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18話 魔物殲滅作戦

今回俺がユニー嬢に手配してもらった物は、大きな麻袋を150枚、ギルドで解体した際に出た動物や魔物の残滓が入った樽を20樽、採取した血液が入った樽を20樽、大量のくず鉄だ。そして『とっておき』も大量に用意してもらった。

麻袋は先程商業ギルドから直接納品された。ギルド同士の直接取引ということもあり、選別されているようで品物の質が良い。そう簡単に破れたりはしないだろう。

このうち鉄くずに関しては俺自身が受け取りにいった。人力ではとても運搬出来るものではないからだ。

山積みされた大量の鉄くずを俺が空間収納に纏めて放り込んだところ、鉄くず屋の従業員に目を丸くされたので口止め料として金貨を1枚握らせておいた。

彼は真っ青な顔をして、絶対に口外しない事を約束してくれた。勿論俺は別に脅してなどいない。

それと、先程貰ってきたフォレストウルフの尿が入った瓶が150本ある。


今回の討伐の問題点は、4つある。

1.様々な種類の魔物が比較的狭い一帯に集中している。

2.生態によっては集落を形成しているため、戦力が集中しておりその分危険度が高い。

3.単独で生息する魔物もいるため、移動しつつ撃破しなくてはならない。

4.元から生息する動植物に被害を出してはならない。


しかしこんなことをしていたら非常に面倒くさい。そこで、まずは問題点を整理した。

今回は森の中に相手が散らばっているから各個撃破する羽目になっている。

いくら狭い一帯に集中しているといっても、それはその中で生活するならばという基準であり、討伐する範囲として考えるならかなり広いと言える。

そこで、散らばっている魔物を俺が追いかけるのではなく、いくつかの集団にまとめた上で殲滅していくという方向で考えた。

何度も移動しながら戦っていては時間がかかる上に、範囲外に逃げられる等討ち漏らしが出るかもしれないので、恐らくこの方法が最善だと判断した。


ただし実行の際には、次の3つの留意点を意識する必要がある。

1.植物は動かないので火は使えない

2.動物を巻き込まずに追い払う

3.魔物を逃さないために地図を併用して効果的にまとめる。


作戦としては、麻袋に動物や魔物の残滓を入れ、血が滴り落ちるほどに流し込んだ物を用意する。

鉄の檻を作成し、その中に今言った血袋を吊るす。

魔物がいる範囲に今回の作戦領域を設定する。その領域全体に血の臭いを広げ、魔物を鉄檻の中に引き寄せて集結させる。

魔物が血に釣られている間に、フォレストウルフの尿を一定間隔で撒いていき動物を追い払う。これで範囲内に動物が近寄らなくなるので被害を防ぐ事が出来るはずだ。

これは狼を恐れる動物たちが、狼の尿の臭いを本能的に避ける性質を利用している。まさに天然の動物避けというわけで、俺がフォレストウルフの尿を必要としたのはこのためである。


今回の討伐対象となる魔物達の分布状況を探知魔法で確認すると、大凡4キロ四方の範囲内に収まっていることがわかった。

4キロ四方の魔物を集めるためには、血の臭いを拡散させる範囲を1つあたり半径500メートルの円でカバーしていくとすれば、鉄檻の設置箇所は約16箇所になる。

範囲の中心に200メートル四方の鉄檻を用意し、その中に血袋を吊るすわけだ。そうなると鉄檻が16個必要で、風属性魔法で血の臭いを拡散させるにしても、1箇所あたり最低でも麻袋を4袋は吊るさなくてはならない。

1箇所4袋を16箇所で合計64袋必要になる計算だ。1樽あたり2袋にいれることが出来るので、残滓と血液がそれぞれ32樽ずつ必要になる。


この罠を設置する際の課題としては、この鉄檻の中に必ずシャドウワスプの巣穴を入れる必要があることだ。こいつは蜂型の魔物で、その生態も似通っている。働き蜂以外は巣近くにから離れないため、巣ごと叩く必要がある。引き寄せたくても巣穴は自力で移動しないからな。入らない場合は、個別に撃破するしかない。探知魔法で確認したところ、幸いなことにほぼ確実にカバー出来るだろうということがわかった。


フォレストウルフの尿は1瓶で直線距離500メートルはカバーできる。1列4キロをカバーするのに8本必要な計算だ。外周も含め500メートルの列間で縦横に撒くことを考えると、8本×9列×2となり、合計144本が必要になる計算だ。結構ギリギリになるな。


今回の作戦を簡単に図示すると、次のようになる。

挿絵(By みてみん)


最後の仕上げに、ユニー嬢に手配してもらったとっておきを麻袋にいれ、それぞれの鉄檻の上に分散して設置し、縄でくくりつける。

これで全ての準備が完了する。

全ては作業精度にかかっている。うまくいくように頑張ろう。


しかし魔物殲滅作戦を立案したものの、それを実行するのも俺自身である。

実行は討伐するハンターが引き上げた後、つまり夜半になってから行うことにした。

俺は暗闇の中を密集する魔物をかいくぐり、時にはやり過ごして移動する。相手をしていると時間が無駄になる上、最後の仕上げのためには今ここで数を減らすわけにはいかない。

闇についてはナイトサイトの魔法で視界を確保出来るので問題ないが、設置座標はディサーンメントマジックにサポートして貰うしかない。


俺は設定範囲の最奥に移動すると、そこで作業を開始した。最奥から開始したのは当然理由がある。

確かに万が一魔物を討ち漏らした時の事を考えると、街の手前からテドロア大森林の奥地へ追い払う方が良い様に思える。

だがその方法をとってしまうと、実際は尿でしかないが、フォレストウルフの存在を恐れた動物までが奥地へと逃げてしまう可能性が出てくる。

むしろ、ほぼ間違いなくそうなる。なので、奥側から開始するしか無いというわけだ。


作業に際して、まず俺はマジックエキスパンションの魔法を発動した。

これは一種のバフ魔法で、この魔法を発動している間は使用する魔法の効果範囲を拡張出来るのだ。こめられた魔力量によって効果範囲もそれだけ拡大する。

例えば俺が使うのパラライズの魔法は有効射程がおよそ200メートルだが、その気になれば100キロ先でも飛ばすことが出来るようになる。あまり意味がないけどな。今は4キロ四方を全てカバー出来る程度に留めておく。


次に空間収納から鉄くずを取り出し、土属性魔法による金属精錬の魔法を発動する。鉄くず全体が浮かび上がり、その場でどろどろに溶けて液状になる。

その後、液状の鉄で200メートル四方の鋼鉄製の檻が出来上がることをイメージしつつ、魔力を流していく。俺の魔力に反応してイメージ通りに檻の形に形状が変化してき、間もなく仕掛け扉付きの鉄檻が完成した。途中で魔物に破壊されてはたまらないので、強度を魔力で補強する。これを16個作成した。

俺はディサーンメントマジックのサポートを受けつつ、鉄檻設置予定場所16箇所に生えている樹木を威力調節したアニヒレーションで消滅させた。

さすがに全ての樹木を傷つけずに作業を完遂することは不可能なので、これについては妥協してもらうしかない。ここには200メートル四方の鉄檻をおけるような拓けた場所なんてないからな。

その後、俺は鉄檻を飛ばして設置した。


鉄檻の設置後、今度は空間収納から麻袋、動物や魔物の解体後に出たの残滓の入った樽と血液の入った樽を取り出した。

蓋を開ける前にエアーコントロールの魔法を発動し、この場の空気の流出を遮断する。臭いが拡散するのを防ぐためだ。

その後取り出したものを全て魔法で宙に浮かべてから、血袋の作成に取り掛かった。

麻袋に魔法で風を送り込み、その中に魔物の残滓を蓋を開けて放り込む。次に血液の入った樽の蓋をあけて、袋の中に血を半分程流し込み、袋の口を縛る。これを全部で64袋作る。

出来上がった血袋から血が滴り落ちる前に、16箇所の鉄檻内部に4袋ずつ転送し、鉄檻天井から下がっている鈎付きのフックに引っ掛けた。

量が多いので大掛かりになっているものの、割と地味な作業が続いている。だが、その作業も終わりが見えてきた。


そして、最後の仕上げに用意したとっておきを麻袋につめる。鉄檻1つに5袋ずつもあれば十分だろう。鉄檻上部に飛ばして全てくくりつけた。

こいつはまさに最後の仕上げにふさわしいと思う。

念の為、鉄檻がやや目立つようにライトの魔法で鉄檻上部を発光させた。これで全ての準備が整ったな。


俺は早速殲滅作戦を実行した。

エアーコントロールの魔法の内容を変更し、血の臭いを魔物達がいる4キロ四方に一気に拡散させた。血袋作成をした1つめの鉄檻の血臭濃度が高いため、そこは調整しておいた。

しばらくすると、血の臭いに引き寄せられた魔物達が続々と鉄檻に集まってきた。鳥目のハーピーが夜にやってくるのか心配ではあったが、杞憂だったようだ。

血袋は割と高い位置にあるのでほとんどの魔物は手が出せないが、ハーピーやシャドウワスプは飛行するのでそのうち叩き落とされるだろう。袋が落下する際に内容物が飛散することも計画のうちなので、そこは別に気にしていない。


そろそろ頃合いだろうか。俺は念動の魔法を使い、フォレストウルフの尿を計画通り奥から順番に、そして正確に撒いていく。探知魔法で確認すると動物が一斉に範囲外に逃げていくのが確認出来た。


しばらくすると用意した血袋とフォレストウルフの尿のせいで、辺りには凄まじい臭いが充満し、気持ち悪くてたまらなくなった。その時、俺は自分自身への臭い対策を完全に失念していたことに気づいたが後の祭りである。

慌ててクリーンアップとリフレッシュを使い、エアーコントロールを発動して環境を整えた。

それから1時間程が経過し、気づけばかなりの魔物が鉄檻内部に集結していた。

もうすぐ周辺の魔物全部が入る頃合いだろう。俺は最後の仕上げの準備にかかることにした。


俺は経過確認に真剣になるあまり、注意が散漫になっていたようだ。

俺自身に危険が迫っている事を、この時俺は気づいていなかった。

JWW_CADで描いてみたのですが、余計に分かりづらいかもしれません。

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