第二十一話 再び横空へ
ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!カシャッ!
昭和二十年五月二十一日。わたし―山ノ井彩音の操る「サクラ」は、神奈川県追浜海軍飛行場に着陸した。
「ふう、無事到着・・・・・・・・・・っと」
いつものようにタキシングで列線まで『サクラ』を転がしていき、エンジンを切る。
「よっこいしょ・・・・・っと」
翼を伝って地面に降り、指揮所に向かう。
指揮所の中では、基地司令が待っていた。
「山ノ井彩音一飛曹。本日七時十五分をもって横須賀航空隊に着任いたしました!」
敬礼をして述べる。
「うむ」
基地司令がうなずいて答礼をした。
「この時世、帝都に対する空襲が活発化し、教育部隊の我々にも防空戦闘の任務が課せられるようになった。大変だと思うが、頑張ってもらいたい」
「ありがたきお言葉です」
そういって、指揮所を出た。列線には、零戦をはじめとしてたくさんの飛行機が駐機されている。
「あれは松山でも見た『紫電』と『紫電改』。あそこの双発機は夜間戦闘機の『月光』。艦爆の『彗星』に艦攻の『天山』もいる。さすが横須賀。たくさんそろってるな・・・・・・・」
「ほかに零式練戦とか一式陸攻、一式輸送機もいるぞ」
「ぴゃっ!」
突然後ろから聞こえてきた声。思わず素っ頓狂な声を出してしまう。
「よう、久しぶりだな」
振り向くと、後ろには坂井先輩がいた。
「先輩!一声かけてくださいよ!」
「わりいわりい」
先輩は頭の後ろをポリポリと掻くと、口を開いた。
「神之浦はどうだった?」
「特攻を見ました。なんか、背中がゾクゾクってしました。昨日までは同じように笑って話していた仲間が死んでいく。それって、恐ろしいですね」
「まあな。特攻を始めた大西中将も『統率の外道』って言ってたくらいだからな」
坂井先輩は頭上の空を見上げると言った。
「『統率の外道』・・・・・・ですか」
坂井先輩はうなずく。
「搭乗員一人育て上げるの、零戦一機作るのにどれだけの金と時間、人手かけてると思ってんだろうな。こんな作戦がまかり通るようじゃおしまいだな」
あ、絶対に上層部には秘密だぞ。と坂井先輩は言葉を継いだ。
「それにしても、いつの間に三四三空からこっちに来てたんですか?」
わたしがきくと、先輩はポリポリと頭を掻いた。
「ちょっとあっちでは隻眼じゃアレでさ、金ちゃんと入れ替わりでまたこっちに来させられたのよ」
「武藤金義一飛曹ですか・・・・・・」
「今は少尉だけどな」
ラバウル時代から先輩と仲の良かったエース搭乗員。いつの間にか一飛曹から少尉に昇進していたらしい。坂井先輩が寂しそうな目をした。
「もう、戦死しちまった。俺の代わりになってな・・・・・・・・・」
「あの武藤さんも・・・・・・・・」
ラバウルのころの明るい笑顔が脳裏によぎる。
(また戦友が死んだ・・・・・・・・・・)
櫛の歯が欠けるように戦死していく仲間。それは、明日のわたしに降りかかる運命かもしれないんだ。
うつむいたわたしの耳に、たくさんの人がかけてくる足音が聞こえた。
ドタドタドタドタ
「ん・・・・・・?」
『敬礼!』
顔を上げると、わたしの目の前には若い搭乗員たちがズラリと整列し、こっちに向かって敬礼していた。
その中の一人が前に出る
「山ノ井彩音一飛曹ですね?」
「う、うん」
わたしがうなずいて答礼すると、彼はさらに口を開いた。
「我々は、現在ここで訓練を受けている戦闘機操縦訓練生であります!」
もう一人お口を開いた。
「山ノ井一飛曹には、教官としてお世話になります故、こうして挨拶に伺いました!」
「ああ・・・・・・・・・」
そういえば、わたしは教官でもあるんだった。
「うん、よろしくね!」
そう言って、手を下ろす。みんなも手を下ろした。
そんなわたしたちを、横須賀の空が見守っていた
保信「保信と!」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびの~!」
三人『次回予告~!』
♪廻れ廻れよいと儚げに 翼もたぬ鳥の歌よ・・・・・・・・・
保信「さて、今回から『帝都の守り 横須賀編』に入りました」
春音「おばあちゃんはこれから終戦まで横須賀で教官と本土防空に従事しています」
みやび「この横須賀でも、『サクラ』に乗ってたんですよね?」
春音「うん。機銃は五二型と同じのに換装されていたから、整備の面で違うのは発動機とその他の細々としたとこだけだったらしいね」
みやび「確かに今、『サクラ』の整備を担当してるのはわたしですが、当時そのままの栄は意外なほど状態は良好で、ほとんど無理した形跡はないですね。ただ、ところどころに当てられたパッチが戦況の厳しさを感じさせます。彩音さんが丁寧に扱ってくれたおかげですね」
保信「さて、ここで零戦最大の強敵が登場します。『第二次大戦最良戦闘機』ともいわれた米陸軍の戦闘機です」
春音「次回、『強敵ムスタング』!お楽しみに」




