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第二十話 決闘

 ぎゅん!

 直上から急降下してきた敵機。わたし―山ノ井彩音はフットバーで機体を横滑りさせてそれをかわす。

「あいつは・・・・・・・・!」

 相手はF6F。わたしの後ろに回り込もうとしてくる。

「させるか!」


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 一気に操縦桿を引いて宙返り。相手の後ろについた。引き金を引く。


 ドドドドッ!


 でも、わたしの機銃弾は敵にあたることはない。

「え?」


 ヴァァァァァァァァァァ!


 突然後ろから聞こえてきたエンジン音。

「敵機だ!」

 今度は操縦桿を押し倒して下方に逃げる。


 タタタタタタタタタッ!


「こなくそっ!」

敵機が打ち出してくる機銃弾を横転でよけて反撃のすきを狙う。

《山ノ井さん!》

 無線機から聞こえる長嶋二飛曹の声。


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 ドドドドッ!


 長嶋機が敵機に向かって機銃弾をばらまきながら突撃した。でも、その先に敵機はいない。

《あれっ!?》


 タタタタタタタタタッ!


 次の瞬間、長嶋二飛曹は敵機の機銃弾を浴びて落ちていった。

「長嶋二飛曹!」


 グァァァァァァァァァァ!


 敵機がわたしに肉薄する。

「えいやっ!」

 ジグザグに飛んで敵機の目をくらまそうと試みた。

 操縦桿とフットバー、そして後方の敵機に意識を集中させる。

「なんとか振り切れば・・・・・・・・攻撃に移れる!」

 それでも、敵機はわたしの後ろにぴったりとついてくる。


 タタタタタタタタタッ!


 機銃の音がした。

 とっさに操縦桿を倒して機体を横転。何とかよける。

(こうなったら・・・・・・・・・)

 わたしの頭の中に一つの考えがよぎる。

(坂井先輩に笹井中尉、西澤さんに教わったあの技・・・・・・・・・・・)

 でも、あれは受け身の技で失敗したら次はない。失敗のほうが多い技だ。

 坂井先輩も「万が一の時以外は使うな」って言ってた。

(どうしよう・・・・・・・・・)

 わたしは回避行動をとりながらも、考え始めていた。



























「チッ・・・・・・・・しぶとい奴め・・・・・」

 俺―アラン・イラトリアスは自機の前方を飛ぶゼロを見ながらつぶやいた。

「当たりさえすれば墜とせるんだ!」

 ゼロは撃ちさえすれば簡単に火を噴く。でも、ラバウルの魔女は違った。

「あいつ……当たってない・・・・・・・・」

 まるで俺が撃つのを予測しているかのように横転ロールを繰り返している。

 でも、俺には勝算があった・・・・・・・・・・

「よしっ!」

 魔女がいったんジグザグの機動をやめる。何しろこの機動にはとてつもない負荷がかかるからな。


 グオォォォォォォン!


 一気にフルスロットルでアイツの後ろにつく。

「ラバウルの魔女・・・・・・・これでおしまいだ!」

 そういうと、俺は機銃発射ボタンに指をかけた。











 わたし―山ノ井彩音は後ろに敵機がついていることを確認すると、覚悟を決めた。

「あれを使うしかない」

 ぐいっ

 一気に操縦桿を引いて宙返りに移った。

 敵機も私と同じ機動をとろうとする。

「えいやっ!」

 一気に左のフットバーを蹴っ飛ばした。


 ギュン!


「ぐっ・・・・・・・・」

 機体が一気に左に旋回し失速寸前になる。わたしの体にもすごい負担が押しかかった。















「What!?」

 あの忌々しいラバウルの魔女は、忽然と俺―アラン・イラトリアスの目の前から消えた。

「どこに行った!?」

 周りを見回すが、あの忌々しい魔女の姿は見えない。

 次の瞬間・・・・・


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 タタタタタタタタタッ!


 突然下から聞こえてきたエンジン音と機銃の音。


 カンカン!カン!


 愛機に銃弾が当たって外板が音を立てる。

「何!?」


 ドドドドッ!


 あの忌々しい二十ミリ機関砲の音も聞こえ始めた。

「クソがっ!あの忌々しい魔女め!」


 ボッ!


 エンジンから火が噴き出る。

 

 ドドドドッ!


 バキッ!

 

 右翼の二分の一が機関砲弾を受けて折れ飛ぶ。


 俺は、脱出を決意した。


 ガラッ!


 風防を開けて身を乗り出す。俺の後ろに、あのゼロが見えた。ラバウルの魔女だ。

 もうすでに発砲はやめている。俺に勝ったことを確信したのだろう。

「クソがっ!クソがっ!」

 ゼロの風防から飛行士が顔を出しているのが見えた。ピンク色のマフラーにほかの奴らと同じチョコレート色の飛行服と帽子。だが、そのゴーグルの奥にある目は、男のものじゃなかった。

「やはり、魔女は女だったか・・・・・・・・!」

 操縦桿を蹴っ飛ばして機外に脱出。パラシュートの展開索を引いた。その瞬間、魔女のほうを見た。魔女は、こっちに向かって敬礼していた。


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 パラシュートを開いて降りていく俺。そのはるか上をあの魔女が飛んでいく。

「きれいだ・・・・・・・・・・・」

 上方からの日の光を受けて輝くゼロは、美しかった。















 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 前方から聞こえる栄エンジンの唸り声。わたし―山ノ井彩音は眼下に落下傘が開くのを確認すると、操縦桿とフットバーを操って上昇した。

「ふう。何とかあの技が利いてよかった」

 あの技は「ひねり」だ。西澤さんは「左ひねり込み」って言ってたけど。

(・・・・・いいか、彩音二飛曹)

 今はもういない西澤さんの声がよみがえってくる。

(零戦をはじめとした単発戦闘機ってのはプロペラの回る向きの関係で左旋回のほうが得意なんだ)

 西澤さんは手で飛行機の機動を再現しながら言葉を紡いでいた。

(だから、宙返りに向けて機体を引き起こした瞬間に右のフットバーを思いっきり蹴れば相手の後ろにすぐ回り込める。これが左ひねり込みだ。もっとも、一発勝負だから普段は使うなよ)

 頭によみがえってくる懐かしい声。でも、その主は靖国に行ってしまった。

(ありがとう・・・・・・西沢さん、笹井中尉、坂井先輩)

 わたしは心の中で声をかけると、神之浦へと機首を向けた。
































 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!カシャッ!


 エンジンの回転数を絞り、操縦桿を引いて三点姿勢で着陸。


 トトトトトトトトトトト・・・・・・・ガコン!


 列線まで愛機を転がしていくと、エンジンを切った。

「よいしょっと・・・・・・・」

 機体の足掛けを伝って地面に降りる。他の機からも岩本さんが降りてきた。

「長嶋二飛曹・・・・・・・・」

 ぼそりとつぶやく。

「わたしを守るために・・・・・・・・」

 わたしも返した。

 二人で南に向かい合掌すると、指揮所で戦果を報告する。

「岩本徹三飛曹長、敵戦闘機四機撃墜、二機小破致しました」

「山ノ井彩音一飛曹、敵戦闘機二機撃墜。一機中破いたしました」

 基地司令がうなずく。

「では、失礼いたします」

 わたしはその姿に背を向けると、搭乗員控えに向けて歩き出した。

保信「保信とぉ!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびの~!」

三人『次回予告外伝番外編~!!』


♪母の声を背にして きびすをかえさず行くは  凛と春に埋もれる 永訣の朝 ・・・・・・・


保信「ここ最近の回では、日本軍が劣勢に陥り、どんどん転げ落ちていく過程に入りました」

みやび「特攻も続けられますが、米軍に与える損害はあるものの、数で勝るアメリカは次々と新たな援軍を送り込んできます」

春音「内地の重油も底をつきかけ、まとまった艦隊行動は難しくなってきました」

保信「そんな中、内地の重油タンクをほぼ空にして出撃したのが、戦艦『大和』を中心とする第一遊撃部隊でした」

みやび「その末路は、この物語に書かれているとおりです」

春音「この回をもって『束の間の松山と特攻の神之浦編』は終了となります」

みやび「次回!『横空への再転属』お楽しみに!」

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