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7 少女が選ぶ最後の手

 札だらけの廊下を通って、階段の方へ向かう。

 ジェイは後方でつかず離れずの距離を保っている。……私が罠に打ちのめされる様を見物するつもりだろう。先ほどは急ぎ過ぎて見逃したが、奴が直接来ないならそう易々と引っかかりはしない。


 廊下や部屋にちらほらと騎士達の姿はあるが、そのいずれもが倒れ伏している。耳を澄ましても、私とジェイ以外の出す音は届かなかった。

 部屋にいた者は普段着のまま。奴らが来たのは鍛錬開始前、少なく見積もっても私達が来るまでに三時間はある。生き残りを期待するには厳しいか。


 階段を登り、三階へ。目指すのは団長執務室だ。相場はわからないが、28歳で団長というのは相当若いように思える。それだけ実力があると見ていいはずだ。


「面白くないなー。なんでそんなに避けられんの?そういう……魔法ってやつ?があるのかなぁ」

「はっ、はっ、はっ、……な、床、くぅっ!?」


 執務室を目前にして、足を置いた床が抜けた。


「つ、うぁ……!」


 右足首から鋭い痛みを感じ、思わず顔をしかめる。

 痛い。痛い。痛い!それ以外の事を考えるのが億劫になる……!今の身体になって何度か軽い怪我はしたが、これほどとは……!


「うーん……もっとさあ、可愛らしい悲鳴が欲しいんだよねー。……もういいや」


 声は頭上から聞こえた。二階へ落ちてしまったらしい。


「はぁっ……は、く……!」

(く……そ、歩くことすら……!どこでもいい、とにかく距離を……!)

「よっと。あれ、怪我しちゃったの?」

「あぐっ!」


 這いつくばる私の右腕を、飛び降りて来たジェイが踏みつける。せめてもの抵抗に抜いたナイフを手放してしまった。


「ナイフなんか持って、悪い子だなぁ。ほーら、逃げないと刺さっちゃうよー」

「っ……!」

「……ほんとに面白くないね、君。どこまでやったら悲鳴聞かせてくれるのかな。さ、まずは足からいこうね……」


 シュッ、とナイフが滑り足に赤い線が走った。


「い、あッ!」

「……おい、何してる?そのガキはなんだ?」

「はあぁぁ……あ?ヴィジルさん、起きたんですか?」

「これだけ騒いでりゃあな。で、なんで俺がこっちにいる?そいつは?」

「あぁ……ヴィジルさん、この子に殺されそうだったんですよ。どこの誰かは知りませんけど」

「はぁ?ただのガキが俺を?それなりに札撒いてんだ、適当な事言うんじゃねぇよ」

「いやいや本当ですって。途中から見てましたけど、結構きっちり避けてたみたいですよ?」

「ほぉ……おい、ガキ。なんで俺の仕掛けがわかった?」

「……」

「チッ……ジェイ、どけ。俺がやる」

「え、それはないでしょヴィジルさん!一番楽しいところじゃないですか!」

「お前と一緒にすんじゃねぇよ、聞くこと聞いたら終わりだ。大体、お前の仕事も終わってねぇぞ。こっちに来るまでに向こうの札が一枚動いたからな、まだいるみたいだぜ。そっちで好きなだけ続きをやりな」

「はぁ、しょうがないですね……この子面白くなかったし、もっといい反応くれる人だといいなぁ」


 ジェイが消えた。現実側に戻ったのだろう。

 あの屋敷には私達しかいなかった、他に誰かが隠れていた可能性もなくはないが……ほぼ間違いなくリーネだろう。


「ったく、胸糞わりぃ……おい、お前。素直に喋れば楽に逝かせて……っとぉ!」


 もう一本のナイフを振るも、寸でのところでかわされてしまった。直後、体を思い切り蹴り飛ばされる。


「ぁ、は……っ、ごほっ、ぅ……」

「ったく、危ねぇガキだな。この世界のガキは皆こうなのか?」

(何か……何かないのか!?あれだけ啖呵を切っておいて、このザマか!?なんでもいい、なんだってやる、なにがなんでも、リーネを……!!)


 ……この場所なら、もしかしたら。


「いいか、次余計なことしたら……」

「……ド、さ……」

「あ?」

「リカルドさん!!ラヴィスです!!リーネもこの屋敷にいます!!!……いるなら、出て来て、くださいッ!!!」


 力の限り叫んだ。……情けない真似なのはわかっている。それでも、足は動かず武器もない私に今やれる限りの選択だと思った。よしんばリカルドでなくとも、生き残りに敵の位置を伝えるくらいは出来たと思う。……いればの話だが、最早願うしかない。


「……ハァ……言った側からこれか。仕方ねぇ、痛い目見てもら……」

「リィィィネェェェェッ!!!」

「お、うおぉ!?」


 天井が、爆発した。


「ふ、ふふ……」


 思わず笑いが零れてしまった。


「今のは流石の私もちょっと、引きましたよ」


 天井に……執務室の床に空いた穴から、男が一人飛び降りる。


「嬉しい事を言ってくれるね。もう勝った気分だ」


 煙の中から聞き覚えのある声がしてくる。


「褒めてません。ですが……助かりました、ありがとうございます」


 煙から現れたのは、リーネと同じ、燃えるような髪に赤く煌めく瞳。


「礼を言うのは僕の方だ。部屋から出られるまでもう少し時間がかかると思っていたけど、気合いが入ったよ」


 第七騎士団団長、リカルドが檻から放たれた。


「チッ、散々重ね掛けしたってのにぶち破るかよ……!」


 悪態をつき、ヴィジルは背を向けて走り出した。


「逃がさな……」

「待ってください、リカルドさん。そのまま追うのは危険です」

「……そうだね。何やら不思議な魔法を使うようだし、慎重に行こうか」


 そのままヴィジルは一階へ降りていった。

 そして私達は、反撃の準備を始めた。

シスコンは強い、古事記にもそう書いてある

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