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サロンで父と母とお茶をしていると暫くして馬車到着の報が入った。


すぐにお出迎えをと玄関に移動すると、以前も王子と我が家にやって来ていた従者が当家の執事と玄関ホールに待機していた。

王子の姿が見えず、父とわたしは歩きながら思わず一度目を合わせた。

そうしていると、わたしたちが来たことに気づいたらしい王子の従者はこちらに向き直って騎士の礼をとった。


「フローレス侯爵ならびにエレノア様、本日は急な申し立て、誠に申し訳ございません。我が主に代わりお詫び申し上げます」


第一声の詫びに父もいやいやと首を振る。


「何やら急ぎの要件でもあったのでしょう。私たちも王家に仕える身。王家からのお誘いには従うのみです。気になさらず」


笑顔ではあるが『当然大切な用事なんだよな?こっちが王家に逆らうことが出来ないことを見越して無理言ってんじゃないぞ』と言っているのだろう。

そりゃあそうだ。いくら普段温厚な父であっても、今後もこんなふうに急に事を起こされては堪ったものではない。

父の心の声は王子の従者にも届いたようで、唇をひき結んで一礼をした。


来客の際は基本的に家長が対応するため、今のような場面でわたしが口を出すものではないと思っている。

しかしここにいるのが従者だけで王子の姿が見えないことが気にかかる。

父に目線を送ると、父はわたしに一度頷いてみせた。

そしてわたしと同じ疑問を口にした。


「そんなことよりも、王子はどちらに」


「リアム様は本日エレノア様をお連れする場にて一足先にお待ちです。私はリアム様の命によりエレノア様をお迎えに上がり、リアム様の元にお連れするよう申しつかりました」


んんん?従者の言葉に心の中で首を傾げる。

『迎えに行くので、一緒に出掛けよう』って手紙には書いてあったような。

馬車で迎えに来てくれて一緒に目的地に行くものと思っていたが、違うらしい。

まあ馬車に同乗してもなんの話をすればいいかわからないから、かえって良かったかもしれないけど。


「そうでしたか。そうであれば当家より馬を出せば良いところを、かえって申し訳ないことでしたね」


王子へのわたしの気持ちや手紙の内容を知っている父もわたしと同じように思ったのか、あっさりした反応だ。


「さて。王子がいらっしゃらないのであれば、貴殿に尋ねる他あるまい」


「何なりと」


「今日は娘が家族以外と出掛かける初めての日なんですよ。娘はもちろん、私たち送り出す側としても不安が大きい。したがって、我が家より使用人を出して同行させたいと考えています。それについて許しは得られるでしょうか」


「勿論、そのようなお話があるだろうことはリアム様も想定しておりました。すでに侯爵殿の希望通りにするよう言われております。しかし・・・そうは言ってもこちらの用意した馬車はひとつ。そこに収まる人数でなければ、そちらで馬をご用意いただきたいのですが・・・」


「ああ、それを聞いて安心しましたよ。娘にはメイドと従僕をひとりづつ、付けようと考えています。メイドは娘の傍に置いて欲しい。従僕はこちらで馬を用意してついていかせるので、お気遣いは結構」


2人という人数を聞いて従者は目を見開いたが、一瞬だった。


「おふたり、でよろしいですか」


「貴殿が迎えに出向いてくれているのだから、娘の護衛は貴殿にも期待していいのだと考えているのだが・・・違いますかな?」


「いえ勿論、リアム様より護衛も仰せつかっております。馬車には私を含め4名の護衛を付けております」


「で、あれば・・・ふたりで結構」


「畏まりました」


父と従者の間で話がまとまり、父が目線で後ろに控えていたレオたちを呼んだ。


「レオとジェーンです。娘共々よろしく頼みます」


そう父が言うと同時に、レオたちは先程わたしにしたのと同じ礼を2人揃って行った。

従者も一瞬遅れて同じく礼を行う。

そして従者は再び父とわたしに向き直った。


「それでは馬車の方で待機いたしますので、エレノア様のご用意ができましたらお越しください」


従者はそう言って一礼し、颯爽と玄関ホールを抜けて馬車の方へと去っていく。


残されたわたしたちは、すぐに荷物や馬など準備に取り掛かる。

わたしには持ち物が無いが、ジェーンはわたしの世話をするための物をいくつか持っていくらしい。

レオは剣を差し、馬を一頭引いて来た。


その間に父と母に出かける前の挨拶を行う。


「それではお父様、お母様。行ってまいります」


「無茶はせず、何かあればレオの指示に従いなさい。ジェーンとは片時も離れてはいけないよ」


「エレノアちゃん、気をつけてね」


「はい。お父様、お母様」


日帰りで行って帰ってくるぐらいのことではあるのだが、幼い子どもを1人で出掛けさせるというのは父母からすると心配で堪らないようだ。

実際には1人きりではないし、護衛がついてはいるのだが。


ただ、この心配はこの世界では当然と言える。


護衛がついているとはいえ、全くの安全と言えないのがこの世界の怖いところだったりする。

前世の法律や警察などの制度や役割ほど、この世界ではそれらと同様の制度は機能していないのだ。


領ごとの取り決めと国の法との狭間に幾らでも抜け道があるし、警察組織がない代わりに騎士の駐留はあるがその数が少なく、ほとんどは領ごとに自警団を作っていて自警団に警備を委ねている状態だ。

場所によっては盗賊被害なども多い。

さらに魔法なんてものもあるので、凶器を持っていなくても、力のない幼い子どもや老人であっても、相手に危害を加えるのは案外容易い。

さらに、相手が魔法持ちかどうかは一見してわからないため、油断していると寝首を掻かれる恐れもある。


だからこそ、貴族の多くは幼い頃ほとんど屋敷を出ないのだ。

出るとしても護衛をしっかりとつけるし、親が同行せず子どもだけなんて滅多にない。



先ほど、王子の従者がわたしの同行がふたりであることに驚いた様子だったのも、このことに影響しているだろう。

わたしとしては、父が選んだふたりを信じているし、あまりに人数が多くても動きにくくなると考えているので不満はない。



とはいえ、先程までは王子とわたしの初めてのお出かけに上機嫌だった母も、いざ幼い娘が外に出るとして不安が過ったのだろう。

強く抱きしめられ、暫しの別れを惜しんだ。




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