黒歴史解放の危機
『選定の儀』まで残り3日となった。
俺はこのステータス『編集』をしばらくいじったりしていたのだが、やはり『編集』に意味が全くないのか気になった。戦闘に関しては先日のスライムで懲りたので、非戦闘系のジョブで試行錯誤していた。
「ステータスオープン」
【エディット・ツクラー】
【年齢】不明
【職業】古の国家錬金術師
【HP】99999/99999【MP】99999/99999
【攻撃力】9999【防御力】9999
【魔力】9999
【保有スキル】ポーションマスター、調合の達人、生きる賢者の石、奇跡の手
『編集』
HPから魔力まではそのままにして主に職業とスキルをいじってみた。
そして例の草原で採れる薬草を試しに調合してみることにした。調合のしかたは誰にも教わっていないので完全な我流だ。
薬草をすりつぶし、度数の高いお酒で薬効成分を抽出する。加熱してアルコール分を飛ばし、残った粉状のものを水で薄めたら、なんとなくポーションっぽいものができた。
「どれどれ……うーんまずい、もう一杯作るか」
ポーションっぽいものの味は単に苦いだけの代物だ。別に傷が治ったり、欠損した部位が回復するということもない。そもそも俺はそんな重傷は負っていないのだが。
この味は……なんか覚えがあるな。そうだ青汁だ。昔行商人の人が体にいいと言って買わされた緑色の粉末で、水に溶かして飲むものだが、苦いだけでどこが体にいいかよくわからなかった。つまりこれはきっと青汁に違いない。行商人から買った時は結構高かったのだが、村にあるもので作れるのならあの行商人はぼったくってきたに違いない。
結局のところ、非戦闘系職業に『編集』してもあまり意味をなさないようだ。あとで職業を「真の勇者」に戻しておこう。
「エディーおにーさん、何やっているの?」
錬金術は家の調理場、要はかまどの周辺で試していたのだが、そのまま外と繋がっていてそこから家の中に上がれるので幼女が、じゃなくて村の女の子のアールが家に上がり込んできた。
「あーこれ?青汁作っているんだよ。まずいけど体にいいぞ」
まさかポーションを作ろうとして青汁ができました、なんて言えるはずがないので見栄を張った。
「じゃあおにいさんー、それもらってもいい?お母さん体調が良くないから、体にいものが欲しいの」
う、アールよ俺にその純粋な瞳で見つめないでくれ。確かに今俺は二杯目の特性青汁を作っているが、多分これで病気とかは治らないと思うぞ。とはいえ別に体に悪いものではないし……世間にはブラシーボ効果という言葉もある。
というより下手に断って幼女を泣かせたら、村での俺の評判が地に落ちる。
「あーうん、これができたら持ってっていいよ」
「わーい!ありがとう!エディおにいさん大好きー!」
そんなこんなしているうちについに『選定の儀』の日になった。この村では誕生日に関わらず『選定の儀』の日が来るたびに1歳年をとるので、村中の15歳になる少年少女たちが同時に『選定の儀』を受けるのだ。
俺たちは村の中心地に集められ、そこで『選定の儀』が執り行われる。村の神官様が一人一人に『選定の儀』を執り行い、俺たちに職業を与えるのだ。受け取る職業次第でステータスが変動し、ごく稀にだがスキルを与えられる。
すでに儀式は始まっているらしく、何人かの人が並んでいたのでその列の後ろにつく。
「あ、雑魚エディじゃん。そういえばあんたも15歳になったんだっけ?」
げ、俺の前に一番苦手な女子のリリィが立っていた。彼女は銀のような白い髪の美少女だが、『編集』する前の俺よりもスターテスが高い。そのせいかよく突っかかって来るのでものすごくうざい。
「よくそんな低いステータスで今まで生き残れたよね、運が良かったのかしら」
相変わらずの毒舌である。もう慣れたが。
「ここ数年この村からは『勇者』や『賢者』は排出されていないけど、きっと私はそのどちらかになれると思うわ。あなたはきっと『農民』がお似合いね」
「はいはいそうですか」
こういう相手との一番いい対処方法は適当に流すことだ。
そうしている間にも俺たちより前の列の子は『選定の儀』で様々な職業が与えらえていた。『戦士』、『魔法使い』、『狩人』……なかには『鍛治師』なんという非戦闘職が与えられる子もいた。
そしてリリィの番になった。
神官がこうべを垂れたリリィの頭をゆっくりとさすり、祈りの言葉を呟く。それを十数秒続けると儀式は終わった。案外あっさりと終わるものだ。
「ステータスオープン」
リリィはステータスの開示設定をすべての人々にして開示した。その時周囲からどよめきが起こった。
【リリィ・ローズベルト】
【年齢】15
【職業】勇者
【HP】4089/4089【MP】2341/2341
【攻撃力】1082【防御力】893
【魔力】810
【保有スキル】聖なる剣、女神の微笑み、騎士神の加護
数年ぶりの『勇者』の再来に村の人々は喝采をあげる。
「ほらみなさい、私こそ魔王を倒す『勇者』なのよ」
リリィは俺の方を見てドヤ顔をする。そうやってマウントを取りやすいやつだけにマウントを取るのはやめなさい。俺は別に構わないけど俺以外の男に嫌われるぞ。
そうして遂に俺の番が来た、いままで『真の勇者』とか『古の錬金術師』とか『大賢者』とか自分で好き勝手に『編集』していたが、やはり本当に天から与えられる職業というものはなんというか感慨深い。
あれ?俺もしかして『編集』をしたままの状態で『選定の儀』を受けている?!とか思っていたらもう『選定の儀』は終わってしまった。
「ステータスオープン!」
ステータス表示設定を自分限定にして開示する
【エディット・ツクラー】
【年齢】見た目は14だが本当は10000
【職業】真の勇者
【HP】99999/99999【MP】99999/99999
【攻撃力】9999【防御力】9999
【魔力】9999
【保有スキル】全看破眼、スカイストリームソード、アルティメット・スペルマスター、スキルテイカー、邪竜眼
【称号】神に愛された聖戦士
『編集』
……しまった、本当に『編集』したままのステータスになっている。
マズイこれどう見ても俺がふざけてステータスいじったことがバレる。あと俺の厨二心が止められなくてステータス欄が完全に黒歴史の巣窟となっている。
やばいやばいやばい、もしここでステータスを全村人に開示しようものなら間違いなく俺は村の恥さらしになる。
とりあえずここから一旦別の所に避難して、それっぽいステータスに『編集』してそれから村のみんなに開示しよう。
というわけでそろりそろりその場から去ろうとすると、リリィに肩を掴まれた。
「ねえ、『選定の儀』が終わったらステータスはみんなに開示するのが村の決まりだったはずよ。どこに逃げようとしているのかしら?」
「ハハハ……ちょっと急用を思い出してね、すぐに戻って来るからその時にステータスを開示しちゃダメかい?」
「ダメよ。何か不都合なことを隠しているのかしら。ねえ、たしかステータスを強制的に開示する魔道具が村共同の倉庫に保管されていたわよね。あれ使いましょう」
非力な俺はリリィに組み伏せられ、地面に仰向けで倒された挙句、腰のあたりに座られて身動きが取れなくなってしまった。
そして魔道具がリリィの手に渡るとそれを俺の顔に押し付けて来た。
「じゃあ、あなたのステータスを見せなさい!」
ああ、俺の人生が終わってしまった。これからは一生笑い者にされるんだ……。