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エマとの弾まない会話に内心で悲鳴をあげ、もう話題がなくなると焦り始めた頃、数頭の馬の足音とともに王子がやって来た。

どうやら馬に乗ってどこかへ行っていたらしい。


王子が馬を使用人に預けてこちらに来たので、わたしも立ち上がってそれを待った。


「待たせたな、エレノア嬢」


「いいえ、リアム王子。本日はお誘いいただきありがとうございます」


礼をすると、王子はわたしの向かいのイスに座った。

わたしもそれにならって再び座る。


「不手際はなかっただろうか」


「とんでもございません。リアム王子の手配のおかげで、快適に過ごしておりましたの。それに皆様とても良くしていただきましたわ」


言って微笑むと、王子は少しだけ表情を緩めた後、すぐに口を引き結んだ。


「今日は見せたいものがあってな。その準備で少し遅くなってしまった」


「見せたいもの、ですか?」


尋ねると、王子は視線を動かした。

その目線の先にわたしも向き直ると、目線の先は王子と一緒に馬に乗っていた男性数人だった。

何があるのかと見ていると、そのうちの一人が何かを高く上にあげた。


それが何かと目を凝らして、見えた瞬間ヒッと小さく悲鳴を上げてしまった。


それは鳥だった。

鷹くらいの大きさでなかなかに大き目で、羽が七色になっていた。

珍しい種類だと思われた。

首を持たれていても全く動かず、息絶えているのは間違いない。



悲鳴の後に目を逸らしたわたしに、王子は不思議そうな顔をしている。


「どうした、エレノア嬢」


「い、いえ。驚いたもので」


わたしの気持ちは王子にはわからないのだろう。

言葉通りに驚いただけだと判断したのか、王子は饒舌に話し始めた。


「あれは珍しい渡り鳥なんだ。いつもこの時期、近くの森にやって来るんだ。今回君を急に誘ったのも、間もなく次の地に渡るからその前に、と思ってな」


どうやらわたしを喜ばせようと考えてくれたらしい。


そのあとも、最近狩りに同行させてもらえるようになったということ、始めての狩りで獲物を狩ったことなど、狩りの話を楽しそうに話してくれる。



話だけなら、わたしも笑顔で聞けたかもしれない。

でも、狩られたものを見た直後では無理だった。

前世も現世もベジタリアンでは無いのだが、これまで見たことがなかったためにあの光景はあまりに生々しすぎた。



「エレノア嬢、どうかしたのか?」


ひとしきり話した後、わたしの反応が鈍いことにやっと気づいたようだ。


「いえ。なんでもありませんわ」


曖昧に微笑んでみたが、おそらく引き攣っているはずだ。

自然な笑顔は作れない。

不思議そうにしながらも、王子はそれ以上は何も尋ねてこなかった。


しばらくして、エマたちにより目の前に昼食が用意されたが、食欲がわかず、申し訳ないことにほとんど残してしまった。


「もしかして、体調が悪いのか?」


「いえ・・・ちょっと馬車に酔ってしまったようで。せっかく用意していただいたのに申し訳ございません」


馬車酔いはもうとっくに治っている。

でもそういうことにしておこう、と思った。


すると、王子は少し考えた後立ち上がった。


「少し歩かないか?」


その提案に、気も紛れるだろうと同意してわたしも立ち上がった。






王子が歩く少し後ろについて歩く。

わたしたちから少し離れて、レオとジェーンをはじめとした数人の護衛や使用人がついてきている。



わたしたちは無言で歩いた。


今日の目的は手紙やプレゼントのこと、今日みたいに急に誘うことについて話そうと思っていた。

でも、そんな話をする気持ちも無くなっていた。



視線だけ下を向いてしばらく歩いていると、ふいに王子が立ち止まった。

どうしたのだろうと視線を上げると、目の前に広がる景色に目を奪われた。


少し小高い丘になっているそこには、ラベンダーが視界いっぱいに咲いていた。

気づくと、現金なもので、急激に香りが鼻を擽りだす。



「ラベンダー・・・こんなにたくさん。初めて・・・」


思わず呟くと、王子が落ち着いた声で話し始めた。


「ここは管理された土地ではないのだが、自然に群生しているらしい。さっき偶然見つけたんだ」


「そうですか」


言って、ゆっくりと深呼吸する。


「・・・少しはマシになったか?」


ここに連れてきてくれたのは、馬車酔いしたわたしを落ち着かせるためだったのだろう。

あの「死」を目の当たりにした光景が頭から消え去ったわけではないが、たしかに落ち着いてきた。

ラベンダーの効果は覿面だ。


「はい。ありがとうございます」


素直にお礼を言うと、王子は明らかにほっとした表情をした。

ついてきていたエマが準備良くシートを引いてくれ、ピクニックよろしく並んで座る。



静かにふく風に揺れるラベンダーを見ながらゆっくりしていると、さきに口を開いたのは王子だった。



「今日はすまなかった」


「王子?」


「まさか君がそんなに馬車が苦手だとは知らず、遠くまで来させてしまった」


迎えにも行かなかったし・・・と消え入りそうな声で付け足す。



王子の今日の行動に悪気はないのだろう。

おそらく、わたしにすこしでも気に入られようとしたのだ。

「婚約解消」や「王子の心変わり」をわたしが考えもしないように。

王と王妃のように仲睦まじいふたりになるために。

とはいえ、王子はわたしに恋心を抱いているわけではない。

婚約者として振舞おうという話だ。



初めてあった日、この前、今日。

王子と過ごしたのはたったの3回で時間も僅かだ。

でも、真っすぐ素直に育った少年であることはわかる。



前世+現世で精神年齢はアラフォーだ。

わたしがこんな態度ではいけないと思わされる。

大人にならなければ。



「風が気持ちいいですね」


王子の方を向かず、視線をラベンダーに向けたまま言う。「気にしていない」ということが伝わるだろうか。


「ああ、今日は天気が良い」


王子は力なく答えてくれる。


「ちょうど良い気候です。お出かけには最適ですね」


そう言って微笑むと、王子も笑顔になった。



わたしたちはそのあと再び無言になって、暫くは心地よい風を感じながら並んでラベンダーを眺めていた。





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