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10話 譲歩

「まあそんなわけで、教えるわけにはいかない。」

「では王家に献上するなどして各方面に配慮しつつ、最悪は利益をばらまけばいけるんじゃないか?」

俺の拒絶に対し、食い下がるシュタイナー。諦めが悪いな。

「それだと、いずれにしても大量の廃業者を出すことに変わりはないのだが?」

「ならば、製法を一般に広めれば…。」

「無理だ。俺以外に出来ないわけではないだろうが、おそらく極端に少なくなる。

結局はそいつらが市場を独占することになるから、状況はあまり変わらない。」

解体魔法はそれなりに大きな魔力量を一気に行使する技量と、緻密な魔力制御が出来ないと難しい。

何より具体的にイメージする力が必要である。

単に魔法を唱えてパッと一瞬で終わるだけだと思ったら大間違いなのだ。

それに、もし解体魔法が広まった結果、俺の優位性がなくなるのも嫌だしな。

とはいえ、もし使えたとしてもそんなことが出来るような超一流の魔導師が、こんな地味な作業に延々と従事してくれるとは思えんがね。

彼らはとてもプライドが高いし、もっと効率の良い金稼ぎの手段なんて他にいくらでもあるからな。


「だから諦めてくれ。さっきも言ったが、古代文明なり先史文明の遺産とでもいっといてくれ。」

「それでも、やはり問題がある。こいつの具体的な出処を聞かれるだろう。

確かに極稀にクイックバードの羽毛を使った物が遺跡から出土することはある。

だが、過去にここまでの品質の物が出た事などないのだ。

遺跡やダンジョンからの発掘だとした場合、たったこれだけしかないというのもおかしい。

そうなると、調査が入っていずれあんたに行き着くことになるぞ。下手な揉め事はこちらも困る。

そして肝心なことだが、王家やそれに連なる連中が何の苦労もせずに良い目をするのに、機会をつくったこちらには全く利益がないというのは面白く無いではないか。」

それがシュタイナー達ハンターギルドの本音か。

まあ納得いかずとも理屈でいうと諦められなくもないが、感情では諦める事など出来ないか。

元々俺の不注意が発端ということもあるし、何か落とし所を考える必要があるな。

ひじょーに面倒くさいが…。

「俺に行く着くというのは実はそれほど問題にはならないのだが、まああんたらも収まりがつかんよな。」

「我々だけ利益を受けるのが無理なら、せめて公共の利益だけでも目指さなくては、ギルドとしての存在意義がなくなってしまう。」

まあしょうがない。面倒だが一肌脱ぐとするか。


「ふむ。少し待ってくれ。」

俺は手を組み目を瞑る。傍から見れば熟考なり瞑想しているように見える事だろう。

俺はその状態でディサーンメントマジックを使う。

人前で使うのは初めてだが、俺は詠唱もしなければ準備動作をするわけでもない。

消費魔力も低いし、おそらくバレることは無い。

『知りたいことは何ですか?』

自動音声が脳内に響く。俺は口に出さず、思考の内で尋ねることにする。

『相談があるんだが良いか?』

『何なりと。』

『クイックバードの羽毛を最高品質より高い状態で作り出す方法を知りたい。

ただし、普通の人間が作成可能な方法でだ。』

『残念ながら該当する方法はありません。

そもそも普通は品質の通常枠を突破する事が出来ません。』

『該当が無いのなら、アプローチを変えるしか無いな。

そもそも既存の方法が最高品質に留まるのは何故だ?』


『それは、羽根の固定化に使用される薬品が引き起こす硬質化が原因です。

現代はギアンダという薬品を使って、クイックバードの羽毛の状態を固定化する事で、羽根から羽毛を分離する際に起こる品質劣化を防いでいます。

しかしながらこの作業は同時に、若干の羽毛の硬質化を引き起こしています。

この状態の固定化は、ギアンダの中にあるミチレンという成分が、クイックバードの羽毛特有の成分であるモンターレと結合する性質を利用して行われます。

その結合の際、モンターレがザノワリという成分に変質する事で、羽毛の硬質化が発生します。』

『現代は、と冒頭にいったな。先史文明などは違ったのか。』

『先史文明では別の薬品を使用しておりましたが、最高品質にすら至っておらず参考になりません。

ですが、古代文明の手法を応用すれば、ご要望を実現出来る可能性が高いです。』

『この際だ。可能性でも良いさ。確率と所要時間はどの程度だ。』

『候補が3案ありますので、作成自体は3~4時間もあれば結果は出ます。

可能性というのは、品質に関して確約が出来ないということです。』

『同じというわけにはいかない可能性がある、ということか。』

『はい。それでもおそらく最高品質を突破する事は出来ます。」

『十分だ。ありがとう。』


方針は立った。これなら明日出直す形で構わないだろう。

俺は目を開けて、できるだけ穏やかに話すことを心がける。

「国家については、王家に献上する事で何とかなるだろうな。

無用なトラブルを引き起こす必要はないから、1羽分をそっちに回しておいてくれ。

既存の業者についても何とか出来るとは思うが、同じ品質が出来るかはわからない。

検討しなければならない事があるから、明日まで時間をくれないだろうか。」

「すまないが頼む。こちらも出来る限りの協力はする。今日の宿泊費はこちらで持とう。」

「俺は小心者なんでね。宿の手配はありがたいが、独りじゃないと眠れないんだ。」

俺はおどけてみせる。だが、この言葉には監視や監禁に対する牽制が含まれている。

「こちらも失礼した。そちらを信じよう。」

こちらが譲歩したことで、先程の剣呑だった雰囲気も完全に霧散した。

「では、宿を案内させよう。」

そういってシュタイナーは気絶していたアレクシア嬢を起こし、宿に俺を案内させるのだった。


「まさかあんなことになるなんて。申し訳ございませんでした。」

平身低頭といった体のアレクシア嬢。

「いや、別に貴方が悪いわけではないんだから気にしなくていいですよ。」

「でも…。」

「まあ妥協点は見出だせたので、何とかしてみますから。

形は違えど、結果を出せるのですから彼らも文句は無いでしょう。」

「そうですね。わかりました。」

ギルドに最初に見たときの、出来る秘書のイメージは鳴りを潜めている。

どうやらあれは仕事モードの時だけらしく、こちらが素のようだ。

取り乱した時の事は忘れることにする。これが出来る男の優しさってやつだ。

うん、俺って良い奴だよな。流石俺だ。


とまあ自画自賛していたら、宿に到着した。

案内された宿は『大木の小鳥亭』であった。なんだかな。

どうやらハンターギルドと提携しているらしく、ギルドも良く利用しているらしい。

やはりここの宿は値段の割に質が良く、評判が高いのだそうだ。

中に入ると、ポワンさんが出迎えてくれる。

「いらっしゃい。ギルド利用って聞いてたけど、今日はアレクシアちゃんが泊まるのかしら?」

「こんばんは、ポワンさん。私ではなくこちらのベリルさんです。」

「どうもお世話になります。」

「あら、ベリルさんはギルドの人だったの? それなら昨日言ってくれたら良かったのに。」

「いえ、仕事の都合で一晩お世話になることになったんですよ。」

「そうだったのね。わかったわ。お部屋は昨日のお部屋でいいわよね。

食事のご用意はすぐ出来るので、こちらでお願いね。」

「ありがとうございます。ではアレクシアさん、また明日朝ギルドに顔を出しますので。」

「はい。宜しくお願いします。ではごきげんよう。」

アレクシア嬢が帰っていったので、ザックを部屋に放り込み夕食をいただくことにした。

驚いたことに、夕食のメニューは昨日と全く同じだった。

元々ギルドと提携の条件が、毎回食事のメニューを同じにする事になっているそうだ。

メニューを同じにして食品ロスを減らすことで、低コストを実現出来ているのだとか。

メニューが違うと、利用者同士で揉める元になるというのも理由だそうだが。

昨日利用したあいつには肉がついてて、今日の俺にはついてないのか!とかな。

だが俺に不満があろうはずがない。喜んで美味しくいただいた。

ちなみに酒はつかないので飲みたい場合は代金を自腹で支払うらしい。

俺は飲酒しないから関係ないけど。


食事を終えた俺は部屋に戻り、再度ディサーンメントマジックを使う。

『さて、先程いってた案なんだが、2つはわかる。

1つ目はモンターレをザノワリに変質させない薬品を開発する。

2つ目は品質劣化をさせずに分離する方法を開発する。

3つ目はなんだ? 羽毛のみのクイックバードを開発するとか?』

『薬品を使わずに品質劣化させずに分離出来る道具を開発する、です…。』

『今、何いってんだこの人って思っただろう?』

『気の所為ではないでしょうか。』

『ホントのホントに?』

『質問に対して誠実に答えるのが私の役目です。』

『だよなー。いつもありがとうな。』

『時には口に出さない事も誠実であり、優しさです。』

『やっぱり思ってるじゃねーか!』

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