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17話 拒絶の理由

「私は意地悪をしたいわけではありません。でもお断りしたのには、理由があるんです。」

ユニー嬢は拒絶した理由を語ってくれた。その話をまとめると、次のような内容だった。

元々彼らはテドロア大森林を主な猟場としていたハンターだが、先日の追い込み猟の最中に多数の魔物に不意打ちを受けた。

ハンターなので当然戦闘慣れはしているのだが、相手はいつもの手慣れた魔物ではなく普段奥地にいる危険な魔物達だった。

ちょうど追い込み猟の最中で、偶然ハンターが分散していたというのも不味かった。

苦戦する彼らは猟を中止して個別に撤退したが、それぞれのパートナーが主人達を守るために皆怪我を負ってしまった。

無傷のハンターは居ないものの皆無事だったが、殺されたのか行方知れずもいるという。

特にまとめ役であるケヴィンのパートナーは重体で、今も生死の境をさまよっているらしい。

ハンター達も骨折をする等怪我がひどく、とても猟どころではないらしい。

俺の紹介依頼に対して、参考意見が欲しいのだろうと思ったユニー嬢はそれならばと思ったものの、実は俺の目的が全く違うことを知って断ってきたというわけだ。


ケヴィンの悲しみは深いらしく、自分のパートナーだけでなくチームの現状にも大変心を痛めているそうだ。彼らのパートナーとは狼の事である。

俺の里にも追い込み猟をする猟師達が居たから、俺も良く知っている。狼は猟師にとって大切なパートナーだ。

生まれたときから寄り添い、苦楽を共にしながら暮らしている。その絆は肉親と何ら変わらない。愛情が深い故に、今回のように不慮があるとそれだけ心の傷も深くなる。


「なら、余計にお会いしないといけませんね。すぐに紹介してください。」

断れた理由がわかった以上、俺は早急に動かなければならない。今回は彼らの強力が不可欠なのだ。万が一にも死なれてもらっては困る。

俺が紹介を依頼したのは、追い込み猟をするハンターに会うことが目的ではなく、彼らのパートナーである狼に用がある為だ。

「今の話を聞いていたでしょう? ケヴィンさんはとても会えるような心境ではありませんよ。」

まあ普通に考えて、大切なパートナーが生死の境を彷徨っているというのに、不躾なお願いをしてくる相手に会いたいなんて思うはずがないよな。

だから俺は説明することにした。

「俺解体が得意ですけど、治す方も得意なんですよ。」



しばらくして、俺はユニー嬢に紹介してもらったケヴィンの家へとやってきた。

俺がここに向かう前に、ユニー嬢にはいくつか用件をお願いし、先程貰った報酬が入った金袋を預けておいた。

怪訝な顔をされたが、依頼達成のためには絶対に必要な物ばかりだからな。あれだけの金額があれば、十分に足りることだろう。


「ケヴィンさんはいらっしゃいますか。」

玄関口に立った俺は、中に向かって声をかけた。

「どなたかな。すまんが、中に入ってきてもらえないだろうか。」

俺は遠慮せず、丸太で組まれた家の中に入らせてもらった。猟師の家らしく、動物の毛皮や骨を使った装飾品が多いな。

入った所は居間で、椅子に深く腰をかけた初老の男性がこちらを向いていた。疲れ切った表情をしており、左目辺りに包帯が巻かれている。

また、ユニー嬢の言った通り骨折をしているようで布で左腕を吊っていた。

「座ったままですまんな。脚を怪我しているものでな。」

よく見ると包帯がないところにも多くの傷があり、満身創痍といった感じだ。まとめ役ということで、どうやらかなりの無理をしたようだ。


「どうも初めまして、ケヴィンさん。ハンターのベリルと申します。ここにはハンターギルドから紹介を貰ってやってきました。」

「ベリル? 聞いたことがないな。初めて見る顔だ。それで、こんなところに何の御用かな? 見た通り怪我人とその家族、他に余命幾ばくもない動物しかおらんでな。」

「ここには、ケヴィンさんにお願いがあってやって来ました。それで、出来れば私も貴方のお力になりたいと思っています。」

「ほう。この怪我人にお願いとな?」

「貴方の大切なパートナーの力をお借りしたいのです。」

「ギルドの紹介で来たなら知っていると思うが、あいつは今重体でな。とてもお役に立てるような状態ではないのだよ。」

「承知しております。そのために私は直接こちらへお伺いに来ました。」

「言ってる意味がわからんのだが。」

「私に貴方と、貴方のパートナーの治療をさせてください。私の目的を達成するためには、元気になっていただかないと困るんです。」

俺はケヴィンさんに来訪目的を簡潔に説明した。今回街の西に流れてきた魔物の殲滅を依頼されていること。そして作戦に必要な物があり、そのためにここにきたのだということをだ。


「つまり、うちのストークの力を借りたくてここに来たのではないわけか。なるほどな。お前さんが今必要としているのは、『フォレストウルフの尿』だな?」

ケヴィンさんが言う通り、俺の目的とは狼の尿、つまりおしっこを貰う事だった。

別に俺にそういう趣味があるわけじゃないので、あしからず。

「ご慧眼の程恐れ入ります。論より証拠です。時間が惜しいので、今から貴方を治療させていただきます。」

そう言うと、俺はケヴィンの返事をまたずに魔法を発動した。ケヴィンさんをまばゆい光が包み込む。

「この暖かな光はなんだ…。」

しばらくして光が収まると、そこには穏やかな顔をしたケヴィンさんが居た。

怪我の程度がわからないが、今回はケヴィンさんの協力が不可欠なので俺は病気や古傷も纏めて治療し、体力も全快させた。

「おおっ、何だこれは。力がみなぎってくるぞ!」

ケヴィンさんが驚きつつも物凄く喜んでいる。

「取り急ぎケヴィンさんを治療させていただきました。パートナーの所にご案内いただけますか?」

俺の目的はパートナーの方であってケヴィンさんではない。冷たいようだが許して欲しい。肝心の相手に治療が間に合わなかったら何もならないからだ。

「今は妻が看ていて、奥で横になっている。一緒にきてくれ。」


ケヴィンさんにつれられて奥に入ると、全身を包帯でぐるぐる巻きにされた青い毛並みのフォレストウルフが、何かの毛皮の上に横たわっていた。

隣にいる初老の女性はケヴィンさんの奥さんだろう。沈痛な表情でフォレストウルフをみている。

フォレストウルフの顔色はとても悪く、息も絶え絶えの状態だった。

「えっと、そちらの方は?」

奥さんが顔をあげて尋ねてきた。

「ベリルと申します。ケヴィンさんの大切なパートナーの治療をしに参りました。」

挨拶もそこそこにして、かわいそうでとても看ていられなかった俺は、即座に魔法を行使した。横たわったフォレストウルフが光に包まれる。

本当は相手が見えていなくてもこの魔法は使えるのだが、目的達成のために我慢しなくてはならなかった。協力を仰ぐためにも、俺が回復させたことを彼らに納得してもらわなければならないからだ。

光が収まった時、そこには4本脚で立つ精悍な顔のフォレストウルフが居た。


「ストーク! おお、ストーク!!」

ケヴィンさんと奥さんが狼に取りすがり、涙を流して喜んでいる。

誰だって愛する家族の回復は嬉しいものだよな。まして死の淵に立たされていたのだから。

「今日明日の命と言われていたのに、こんなに元気に…。それにケヴィン、貴方もよ! 見たところ普通に立っているけど、怪我の具合はどうなの? 身体の調子は?」

「すこぶる快調だよ。そういえば顔も手脚も全く痛みがしない。」

「ケヴィンさんもストークも俺が全部治しましたので、もう大丈夫ですよ。」

「なに!? おお、潰された左目が見える…。それに、食いちぎられた左手の指も全部あるぞ。なんということだ。まさに奇跡だ。」

自分の身体を確認したケヴィンさんが感激している。

「おお、神よ! 感謝致します。」

「ベリルさん、貴方は神様のお使いですか?」

「いや、そんなわけないですよ。ただの人間です。ちょっと魔法を使っただけですから。」

俺はただの死属性魔導師です。しかも無職です。そんな立派な方であるわけがありません。


「森の恵みの神ハーネス様の神官でも治せなかったのに。ベリルさんは凄い魔導師なのですね。」

「とんでもありません。ケヴィンさんの日頃の信心の賜物ではないでしょうか。」

俺オリジナルの神聖魔法『パーフェクトリカバリー』は、相手が生きてさえいれば全快させることが可能だ。消費魔力は怪我や欠損の度合いにより変動する。

ただこの家は、奥さんの趣味なのだろうが草花や植木がとても多く、生命に満ち溢れている。

そのため、魔法発動時に彼らの力を借りることで魔力を補える為、俺はほとんど消耗していない。

通常の治癒魔法は対象に触れていなければ発動出来ないのがほとんどだが、この魔法は遠く離れていても発動出来るのが強みである。


「本当にありがとう! 是非何かお礼をさせて欲しい。」

「お申し出は大変ありがたく思うのですが、残念ながらあまり時間に余裕がありません。こちらのストークの分だけではとても賄えないので、出来れば他の方にもご協力いただけるようにお願いしたいのですが。」

「そういうことなら、早速皆の所に案内しよう。ついてくるが良い。」

俺はケヴィンさんの奥さんにお辞儀をし、ケヴィンさんと共に家を出た。


「狼達はこの先に我々が建てた会館の所に居る。そこで纏めて治療をしつつ皆で面倒をみておる。仲間の皆も怪我をしたとはいえ、儂らの様に深手を負ったわけでもなかったのでな。」

「それなら纏めて治療が出来ますから、話がとても早いですね。移動の手間も省けますし。」

その後挨拶もそこそこに追い込み猟のハンターとそのパートナーを回復させた俺は、すぐに目的を達してハンターギルドに戻った。

肝心のフォレストウルフの尿だが、時々必要になる事があるらしく常に一定量を備蓄しているのだそうだ。

ギルドに戻った俺は、ユニー嬢が緊急手配してくれた物資のリストを確認した。

俺の依頼通りの物が揃っており、手抜かりはないようだ。ユニー嬢はやはり優秀だな。


さて、それでは作戦開始といこうか。

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