表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/59

12話 複合適性

「しかし、あのベリルという者のお陰で今日はとんでもない1日になったな。

仰天するような代物なのに、あの男は普通に納品してきたのだから始末に悪い。」

シュタイナーは心情を吐露する。新人の納品1つで命のやり取りに発展したのだ。

おまけにあの強烈な威圧である。寿命が縮む思いだっただろう。

「はい。彼にとっては驚くべき事でもないようでした。

あの若さで、彼は一体どれほどの知識や技術を持っているのでしょうか。」

あの羽毛の品質は、偶然出来るような物では決してない。

「それにあの威圧感だ。新人とはとても思えない。あれは、はったりではない。

俺の威圧どころか、国家と敵対する可能性に言及しておきながら、

それに怯む様子を全く見せなかった。間違いなくとんでもない強さを秘めている。

あいつは絶対に敵対してはいけないやつだ。

もし対処を誤ると、このテドロアどころか国家全体が大混乱に陥るぞ。」

アレクシアは、シュタイナーが言葉に出して自分の考えをまとめているのだと気がついた。

ならば彼の考えを補足出来るように、自分の考えを述べるべきだと思った。


「彼の知識は我々と比べてかなり異質なのだと思います。

その上、少々世間的な常識に疎いところがあるようです。

おそらく今回の件で彼に目をつけた者は多いと思います。

殆どの者にとっては、彼が金の成る木に見えるでしょうね。

手を出そうとする者が必ず現れると思います。彼は実力を隠しているようですから。」

ベリルはシュタイナーの威圧を前にして平然としていた。

歴戦のハンターだったシュタイナーの威圧に、怯まない者はほとんど居ないにも関わらずだ。

この街の猛者達もあの威圧の前には、皆一様に怯えるのだが。


「そして眠れる獅子の尾を踏んで叩き起こすわけか。

踏んだ奴は自業自得で済むかもしれんが、こちらはとんだとばっちりだな。」

「とばっちりの結果、街が無くなるなんて勘弁してほしいのですが…。

正直にお聞きしたいのですが、ギルドマスターは彼の実力をどの程度にお考えでしょうか。」

アレクシアは本題に踏み込んでみる。自身はハンターの経験がないので、実力を測りかねるからだ。

だが、帰ってきた答えは想像を遥かに上回るものだった。

「はっきりいって、底が全く見えん。

だが、少なくともテドロアでベリルに勝てる奴はそう多くないだろう。

俺はこれまでにかなりの数の手練れとやりあってきたが、あれは相当だな。

ピークの頃の実力ならともかく、今の俺があいつとやりあったら3分も持たないだろうな。」


「そ、それほどなんですか?」

アレクシアは戦慄する。とてもそこまであの青年が強いとは思えなかったからだ。

「外套をまとっているから分かりづらいとは思うが、あの年齢にしては相当鍛え込んでいる。

農業や狩猟で生計を立てる村人とは到底思えん。それに、お前は気づいたか?

ベリルが俺に放ったあの威圧には、魔力がこもっていた。それも相当に強力なやつがだ。

しかし、あれでもかなり抑えている方だろう。軽く睨んだという感じだったからな。

あいつはそんな事が出来る奴なんだよ。少なくとも簡単に勝てるような相手でないのは確かだ。」

「でも彼は若いです。実戦経験がそれほどあるとは思えません。」

「やつに付け入られる隙があるとすれば、おそらくそこだろうな。

だが、あの歳にしては妙に隙がないんだ。

村を出てきたところといっていたが、成人してそれほど経っては居まい。

おそらく15~16歳といったところだ。

それなのに、強い力を持っている。そして先ほど見せたあの見識だ。本当に田舎出身の村人とは思えん。

想像を絶する経験を積んできたか、もしくは優秀なブレーンがいるのか。何れにしても普通ではないな。

今なら『魔神殺しの大賢者』の生まれ変わりだと言われても信じてしまいそうだよ。

そう考えると、隙が見えてもそれは隙ではないかもしれないな。

藪をつついたら、そこが竜の巣だったなんて可能性があるわけだ。」

シュタイナーの予想は半分当たっている。

確かにベリルには、ディサーンメントマジックという優秀なブレーンがいる。

ただし人間ではないので、ベリルが問いかけない限りは知恵も知識も与えてはくれない。

ベリルの思考が発端となり、知識的なサポートを受けて初めて見識となるのである。

そういう意味では、ベリルという存在はシュタイナーの予想の範疇を超えていた。


「それと知っているだろうが、魔法には属性の適性がある。

ベリルは無属性と言ったそうだが、本当とは思えないな。

『たかが』といったらなんだが、たかがクリーンアップの魔法しか使わないやつがあんなに魔力を持っているのか?

相当厳しい修練を積んできた者でもなければ、威圧程度でであれほどの力は出せまい。

しかも抑えてあれだからな。本気を出せばどうなるかわからん。

そう考えると、ベリルの経歴が嘘なのか、適性が嘘なのか、見た目の年齢が嘘なのか。」

「あるいは、全部が嘘…ですか?」

「まあ、あの常識一部が欠落していることを考えれば、年齢については恐らく見た目通りなのだと思う。

あとは経歴と適性だが。もしかするとベリルは軍隊経験者かもしれない。

だが、そうであったにしろ、たかが数年では大した経験にはならないだろう。

ここ最近大きな戦争は一切ない。あってもせいぜい小競り合い程度だ。死人も出たことがないと聞く。

そうなると、他に戦闘経験が積めるものとすればハンターになるわけだが。

これも年齢を考えると、やはりそれも同じ結論になってしまう。猟師に至っては言わずもがなだ。

であれば、結論としてはやはり適性に行き着くわけだ。」

「ですが、彼はクリーンアップの魔法を使うと言っています。」

「それだよ。別に適性がなくても効率を無視すれば、同じ魔法は使える。

魔力消費量や威力、効果に大きな違いが出るが、それでも一応使うことは可能だ。

となると、無属性を偽っている可能性がある。」

「シュタイナーさんがおっしゃるように、仮に無属性適性が嘘だったとします。

でも、適性が他のものに変わったところで、条件的には代わりがありません。

彼の魔力が強いことに結びつかないです。」

「ということは、『複合適性持ち』、ということだな…。恐らくそれしかあるまい。」

「それなら彼の不自然さに説明がつきます。複合適性持ちは恩恵があるそうですから。

面倒事になりたくないから、彼は色々と黙っているわけですね。」

複合適性とは文字通り、火属性適性や、水属性適性などを複数所持していることを指す。

適性は先天的な物なので後から増えることがない以上、複数を所持することによる恩恵の効果は小さいとはいえ絶大なのである。

ただし、所有する適性の数が多いほど恩恵の種類が増えることや効果が乗算されていくことは、ほとんど知られていない。

複合適性の人間があまりに少ないためだ。その希少さと有用さから、国家でも血眼になって探すほどだ。

全属性適性は有名だが、それ以外の複合適性は、最大でも3種類と言われている。

しかし彼らは多少勘違いをしていた。ベリルは死属性魔導師という事実を隠したいだけなのだ。

そしてベリルが他の属性適性を隠しているというのは当たっていたが、まさか全属性適性を所持しているとは夢にも思わない。

ベリルが国家に属していないのは、実は死属性魔法を家族に修得させたくないという大人たちの勝手な考えによって、その事実を秘匿されていたからに他ならない。

この事はベリル自身も知らないことだった。


「でもそうなりますと、ハンターギルドとしてはどうしましょうか。

やはり彼に対して手を出しそうな人達全員に、ギルドから注意喚起をしますか?」

アレクシアが咄嗟に頭に思い浮かべるだけでも、20人以上の顔が思い起こされた。

その中には、気性は荒いがかなりの実力者が混ざっている。

「ある程度の実力がある奴等は、ベリルに手を出さないだろう。

少し関わるだけであいつのヤバさはすぐにわかるからな。

問題はそれすらわからん馬鹿共だが、こういった奴等は注意しても聞き入れようとしないだろう。」

「やるだけ無駄。つまるところ、『どうしようもない』、ということですか…。」

頭の痛い話である。こういうところがハンターギルドの問題なのだ。

「そういうこったな。ベリルのやつが自重してくれることを祈る他あるまい。」

「仕方がありませんね。彼らを力で押さえつけるわけにもいきませんし。」

「それじゃあミイラ取りがミイラになっちまうわな。」

自分がミイラになるのは御免である。


「私は明日朝一番に大木の小鳥亭にベリルさんを迎えに行きます。

今の所それしか思い浮かばないです。」

「すまんがそうしてくれ。朝早くなるだろうから、今日はもう帰って良いぞ。」

「ありがとうございます。それでは本日はこれで失礼致します。」

「ご苦労だった。」

疲れ切った顔をしてアレクシアは退室していった。

シュタイナーはもし今自分の顔を鏡で見たら、自分も同じ顔をしていることだろうと思った。

実際はアレクシア以上に疲れた顔をしていたのが、彼はギルドマスターだ。

疲れたからと言って休むわけにはいかない。

もうこうなったら明日のベリルの報告を待つしかあるまい。

その後にもたらされる利益と責務を考えると、今日は眠れそうにないシュタイナーであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ