表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生者と怪魔たち  作者: 魔絵腹
16/20

恋の怪魔騒ぎ(後編)

シィーマははっきりとアマネと目を合わせて言った。


「私は…貴女が好きです。…貴女に婚約者がいることも分かっています。…それは平民である私には到底変えられない事実であることも…」


シィーマの言葉に対し、ただじっと聞いていたアマネは言った。


「…では何故今こうして打ち明けている?」

「ある老人が言っていました。今の自分の気持ちを伝えないと一生後悔すると。」


シィーマは自分の気持ちを伝えるたびに震えていた声が徐々にはっきりした声になっていった。


「…ですから伝えます。こんなに弱い私でも容赦せず、真剣に剣術を教えてくれる姿も、子供たちに優しく微笑んでくれる姿も、すこし不器用なところも、全てが大好きです。」


そう告白した後、しばらくの間静寂が続き、そして天音が口を開いた。


「…お前の気持ちが本気であることは十分に伝わった。…だが、わたしは…」

「いえ、先ほども言った通り分かっていますよ。たとえ言ったとしても私が報われないことは…正直、自分の気持ちを伝えるのは怖かったです。それでも、お爺さんに言われたことを思うと言わずにはいられなかったんです。」

「言わなかったら一生後悔する…か。」


そういうとシィーマは大きく鼻で息を吐いた。

そして再びシィーマはアマネに少しだけ身体を震わせながらも微笑んで言った。


「あともう一つ伝えたいことがあります…アマネ教官、幸せになってください。私は貴女が幸せになるのなら、私も幸せです。」

「シィーマ…」


シィーマの瞳にはいつのまにか瞳に涙がこぼれ落ち、声はえづいていた。


「僕の告白を聞いてくれて…本当にっ!ありがとございました。…失礼します!!」

「おいシィーマ!!」


シィーマは瞳にうっすらと涙を浮かべながらその場を走り去って行った。


そして、修練場から少し離れた建物の影

そこには怪魔2体と転生者2体が一連の流れを見守っていた。

そして怪魔2体は涙ぐんでいた。


「くううっ…シィーマくん…」

「彼は…彼はよく頑張ったわよねぇ!ねぇあなた方たち!!」

「おっおう。」

「…でも結構辛いなぁ。あぁいうの見ると。」


そして、結婚式当当日。

結婚式は当初はホセポートの街で行われようとしていたが、謎の魔族2体侵入事件により、未だに街は怪魔捜索のために封鎖状態であり、

もし魔族が未だに街に潜伏していたら花嫁になるアマネを傷つけるかもしれない

とホスルノの希望によりラボールの街で行われることになった。

ラボールとホセポートの街はそんなに距離はないものの、一応まだ怪魔以外の魔物自体はあらわれることと、件の事件によって馬車で移動した。

ラボールの街の教会はホセポートのところと比べると小さく古いものの、教会自体はしっかりと整備され、綺麗な状態を保っていた。

そして教会内部では道中、多くの騎士に厳重に守られながらラボールの街にやってきたホスルノがアマネがいる部屋の前にまで来て、ドアの前にいる執事服を着た老人と話していた。


「アマネさんの使用人ですね?アマネさんに挨拶したいので、部屋に入ってもいいかい?」

「いえいえホスルノ様。せっかくの花嫁姿は式場で…」


するとドアの向こう側からアマネが声を出した。


「いや、別にいい。それに私はまだ着替えていないからな。」

「そうですか。…失礼いたしました。それでは…」


そして老人は部屋のドアを開けるとそこには鎧姿ではなく、水色のドレスをきたアマネが静かに座っていた。


「アマネさん久しぶりですね。…もう何日いえ、何週間あっていないのでしょうか?」

「あぁ…久しいなホスルノ。そういや何していたんだ?変な魔族が街に侵入にしていて大変なのは分かっていたが、それ以前には何を。」

「少し、結婚式に向けての準備を…と思ってね。まぁでも、言ったとおり妙な魔物2体が街に侵入したと聞いてそこからもう大混乱だよ。せっかくの準備がほとんど無駄になったし、僕の領民達は街から出られなくて参加できないし…まぁ君と式をあげられるんだ。これ以上ぐちぐち言うのは無粋だしね。…あと一つ、貴女に伝えたいことがあったんだ。」


するとホスルノはアマネの前に膝をついて


「…僕をここまで人間的に成長させてくれてありがとう、アマネ。」


そう言うとアマネは優しく微笑みながら言った。


「いや。それはお前の根がそうなのだろう。ただそれが子供の時に貴族の傲慢な考え方を知り過ぎてそれを受けすぎてしまっただけ、私はそれを鍛え直したまでだ。…ほら。もう着替えなければ、式に間に合わなくなるぞ。」


そしてホスルノは微笑み返した。


「そうだね。まだまだ君には聞かせたいことが山ほどあるけど…それはまた、式が終わってからにしよう。…僕も君の綺麗な花嫁姿を見たいしね。」


そういうとホスルノは一礼して部屋を出て行った。


ホスルノが出て行った後、アマネは考えていた。

無論、シィーマのことである。

彼はアマネの言い分も聞かず、ただ自分勝手に次々と自分の心中を話して行った。

そんな彼に私は次からどう接して良いのだろうか?

そのことについての説教は最初にするとしても…

彼は幸せになってくださいと言っていたが、あの涙は…


「いや、いつまでも引きずってはいられない。それはあいつの思いを裏切る行為だ。」


アマネはそう自分に言い聞かせるようにそう言い切った。


今回の結婚式は貴族同士、例の怪魔騒動、そして教会自体小さいという事情が重なり、教会内はアマネとホスルノの家族、五年以上仕えている使用人とその教会の神父だけが教会に入ることを許されていた。

そして教会の外へ出る扉から馬車へと続くカーペットが敷かれていてその周りにはアマネとホスルノの騎士が厳重に警戒している状態であり、そして2人が扉から出て馬車に乗るまでの瞬間を騎士の隙間から見ようと教会前には人だかりが出来ていた。

そしてその中にはシィーマとその隣には老人に化けたゴーメグア、そして何故かメドラマンガーとアズマ、アカルまでその様子を見ていた。

シィーマはただひたすら教会の前の扉をじっと見つめていた。

そして扉を見つめるその表情は真顔であったが目つきだけはまるで剣の鍛錬を行っているかのようだった。


「…で、ちゃんと気持ちは伝えたのか?」


そんな中唐突に隣の老人が話しかけてきた。

その言葉にシィーマは振り向かなかったものの、老人と話す時とおなじながらもどこか悲しげな声で返事をした。


「……はい。…多分全部伝え切った…と自分では思っています…。」

「…そうか…。」


その答えに対し、老人はただそう答えただけに終わった。

その時、教会の扉が開き、ホスルノとアマネが姿を現した。

ホスルノとアマネの表情は教会に集まった皆に祝福の言葉をかけられ、それに応えるかのように優しく手を振って歩いていた。

そしてその中でアマネは一瞬だけその人だかりの中にいたシィーマとほんのわずかながら目を見合っていたがすぐに他の人たちの方へと振り向いた。

それに対しシィーマは何も動揺もなく、ただアマネの方をじっと、馬車に乗り込み、去っていくまで見つめていた。

そして周りの皆が馬車が去った後でも去った方向へ祝福の声を浴びせ続けるなか、シィーマはその場を離れようとしていた。


「くどいようだが…本当に後悔は無いか?」

「…はい。」


去っていくシィーマに向かい、彼の姿を見ずにそう老人は言うと彼はただそう切なさを噛み締めるように答えた。


「ねぇアズマ。これでよかったのかな?」

「…こればかりは俺たちが口を挟むことはできないしすることもできない。第一これはこいつらから今知ったばっかのことだしな。」

「まぁこれもまた一つの恋の結末ってことよ。…私としては非常に残念だけど。」


遠回しで彼らを見ていた転生者2人と怪魔1匹はそう言った。



そして数日後、やっとホセポートの封鎖が解け、アズマとアカルの2人はホセポートの街についた。


「はぁ〜…やっとホセポートの街へ行けるよ…」

「まさかこんなところで数日間もここらに縛られることになろうとはなぁ…」


2人はうんざりした様子で項垂れながらおじいさんを探しに街のを歩いているとふと、アズマが街の路地裏をチラッと見た。

するとそこには2人のガタイのいい男が何やらひそひそと話をしていた。


「アズマどうしたの?」

「いや…何か怪しい奴らがそこにいて…」


アズマとアカルは路地裏の入り口の横に立ち、その男たちの会話をよく凝らしながら聞いた。


その日の夜、ホスルノはアマネを街から出た森にたまには外で剣の稽古をしたいと誘い込んだ。

2人はすでに夫婦の関係ではあるものの、それでも剣の稽古は「疎かにすると忘れてしまうし、君と共にした方が腕も上がる」と言って変わらず続けていたため、アマネはとりあえず森までついて行ったが当然その言葉に疑問を持った。


「なぜ急に森で稽古をしたいなんて言ったんだ?稽古なら屋敷の庭でもやれるだろう?」

「いや、屋敷とは違うところでやった方が何か新しい発見があるかもしれないしね。…ほら。私の使用人に頼んでここに新しい稽古場を作ってもらっていたんだ。」


森をある程度まで進むとそこには不自然に木々がない空間が広がっていた。


「さぁ!早速始めようじゃないか!色々試したいこともあるしね!」


ホスルノは稽古場の真ん中に立つと咄嗟にウキウキしながら修行用の木刀を抜き、木刀を構えた。

そしてアマネもそれに答えるかのように木刀を抜いた。


「ああ…そうだな。早速始めることにしよう。」


そしてアマネも木刀を構え深く深呼吸した後、ホスルノに声をかけた。



「さあ、今日も始める…」


その時、アマネがそう言い終える前に突然背後から大柄の騎士が2人飛び出しアマネの体に飛びかかってきた。その突然のことにアマネは対応しきれず、そのまま押し倒され、体を押さえつけられた。

そしてその騎士達をよく見てみるとそれはホスルノに属する騎士達だった。


「なっ…!?お前たち一体何を…!?」

「…はっはっはっ!!流石に突然とはいえ、油断しすぎじゃないかいアマネ?」


その様子を見てホスルノは馬鹿にするように笑った。


「おいホスルノ…!?これは一体!」

「あのさぁ…この際だからはっきり言うけど君のこと、しつこいと感じていたんだよねぇ。僕の生活にいちいちケチつけるしさぁ。なんだったっけ?"お前は女遊びがいくらなんでも酷すぎる"…だったかな?言っとくけど僕は彼女達に夢を与えてるだけだぜ?なんたって、平民である彼女たちに貴族である僕と付き合えるんだからな。」


そう言ってホスルノは剣をぶら下げながらアマネの前にまで近づいた。


「そんな僕にいきなり剣の稽古だなんだで滅多うちにされるのはまったくもって理不尽だとは思わないかい?それに将来の夫に対してさぁ、家同士の赦しがあったとはいえあんなに厳しくする必要性は無いんじゃないかな?まぁそのおかげで僕の剣の腕は上がったけど、君への憎しみもどんどん増えていったんだよ。いやまったく、ようやくこの時が来たと思うと笑いが止まらないね!あっはっはっはっ!!!」


ホスルノは彼女を見下しながら高笑いをし、その様子をアマネは歯を食いしばりながらホスルノを睨んだ。


「ホスルノ!いったい私に何をする気だ!?」

「あぁ安心して、君を殺すわけではないさ。なんたって僕の妻だからね。…実は最近この近くの山賊達を僕の騎士として就職させていてね。体格はいいやつばっかりで頼もしいけど働きっぱなしだから色々溜まっていてね、だから君には僕の騎士達の相手をして欲しいのさ。」


そういうと森から数十人のホスルノの騎士達が姿を現した。

そしてその騎士達はどれもアマネを鼻息を荒くしながらじっと見つめていた。


「ホスルノ…お前は…」

「さぁそろそろ時間だ。騎士達にもこれ以上もどかしい思いはさせたくは無いからね。」


そのとき、1人の男がホスルノの背後から現れ木刀を振り下ろした。、


「うわああああっ!!」

「シィーマ!?」


そしてその木刀をホスルノは後ろを振り向くことなく横に避けた。

そしてそのシィーマに対し、何もなかったかのように接した。


「…見たところ平民のようだけどどうしたのかな?これは夫婦の問題なんだ。君が首を突っ込む余地なんてないけど…いや、君も一緒に」

「うるさい!その人を今すぐに解放しろ!」


ホスルノの言葉にシィーマは大きく叫んだ。

シィーマの目はホスルノに対する怒りに燃えていた。


「ふぅ…せっかく貴族である僕が穏便に済ませようとしてるのに無駄のようだね。…まぁ僕の出る幕ではないかな。騎士達には少々残念だけどもう少し頑張ってもらおうか。」


そういうとホスルノは森から出てきた何人かの騎士達に囲まれた。


「まっ待てホスルノ!そいつは私の教え子なんだ!」

「だからどうしたというんだい?彼は貴族同士の問題に首を突っ込んだ上に僕に襲いかかってきた。その上穏便に済まそうとした僕の慈悲をも無駄にした。…こうなるのは当然だと思うけど。じゃあ早く済ませてくれよ。」


そして騎士達はシィーマに襲い掛かった。


あれから数分が経ち、騎士達の1、2人は倒れていたが、シィーマのほうがボロボロで目は白目を向いて足は大きく震え立っているのもやっとの状態であった。

そして騎士の1人の攻撃を避けると同時にホスルノの身体は限界を迎えその場で倒れてしまった。


そしてその様子をアマネは見ることしかできない自分に悔しさを感じながら歯軋りし、ホスルノはつまらなそうな目で見ていた。

そしてふと倒れているシィーマにホスルノは呼びかけた。


「君はなんでそんなに粘るんだい?騎士達に襲われた時点で逃げてしまえば良かったのに。」

「それは…」

「…あぁなるほどね…そういうことか…」


そしてその様子を見てホスルノは何かを察すると何人かの騎士に命じてシィーマを取り押さえた。


「あぐっ!」

「シィーマ!!」


「では君にはとっておきのショーを見せてあげよう!しっかり目に焼けつけて楽しんでおくれ!」

「やっやめろおぉぉぉぉ!!!」

「…!!」


アマネは目を食いしばるしかなかった。

騎士の1人がアマネの鎧を脱がそうとした時、突然その騎士が頭から横に大きく吹き飛ばされた。

そしてそこ背後から


「ゴーメグアァァァァ!!」


怪魔が1体姿を現した。



少し前

アズマとアカルは急いでラボールの街まで戻って来た。

そして2人は怪魔にシィーマの居場所を聞くとすぐにシィーマのいるところまで行った。


「あっあの!シィーマさんですよね!!」

「えっ?あっ、はい。」

「端的に話しますとこのままだとアマネさんが大変なことになります!」

「…えっ!?あのどういうことですか!?」


アズマとアカルがホセポードの街の路地裏で2日後ホスルノの指示のもと、アマネを複数の騎士達に襲わせるという話を怪しい男たちが話していたのを聞いていた。

そしてその男達こそがホスルノに仕える騎士達であった。


その話をシィーマは汗を静かに流しながら切羽詰まった表情で聞いていた。


「あの!それはどこで…」

「えっと、たしかホセポードの近くの森で…あっちょっと!!」


それを聞くとシィーマはすぐにホセポードの街まで走っていった。


「ねぇアズマ!僕たちどうしたらいいかな!?」

「くそっ!!どうしたら…」


2人は悩んでいるととある老人がこちらに向かって走って来た。

それはやはり老人に化けたゴーメグアであった。

そして老人の背後に女騎士に化けたメドラマンガーが現れた。


「おい転生者共!!今の話は本当なのか!?」

「うわぁっ!?かっ怪魔!?」

「…今の話が本当ならあなた達とは一時休戦しないといけないわね。」

「何か作戦でもあるのか?」

「かなり大雑把で上手くいくとは限らないけど、とにかく何とかしないといけないわ。…あなた達がいたらいけるかも知れないけれども…」

「僕は賛成だけどアズマはどうする?」

「…殺しは無しだぞ。」

「分かってる。で…いや分かってるわよね?」

「おうよ!!」


そして現在に至る。


「ゴオォッ!ゴオオオオオオ!!!」


ゴーメグアはアマネを取り押さえていた騎士達をもハサミで吹き飛ばし、そのハサミでアマネ取り押さえた。


「こっこいつはホセポードに現れた…取り押さえろ!!」


怪魔ゴーメグアに騎士達は一斉に向かって行った。

元山賊達とはいえ、剣の訓練自体は毎日行なっており、剣の腕自体は他の騎士達とも大差なかった。


「ウィンド・マシンガン!!」


ゴーメグアの人の手の部分から風の魔力の玉を連射し、襲ってくる騎士達を次々と吹き飛ばした。


「怯むな!!せっかくの準備を…」

「ウィンド・マシンガン!!!」


そしてホスルノに対しゴーメグアは怒りを込めて魔術を集中的にぶっ放し、ホスルノをお手玉のように格闘ゲームのハメ技のように反撃すらさせず次々と攻撃して行った。


「たっ退却!退却!!」


そしてそのあまりの攻撃の苛烈さにホスルノはアマネを置いて騎士達と共に退却して行った。

「ゴオォ…ゴオォ…」

「ぐっ…まさかこんなところで…」

取り残されたアマネは未だにゴーメグアのハサミで取り押さえられていた。

ゴーメグアはただアマネの様子をじっと見ていた。

そしてその傍ら、シィーマは木刀に体を支えながら体も起こすと

「うおおおおおおおお!!!」

その怪魔に向かって思いっきり木刀を振り下ろした。


「ゴオオオオオオッ!!!」


掘り下ろされた木刀はそのままゴーメグアの額に思いっきり振り落とされ、ゴーメグアは雄叫びを上げながら頭を押さえながらそのまま森の奥へと逃げて行った。

そしてシィーマはそのまま事切れるかのように倒れてしまった。


そしてホスルノ達が逃げた先には

「報告があった貴族暴行現場はここか!?」

女騎士に化けたメドラマンガーとその背後にアマネに仕える騎士達が姿を現し、ホスルノの騎士達を次々と取り押さえていった。

そしてアマネに仕える騎士達の背後には転生者2人にアマネとホスルノの親の姿もあった。


「お…お父様…」

「件の勇者達の話を聞いた時には流石に疑問に思ったが、まさか…」

「…残念だホスルノ、お前には良き婿になってくれると思っていたのだかな。」

「いや今はそれどころじゃ…」

「まぁ良い。話は屋敷でしっかりと聞こうではないか。」


ホスルノの父は指を鳴らすとそばにいた騎士達がホスルノの両腕も持って父と共に馬車に乗っていかれた。


「勇者達と名も知れぬ女騎士よ。報告してくれたことに感謝したい。…ところで我が娘は?」


そう言った矢先森の先から傷だらけになったシィーマを背負ったアマネが姿を現した。


「おぉ!可愛い娘よ!!…その子はいったい…?」

「彼は私の教え子であり…命の恩人でもあります。私が騎士達に襲われた時も、突然現れた怪物にも率先して私の為に助けてくれました。」

「そうか…その子は私の屋敷で休ませよう。馬車に乗りなさい。」


そういうとアマネは馬車に乗る前に女騎士と転生者に一礼して馬車に乗り込んだ。

そしてしばらくするとシィーマに思いっきり木刀で殴られた痕がついたものの満足そうな表情をしたゴーメグアが姿を現した。

アズマとメドラマンガーがホセポードの街、アカルがラボールの街へ行き、話にあった計画をアマネ、ホスルノの両親に話して騎士達に協力できるようにさせ、そしてゴーメグアが先に森に潜伏し、時が来たらホスルノ達を殺さずに逃げるように仕向けさせ、一網打尽にすることであった。


あまりに即興で考えた作戦なため、上手くいくとは思わず、最悪怪魔2体がそのままホスルノ達に襲いかかり転生者が助けるという流れに行こうとも考えていたが、思いのほか貴族達の理解が良かったことと、先に逃げた騎士達が偶然ここに逃げ込み、一切合切話をしたことが功を奏して奇跡的に上手く行った。


「いやー…あいつの彼女に対する愛を感じたまさしく重い、いや思い一撃だった。ほーんと見守り続けて良かったよ…」

「作戦は無事に成功ね。…それとあなた達もありがとね。色々協力してもらって。」

「いやぁ別に…」

「一応終わったが…お前らはこれからどうするんだ?」

「流石に宿へ戻る。いい加減疲れたし、まだちょっと気になるしな。」

「じゃあお疲れさーん。」


そういうと怪魔2体はラボールの街の方向へ向かって行った。


「で、僕たちはどうする?」

「一通り終わったが油断できないな…奴らの後を追うようにしよう。」


彼らは怪魔2体の後をついて行った。

だが結局彼らはそのままラボールの街の宿にまで行き、そのままアズマとアカルも宿へ泊まった。

ちなみに部屋はまた隣同士であった。

アズマはベットに倒れ込むと大きくため息を吐いた


「ハァーッ…疲れた。…結局マジで戻っただけだっな。」

「まさか本当に何もなく宿に泊まるとはね…」

「…結婚かぁ…」

「ん?なになに?もしかしてアズマもちょっとちょっと考えてるぅ〜?」

  

そういうとアカルはアマネが寝ているベットの側面に座った。


「いや将来について考えただけだよ。…俺達はもし魔王を倒したらどうなるのかなって思って。」

「どうなるってそりゃあ僕たちは勇者として…」

「だからと言ってチヤホヤされるだけじゃないだろ?今は魔王を倒さなきゃいけないけど、その後の生活とか…」

「まぁどうしたってねぇ。


アカルは仰向けに寝ているアズマに胸に顔を埋め抱きしめた。


「うおぉっ!?」

「僕はアズマのそばを離れないけどねー」


そう言ってアカルはアズマの少しだけ膨らんでいる胸の感触を顔の肌で楽しんでいた。


「おっおい!あまり調子に…」

「…スースー」


そしていつの間にかアカルはアズマの胸を枕にしながら眠りについた。

そしてその様子を見てアズマは顔を赤らめながら仕方がないと言った感じでそのまま眠りについた。

こうして女装、男装をした男女転生者の一日が終えた。


「…!!!!」

「まさかまさかまさかまさか!?」


壁に耳を当てて一連のやり取りを聞いた怪魔2体はその日眠ることができなかった。


そして翌日、ホセポードの街に怪魔が再び現れたということと、一連の事件からホセポードの街は再び閉鎖状態になり、アズマとアカルはさらに数日待たされることとなったが何とかホセポードの街にいる祠の鍵を持っている人に事情を説明し鍵を入手し、宝玉がある洞窟へ向かっていた。


ちなみにあの後ホスルノはどうやら自分の誘いに乗らなかった女性に対してアマネと同じことをやっていたらしく、かなりの大問題になり、アマネとの婚約も取り消しとなった。

そしてアマネとシィーマの方はシィーマはアマネの親に娘を助けてくれたお礼をしたいと言った後、シィーマは彼女と結婚する権利をくださいとはっきり言ってアマネ家を呆然とさせ、アマネは恥ずかしさのあまり両親すら見たこともないくらいに顔を赤らめた。

権利をくださいと言ったのは自分がもっと彼女に相応しい男として成長するまでは彼女とは付き合えないということらしい。

アマネはあの後自分勝手が過ぎるとシィーマに対し大説教もかましたが最後に

「…言ったからにはそのふさわしい男になるまでしっかりしごいてやるから覚悟しろ。」

と言い、シィーマは元気よく答えた。


そして洞窟が見えた時、怪魔2体が彼らの前に現れた。


「…結局戦うの?」

「無論。あたし達はこのために呼ばれたんだから。」

「それはそれとして昨日の夜はごちそうさまです!!」

「…何がだぁ!!!」


アズマは顔を赤らめて怪魔2体に襲い掛かった。



「何か今までで一番彼らの足止めに成功してますねぇ。やり方にはもはやツッコミませぬが。」

「まぁ我々そういうところありますから…ところで魔王様は?」

「魔王様はどうやら自室で瞑想して自身の魔力を溜めておられる様子で…」


ところ変わってここは魔王城。

魔王の側近クモジィとモニター越しのコーンヤーントが千里眼の水晶玉で彼らの動向を監視していた。

その時突然後ろから魔王レディ・サタンが現れた。


「おいクモジィ!転生者共は来たか!?」

「いや魔王様。今は6つ目の宝玉の洞窟の前で怪魔共が…あっやられた。」

「ということは…今6つ目の宝玉を入手する直前ですねぇ。」

「……私の予想では今頃来てると思ったのだが思いの外、足止めしてくれたようだな。」

「まぁ今回は色々と…ところで私が言うのもなんですがよくウチとの契約切りませんねぇ。」

「本当にそうだな…まぁなんだかんだいっても今のところお前らしか頼みの綱はないからな…それに今回みたいになんかかなりの日数まで足止めもしてくれたし…」

「魔王様、そうは言っても結局宝玉は彼らの手に渡り、いよいよ最後の一つとなりましたぞ。あれが揃ってしまえばこの強力な結界も破られ、我らの城に兵士や勇者達が攻め込んできてしまいます。」

「だからこそ私は今鍛えているのだ…ということでだ、奴らが私のところにたどり着く最後までお前らをこき使ってやるから覚悟しておけ。」

「それはもう。金さえ頂ければ我々は最後、いや本当に最後まで付き合わせていただきますよ。」


その返事を聞くと魔王は再び自室へ戻って行った。


次回、蟲

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ