土、光、闇、神聖、死、暗黒の10種類があり、(つい)となる属性がある。

火と水、風と土、光と闇、神聖と死と暗黒。無については対は存在しないとされている。」

「ふむ、やはり間違った認識をしておるようだな。今そなたが言った事は一部間違っている。」

「俺はそう言って習ったんだがな…。無には対があるのか?」

「言葉の上では無の対義語は有になるが、属性における定義としては無属性の対は無属性よ。だが、余が指摘した箇所はそこではない。

そなたは神聖と死と暗黒といったが、そこがまず間違っている。正しくは神聖と暗黒が対なのだ。」

「じゃあ、死属性はどうなるんだ? 死ぬと存在が消えて無になるという風に考えると、対は存在しないとか?」

「そう複雑に考えなくとも良い。死属性の対属性はちゃんとある。生命属性という物がな。つまり正しくは11種類の属性が存在するという事なのだよ。」


生命属性という属性があるのか。俺は当然初めて聞く言葉だった。だが考えても見れば、言葉の上でも死の対義語は生だ。

神聖属性が聖属性と言われることがあるので、同じ発音の生属性では混同しやすいからか、生属性は生命属性と呼ばれるらしい。


「俺が持つのは全属性適性だから、生命属性適性も持っている、ということになるのか。全く聞いたことが無かったな。」

11番目の属性があるとは、全く想像だにしなかった。

「生命属性という物は、その名前の如く命に関わる属性だ。生命の創造、その維持、そして成長に深く関わっている。

生命の創造とは神の力だ。ゴーレム等の紛い物を生み出す力とは異なり、真の理によってのみ力が行使される。生命属性魔法は言わば神の言葉なのだ。だから神を畏れ敬う人々が神の所業に近づくまいとその存在を隠し、いつしか忘れ去られていったのではないか。」

なるほどな。いくら神聖属性適性があっても、生命属性適性がなければ回復効果は限定的になる。身体欠損の回復が神官に出来なくて、俺に出来たというのは恐らくこれが関係しているのだろう。


だが、そこで俺はふと気がついた。高司祭達はこの事を知っている可能性がある。

彼らは神を畏れ敬う人々という言葉に合致する存在である。

高司祭の神聖属性魔法は身体欠損を回復させる事が出来る上、最高司祭は死者の蘇生すら可能だと俺は聞いたことがあるのだ。

おっと、少し思考が脱線したな。


「その話が全ての者の抹殺と、どう繋がるんだ?」

「何も抹殺する等と言うておらんわ。

それで、ここからが肝心な事なのだよ。この封印の動力は、魔力の中でも生命属性の魔力であるということだ。

もしそなたが戦場で魔力が枯渇したとしよう。そなたならどうするかを考えてみるが良い。」


戦場で魔力の枯渇か。考えたくもないな。だが、今はそれを考えてみろと言う。

その中に答えがあるというわけか。

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