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第二十二話 強敵ムスタング

「本日は、模擬空戦を行います。各機弾薬は装填してあるものの、発砲は禁じます。追浜を離陸したのちに丹沢山地上空に向かい、そこで二機ずつ模擬空戦を行います。まずは・・・・・」

 わたしは搭乗員同士の組み合わせを呼んでいく。

「長谷川三飛曹と藤見三飛曹」

『はい!』

 名前を呼ばれた搭乗員は返事をすると、前に出た。

「有井三飛曹と田宮三飛曹!」

『はい!』

 全員を呼び終えると、わたしはさらに号令をかけた。

「では、かかりなさい!」

『はいっ!』

 みんなの後について先頭に置かれた「サクラ」に飛び乗る。

「コンターック!」


 ガコン!バタバタバタバタ・・・・・・・・


 エンジンの音が響き渡り、各機のプロペラが回り出す。そのほとんどが、二一型の次の世代にあたる三二型と二二型だった。

「チョーク外せ!」

 両手を広げる。

「行くわよ!」

 風防から上半身を乗り出し、みんなに手で合図を出した。


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 いつものように操縦桿の操作で尾部を持ち上げたのちに手前に引いて離陸。

「主脚格納・・・・・・・・・・ッと」

 若鷲たちも、少しおぼつかないながらわたしの後ろから舞い上がってきた。


 トトトトトトトトトトト・・・・・・・・・・・・・


 エンジンの響きも快調に丹沢を目指す。


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 若鷲たちもわたしに続いた。

 そして、もう少しで丹沢上空に着こうかと言うころ・・・・・・・・・・・・

「ん?」

 遠くにキラキラとした点が見えてきた。

「友軍機・・・・・・・?」

 いや、違う!敵機だ!大きさからみて戦闘機、機銃掃射をするつもりなんだろう。

 急いで機首を翻した。一目散に横須賀に向かう。

「みんな!敵機を発見しました!追浜につき次第皆さんは着陸し、掩体壕に機体を入れてください。わたしは皆さんが着陸したのちに迎撃に入ります!」

 皆に無電を入れた。遠くに追浜の飛行場が見えてくる。

 ぎゅん!ぎゅん!

 後に続く若鷲たちが着陸の進路をとった。


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 エンジン回転数を絞って着陸していく。その様子を見ると、わたしは機首を反対に向けた。


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 追浜飛行場からも他の教官たちが上がってきた。自然とわたしが先頭で率いる形になる。


 グオォォォォォ


 わたしの隣に、一機の零戦が並んだ。風防の中に坂井先輩が見える。

 先輩は、手で合図を出すと、わたしを指さした。意味は、『お前に、指揮を任せる』。

 わたしはうなずくと、操縦桿を引いて高度を上げた。他の機も追従する。

「今回は、上方からの編隊一撃離脱で行きます。その後、残った敵を格闘戦で叩き落しましょう」

 わたしの無電に、各機が翼を振って答える。

 雲の上を飛んで、丹沢方面に向かう。

「あ!!」

 雲の切れ間に、敵機の群れが見えた。あの機首は間違いない、アメリカのP51「ムスタング」だ!

 わたしは二回翼を振り、敵機発見を知らせると、一気に操縦桿を押し倒す。


 グァァァァァァァァァァ!


 各機のエンジンがうなりを上げた。敵機はまだ気づいていない。

 雲を抜けた。目の前に敵機の編隊が現れる。

「いくよ!てぇっ!」

 一気に発射把柄を握る。


 ドドドドッ!


 二十ミリ機銃が火を噴いた。

 

 ドドドドッ!


 タタタタタタタタタッ!


 各機も射撃を始めた。

「よしっ!一機撃墜!」

 完全な奇襲になったマスタングが火を噴いて落ちていく。

「ぐはっ!」

 無線機から聞こえてきた声。とっさに振り向くと、列機が風防を撃ち抜かれて落下していった。

「クソがっ!」

 呪詛の言葉を敵に吐いた。

 降下を終えて機体を引き起こす。この時点での被撃墜は二機。その二人に心で手を合わせながら指示を出す。

「全機散開!」

 各機が編隊を解いて上昇した。各々敵機に挑みかかる。

 わたしは、マスタングの中でもひときわ技量が目立つ一機に注目した。

「あいつね!」

 隊長機だ。まずは大将から喰ってやろう!


 ギュイィィーン!


 フルスロットルで相手に向かって急降下。OPLの緑の輪に敵機を収める。

「てぇッ!」

 機銃発射把柄を握りしめた。


 ドドドドッ!


 機銃弾が敵機に向かって飛んでいく。でも、その弾が当たる一瞬前に敵機は離脱していた。


 グァァァァァァァァァァ!


 わたしの後ろに回り込もうとする。

「させるかっ!」

 わたしも操縦桿とフットバーを操ると、敵の後ろに回り込もうとした。

 何とか敵機を照準環にとらえる。

「えいやっ!」

 乾坤一擲の二十ミリ!


 ドドドドッ!


 弾がマスタングの風防に吸い込まれていく。操縦手を失った敵機は、眼下の山中に落下していった。

(それにしても・・・・・・・・)

 そっと敵のほうを見る。

「ずいぶん余裕ぶっこいてんのね・・・・・・・・・・・」

 敵機は両翼に増槽を吊り下げたまま空戦している。

「よし!」

 わたしは敵機の先頭に目を付けた。スロットルを開く。

「そおれっ!」


 ドドドドッ!


 上方から二十ミリ機銃を叩き込む。敵機の主翼、その真ん中のあたり。


 バキッ!


 敵機の翼が折れ飛んだ。

「よしっ!」

 そう呟いた瞬間・・・・・・・・・


 タタタタタタタタタッ!


 カン!カン!


 後ろからの機銃音と機銃弾が機体にあたる音。

「しまった!不覚!」

 後ろを見ると、ムスタングが一機後ろについている。

《山ノ井!!》

 一機の敵を屠った坂井先輩がこっちに機首を向ける。


 ドドドドッ!


 坂井先輩からの二十ミリを受けた敵機は、エンジンから火を噴きながら落ちていった。

「ありがとうございます!」

 機体の状態を確認すると、右翼が被弾し、燃料が噴き出ていた。


 ヴァァァァァァァァァァ!


 わたしが被弾しているのを見た敵機が一気に近づいてくる。

「こなくそっ!」

 操縦桿とフットバーを操り、敵機の後ろに回り込む。

《俺の愛弟子に手ぇ出してんじゃねぇよ!》

 坂井先輩も敵機の後ろに回り込んでは機銃弾を浴びせている。


 ボッ!


 右翼の被弾から火を噴いた。

《山ノ井!!》

 坂井先輩からの無電。

《お前は帰投するか脱出しろ!俺がおとりになる》

 そういうや否や、坂井先輩は敵機の中に突っ込んでいった。敵の注意が先輩にそれる。

「ありがとうございます!先輩!」

 わたしはそのすきを突くと、戦域を離脱して追浜に向かった。


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