第十六話 アメリカのエース
「おい!それはほんとの話か!?」
「ああ、俺はこの目でしっかりと見た!ケビンがラバウルの魔女に撃墜されるところを!」
(なに・・・・・・・・・?ラバウルの魔女だと?)
アメリカ海軍エセックス級空母「イントレピッド」艦内の搭乗員室。
俺―アメリカ海軍戦闘機パイロット、アラン・イラトリアスは仲間たちの話に耳を傾けた。そっと口を開く。
「おい・・・・・・・・」
「なんだ?」
仲間の一人、ウィルソン・ライトニングがこっちを向く。
「ラバウルの魔女、そいつなら機体に桜花を描いているはずだ。そのしるしは見たのか?」
ウィルが首を縦に振る。
「ああ!見たとも!機体の国籍標識のちょうど後ろに、それはそれは鮮やかにチェリーブロッサムがあった!」
「なるほど、それは確かに認めざるを得ないな。いつ見たんだ?」
俺はそういうと、ポケットからラッキーストライクを取り出して口にくわえる。
「この前の桜花の時だ!あいつはヤバかった。あの開戦以来のベテランだったケビンがあっさりと後ろにつかれた。その次の瞬間、ケビンの機体はあの忌々しい二十ミリ機関砲を受けて火を噴いたんだ!」
もう一人のトマス・ブラウンが口角泡を飛ばしながら言う。
「いつの間にか、こっちに回されてきていたのか。あのソロモンの死闘も乗り越えて」
イントレピッド配属以来の仲のウィリアム・アーレイバーグがぼそりといった。
「確かに、あの海域はヤバかったな・・・・・・・・・・・・・」
俺が前に乗っていた空母「ワスプ」がジャップの忌々しい潜水艦に撃沈され、俺は味方駆逐艦に拾われた。そして、新たに配属されたのがこの「イントレピッド」だった。
「ありがとう、邪魔したな」
俺はそっと飛行甲板に出ると、ラッキーストライクに火をつけた。
「ふう・・・・・・・」
一通り吸うと、火をもみ消す。
その吸い殻を投げると、格納庫に向かう。そこには、艦載機がずらりと並べられていた。
その中の一機、グラマンF6Fヘルキャットに近づく。
機体のコックピット近くに描いた十個の旭日旗は、これまで俺が撃墜したジャップの数。あのクッソ忌々しい魔女の撃墜数がどれだけかは知らないが、アイツにとっても俺は良き好敵手だろう。
「ラバウルの魔女・・・・・・・待ってたぜ・・・・・」
アイツの腕は上等だ。しかし・・・・・・・
「・・・俺が、お前の息の根を止めてやる!」
宵闇の沖縄沖、イントレピッドは静かにたたずんでいた。
本日のあとがきは、都合によりお休みさせていただきます。




