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『マジック☆カルテット』はメイン攻略対象が4人いる。


そのうちの1人でメインヒーローであるリアム王子は、王道爽やか王子でプレイヤーの中では1番人気だった。

エレノアはそのリアム王子ルートで出てくるライバルで、王子の婚約者。


ちなみに、他の攻略対象のルートではそれぞれ邪魔をしてくる妹だったり幼馴染だったりがライバルとして登場してくるので、エレノアはライバルではない。

他のルートでもエレノアは登場するものの、攻略対象とエレノアが関りを持つイベントは非常に少ない。

例えば同じ「光」の魔法持ちとしてヒロインをいじめているところに颯爽と現れて庇ってり慰めたりするイベントはあるのだが、リアム王子ルートに比べて頻度は少ない。

それにルートの分岐によっては「いじめられて傷ついているヒロインを見かけて話しかける」というイベントが発生するだけで、エレノアがいじめている描写を省略されているものもあった。

そんな中で必ず攻略対象とエレノアが関わるのは、唯一どのルートにも存在する()()()()()()()()()()だ。



この断罪イベントの回避は学校に入学してからのわたしの動き方次第のはずだ。

それにヒロインをいじめたりしなければ、少なくともいじめにおける断罪イベントは回避できると考えている。

だからこそ、もちろんヒロインに近寄るつもりはない。

ヒロインに関わらなければ半分くらいは破滅フラグは回避できたようなものだし、優先事項だ。

そして念のため、攻略対象やほかのライバル令嬢についても接触しないよう気を付ける必要があるだろう。



しかし、わたしが王子の婚約者である以上はゲームの主要人物たちと関わらないこと自体が難しくなる。



そう。婚約解消は、今できるわたしの最善の一手だ。

せめて王子との婚約が形だけのものであるとお互いに認識しているという状況が必要だと考えていた。

そして欲を言えば、周囲にも同じように認識してほしいと思っていた。



そう、思っていたのだが。



焦り過ぎたのかもしれない。

おかしなことになってしまった。





王子が我が家にやって来た日から2か月がたった。

その間王子に会ってはいないものの、3日に一度というかなり高い頻度で手紙のやり取りをしている。


すっかり仲睦まじい婚約者のようだ。


手紙には毎回可愛らしいお花かお菓子が添えられており、送られてくるたびに母は「エレノアちゃんたら愛されてるわ」と無邪気に大喜びしている。

父はというと、あの日の王子とのやり取りやわたしのこの婚約に対する考えを知っているので、なぜこうなったのか不思議そうにしている。



わたしも父と同じ。不思議でたまらない。



実際のところ、回数こそ多いものの手紙の内容は当り障りのないものだ。

どんな本を読んだとか、何を勉強したとか、剣の練習をしたとか、そんな日常のどうということもないことを一文二文書かれているぐらいの短い手紙。


手紙に対して返事をしないことも考えたのだが、結局それは出来なかった。

王族からプレゼント付きで送られた手紙に返事をしないわけにはいかない。不敬になる。

仕方なく、プレゼントのお礼とともに届いた手紙の内容に対する簡単な受け答えを返している。

こちらの話題もどんな本を読んだとか、庭に綺麗な花が咲いたとか、他愛もないものだ。


手紙自体はお互いに短いので、頻度が高くてもそれほど負担ではない。

手紙を届ける使用人たちは迷惑しているだろうけど。


負担ではないのだが、今のこの状況が当初の目論見とは大きく違ってしまっていて、どうしたらいいのかわからなくなってしまっている。




「婚約破棄してもらう予定が、仲良くしてどうするのよ!」


自室にひとりなのをいいことに、思わず独り言をつぶやいて頭を抱える。




 『今日のところは、そう言わせてしまった僕にも責任があると考えよう』


 『今後はそういったことが少しであっても過ることがないようにしていくから、そのつもりでいるように』



あの日の最後に王子が言っていたこの言葉、そして今のこの手紙とプレゼントの頻度。


おそらく、王子は仲睦まじい婚約者になるつもりなのだろう。

わたしと。


ご両親のようになりたいのだろうと考えると、子どもらしく考えが無垢でいらっしゃることと微笑ましく感じなくはない。

応援したいところ、だけど・・・。

それは、相手がわたしでなければの話。


それに、だ。

王子が無垢にわたしと仲良くなろうと手紙を送り、わたしを喜ばせようと思ってプレゼントを添えているのならまだ可愛げもあるが、そうは思えないのだ。

あのときの言葉通り、わたしが変なことを考えないようにとしっかり計算しているとしか思えない。



あの文章が短いけれど、その分頻度が高い手紙。

手紙の内容など当人同士以外わからない。

周囲はその頻度からわたしたちを仲が良いと考えるのは当然だろう。


そしてあのプレゼント。

あのプレゼントのおかげでより手紙のやり取りが目立っているのだが、送られてくるのが花やお菓子といった所謂「消え物」である上、アクセサリーなどのように目に見えて高価なものでないために「恐れ多いですわ」と返却もできない。

最初の手紙で花が送られたとき、お礼とともに「お気遣いいただかなくて結構です」とわりと冷たく伝えたというのに、プレゼントが続いているのだ。

その後も何度か繰り返し伝えたものの送られ続けるうち、結局、言っても無駄だと折れたのはこちらの方だった。



これらがわたしの予想通り王子の計算だとしたら---。



「思ったより手強い。予定が大幅に狂うわ」



声に出して身震いする。


破滅フラグの回避が遠のく。

怖い、怖すぎる。




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