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教会の外に出ると、案の定、子どもたちがわいわいと騒ぎながら昼ごはんの準備をしていた。

今回は、本のお礼ということで、準備は子どもたちがしてくれるというのだ。

材料は孤児院の裏手にある畑で収穫しているらしい。

シスターと別れて、わたしは畑の方に向かった。

畑の近くまで行って、ニコニコしながら収穫を見ている幼い女の子に声をかけた。


「なにを取っているの?」


「焼き芋するから、芋を取ってるんだよ!」


「え、焼き芋??」


聞いた瞬間、耳を疑った。

まさか、この世界に焼き芋があるとは・・・。


「エレノア様、焼き芋嫌い?」


わたしが焼き芋が嫌で驚いたと思ったのか、女の子は少し悲しそうに尋ねてくる。

その瞳は不安そうだ。


「いいえ、大好きよ。嬉し過ぎて驚いてしまったの」


本音だ。

その言葉を聞いて、女の子は微笑んだ。


「良かったぁ。ソフィーもね、大好きなんだよ!ホクホクしてね、とっても美味しいの」


可愛らしい女の子、ソフィーは、そう言って両手でほっぺたを包み込んでうっとりした顔をする。


「エレノア様、後で一緒に食べようね」


可愛い、非常に可愛い。

「そうだねー」と返事しながら、頭を撫でてやる。

こういう時、妹か弟が欲しかったなと思ってしまう。




人数分の芋を収穫している間に、何人かは枯葉を集めていた。

枯葉で複数の山を作り、大人たちが火をつけていく。

前世のイメージそのままの焼き芋作りだ。

とは言っても、前世で焼き芋は食べた覚えがほとんどない。

観光地や屋台で食べたぐらいだろう。

それでも、目の前に焼き芋があるのだと思うと急に懐かしさを感じてくるから不思議だ。

早く出来上がらないかなと楽しみで見ていると、母が不思議そうにわたしの隣にやってきた。


「エレノアちゃん、焼き芋知ってたの?」


「え?」


「さっき、あの子と話していたじゃない」


しまった。

普通の貴族令嬢は焼き芋を知らないはずだ。


「えと・・・本で読んで・・・」


目線が泳ぐ。


「ふぅん・・・。私は以前教会(ここ)で頂くまでは聞いたこともなかったけれど、ね」


そうでしょうね。と思いつつ、わたしは何も言わない。

母は疑いの視線を送ってくるが、目線を合わせたら最後だと思って、全力で目を晒せる。

そうしていると、黙るわたしに興味を無くしたのか、母は暫くしてすっと側からいなくなった。

十分に母が離れたことを確認して、ホッと一息つく。


ちらりと周りを見ていると、商家の奥様方も焼き芋が初めてらしく、二人で珍しそうに焼かれる枯葉の山を見つめている。

こんなもの食べられない、と怒り出すような奥様方じゃなくて良かったと心から思う。



芋が焼き上がり、各々出来上がった焼き芋を持って、孤児院内の食堂へと移動する。

そして、一斉にパクリと食べた。


甘くて美味しい!!

そして素朴でどこか懐かしい味・・・。

うっかりすると涙が出そうになった。


一口一口味わっていると、先程話をしたソフィーがやってきた。


「エレノア様、おいしい?」


「ええ、とっても美味しいわ!」


「良かったぁ」


顔いっぱいの笑顔に、こちらもほっこりする。

二人でニコニコしながら焼き芋を頬張る。

普段はこんな食べ方をしないけど、ここにいるときは特別。

母も同じように大口開けて食べているのだから、問題ないと考えた。



美味しい昼ごはんもいただいて、そろそろ帰る時間となった。

あとは子どもたちにお別れを言って帰るだけだ。

それなのに、わたしは教会のそばで立ったままとなっていた。

ソフィーがわたしの手を握って離してくれないのだ。

気に入ってくれたことは嬉しいが、どうしていいのかわからないので困っていると、先程のシスターがやって来て、ソフィーに話しかけた。


「ソフィー、エレノア様はお帰りになるのよ。手を離しなさい」


「やだ。まだ一緒にいるの」


「聞き分けなさい。ご迷惑になるわ」


「やだ」


「嫌じゃないの!もう・・・」


これまでにここに来て、誰かがこんなに懐いてくれたことは無かったから嬉しい。

けれど、どうしたものか。

ソフィーは、目に涙を滲ませ始めた。

今日は涙に縁があるようだ。

そう思いつつ、しゃがんでソフィーに目線を合わせる。

ソフィーもわたしの目をじっと見つめ返してくれた。


「ソフィー、今日はとても楽しかったわ。ソフィーは楽しかった?」


「楽しかった」


「また遊びに来てもいいかしら」


「・・・いいよ」


「ありがとう。ソフィーはとっても良い子ね」


頭を撫でてやる。

ソフィーは涙を滲ませたまま、照れたように笑った。

それを確認して、可愛い可愛いソフィーに会いにまた来ると心に誓いつつ、後ろ髪を引かれる思いで手を離した。


「シスター、また来ますわ。その時までにわたくしも色々と考えて参りますので」


目を合わせて言うと、シスターは大きく頷いた。


「私も、考えます」


二人で頷き合い、改めて別れを告げて馬車に乗り込む。

子どもたちが馬車が見えなくなるまで見送ってくれ、わたしたちははしたないから普段はしないが、少し窓から顔を覗かせて手を振ってそれに応えた。


子どもたちが見えなくなって、奥様二人がふぅと息を吐いた。


「なんだか胸がいっぱいだわ」


「そうね、こんなに喜んでもらえるなんて・・・。みんな可愛くて良い子ばかりだったわね」


どうやら、今日の活動は大成功のようだ。

母と目を合わせて微笑み合う。

これで、このお二人は慈善活動について、以前よりも印象が良くなった筈だ。

話してみて、心の優しい方であることは間違いないと分かっていたが、実際に子どもたちと会ってどう感じるのかは奥様方ご自身と子どもたち次第なのだ。

でもこの様子だと問題が無かったようだ。

今後もこのお二人とはまた一緒に活動できればいいなと思った。



家に帰ってくると、母は奥様方と今後の慈善活動について話をすると言ってサロンへ行ってしまった。

わたしは母と一緒に行かず、回収した本を片付けや補修などの指示をしてから、自室へと向かった。

馬車に短時間とは言え揺られたのと、普段よりも活発に外に出ていたのとで、思っていたよりも疲れていたらしい。

自室に戻ると、真っ直ぐベッドに行って横になってしまった。



体力の無さもなんとかしないといけないわ。



そう思いつつ、目を閉じた。






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