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リアム王子と再び謁見する事が決まったのは、それから1週間としないうちだった。

初めて会ったあの日からちょうど2週間後に、今度は我が家に来るとの連絡だった。


急な知らせに家中が大慌て。

なにせ王子が来るのだから、どんな小さな不手際も許されない。

父も母も家中を隈なく掃除させたり、食事や新しい絨毯やカーテンの手配をしたりと忙しそうだ。

兄は最初のうちはその様子を面白そうに見ていたが、その日が近づくにつれ、強張った顔で、自分は挨拶すべきなのか、同席する必要があるのかと何度も父に確認していた。


わたしはと言うと、6歳の少女に出来ることは特にないため、普通に生活していた。

ただし父の配慮により、前日と前々日の2日間だけはロン先生よりもマリア先生の授業の方が長くとられていた。

大方、前回まともに挨拶も出来なかったことを気にしていて徹底的に礼儀作法を仕込むためだろう。

あの時の無作法は相手が王子だったという驚きと、それをきっかけに前世の記憶が飛び込んできたことで酷く混乱してしまったのが原因だと自分ではわかっている。

今度は大丈夫だと思っているのだが、少しでも両親を安心させるために大人しく従った。





そして我が家の準備がすべて整った日の翌日、王子が我が家にやって来た。





まずは両親が玄関にて王子を迎え入れてくれ、わたしの待つ応接室に案内してくれる手筈になっている。

大人しく部屋で待っていると、近づいて来る話し声がかすかに聞こえた。


ここで令嬢スイッチを入れる。

今日は王子に直接伝えたいことがある。

目的を達成するには、ふたりきりで話せる機会が必要だ。

それまでにヘソを曲げられるわけにはいかなかった。


父に案内されて従者1人を連れだって部屋に入ってきた王子は、わたしを見て不機嫌な顔を隠そうともしなかった。

でもそれを気にしてはいられない。

わたしはスカートをついと軽く持ち上げた。


「ようこそおいでくださいました、リアム王子。ご機嫌麗しゅうございます」


今のわたしに出来る最大限の礼。

顔を上げると、王子は少し驚いた表情になっていたが、わたしと目が合うとすぐに眉を寄せ難しい表情に戻った。


「なるほど、挨拶はまともに出来るようになったのだな」


ーーーあら、意外。


麗しい少年の口から発せられたのは、わかりやすく嫌味だった。

ゲームのリアム王子は、メインヒーロー()()()人物で、王子の中の王子といった爽やかな性格の好青年だったはずだ。

思わず面食らってしまった。表情には出さなかったけれど。


「はい。先日はお気遣い頂いたにも関わらず、大変失礼を致しました」


挨拶をしなかった無礼は本当なので、素直に謝罪する。

それにあの時、気遣って差し出してくれた手を無視したことも気になっていたのだ。

素直に謝罪した事に気を良くしたのか、顔を上げたときには不機嫌な表情ではなくなっていた。


「素直に謝るなら許してやらないでもない」


-ーー良かった、意外と簡単に許してくれるのね。

でも言い方が素直じゃないこと。


ゲームの王子とのギャップにモヤモヤするけど、考えてみれば今の王子はまだ6歳でまだ子どもだ。

ゲームは17才だったから、そりゃあ多少性格は違うだろうと納得する。


「ありがとうございます」


にこりと微笑んでみると、すぐに許したことが気まずくなったのか、目をそらされてしまった。

それでも再び不機嫌になっていないところを見ると、王子のご機嫌が回復したことは間違いなさそうだ。

ほっと胸をなでおろす。


同じく安心した様子の父に促され、わたしたちは座って話をすることになった。

父とわたしは隣に、王子はわたしの正面に座り、王子の従者は無表情で王子の後ろに控えた。


「改めて、ようこそお越しくださいました」


「いや、急な申し出で申し訳ない」


「とんでもございません。本来であればこちらから出向くところ、王子に足を運ばせるなど恐れ多いことにございます」


そんな風に交わされる父と王子の会話をわたしは黙って聞く。

子ども相手でも丁寧に対応している父を見て、ああ相手は本当に王子なのだなと当たり前なことを考える。

王子の方も、わたしと同い年の子どもとは思えないまるで大人のような受け答えをしている。


「ああそうだ。今の時期は庭の薔薇がきれいに咲いていましてね。妻が丹精込めて育てておりまして。よろしければご覧になりませんか」


それまで黙ってふたりの会話を聞きながら様子をうかがっていたわたしは、父の提案にピクリと反応した。

チャンスだ。


「リアム様、わたくしがご案内いたしますわ。ね、お父様いいでしょう?」


無邪気な少女のふりをして突然声をあげたわたしに王子も父も驚いた様子だ。

父はわたしが婚約に乗り気でないことを知っているのだからこの提案には尚更驚いただろう。

しかしわたしの目をじっと見つめて問題はないと判断したのか、父はすぐに気を取り直した。


「ああ、リアム王子がよろしいのであればね。王子、いかがでしょうか?」


わたしたちふたりに見つめられ、王子は少し迷ってから「頼む」と応じてくれた。

心の中でほくそ笑む。

庭なら少しぐらい父や従者から離れても自然なはずだ。

ふたりきりで話すこともきっとできるだろう。



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