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5 少女は少女を送り出す

 姿を見ることは出来ないが、こちらへ向かってくる足音は聞こえる。

ヴィジルには特に優れた感知能力はなかったはず、やり過ごせるならその方がいい。野放しにすれば他に犠牲者が出るだろうが……リーネには変えられない。

 足音はエントランス中を歩き回り、最後に私達の潜むカウンターのすぐそばで止まった。リーネを離し、いつでも走り出せるように手を取る。……ギッ、と音が聞こえた。カウンターの前方に長椅子があった事を思い出す。座ったのだろうか、そのまま動かなくなった。私だけならいくらでも待てるが……


 リーネを再び抱きしめる。顔色が悪い、限界も近いようだ。それでも動く訳にはいかない。……と思っていたところに、違う音が耳に入って来た。

これは……寝息だろうか。敵地で寝入るとは、度胸があるというかなんというか。


 ともあれまたとないチャンスだ、寝首をかける可能性すら浮上した。まずはリーネをここよりも安全なところへ移動させる。震えるリーネに身振り手振りで移動する事を伝え、私達はカウンターから這い出た。そっと様子を伺うと、長椅子に向こうを向いて横になっている男が見えた。


……やはり214番だ。闇討ちは骨が折れそうだな。

 男の周囲には札を貼られた小物が散らばっている。更に周囲を見渡すと、ところどころに札が見えた。「前を通った者に攻撃する」飾り鎧、「近くに人が来ると爆発する」魔法灯、「抜ける」床、その他諸々。札を隠す気もないのか、見やすいところに堂々と貼っているようだ。読める人間がいないのだから、隠す必要もないのだろう。

 読める私からしてみれば解説つきのトラップハウスのようなものだ。リーネの手を引き、エントランスから脱出した。そのまま離れ、奥まったところにある部屋に入る。


「ラ、ラヴィスぅ……」

「リーネ、ひとまず深呼吸して。……どう?落ち着いた?」

「ん……もう、平気。さっきの寝てた人が悪い人なの?」

「多分ね。私がもう一回見てくるから、リーネはここに」

「ダメっ!」

「……ほんとに危ないんだよ。だから、私に任せて。ね?」

「そんなの余計ダメだよ!ラヴィス、私より弱いもん!」

「私は弱いけど、慣れてるから。リーネ、怖かったでしょ?今はそれが一番危ないの」

「でも、でも……そうだ、行かなくていいよ、ここにいよう?きっとお兄ちゃんが助けに来てくれるから!」


 不安に揺れるリーネの瞳を見ていると、ついお願いを聞いてやりたくなる。だが、駄目だ。

 ヴィジルの目的がわからない以上、何もせずただ待つのは危険だ。それに彼一人では騎士達の消失に説明がつかない。よほどの事があって全員留守にしているか、何者かの能力によるものか。

 恐らく後者だろう。エントランスに罠を仕掛けるだけ仕掛けて自分は動かない様子から、ヴィジルは脱出阻止の番人の役割をしていると考えられる。他に主犯格がいてそれに彼が協力している立場だと見れば、積極性のなさも理解できる。


 私が探りたいのはその主犯格だ。考えが外れているのならそれでいいが、この状況を作り出せる囚人の候補が多すぎる。対策を取らなければ問答無用で能力に引っ掛けてくる者もいる以上、手をこまねいている訳にはいかない。場合によってはリカルドや他の騎士達と合流して逆襲することも期待できる。


「そのリカルドさんも危ない目に合ってるかもしれないんだよ?」

「そんなことないよ……だって、お兄ちゃん強いもん。騎士団長なんだよ?ね、大丈夫だよ」

「リーネ……」

「お願い、ラヴィス、一緒にここにいよう?危ないことしちゃ、やだよ……」

「……リーネ、聞け。ここにいるのは私達だけで、今のところ出ることも入ることも出来ない。待っているだけで助けは来ない」

「え、ラヴィス……?」

「私達が助かる為には私達が動かねばならん。だがリーネ、君はまだ幼い。私と同じことを要求するには酷だ。だから、私が動く」

「幼いって……同じくらいでしょ……?」

「……それもそうだな。では、もう一つの理由だ。私は君を危険に晒したくはない。……私を救ってくれた恩返しだよ。リーネは絶対、私が守るから。私を信じてここで待ってて欲しいな」

「え、あ、あぅ……」


 少し厳しいことを言ってしまったお詫びに安心できるようリーネを抱きしめてみたが、むしろリーネは身を固くしてしまった。……逆効果だったか。難しいものだ。


「じゃあ、行ってくるね。絶対戻って来るから、ちゃんと隠れてるんだよ」

「……ん」


 ……部屋の外に人の気配はない。慎重に部屋を出て、私は再び屋敷の探索を開始した。

平均3000字を目指すつもりだったんですよ。(2000字)

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