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「もし今後、わたくしよりもリアム王子の隣に立つにふさわしい女性が現れた時には、わたくしは身を引くつもりでございます」


「な・・・!」


王子は驚いているが、わたしは気にせず続ける。


「そのときには、すぐにわたくしとの婚約は破棄してください」


「何を言うんだ!!君は僕がそのように簡単に女を切り捨てる男だと思っているのか!!」


王子は馬鹿にされたと思って激昂しているようだが、ゲームを知るわたしはその時が来ることを知っている。

静かに、王子の目を見て告げる。


「あくまで仮定の話ですわ。わたくしはリアム王子の幸せを願っております。そしてその幸せが必ずしもわたくしが隣にいることとは考えていないのです」


王子が黙ったのを良いことに、さらに続ける。


「わたくしたちはまだ子ども。これからどれだけ素敵な方が目の前に現れるかわかりません。その中のどなたかにリアム王子のお心が奪われたとして、誰がそれを咎められるでしょう。わたくしはその時にはリアム王子の幸せを願って身を引かせていただきます」


リアム王子の幸せ、と言いつつ、その実自分の身を守るための発言である。

ヒロインと出会って王子が恋に落ちた時、わたしは身を引くつもりがあるのだということをしっかりと伝えておきたかった。

『わたしは王子が決めたことに従います』『嫉妬に狂ったりしません』というアピールは大事だと思う。


殊勝な態度と王子を敬う言葉選びをしたつもりなので、失礼はないはず。

家の取り潰しはないだろう。

そう思ってあらためて王子に目を向けると、なぜか今日一番の不満顔をしている。


「・・・それが君の本心、ということか」


「え?」


王子の言葉の意味が分からない。

次の言葉を待ってじっと見つめる。

すると一度強く目を閉じてから、王子は鋭い視線をこちらに向けてきた。


「リアム王子?」


「この話は終わりだ」


言い捨てて、そのまま父や従者のいる場所に走って行ってしまった。


「えー・・・なんなの?」


意味が分からない。これは失敗、だろうか。

嫌われて婚約破棄なら願ってもないが、家の取り潰しは勘弁してほしい。

どうしたのものか打開策を考えながらも、令嬢らしく淑やかにしかし足早に追いかける。


そうしていると、わたしが追いつく前に王子は従者を連れて立ち去ろうとしているようだった。

あまりの素早さに王子の怒りを感じて嫌な汗が背を伝う。

父はそんな王子を見送るため追いかけていたが、近づくわたしに気づいて来るなと目で伝えてきた。



どうしよう。

思わず追いかけるのをやめて立ち止まる。



どうするのが正解かがわからない。

でも。

王子の考えがわからないければ、今後の対応策が立てられないのは確かだ。

悩んだが、行くしかないと奮い立つ。


淑女なんて言ってられない。

わたしは走って王子を追いかけた。




「リアム王子!!」


王子はまだ玄関にいた。馬車が準備ができるのを待っていたようで間に合った。

わたしの大きな声に王子も父も驚いて振り返った。

普段淑女を意識してドレスで走ったりしないから、思いのほか息が上がってしまい、王子の前まで来た時には肩で息をしている状態だ。


わたしの様子がすごい剣幕だったのだろう。

父と王子の従者がそれぞれわたしと王子の間に一歩進んできた。

しかし王子がそれを手で制す。

呼吸が整わなくてすぐには言葉が出ないわたしに、王子は何も言わずに向き合って待ってくれている。

数回深呼吸して落ち着けてから、バラバラになっているだろう髪を後ろに流して整えた。


「王子、先ほどは失礼なことを申し上げて失礼いたしました。お気を悪くされたのであれば謝罪いたします」


頭を下げる。


「君は、僕が何に対して気分を悪くしたのかわかっているのか」


王子の問いに思わず言いよどむ。

だってわからないのだ。

黙っていると、王子の方から話し出した。


「さっきも言ったように、僕の父と母は4歳のときから婚約している。そして今も息子の僕から見ても仲が良い」


「はい。おふたりが睦まじいことはわたくしも伝え聞いております」


わたしは素直に応じる。


「僕はそれが理想だと思っている。君はどうだ?」


「そうですわね。とても理想的だと思いますわ」


心から思うことなので大きく頷いた。

それを見て、王子は再び強い口調になる。


「では、なぜさっきはあのようなことを言ったんだ」


ハッとした。

王族特有の政略的な婚姻であっても仲の良い両親を見て純真無垢に結婚に対し夢を見ている少年に「婚約や結婚に愛はいらない」「お互いに他にいいひとができたら別れましょう」と言ったようなものなのだと気づいたからだ。

しかも「王子が他のひとに心を奪われることを前提にして」だ。

夢見る子どもに対し酷だったことだろう。

怒るのも無理はないという気がしてきた。


「・・・申し訳ございません」


でも王子に言ったことは本心だし言い訳はしない。

謝るのみでそれ以上何も言わないわたしに黙っていた王子だが、暫くしてふうと小さく息を吐いた。


「今日のところは、そう言わせてしまった僕にも責任があると考えよう」


思いもよらない発言に思わず首を傾げる。


「今後はそういったことが少しであっても頭に過ることがないようにしていくから、そのつもりでいるように」


いいね、と言いおいて、わたしの返事を待たず王子はやって来た馬車にすぐさま乗り込んだ。



発言の意味を考えながらも馬車を深い礼で見送る。

頭を下げながら頭は大混乱状態だ。




あれ、これって失敗じゃない?

逆に婚約の意味が強まってない?


あれ?あれー??




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