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13話 解決策

翌朝の事だ。

朝の軽い運動をした後、朝食を美味しく頂き食休みしていた俺を、サブマスターのアレクシア嬢が制服姿で迎えに来た。

逃げられるとでも思ったのだろうか。さすがに宿代を持って貰ってるのだから、俺は逃げたりしないぞ。

「ベリルさん、おはようございます。」

「おはようございます、アレクシアさん。サブマスター直々のお迎えですか。」

「いえ、ゆっくりお休み出来たかなと思って。サブマスターといっても私は偉いわけじゃないんですけどね。」

まあ確かにどうみても20台前半と年齢的に若いからな。まあギルドにも色々と事情があるのだろう。

「それについては普通ですかね。でも、そろそろギルドに向かうところでしたよ。」

「ありがとうございます。もう宜しいのでしょうか。」

「ええ、向かいましょう。」

食事後すぐにハンターギルドに向かうつもりだったので、俺の準備も済んでいる。


大木の小鳥亭を出た俺達は、連れ立ってハンターギルドへ向かった。

通りを行く男達がこぞって足をとめては、こちらの方を見てくる。まあそうだろうな。

別に俺が注目されているわけじゃない。皆が見ているのはアレクシア嬢だ。

確かにかなりの美人だからな。顔でサブマスターになったと言われても信じられる程に、その顔は整っている。

しかも雰囲気は、超出来る秘書そのものである。見知っていたとしても、毎回足を止めてしまうのも無理はない。

だが、俺は昨日知ってしまった。実は残念秘書であるということを。

眼鏡をしていれば彼女に残念属性はなかったかもしれない、等とつい失礼な想像をしてしまった。

「ベリルさん、どうされましたか?」

怪訝な顔をするアレクシア嬢。俺の顔に出ていたのかも知れない。


「アレクシアさんは有名人なのだなと思いまして。」

「こうみえてハンターギルドのサブマスターですからね。若いサブマスターが珍しいのでしょう。」

当然そんなわけはないのだが、ギルドは美人揃いのようだからな。特に意識はしていないのだろう。

「いつもこんなかんじなのですか?」

「ええ、大体そうです。サブマスターになって半年にはなるので、もうそろそろ慣れて欲しいのですけどね。」

大人気だな。本当に顔が就任の一番の理由なのかもしれない。本人には大変失礼な話ではあるが。

「新人なんてそんなものですよね。私も注目されて困っちゃいましたよ。まあお互いがんばりましょう。」

ズバリ言っても良いのだが、そんな事はおくびにも出さない。フフフ、デキる大人は違うのだよ。

「ベリルさんの理由は絶対違うと思いますけど…。」

「小声で聞こえなかったのですが、何か言いました?」

「いえ、なにも。それよりギルドが見えて来ましたよ。」


アレクシア嬢につれられてギルドに入る。ちなみに職員専用の裏口から通された。

こんな扱いをされる覚えがありまくるからしょうがないのだけど、臭いものに蓋をされた気分である。

毎日朝晩とクリーンアップで綺麗にしてるのに。加齢臭がする年齢でもまだないしさ。俺はまだおっさん臭く無いぞ。

軽く錯乱してしまったが、どんなときでも心は明るく! 平常運転で行こう。

「なんでギルドに入って早々に、独りで百面相してるんですか…。」

アレクシア嬢に呆れられてしまった。ちょっと態度を普通に戻そう。

俺はポジティブ思考の持ち主だが、サイコパスに見られたら流石に困る。

無言のまま、俺達は2階のギルドマスターの部屋に移動した。


「やっときたか。待ちかねたぞ。」

部屋のソファには、昨日のシュタイナー含む御三方が着席している。大変お待ちかねの様子だった。

そんなに遅くなかったと思うんだが。それとも期待で待ちきれなかったのか。

「おはようございます。挨拶は社会人の基本だよな。うん。」

「あ、ああ…。おはよう。」

いきなり面食らった様子のシュタイナー。

「ベリルさん、口に出てますよ。」

アレクシア嬢に小声で注意される。今のはわざと言ったんだよ。

俺は勧められた席に着席しつつ、話を切り出す。

「さて、昨日のクイックバードの品質の件ですが、解決の糸口が掴めました。ただし、いくつか問題はあります。

1つ目に、量産体制に時間がかかること。次に、それなりに大きな土地が必要になること。まずこの2点ですね。

そして、残念ながら同じ品質には出来ませんでしたが、『究極の品質』は可能です。」

「おお、それでも凄いではないか。して、その方法は?」


「その前に、この情報についての対価をどのくらい考えているかお聞かせ願いたい。」

俺の言葉にシュタイナーは困った顔をした。

「むう。これはまいったな。勿論払わないというわけではないぞ。

正直言って、お前さんの情報次第でその対価を相談しようということになっていてな。

今提示するのは無理なのだ。」

「では、私の方から提示させてもらいます。」

俺は予め考えていた事を伝える。

「そう言われるとなんだか怖いな。」

「まあそう身構えないでください。別に金銭の要求をするつもりではないのです。

俺としてはまず生活基盤を整えたいと思っています。そして出来れば静かに暮らしたい。

そこで今回の件についてはギルドに前面に出て貰い、その代わり俺の名前を出さない。

ということを条件にしたいと思っています。」


「ええ!?」

俺の答えが予想外だったのだろう。シュタイナー以外も皆一様に驚いている。

「それは構わないが…、にしてもお前さんえらい変わりようだな。最初の発言といい、キャラがブレすぎじゃないか?」

「どう思われようと勝手ですが、この件に関しては俺が切り札を握っています。

最初偉そうに言われたから、こちらの方が立場は上だと伝えさせてもらったつもりです。

でも、ギルドが前面に出るようにとお願いする立場なのでね。少々下手に出ているというわけですよ。

勿論いつでもテーブルを蹴り倒すことは出来ますが、今の所そのつもりはありません。」

「昨日より余計に怖いわ! まあそれはともかくとして、お前さんの名前は出なくて良いのか?」

「目立ちたくないんですよ。恥ずかしながら、家でのゴタゴタが嫌でこっちに出てきたのでね。

家族に所在を知られたくないのですよ。」

そういって俺は父親の再婚相手の事を思い出す。まあ、あんなヤツ身内の恥だしな。

正直本当に二度と会いたくない。連れ子のシアは、年頃だからちょっと可愛そうに思うが。

「そういうことなら構わない。こちらとしても優秀なハンターを抱えておきたいという事情もあるからな。」

こちらの条件を呑んでくれたか。まあ法外な利益が手に入るチャンスに口約束1つで済むんだからな。

それに相手は仮にもギルドマスターだ。約束を反故にはしないだろう。


「ありがとうございます。それではお教えします。実際の解決策なんですが、こいつを使います。」

そういって俺は栓をしたフラスコタイプの小瓶を見せる。

「なんだそれは。ポーションか?」

訝しむシュタイナーに俺は小瓶を見せながら説明する。

「惜しいですが、ちょっと違います。ここの部分を見てもらえばわかるように、中には液状のものが入っています。

これはある種の薬品から生み出されたスライムです。

今は仮死状態にしてありますが、蓋を開けて桶にでも入れてやれば活動を再開します。」

「そいつを使って分離させるわけか。」

この発言はグレイだ。やはり解体部門の長なだけあって、自分の分野に説明を誘導したいようだ。

「ええ。このグリーンスライムを使えば可能です。性格は大人しいので、人や動物に害をなすことはありません。

管理も容易なので、数を揃えればどこでもいくらでも羽毛が作れるでしょう。」

「しかし、問題がいくつかあるといっていただろう?」

「そうです。まず、このスライムの数を揃えるのに時間がかかります。

このスライムは分裂増殖してくれないので、野良のスライムを捕まえてきて薬品に馴染ませ変質させないといけないのです。

変質すると種族特性が変わるのか、こいつのように人を襲わず分裂増殖をしなくなります。

この馴染ませる作業は個体によってかかる時間が違うので、気長に待つしかありません。

それとこの馴染ませる作業をするのに、それなりに広い土地が必要です。ストレスを感じると、薬品を受け付けなくなるので。」

ちなみに俺は魔法で強引に変質させたので、ストレスを感じさせる間もなくすぐに終わった。


「ふむ。それならば大きな問題にはなるまい。」

「まだ問題があります。羽毛をとる際に羽根が無くなります。」

「全く無くなるのか?」

思っていたのと違う、とロランの顔に書いてある。商品が1つ減るのだから、この反応は当然だ。

「クイックバードの羽毛にはモンターレという特有の成分が含まれるそうで、このグリーンスライムはそれを嫌います。

その性質を利用して、羽毛以外を溶かすようです。」

「それが『究極の品質』の羽毛になるのだな。」

「物がなかったので実際に試してはいませんが、羽根は溶かしつつも嫌いな羽毛を全部吐き出すようです。

この方法は古代文明の文献にあったものですが、これ以上の記述を見つけることが出来ませんでした。

他に方法があるかもしれませんが、残念ながら現時点では解決出来ない問題です。」

新しく開発したから、そもそも文献にない。当然記述を見つけられるはずもない。

「羽根が必要な場合は従来の方法でいくしかないわけか。」

「そうなりますね。ですので、品質がある程度劣る物については従来通りの薬品で分離させ、品質が高い物については特殊なグリーンスライムに食べさせる。

そして、スライムを変質させる薬品のレシピがこれです。どこにでもあるというわけではないですが、探せばそれなりに見つける事も可能でしょう。」

「なるほど。素晴らしい。多少問題はあるものの、既得権益を損ねずに新しいビジネスが開拓出来たわけか。」

「なので、ギルドには変質させたスライムの製造方法を秘匿しておくことを勧めます。そのスライムを独占販売することで、テドロアに独自の利益が転がり込むわけです。

馴染ませ方は少々コツが必要なので、そう簡単にはバレません。

薬品についても、信用出来る者にのみレシピを渡すことを含めて、商業ギルドと薬師ギルドとの間で協定を結ぶと良いでしょう。

彼らにも更なる利益を与えつつ、情報を秘匿することができます。彼ら自身も、少なくとも時代の流れに取り残されるということはなくなるわけです。」

俺の言葉に、場の雰囲気が物凄く明るくなった。


「しかし、あと1つ問題が残っているわけですな。」

問題は全て解決したかに見えたが、この話にはもう1つ大きな問題が残っていた。

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