第二十三話 陰の立役者
「おい!零戦が一機帰ってきたぞ!二一型だ!」
「翼から火を噴いてる!消化用意!」
追浜飛行場に響き渡る整備員の声。俺―七日町一整曹はみんなが指さす方向を見た。
「あれか・・・・・・・」
一機の零戦がこちらに向かってくる。右翼が被弾し、火を噴いているようだった。
「教官で二一型というと・・・・・・・山ノ井一飛曹か」
山ノ井機は機体を傾けると、着陸進路に入った。
「追浜が見えた!」
わたし―山ノ井彩音は操縦桿を操ると、スロットルを絞って着陸に入った。
ヴァラララララララララ・・・・・カシャッ!
着陸して、停止するや否や全部のスイッチを切って脱出!その次の瞬間、整備兵たちが機体に水と砂をかける。
ジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・・・・・・・
被弾からの火が消えた。
「よかった・・・・・・・・」
わたしはへなへなと膝をつく。
「山ノ井一飛曹!!」
頭上から聞こえてきた声。見上げると、わたしの機付長である七日町一整曹が見下ろしていた。
「こんなになるまで戦うとは、いったいどういう了見ですか!?」
七日町一整曹はサクラのほうを見る。
「エンジンが逝かれてなかったことは不幸中の幸いですが、翼の焼け焦げた部分は取り換えですね。中央胴体ごとです」
「ごめんなさい・・・・・・・・・・・」
小さくつぶやく。
「はぁ・・・・・・・・」
七日町一整曹はため息をつくと言った。
「今回は修理しますけど、今度こんなことがあったら最新の五二型か局地戦闘機『雷電』または『紫電』に乗り換えてもらいますからね」
「はーい・・・・・」
七日町一整曹は大きなため息をつきながら機体に向かう。
「とりあえず、中央胴体ごと翼とっ替えちゃえ!」
「え!?二一型の部品ですよ」
「この前胴体着陸して大破したのあったろ!中央胴体は無傷だったはずだ。そっから持って来い!」
「はい!行くぞ!」
話し声が聞こえてくる。サクラが格納庫に転がされていくのが見えた。
「操縦索切断完了!」
「よし!後部胴体とエンジンを外せ!」
「はい!」
わたしはその様子を見ると、搭乗員控えに向かった。
その夜・・・・・・・・・・
わたし―山ノ井彩音は搭乗員に出されたパイナップルの缶詰を持つと、格納庫に向かった。
「え・・・・・・・・?」
夜の十二時過ぎだというのに、格納庫にはまだ明かりがともっている。
「おい!螺子回し持って来い!」
「リベット打つから金づちと当て木!」
カーン!カーン!
工具の音と話し声が聞こえてくる。
格納庫の扉が細く空いていて、そこから光と声が漏れ出ていた。
そーっと扉の隙間に近づいて、中を覗こうとした時、急に後ろから声が聞こえた。
「山ノ井一飛曹、なにしてるんですか?」
「ひゃぁっ!」
後ろを見ると、七日町一整曹が立っていた。
「まったく・・・・・・敵の間諜じゃあるまいし、普通に入ればいいものを・・・・・さ、どうぞ」
七日町一整曹が格納庫の扉を開ける。
「ありがとう・・・・・・・」
格納庫の中に入るとサクラの横にもう一機、大破した零戦が並べられていた。
「この前不調で胴体着陸した奴ですよ。コイツから使える部品を山ノ井一飛曹のに移植します」
中央胴体は無事ですから、これを翼ごと山ノ井一飛曹のと交換します。これで飛べるようにはなるでしょう。と言って、七日町一整曹は笑った。
「ありがとうございます」
わたしが頭を下げると、七日町一整曹は少しため息をついて機体に向かった。
わたしはそっとパイナップル缶を置くと、搭乗員控えに向けて歩き出した。




