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冬に入って、我が領には多少の雪が降ることから、過保護な我が家はわたしを外に一歩も出さなくなった。

雪が積もると庭にすら出してもらえない。

暇を持て余したわたしは学習に力を入れるしかなくなっていた。

そのため、ロン先生との学習時間はサクサク進んでいるし、マリア先生から教わっている刺繍も随分上手くなって、次はレース編みに挑戦しようかという話になっていた。

ダンスも空いた時間に兄に付き合ってもらったりしながら着実に習得していた。

家に篭りきりとはいえ、やることがないわけではない。

でもなんだかストレスが溜まってしまう。


外との交流はヘレンとシスターと、そして王子からの手紙くらいだ。

ヘレンからは研究の進捗を、シスターからはノアの話題を手紙で頻繁に交わした。

ノアは教会に暫く来ていないということで心配しているのだが、父から何も言われない以上こちらからは何も聞けなかった。


王子からの手紙は——————






思考を巡らしていると、ノックがあった。


「お嬢様、お茶をお持ちしました」


了承と同時に部屋に入って来たのはレベッカだった。

最近、レベッカはいつもお茶と一緒に手紙を届けてくれる。

以前は王子からの手紙ばかりだったので憂鬱だったが、最近はヘレンやシスターからの手紙もあるので楽しみな時間になっている。


「今日は、手紙あるかしら?」


お茶よりもお菓子よりも手紙。

手紙が届く日を予想して必ずこう尋ねるので、レベッカも苦笑気味だ。


「今日はございますよ。ちゃんとお持ちしております」


そう言って私を喜ばせたが、レベッカはそれきり、手紙よりも先にお茶とお菓子を用意し始めた。

最近こうしてよく焦らしてくるのだ。

待っている時のお茶は蒸らす時間がいつもよりも余計に長く感じる。

令嬢として決して駄々をこねたりはしないが、多少落ち着きが無いだろうことは、この際目を瞑ってほしい。

それだけ外との交流に飢えているのだ。


外出許可を出してくれればこんな風に思うこともないのに。

まだ幼いので基本的には両親どちらかと一緒の時にしか出かけてはいけないと言われていて、許可が無ければ外に出られない。

子どもの自分が恨めしい。


お茶とマフィンが並んだテーブルの前で、わたしはチラチラとレベッカを見る。

せっかく入れてもらったお茶を一口飲んで心を落ち着かせると、やっと手紙を渡してくれた。

見る見る表情が曇るわたしに、レベッカはまた苦笑した。


「エレノア様、表情に気持ちが現れ過ぎですよ」


「だってレベッカ、これは・・・王子からの手紙じゃないの」


そう、手紙はいつもの見慣れた青の封筒に青の封蝋だった。

ヘレンやシスターの物とは見た目から違うので、すぐにわかる。


「王子からのものなら、そんな焦らさないで欲しかったわ」


そう正直に言うと、レベッカはペロリと舌を出した。


「エレノア様があまりにもお可愛らしかったので、つい」


最近レベッカとも打ち解けて来たのだが、たまにこうしてからかわれてしまう。

わたしとしては仲良く出来ること自体は喜ばしいのだが、使用人としてレベッカはこれでいいのだろうか。

他の使用人、とくに厳しいメアリなどには決して見せられないと思う。


「今回はなんて書いてあるのかしら。隣国に遠征した、とかかしら」


「渡り鳥を打ち取った、かもしれませんね」


「んもう!レベッカ!」


そんな風に予想しながら、早速手紙を開ける。

レベッカがいる間に手紙を開くのも、今では普通のことだ。


読み進めていくうちに、ある文面で衝撃が走った。

王子の手紙でこれだけの衝撃は、久しぶりのことだった。

思わず言葉を無くしたわたしに、レベッカが心配そうに尋ねてくる。


「エレノア様?どうかされましたか?」


「い、いえ・・・」


令嬢たるもの、いつ如何なる時も平常心でいなければならない。

マリア先生にも言われているのに・・・。


手紙にはこう書いてあった。


『約束の薔薇はいつが見頃だろうか。今から楽しみにしている』



忘れてた、忘れてました。

あの約束。

エレノア(薔薇)を見に来るという約束!



このままずっと、偶に手紙を送り合うだけの関係でいられるはずがないことはわかっていたのだが、この約束をすっかり忘れてたので衝撃が大きかった。

あの約束した日以降、一度もお会いしていなかった。

あれは夏だったから、半年ほど経っている。



まだ衝撃で思考が纏まっていないが、目の前で心配そうな顔をしているレベッカに、なんとか笑顔を向けた。


「春になったら、王子がここへいらっしゃるかもしれないわ」


質問に答えると、レベッカは笑顔になった。

レベッカはわたしが王子の手紙を楽しみにしていないことは知っているが、それでも、仲が良いとは思っているらしい。


「それは良ろしいですね。プレゼントのお礼を直接お伝えするチャンスではないですか」


そう言われ、化粧台の前に置かれた小さな箱に視線を移した。


「そう、ね・・・」





レベッカがさがった後、化粧台の椅子に腰かけた。

目の前の小さな箱をそっと開ける。

そこには、可愛らしい青く小ぶりの薔薇の髪飾りが入っている。

レースやリボン、パール、ダイヤなどで飾られたそれは、小さいながらもパッと見るだけで高価だとわかる代物だ。



冬に入ってすぐ誕生日を迎え、わたしは7歳になっていた。

誕生日は家族や先生方から盛大に祝ってもらった。

ヘレンからもカードと大量の野菜が届いたし、教会からはシスターや子どもたちからのカードとお花が届いた。

そして王子からもカードとプレゼントが届いた。

カードには丁寧に、直接お祝いの言葉が言えないことの謝罪が書かれていた。

そしてあの髪飾りは、どうもわたしの名がついたあの薔薇を模して作らせたらしい。

カードには『君をイメージして作らせた。気に入ってくれると嬉しい』と書かれていたのだ。

物に罪は無いのだが、身につける機会がなくて綺麗に箱にしまって置いてあった。




断れない・・・。

確かにレベッカの言う通り、プレゼントを貰っておいて直接お礼を言っていないのは、人としてどうかとも思う。

それに今回はこの前のように急な話でもないし、王子も随分歩み寄ってくれている。


とにかく自分一人で決められる話でもないのだから両親に相談だ、と心に留めた。



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