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13 少女が託す一本槍

 エントランスへ入り最初に目についたのは、正面扉の前に陣取るつぎはぎだらけの大きな箱だった。箱から構成物が飛び出し、また戻る、その繰り返しで打撃を繰り出している。その物量はまさに嵐の様相を呈していた。リカルドはその嵐のただ中に立ち、全てをいなしている。


「お兄ちゃん、やっぱり凄い……」

「リーネ!?どうして戻って来たんだ!」


 リーネの後ろにいる私に気付き、リカルドは責めるような目を向けて来た。


「すみません、リカルドさん。私が……」

「やめて、ラヴィス。……お兄ちゃん、お願い。私達も何かしたいの」

「ダメだ。リーネにはまだ早い。ここはお兄ちゃんに……」

「チッ、ガキが、すっこんでろ!」

「く、リーネ!早く逃げるんだ!」


 箱の影から顔を出したヴィジルもこちらに気付き、新たに物質の嵐を指し向けてくる。確かにリカルドの言う通り、リーネには荷が重いように思える。だだ、私を守ると言った彼女の言葉を、自信に満ち溢れた彼女の背中を、根拠もなく信じている自分がいた。


「リーネ、来るよ!」

「大丈夫、全部私に任せて!」


 どこからともなく取り出した槍を構えたリーネは、その全てを打ち払った。向けられた物量はリカルドの方よりかなり少なかったが、その動きは眼で追うのもやっとで、明らかに異様な風景がそこにあった。

 リカルドも驚愕の表情でリーネを見ている。やはり普段の彼女とは違うようだ。


「……リー、ネ?今のは……?」

「えっと。秘密の特訓の、成果?かな」

「特訓なんて、いつ……」

「と、とにかく!私は大丈夫だから!……それで、ラヴィス。私はどうしたらいい?」

「あ、えっと……しばらく耐えて貰ってもいいかな……?」

「まっかせて!」


 リーネの様子が何やらおかしいが、呆けている場合ではない。あの箱の突破を考えなければ。


 箱の構成材料はほぼ木材だが、リカルドが起こす爆発による被害をあまり受けていないように見える。高速で飛び回っている為読めはしないが、恐らく「燃えない」「割れない」の他に細かな動きの指示が札に書いてあるのだろう。リカルドの魔法は相性が悪く、正面から近づこうにもそこは体を入れる隙間もないほどの物量だ。


 とはいえ、箱自体をどうにかする方法は単純だ。ジェイの死亡から空間の解除までのタイムラグは前世と同じならば約30分。あの傷では数十秒で意識を失い、そのまま死に至るはず。あれから経った時間は20分と少し、10分もしないで私達は現実に戻る。あの箱はこちらの空間の物質で構成されているのだから、現実に戻れば間違いなく消える。


 現実の方でここまでの仕込みをする時間はなかったはず。要はただ待っていれば勝ち、なのだが。現実のエントランスには未だ処理されていない罠が大量に残っている。それに手間取っている間に札を剥がして外へ出られ、また貼られでもしたら目も当てられない。出来る事なら、この空間で勝負をつけたい。


 一応、突破口は見えている。問題は、失敗すればただでは済まないということ。それと、もう一つ。適任が、彼女であること。


「ラヴィス」

「ごめんね、もう少し待っ……」

「嘘。何かあるんでしょ?」

「え……」

「顔に書いてあるもん。私だよね?どうしたらいい?」

「……」


 ちらっと振り向いただけなのに、簡単に見破られてしまった。そんなにわかりやすかっただろうか。……少なくとも、酷い顔をしているのは確かだ。


「ね、ラヴィス。なんでも言って。私は絶対、応えてみせるから」

「……どうして、そこまでしてくれるの?」


 時間はさほどない。こんな事を聞いている場合でもない。それでも、どうしても、聞きたかった。


「んー……わかんない!」

「わからないって、そんな」

「うーん……さっきまではね、ラヴィスのこと、その……妹っていうか、家族みたいに思ってたんだけど。ラヴィスがいなくなっちゃうかもって思ったら、何か違う気がしたっていうか……とにかく、よくわかんないの!」

「わ、わかったから!前見て、ね?」


 途中から完全にこちらへ顔を向けていたが、どういう訳かしっかり防いでいる。いくらなんでも異常だ。


「やだ。言ってくれないならこのまま続ける」

「何を……」

「さっきからすっごく申し訳なさそうな顔してる。私に何か頼む時はいつもそうだよね、ラヴィス。遠慮しないでって言ってるのに、毎回そんな顔されたら私だって悲しいよ」

「あ……」


 リーネ達には常に後ろめたさを感じている。彼女らへの恩にまだ私は何も返せていないし、返せる物も今はなにもない。そんな状態で遠慮しなくていいと言われても、受け入れがたく思っていた。

 それがリーネは悲しかったのか。リーネは私の事を家族のように想ってくれていたのに、私は自分勝手に距離を取っていた。


 遠慮しない事で想いに応えられるのなら。仮初の妹として、姉を頼る事が許されるのなら。リーネに、託そう。


「……危ないよ。それでも、いい?」

「なんだってするよ。その為に来たんだから」


 不敵な笑みを浮かべるリーネが、今まで見て来た中で何よりも頼もしい存在に思えた。


「わかった。……怪我、しないでね」


 ーーーーーーーーーー


 説明を終え、私は嵐の届かない位置まで下がった。そろそろ現実に戻ってもおかしくない頃合いだ。後は、リーネ次第。


「お兄ちゃーん!」

「なにかなリーネぇ!」

「ちょっと無茶するからー!ごめんなさーい!」

「え、なんだって!?ちょっと待っ……」

「……ここっ!」

「リーネっ!?」


 リカルドの返事も聞かず、彼女は行動を起こした。


 見る限り、飛んでいる物質はそれぞれ一定の軌道を描いて箱との行き来を繰り返している。札の指示に従って、箱のある部分から飛び出し、一定の軌道を描き、元あった場所へ戻る、その繰り返し。軌道が逸らされても元あった場所に必ず戻る。床板等は大量にあって判別は難しいが、それとは違う特殊なものならば見分けるのは難しいことではない。

 目をつけたのは、大きな騎士盾。描く軌跡はやや斜めがかった大回りの楕円形、そして箱へ戻る場所は側面の後ろ寄り。何より頑丈で、持ち手もある。つまりどういうことかと言うと。


「取っ……たぁ!」


 大盾の軌道上に割り込み、持ち手に手をかけるように、リーネは……飛んだ。


 ヴィジルは度々箱の後ろから顔を出して軌道を修正している。こちらからは見えないが、恐らく背面は覆っていないか、あったとしても守りは薄いだろう。予め用意するタイプの能力故に、懐に飛び込んでしまえば自衛は一気に難しくなる。

 問題は他の物質との接触だが、盾の向きを進行方向に変えてしまえばリーネの小さな身体は大盾にすっぽりと収まる。その移行もすんなりといったようだ。大盾はもう帰還場所に迫っている。


「あ?ガキはどこ、に……!?」

「もう、遅いよッ!」


 盾から手を離し勢いに乗って箱の背面に転がり込んだリーネは、ちょうど顔を出したヴィジルに相対した。

 その時だった。嵐が突然立ち消え、箱も消滅し、雑多なエントランスが姿を現したのは。動揺したヴィジルに構わず、リーネは槍を突き出す。


「ッは……い、てぇな、クソ……これで、終わりかよ……」

「あ……」


 槍はヴィジルの残った右肩を貫いていた。最早札を使う事も出来ないだろう。

 ごぼり、と溢れる血を見て、リーネの顔が青ざめている。……無理もない。血を見るのは初めてではないだろうが、自分の手で為したことなどないのだから。

 槍を取り落とし、一歩二歩と後ずさるリーネ。……リカルドには申し訳ないが、今の彼女を支える役目は私が務めたいと思った。


「リーネ」

「あ……ラヴィス……」


 しゃがみこんだリーネの身体を、何も言わずに包み込んだ。……私の腕の中で、小さな肩が震えている。


 後の全てをリカルドに任せ、私はただ彼女に熱を与えていた。

初戦から三人別行動は無謀が過ぎたと反省しております。話の並べ方がわかりませんでした。

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