14話 規格外
「まだ問題があるのか?」
シュタイナーは気づかなかったようだ。
「やはりロランさんは気づかれましたか。国への対応が少々問題になります。
今回の事の発端は、私が迂闊にも出してしまった羽毛が『奇跡の品質』だったという事です。
王家には1羽分を献上しますが、正直言ってたったの1羽分です。
それに比べて、市井には品質が1つ劣るものの『究極の品質』が出回ることによる利益が入って来ます。
まあ当然その分多くの税が納められるので、国家としては問題はないのでしょうが。」
「恩恵にあやかれない奴等がちょっかいを出しかねない、というわけか。大貴族や豪商どもは1枚咬みたいだろうしな。」
「それは非常にまずいぞ。強欲な奴等だからな。1枚どころか全部かっさらっていこうとするだろうよ。」
「同じ『奇跡の品質』であったら良かったですな。これ幸いと介入の口実を作ってくるでしょう。
難癖をつけることにかけては彼らの右に出るものはいませんしね。
法律すら己の意思で捻じ曲げる。それが大貴族の特権であると信じ切っていますからな。」
「そんなわけでやはり最初の3羽分については、古代文明の遺産という風にするしかないかと思います。」
「それなんだが…。残念ながらその手は使えないんだ。
ベリルはこの街に来てまだ2日しか経っておらんので知らないだろうが、この近辺に遺跡やダンジョンは無いのだよ。
いや、『これまでは無かった』が正解だな。先日大きな山崩れがあって、そこから遺跡が発見されたからな。」
「ではそこから出たということで良いのではないでしょうか。」
「それがそういうわけにもいかんのだ。なにせ内部には凶悪な悪魔がはびこっているようでな。
お陰でその周辺の魔物が一斉に南下したので、街から西の方角が危険地帯になっておるのだよ。
そんな危険な遺跡に入り込めるわけがない。
実は今騎士団に要請しているところなのだが、向こうも昨年の併合の影響で未だにゴタゴタしていてな。
再三要請しているにも関わらず、今ひとつ動きが鈍いのだ。
おかげでハンターにも西のテドロア大森林には近寄るなとしか言えない始末でな。
ハンターギルドとしても正直困っているのだよ。」
テドロア大森林の中に突如遺跡が現れ、悪魔が大量に出現しているのか。物騒な話だな。
そういえば、ポワンさんが騒ぎがあって肉が品薄だとか、テレス嬢がテドロア大森林は今はおすすめ出来ないとか言ってたな。
これが関係してるのかもしれないな。念の為に確認しておくか。
「ちなみにその遺跡ってどの辺りにあるんですかね。どんな感じの遺跡なのかな。」
「門を出てからまっすぐ北西に5時間程歩けば着くようだ。
入口から入ってしばらくの所に、ナイトストーカーが徘徊しているらしい。
襲ってきたので逃げたら外までは追いかけてこなかったようだから、中の何かを守っているのではないかという報告だった。
それがどうかしたのか?」
「なるほど。そうですかあ。」
うーん、まさかとは思ったが、おもいっきり心当たりがあるぞ。
「お前、まさか行くっていうんじゃないだろうな?」
「いやいや、そんなところいかないですよ。」
「そう言って、なんで目をそらすんだ?」
「僕は元から人見知りなんデスヨ。ハハハ、ヤダナー。」
「ベリルさん、顔が変です。何か隠してますよね…?」
唐突に口を開くアレクシア嬢。顔が変とは失礼な! てか、なんでこいつはこういう時鋭いんだよ…。
「正直に言ったほうが良いと思うぞ? 怒らないから言ってみろよ。」
その台詞って、怒らないと言いつつも後で絶対怒るやつだよな。
正直いうと言いたくない。でも周辺に遺跡があそこしかない以上、それしかないんだよな~。
「いやー、なんといいますか。問題は始まる前に終わっていた。既に解決しています。以上!」
「意味がわからん…。全然問題解決してねえぞ。悪魔が急に消えるわけがないんだからな。」
「いや、もう居ないから心配いらないっていう…。」
「は?」
「だーかーらー! 全部片付けたから、もうあそこには何もいないって言ってんの!」
「片付けた? お前が?」
「だからそう言ってるじゃないですか。」
「いつ、どうやって?」
「ここへ来る前の日に雨宿りで入ったところが偶々そこでさ。
眠かったし、入口入ってすぐのところでテント張って寝てたら襲われたもんだから、つい…。」
「何をやらかしてんだ、おめーは!」
「つい、じゃねーよ!」
「そんなところで寝るな!」
「えええええっ!」
絶叫する4人組。ツッコミがないのはアレクシア嬢だ。
やっぱり怒ったじゃねーか! 話が違うぞ。俺は何も悪くないのに。
「いや、だってなあ…。疲れて気持ちよく寝入った所を叩き起こされたんだぞ?
普通はキレて王様だってぶん殴るだろうが!」
「なぐらねーよ! 戦争始めるつもりか!! なんでそんなに寝起きの機嫌が悪いんだよ。」
「起こすやつが悪い。睡眠は正義。だから俺は悪くない。」
「だからって悪魔ぶん殴るやつなんて聞いたこともねーよ…。
大体ナイトストーカーなんて呼ばれていても、奴等は立派なレッサーデーモンなんだぞ。
殴っただけで倒せるほど弱くないだろうが。お前そんなので良く生きていたな。」
「いや、最奥部にはアークデーモンも居たぞ。」
「はあ!? いや、まてまて。何を言ってるんだお前は。」
「おまけに取り巻きにグレーターデーモンが4体居てたな。全部ぶん殴ってやったけど。」
「おまえなー、いくら何でも無茶苦茶すぎるだろう…。殴ってカタがつく相手じゃないだろうが。
無属性のクリーンアップしか使えないっていう設定はどこへ行ったんだよ。」
そうなんだよな。そんなやつが倒せるわけがないよな。
でも、あくまでとぼけてみることにする。俺は諦めが悪いからな。
「なんていうかな。ここぞっていう時に力が湧いてくるっていうかさ。体中を魔力が巡るっていうのか。
そういうときがあるんだよ。詳しいことはわからないから、あくまで俺の感覚だけどさ。
ほら、良くいうじゃんか。怒りの底力っていうやつ?」
「お前どんだけ寝るのが好きなんだよ…。睡眠取るのに全力過ぎるだろうが!」
「普通に考えると、その言葉通りであれば恐らく身体強化の魔法を使っているのでしょうね。無意識に使えるものなのかは知りませんが。」
「呆れたことにベリルの言葉が本当なら、恐らくそうだろうな。」
「いやいや、なんで呆れることがあるんだよ。別に嘘なんてついてないだろう。」
「いい加減とぼけるのも大概にしたほうが良いと思うぜ。奴等がそんなに弱いわけがねえよ。」
「いや、弱いってば。あの程度ならアニヒレーション一発で簡単に……アッ!」
「ハア!?」
「い、いまのは無しで!」
「できるかー!!」
「無かったことにしてくれよー。頼むよー!」
つい口が滑ってしまったじゃないか。こいつらの誘導尋問が凄すぎる。これはヤバイな。
「アークデーモンやグレーターデーモンが1発だとか、無茶苦茶だろ! ん? アレクシア、どうした?」
青い顔をして震えるアレクシア嬢を見て、シュタイナーが声をかけている。
「アニヒレーション…。無属性適性必須の賢者以上のみ修得可能な消滅魔法。
戦術・戦略級魔法に該当する超高等魔法で、その威力は半径1キロをクレーターにし、竜ですら耐える事が出来ない究極魔法。
実際大賢者以来修得出来たものは居なかったのに、まさか本当に使い手がいるなんて……。」
アレクシア嬢は知っていたのか。でも、そんな超高等魔法だとか大賢者以来の使い手だとかは知らなかったな。
俺も魔法について教えて貰っただけで、あいつは聞かなければそういう余計なことは教えてくれないからなあ。
「お前なあ…。大概メチャクチャな奴だとは思っていたがよ。お前ホントおかしすぎるだろう?
大体そんな大魔法を狭い遺跡の中でぶっぱなすんじゃねえよ! あーっ、もう遺跡騒ぎどころじゃなくなったわ。」
「いや、身体強化で神聖魔法のホーリーブロウを使ってぶん殴ったから、別にアニヒレーションなんて使ってないぞ。
そもそも威力調整出来るからあんな狭いところでそのまま打たねえよ。周辺破壊したらこっちも生き埋めになるだろうが。
打つなら範囲を抑えて小さくするわ。それくらいいつもやってるし。あと半径1キロじゃなくて3キロな。最大10キロまで伸ばせるけど。」
俺からすればゴミ掃除に簡単な魔法くらいの認識だ。無機物は地面に埋めても大地に還らないからな。
「神聖魔法てお前な…。しかし、やっぱり複合適性持ちかよ。」
「いや、俺解体が得意なんで…。」
「それは昨日聞いた! ってか、ツッコミどころが多すぎる。そもそも意味がわからんわ!」
くっそー。俺のサイコパス作戦が効かんとは。
皆ハァハァ言ってるな。なんだか色々疲れてきたらしい。これをチャンスと俺は見た。
「まあそれはそれとしてですね!」
だが俺の会話に被せてくるやつがいた。解体部門の長のグレイである。
「解体と言えば、お前さんは解体も不自然極まりないよな。儂らにも出来ない解体技術を持っとるようだしな。
そもそも『奇跡の品質』の羽毛もどうやって作ったんだ。
さっきの説明だと羽根がなくなるという話だったが、納品分にはしっかり羽根もあったよな? 」
やぶ蛇だった。チャンスはチャンスでも、グッドチャンスではなくバッドチャンスだった…。
お陰でさらなる追求が来てしまった。世の中は無情である。
「正直いいまして、解体は俺のオリジナル魔法でやっています。それを使えば各部位に分離出来ます。
それとあの羽毛の作り方は、クリーンアップをつかって綺麗にした後に解体魔法を使っただけです。
溶かしているわけではないので、羽根は普通に残ります。」
「なんと。解体の魔法だと? それだと他の魔導師でも使えるのではないか?」
「無属性適性があれば。ただ、思ったより高等魔法になってしまったので、最低でも軽くアニヒレーションが使える技量は必要になります。なので、恐らく他の人には使えないでしょう。」
「うーん、やはり無理だったか。そうなると、その解体魔法を使える魔導師を探し出す方が余程『奇跡』だの。」
こればかりはどうしようもない。技量とかは別にするにしても、そもそも解体の知識自体がなければ魔法を上手く発動出来ないからな。
普通魔導師は解体なんてしないからまず無理だ。素人が簡単に動物を解体出来るほど世の中甘くはない。諦めてもらう他にないだろう。
「しかし、ベリルは無属性適性と神聖属性適性持ちだったか。複合適性の恩恵は思ってたよりすごいんだな。」
「恩恵がそこまで凄いなんて聞いたことないんですが…。そもそも超高等魔法を改良出来るのも聞いたことがないですし。
私も光属性適性を持っていますけどそんな大胆なアレンジは出来ないですし、オリジナル魔法の開発なんて考えたこともありません。」
アレクシア嬢は魔導師だったのか。道理でシュタイナーとかよりも魔法に理解があるわけだ。アニヒレーションなんて普通知らないはずだからな。
「うーむ、規格外すぎるな。まあベリルの事は置いておくしかないだろう。諸々の事はまた後で話すとして、今は羽毛の出処の話をしないとな。」
※そもそも自分の家の玄関に、知らない男が勝手に寝ていたら誰だって叩き起こすと思います。




