恋の怪魔騒ぎ(前半)
ミーナらから宝玉を受け取った2人は怪魔の刺客を退け、6つ目の宝玉のある祠への洞窟へ向かおうとする途中、彼らはラボールの街に寄っていた。
ラボールの街はとても大きな街並みであり有名な騎士の養成所が有名であった。
「それにしても襲ってくる怪魔の刺客も段々と強くなってきてるなぁ。」
「刺客だけでなく元々いる魔物も襲ってくるしな。怪魔どもよりかはマシだけだけども。」
彼らはラボールの街の宿屋の受付を終えて自分たちの部屋へ行こうとしている最中だった。
「ハァ〜…神様と約束したとはいえ、こんなに苦労するとは思わなかったなぁ…」
「まぁ元々命のやり取りをするわけだしな。魔王もやられまいと怪魔どもを使っているわけだし簡単にはいかないだろうよ。」
そしてアズマは部屋のドアを開けた。
そしてドアの先には
2つのツノが生え、口に虫の顎のようなものがついて三つ目であり、4つの腕がはえそのうちの2本は手がハサミ、2本が人の手になっており、鎧を着ていた足がゾウのような
魔獣が姿を現した。
「あっすいませんここ俺たちの部屋です。」
「あぁっすいません。」
「アズマアズマ!こっちじゃなくて隣の部屋だよ。」
「あぁあぁまっ、気をつけてね。」
「すいません失礼します。」
そして2人はドアを閉め、自分達の部屋へ入った。
「「ああああああああ!!!!」」
そして2人はすぐに先ほどの部屋へ入った。
部屋にはベットに腰かけた先ほどの魔獣と窓をじっと望遠鏡のようなもので見渡している女戦士のような怪魔がいた。
「なんだなんだいきなり…てよく見たら転生者どもぉ!?」
「お前たちこんなところで何している!?」
「まさかこの街にすでに宝玉が!」
「静かにして。転生者2人、ゴーメグア。」
窓から何かを覗いていた女戦士のような人物が2人の方へと向いた。
「あたしの名は女戦士の怪魔、メドラマンガー。そしてこっちは怪魔獣ゴーメグア。言っとくけど、あたし達は今宝玉なんて狙ってないわ。」
「そうそう、俺たちは今宝玉よりももっと価値のあるもんを見守ってるからな。」
「宝玉より…価値のあるもの?」
「まさか直接魔王を倒すアイテムが」
「「いやいやいや違う違う。」」
2匹の怪魔は手を横に振り、2人の転生者を窓に引き込んだ。
「ほらこれ、これであそこを覗いてみろ。」
「あれって…騎士の野外練習場?」
「それでほら!あの2人だあの2人!」
そこには顔に傷だらけで目が鋭く、凛々しい顔をして銀色の鎧をきた女戦士が細身でまだ幼い顔をした新米らしき騎士の剣術を指導していた。
「えっと…あの2人は?」
「あの養成所の講師の1人であるアマネという女騎士、25歳とこの養成所に入ったばかりのシィーマという男、16歳だ。」
「…で、あの2人がなんだ?」
「どうやらあのシィーマという男、アマネに恋をしているらしい。」
「…でなんだ?」
「あの養成所のシステムは知っているか?訓練生1人1人にそれぞれ個別の講師がつくんだ。まぁお前たちの世界でいう車の学校に近いな。それであの女騎士の訓練は特に厳しく、途中で断念する奴がほとんどで今はあの男だけ続けているらしい。…でもしやと思ってあの男に話しかけたらやっぱりあの講師に恋をしているらしい。」
「話しかけた!?」
「あぁいや。ちゃんと変化魔術をかけてからだぞ?…さっきはつい宿屋にいたせいでかけ忘れていたが。」
「ついでに、あの女騎士どうやらこの街の貴族の娘って話だ。そしてあの少年は普通の家出身…身分違いの恋ってことだ。」
「で、あたし達はそれを見守っているてわけ。」
「…あの2人に何かあるのか?」
「「いや萌えるじゃん。」」
「「……………はい?」」
しばらく部屋に沈黙が続いた。
そしてその沈黙をアズマが破った。
「萌えるって…なんだ?」
「いやそれはお前らのほうがよく知ってると思うが…俺たち2人はな、ああいう恋が実りそうな2人をみるとつい心が豊かになってくっつけさせたいと思ってその恋を手伝ってしまうのさ。」
「………つまりお前らは何がしたいんだ?」
「まぁあたし達はあの2人が最終的にイチャつくように見守り、手助けをしてるわけ。」
「そっ…それだけ?」
「俺たちにとっては宝玉よりも大切なことだからな。…そろそろあいつの休憩時間になるな。」
するとゴーメグアはぶつぶつと何かを唱えると老人の姿に変化した。
そして老人と化したゴーメグアは外へ出ようとした。
「…おいどこへ行くつもりだ?」
「なに、少々あいつと世間話でも…ね。」
そしてそのまま外へと出て行った。
「ちなみに本当に世間話だけよ。言っとくけど。心配ならついて行ってもいいわ。私は残るけど。」
「…おいどうする?」
「う〜ん…アズマはそこで待ってて。僕が行っとくから!」
「そう、あの男はいつもここから見えるベンチで休んでるから。」
そしてアカルはゴーメグアの後を追って外へ出て行き、その部屋にはアズマとメドラマンガーだけが残った。
「…監視のつもりかしら?本当になにもしないわよ。」
「本来俺たちを狙っている連中の言うことを信じると思ってんのか?…いやまぁあの街のこともあるけど。」
「ま、それもそうね。…お茶でも飲む?」
場所は変わって騎士の養成所。
その一角でアマネはシィーマに厳しく指導されていた。
そんな時、養成所の建物についてる鐘が大きく響いた。これは養成所における休憩の合図である。
「よし!一旦休憩に入るぞ!」
「はっはい!」
養成所で休憩の時間に入ったシィーマは近くの腰掛けに座り、腰掛けに置いてあった水を飲んだ後深く深呼吸をした。
そしてそこにある老人が近づいてきた。
「おーう。今日も頑張っておるなぁ。」
「あっゴメさん。こんにちは。」
老人が近づくとシィーマは親しげに挨拶をし、ゴメと名乗る老人は彼の隣に座った。
ちなみにこの老人の正体は先ほど出て行ったゴーメグアが変身した姿である。
「ふぅむ、あれからさらに筋肉がついたような気がするのぅ。」
「いえいえ。自分なんてまだまだこれからですよ。」
そして老人は水を飲もうとしたシィーマに顔を一気に近づけた。
「…で?それからあの女教官との仲はどうじゃあ?」
そしてシィーマはすこしだけ飲んでいた水を吹き出した。
「えっ…いやいや。そんな、あれから仲なんて…それに僕自身が…」
「なーにをいっとる?最近あの女教官と一緒に旅行に行ったと言ってたじゃろうに。」
「だからそれは合宿訓練のことですよ!僕以外が抜けてたから必然的に2人になってただけですって!!」
「いやだからこそ何かがあったじゃろう?そういうのって大抵なんか起こるぞ。」
「起こるぞって何がですか…そういえば魔物と戦うこと前提の合宿って話なのに魔物に一体も遭遇しなかったなぁ。魔王軍の力が弱まったとはいえいまだに魔王が存在しているのに…」
(…流石に過保護すぎたか…)
怪魔2匹は当然のように合宿までついて行き、合宿道中の魔物達を説得等の方法で襲わない、会わないようにに根回しをしていた。
(本当に世間話しているだけだなぁ…)
訓練所の近くで怪魔の様子をアカルがこっそりと覗いていたが本当に世間話しているだけだったので何も起きないと安堵するも呆れている等複雑な心境になった。
「……それに、アマネ教官はあと3日後に結婚しますし…」
「…………………何?」
シィーマの突然のカミングアウトでほのぼのとした雰囲気が緊迫した雰囲気へと一変した。
「それは……相手は……」
「お爺さんはこの街からずっと先に大きな港がある街、ホセポートの街を知っていますか?あそこの貴族様のご子息であるテティン=ホスルノ様とですよ。…聞いた話によるとアマネ教官のご先祖様はホスルノ様のご先祖様とまるで親族のように親密・対等な関係で代々支え合ってきた仲…ということらしく必ず互いの家の子供と結婚させるんですよ。」
「まじか…」
その老人が目を充血させ、見開きながらシィーマを見つめていた。
「待って待って待ってなぁお前!、それには知っていたのか?」
「…最近知ってしまいましたよ。合宿の時にアマネ教官が話してくれたんです。さっきのことだけでなく、詳細なことも…」
シィーマの話によるとアマネはホスルノの剣の稽古もしておりその稽古は厳しいものであるが親は了承済みである。
なぜならホスルノは親が幼少期かなり甘えさせてしまったせいで性格はかなりわがままで女遊びが激しくなってしまったためその性格を矯正させるために修練場で行っている時と同じように稽古を受けさせていたという。
両者の家は元々対等な関係でもあり、その親から頼まれていたこともありかなり容赦がなかったという。
ただその厳しい稽古が身を結び、女好きは治らなかったものの、今では女遊びはなくなりかなり礼儀正しい性格になり、そしてホスルノは元々剣の才能はかなりあったらしく、今ではアマネ以上に剣を使いこなしているという。
そしてそれをその老人と、ついでにそれをこっそり見ていたアカルは瞬きを忘れるほど聞き入っていた。
「僕はこれを知ったうえで教官に恋をしていたんです…おかしいですよね?元から敵わない恋にこんなにしがみついて…」
「おかしくなんかねぇ!!!」
俯いていたシィーマの両肩にその老人は泣きながら力強い勢いで両手を置いた。
「ちっともおかしくなんかねぇ!!むしろすげぇよ!その願いが叶わなくなる瞬間が来るまで自分の恋に一周懸命になってるお前に俺は猛烈に感動している!!まさしく尊み全開だぁ!!涙が…涙が止まらねぇ!!!!」
「あっあのゴメさん?」
「…俺はどうしたって部外者だ。簡単に問題に突っ込むワケにはいかない…だがお前に一つだけ言えることがある。お前の教官が結婚する前の日に告白しろ。」
「えっ…?」
「えっ…じゃない!お前もどうせ実らない恋だってんのは分かったんだろ?だったらせめて最後に自分の気持ちを伝えておけ!じゃねぇとお前は一生後悔することになるぞ!!!」
「えっ…ちょっ…あの…」
そこで修練場の鐘がなった。その鐘は休憩が終わる5分前の合図である。
そして鐘が響き音で老人は落ち着きを取り戻した。
「…すまん熱くなりすぎた。これはお前の問題だからな、俺がどうこう言える立場じゃねぇ。…ただ、さっきも言ったとおり自分の気持ちを伝えないと一生後悔することになる。それは頭の片隅に入れていて欲しい。…それじゃあの。」
ほぼ素がでていた老人に化けていたゴーメグアは最後だけお爺さんっぽい口調でその場をゆっくりと去った。
しばらくして老人は後ろを振り向いてシィーマが修練場に行ったことを確認するとすぐに老人の姿のまま、ダッシュで相方の怪魔がいる宿へ戻って行った。
「うわぁ!急に走るなぁ!!」
そしてそれを見たアカルもすぐに宿へ戻っていった。
そして再び場面は宿屋に移る。
そこには全力ダッシュで帰ってきたゴーメグアがメドラマンガーに状況を興奮した様子で伝えていた。
「見たか聞いたか!?あいつの衝撃カミングアウト!!」
「見たわよ…とんでもなく厄介なことになったようね…」
最もメドラマンガーも望遠鏡で覗いていて、ゴーメグアに着けた盗聴器で会話を聴いていたのですでに知ってはいるのだが。
怪魔達の白熱している会話を出されたお茶を飲みながら椅子に座ってるアズマがしばらく見ているとドアが力なく開いた。そしてそこには全身汗だらけのアカルがいた。
「ハァッ…ハァッ…ただいまアカル…」
「お帰りアズマ。早速だが回復の石さわるか?」
「うんありがと…あれ?なんでお茶飲んでんの?」
「いやまぁちょっと…ところであの慌てっぷりはなんだ?こっちの怪魔もかなり慌てていたが(えっ!?ちょっ!?マジィッ!?)ばっか言ってて何が起きてるか全く分からんかったのだけど…」
怪魔達の会話が落ち着くとゴーメグアが大きくため息をついた。
「ハァッ〜…とりあえず、どうする?見とくか?」
「どうするかしらねぇ…?ま、見るだけ見ときましょうか。…で、あなた達はどうする?」
「はい?」
「いや…僕達はこれから宝玉の洞窟目指すんだけど…」
「あっそう。じゃあ我々は出かけるから。」
「…いや待て。お前らは俺たちを狙いにきたんじゃないのか?というか何するつもりだ?」
「そうだが今は緊急事態だ。それにお前達が危惧するようなことは何もしない…とりあえず失礼するぞ。」
そういうとメドランガーとゴーメグア(変化済み)はいそいそと部屋を出て、部屋を後にした。
そして怪魔がいた部屋には転生者2人だけが残った。
「…とりあえず宝玉の場所の手がかり探す?」
「……うん。そうだな。」
そして2人も街へ出て行き洞窟の方へと向かった。
〜2日後の夕方〜
「ど〜しよ〜?待ったほうがいいかなぁ?」
「まさか宝玉の祠の鍵を持ってる人がホセポードの街にいるとはな。」
街の人たちから話を聞いた結果、洞窟の祠は特定の鍵でしか開けられないらしく、そしてその鍵を持っている人は現在ホセポードの街に行っているとのことである。
それだけならホセポードの街に行けばいいだけの話であるが何故かホセポードの街は2日前から原因不明の封鎖状態になっており、入れなくなっている状態が続いている上、いつ封鎖状態が解けるかどうか分からないらしい。
ちなみに祠を破壊しようとも考えたがそれは流石に気が引けていた。
「…なぁ。やっぱりあの祠壊したほうがいいんじゃないか?」
「いやいや駄目だよ!許可とったならまだしも黙ってするなんてすごく気がひけるし、弁償代とかどうするの!?もうそろそろ出かけたときのお金も尽きそうになってるし。」
「おい待て、たしか億ぐらい持ってた気がするが…」
「怪魔が襲った街に訪れるたびに補助金を負担してたでしょ?まぁそれは後悔してないけど、そんなことを繰り返したからね。」
「そういやそうだったな…よく考えたら俺も多分いざ壊そうとなると絶対無理だな。」
そう宿屋で話していると突然ドアが勢いよく開いた。
そして開いたと同時に何か2匹の異形が勢いよく倒れみた。
「はあっはぁっはぁっ…やっと逃げだせたぁ!」
「よく考えたらあそこの海周辺に魔王城あるのよね…警備が頑丈なんて当たり前の話だったわ…」
「あっ!お前らは!」
「あれ?…あ、部屋間違えた。」
そこにいたのは彼らの隣の部屋を借りている怪魔2匹、ゴーメグワとメドランマンガーであった。
「というか逃げてきたってお前ら何してたんだ?」
「いやね。例の貴族様って奴の様子見ようと思ってホセポードの街に潜入して屋敷のところまで行ったんだが途中でバレた上に正体も見破られて封鎖状態になってそっからもう大騒ぎよ。」
「「お前らのせいか!!!」」
「はぁ?一体何よ?」
「言っとくけどここまで逃げてくる間人間に傷一つつけてないし例の宝玉とやらも壊してないわよ。」
「いや、そういう問題じゃ…あ〜くそっ!」
「結局君たちの仕業だったんだねぇ…」
「あぁ?一体なんの話だ?」
「いやちょっ痛い!?」
アカルが宝玉について言おうとするとアズマがこっそりと肘打ちしアズマが口を開いた。
「例の宝玉の居場所探そうとホセポードの街まで寄ったんだよ。そしたら何故か封鎖状態で理由も門の兵士たちに聞いてもよく分からなかったらしいからな。それでなにかあったんじゃないかと思ってな。」
「ふ〜ん…」
メドランマンガーは一応そう素っ気無い返事はしたものの転生者2人を訝しむように見つめていた。
「ちょっと!アズマ何してんの!?」
「いや、全部言うのはマズイだろ!どう考えても!」
「んなことより!!明日…だったよねあの教官の結婚式は!どうするの!?」
「…いや。ここはあいつがちゃんと告白することを信じて見守るだけに留めよう。」
「でもあの2人がどこで告白するか分かる?」
「うむ。とりあえず養成所の方を見張るとしよう。」
ゴーメグアはそういうとメドラマンガーと共に転生者2人も気にせず養成所へ走って行った。
「あっちょっ…」
「…一応見張るか?」
「うっうん!行こう!」
そうしてアズマとアカルも2匹の後を追って宿屋の部屋を飛び出し、養成所の方へと向かった。
そして日も半分まで落ちた頃、養成所で、アマネとシィーマが訓練を終える前の木刀で行う実戦訓練を行なっていた。
「ハァッ!!」
「フゥッ!!」
アマネの激しくも正確に相手の隙を捉えた剣技にシィーマは何とか防いでいるもののどれだけ剣を振っても息ひとつ乱れないアマネの剣技に徐々についてこれずに、
「そこぉっ!!」
「ぐぅっ!!」
アマネの木刀が腹に当たったと同時に養成所の訓練の終わりの鐘が大きく響いた。
「よし!今日の訓練はこれで終わりだ!…今日の動きはお前の中では今までで一番良かったぞ。」
「ぅぅっ…ありがとう…ございます。」
「とはいえ、やはり体力的に問題があるか…明日は私は休むから次の訓練の時までにしっかり体力を鍛えて…」
「あのっ!!」
「…私の気持ちを全て打ち明けます。」
後半へ続く