ちくわ大暗人
ミーナ達と分かれたあと、アズマとアカルは次の宝玉のある街に向かって進んでいった。
「回復の石…か。」
アズマはミーナにもらった回復の石を手に取って見ていた。
「実際どうなの?持っているだけで回復するってミーナさん達は言ってたけど。」
「まぁ今はまだキズを負っていないがいつもより歩き疲れないな。」
「いいなぁ〜僕そろそろ歩き疲れてるからなぁ。」
アカルは回復の石を羨ましそうに見ていた。
「…いや渡さんぞ。お前回復魔術使えるだろ。」
「いやいや分かってるよ!」
そんな会話をしているうちに2つの街への行き方が書かれた看板が見えて来た。
そのにはサマルーとスルーノと書かれていた。
「え〜と、確か…どっちだったっけ?」
「ミリアの話だと確かどっちにも宝玉があったな。」
「えっどっちとも!?」
サマルーとスルーノ。
この2つの街は環境が真逆であり、サマルーは暑い地域で海に面しており、スルーノは寒い地域で年中雪が降っていた。
「にしてもなんでそこそこ近いのにこんなに両極端なんだろう?」
「いやいや。確かスルーノの街はサマルーの街出身の賢者の一人が生きやすくするためにワープできる遺跡を作ったってミリアは言ってたぞ。」
「あっそうだった。」
そう。もしスルーノの方向へ向かっても直接街があるわけではなく、その街へ行くための転移魔術が仕込まれた遺跡があり、今でもその魔術は残っている。
昔スルーノの街を訪れたサマルーの賢者がまったく体験したことない環境を他の人にも体験させたいがためにスルーノの賢者と協力して遺跡を作らせたことが要因とされる。
「スルーノの街がある大陸にまた宝玉があったからな。まずは先にサマルーの街へ行ってからのほうがいいだろう。」
「メガ・サイクロン」
「そうだね!じゃあまずはこっち…」
突然彼らの会話に妙な声が聞こえた。
「…あれ?なんだ今…のう!?」
「うぉわ!?」
すると彼らの足元から突如小さな竜巻が襲いかかってきた。
その竜巻はさっきまであった看板が吹き飛ばされ、壊されてしまった。
「な…なんだ一体!?」
「アース・ソード!!」
「まぁ大体想像はつくがな。」
そして彼らの足元から今度は足元の土が巨大な一本の刃を形成し、突き出した。
「くっ…!」
「メガ・サイクロン!」
「まっまた…」
そして今度は土の刃の近くに竜巻が起こると刃の形を形成していた土がバラバラになり吹き飛ばした。
「はぁっ!」
「うわっと!」
2人はその土を盾で防ぎ、斬り捨てていく。
そして土が吹き荒れる中アカルはアズマの後ろに何かが遅いかかるのを確認できた。
「後ろ!!」
しかしアズマは何者かに気づいているように襲いかかる者の攻撃を刀で受け止めた。
「…!?」
しかし相手もそれを受け止める。アズマは止められたことに驚いていたが、止められたことに驚いているのではなく、竹槍で刀を受け止めていたことに驚いていた。
互いの得物を引き、場を離れるとそこにいたのは
頭はちくわそのもので大柄のローブと木でできた魚の首飾りをつけ、竹槍と本を装備した謎の魔物が
姿が現れた。
「えぇ…」
「…またすごいのが現れたな」
「我が名は、ちくわ大暗人。」
「…えっ?」
「ちくわ大暗人。」
「「…………」」
2人の間に微妙な間が生まれる。
「ちくわ大みょ」
「いや。あれとは違う。あれは神に属するものであるが、私は怪魔人族である。」
「「…………」」
またしても微妙な間が生まれる。
「なんで…怪魔ってこんなのばっかりなの?」
「…いや。油断するなアカル。」
アカルは怪魔の奇抜さに呆れつつ、アズマはただ怪魔の方を見つめていた。
「今回はちくわ大暗人ということですが。」
「………」
場所は変わって魔王城。
そこにはいつものごとく怪魔の様子を伺っている魔王レディ・サタンと怪魔コーンヤーントがいた。
「ずっと気になってはいたのだがお前たちは一体なんなのだ?」
「はい?今それ聞きます?」
魔王は不意に疑問に思っていたことをコーンヤーントに聞いた。
「いや…貴様らは我らと同じく魔族なのであろう?では何故怪魔などと名乗っている?」
「あぁ〜そうですね。ほら、我々って他の魔族から結構厄ネタというか…臭いもの扱いというか…そんな感じじゃないですか。その時にですねぇ、(本当に同じ魔族なのか怪しい)とまで言われたことがあるんですよ。まぁそこで気を使って、我々は"魔族かどうか怪しい怪魔帝国軍"と名乗っているんです。」
「…貴様らはそれでいいのか?」
「これで多少なりとも我らを慣れてくれるのなら…まぁ私自身そんな気にしてはないんですけどね。ウチの総帥は金が貯まらんとかいって他の事業に手を出したりしてるんですけど。」
「そっそうか。」
魔王はふに落ちない部分もあるが転生者達と怪魔との戦闘に目を戻した。
「ふんっ!!」
「はっ!」
場所を戻して看板があった道中、アズマとアカルはちくわ大暗人との攻防を繰り広げていた。
「戦闘の加護!」
アカルがアズマにかけたものは攻撃力、防御力と言った戦闘に関わるステータスを一気に上げる術である。
「行っけぇ!アズマ!」
「ぬおぉっ!?」
かけられたアズマは一気に強化され、目にも止まらない速さでちくわ大暗人を竹槍を弾いた。だがちくわ大暗人は竹槍を取らずそのまま空いた手をアズマに突きつけると奇妙な魔術をアズマにかけた。
(動きが…ステータスがもどった…!?)
アズマが一瞬止まったうちに後ろに弾かれた竹槍を取ろうとしたところ
「キーック!!」
アカルが竹槍を蹴り飛ばしちくわ大暗人の前に立ちはだかった。
「ぐっ、貴様!」
「シールドビーム!!」
アカルは盾からの光線で攻撃を横に避けるが、そこにアズマが刀を構え、横に斬りかかろうとしていた。
「せぇい!!」
だがちくわ大暗人手に持っていた分厚い魔本をアズマの顔にあてアズマはのけぞると落ちた本をすぐ拾ってアズマ達から距離を取った。
「『カモンリターン』」
ちくわ大暗人は持っていた魔法を開いて術を唱えると魔本を持ってない手から竹槍が現れた。
「新しい竹槍?」
「いや。あれはあいつが持っていたやつだ。」
「えっでもそれは僕が…ってあれ!?」
アカルが竹槍を蹴飛ばした方を見てみるといつのまにかそこに竹槍はなかった。
「転移魔術の応用よ…私は本来槍使いではあるが、最近は魔術も勉強してこのように戦闘時に使える技術を増やしておる。仕切り直しも済んだところで…アースソード!!」
再び土の刃がアズマたちの下から襲いかかるとアズマとアカルは二手に分かれた。
が、ちくわ大暗人は分かれたアカルに向かい、目にも留まらぬ速さで近づき槍を突き出した。
「神速突き!!」
「危なっ!?」
アカルは盾で竹槍を受け止めたが受け止めたと同時にちくわ大暗人は何かを呟いた。
「シール・マジック」
「!?」
するとアカルの身体に妙な紋章が刻みこまれた。
そしてちくわ大暗人はアカルに竹槍を突き出し、アカルはシールドビームで牽制しようとしたが、
(…!?術が唱えられない!?)
術を唱えようとしてもなぜか口が動かなってしまい、アカルはそのまま腹に竹槍を突き刺さされ、アカルはその場に倒れた。
「がぁっ…!!」
「…………!」
アズマはその光景を見るや否やすぐに駆けつけ、ちくわ大暗人に向け、凄まじい勢いで刀を振った。
ちくわ大暗人はそれをなんとかかわしたが、アズマの表情を見て一瞬血の気が引いた。
(この凄まじい殺気は…しまった、厄介なことに…)
そしてちくわ大暗人は心の底で自身に舌打ちした。
その間アズマは倒れたアカルに近づくとアカルに回復の石を渡した。
「…これを持って静かにしてろ。」
「…アズマァ…ごめん…」
「いいんだ。安心しろ。あいつは俺がすぐに片付けてやる。」
そしてアズマはアカルの方へ振り向くとちくわ大暗人に無言でじっと見ていた。
「………ハァ、本当まったくもって厄介なことになったなぁ」
本を持った手で頭を抱えて呟くが、そのあとすぐにアズマに向かって竹槍を突き出した。
「…………」
それをアズマは同じく無言で刀で受け止めると戦闘の加護以上の力、素早さでちくわ大暗人に嵐の如く攻撃を仕掛けた。
(…………くそっ!やっぱりこうなったか!!)
ちくわ大暗人は「大切なパートナーの片割れがピンチになるともう片方が凄まじい力を発揮する」というよくある事態を多少は予測していたがその発揮する力が予測以上であり、必死に槍を振るっているがそれでも槍での防御が間に合わなくなっていった。
(まずいまずいまずい!このままでは私がみじん切りに…そうだ!)
ちくわ大暗人がアカルの方をチラッと見て魔法を開くのをアズマは見逃さず、
「……炎上飛鳥斬」
魔本をもはや巨大な敵を焼き斬るかの如く大技で燃やそうとするもちくわ大暗人は必死に横に避けると
「テラ・ヒール!!!」
なんと敵であるアカルに回復魔法をかけた。
「…はぁ!?」
「えっ!?」
当然アカルの腹のキズは回復し、回復したアカルも、アカルの方へ振り向いたアズマもちくわ大暗人の突然の奇行に驚くと、
「吹き飛べ!」
アズマの腹に突き蹴りを繰り出しアカルの方向へ吹っ飛ばした。
「ぐはっ!?」
「ふぎゃ!?」
吹き飛ばされたアズマはアカルにぶつかったしまい、アカルはアズマに下敷きになってしまった。
そしてちくわ大暗人はそれを見逃さず、アズマとアカルに一気に近き、向かって竹槍を凄まじい勢いで突き出した。
「貫けぇ!!!」
だがその竹槍はアカルのテラ・シールドによって遮られた。
「貴様!?何故術を…」
「いやいや。君が僕を回復したんでしょ。」
(あっ…)
アカルを回復させてアズマを落ち着かせ、そして2人を一気に仕留める彼の作戦は、自身の術のせいで見事に台無しになってしまった。
「しまっ…!」
そしてちくわ大暗人はそのままアズマによって斬り裂かれた。そして竹槍も魔本も落とし立ち尽くすと
「……策士策に溺れ…いや。策士ですらないものが…急な策で…勝てるわけが…なかった…か。」
ちくわ大暗人はそのまま消滅していった。
「うー…本当ごめんアズマァ。」
「だから気にするなって。」
キズ事態は回復したもののアズマはとりあえずアカルの肩を担いだ
「あっアズマ。これありがとう。」
そしてアカルはアズマの回復の石を返そうとしたがアズマは何も反応しなかった。
「?、アズマ?」
「…いや。しばらくは返さなくていい。…色々心配だからな。」
アカルは一瞬キョトンとした顔をしたがそのあと笑みを浮かべすぐにアズマに離れ
「大丈夫だよ!僕はもうこんなに元気だからさ!ほーら!これは元々君のためにあるものだしね!」
と言って回復の石をアズマに渡した。アズマも一瞬キョトンとしたが
「そうだな。」
と小さな笑みを浮かべた。
「さぁ!サマルーの街へレッツラゴー!ゴー…」
とアカルが歩き出した瞬間、アカルは足元の石につまづき、その場にすっ転んでしまった。
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