表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/31

第十五話 神雷特攻

 とある夜のこと・・・・・・・・・・・


 ゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・


「うるさいなぁ」

 飛行機の轟音に目を覚まされる。一瞬敵襲かと思ったけど、空襲警報がないようだから味方機みたいだ。

「それにしても、かなりの大型機の音・・・・・・・・」

 そうこう言っているうちに、わたしはまた夢の世界に落ちていった。








 次の日の朝・・・・・・・・・

「これは・・・・・・・・・・・!!」

 起床して外に出たわたしたちの目に写ったのは、飛行場を埋め尽くさんばかりの飛行機の群れだった。

(これ、ラバウルで嫌になるほど見た・・・・・・・)

 一式陸攻だった。でも、ラバウルで見たものとはいろいろと違う。

 特に異様なのは、その胴体下に取り付けられている大きな砲弾のようなものだった・・・・

「特攻兵器『桜花』・・・・・・・・・・」

 岩本一飛曹がつぶやく。

「桜花・・・・・?」

「ああ、陸攻から射出されて敵艦に体当たりし、搭乗員諸共自爆して果てる。特攻のための兵器だ」

 そして、その母機である陸攻を護衛するのがわたしたちの零戦ということらしい。

 その直掩隊には、もちろんわたしも入っていた。

 特攻隊の出撃時期は未定。









 特攻隊の人たちは、訓練をする以外はだいたいそこらへんで暇をむさぼっていた。

 ちなみに、この前大学出の予備士官がそれを見とがめたら、特攻隊員が軍刀を振り回して士官室に乱入するということが起こったけど、それはまた別の話。
























 そんなある日のこと、わたしはいつものように敵襲に備えての待機を終えると、宿舎に戻るために歩き出した。

「今日も敵襲はなしか・・・・・・・・・・」

 宿舎に向かう滑走路脇。そこに、一人の男が座り込んでいた。

「山脇中尉・・・・・・・・・・」

 特攻隊の指揮官の一人、山脇基次中尉だ。まだわたしと同い歳かさらに年下。

「ん?ああ、山ノ井一飛曹か・・・・・・・・・」

 山脇中尉がこっちを振り向く。自分の隣の地面をポンポンとたたいた。

「ここに座れ」

「は、はい・・・・・・・・・」

 恐る恐る腰を下ろす。

「山ノ井一飛曹。俺たちが突っ込むときは、直掩を頼んだぞ。」

「は、はい・・・・・」

「お前たちがしっかり守ってくれないと俺たちが突っ込めないからな。ハハハ・・・・」

 空を見上げて笑う山脇中尉。わたしは、そっと声をかけた。

「あの、山脇中尉」

「ん?何だ?」

 わたしは、そっと口を開く。

「死ぬのは、怖くないですか?」

「え?」

 山脇中尉が唖然とした顔になる。

「桜花で突っ込んだら、山脇中尉達は死ぬんですよね。わたしは、死ぬのが怖いです。あなたは、死ぬのは怖くないんですか?」

「・・・・・」

 山脇中尉が黙り込む。そして、口を開いた。

「正直言って、死ぬのは怖い。でも、そこまでしてでも守りたいものがあるんだ」

「守りたいもの・・・・・・・・・?」

 山脇中尉の言葉に、困惑するわたし。山脇中尉は、さらに言葉を継いだ。

「俺には、恋人がいるんだ。」

(恋人・・・・・・・・・)

 山脇中尉は、飛行服のポケットから一枚の写真を取り出した。そこには、第二種軍装姿の山脇中尉と、和服を着た女性が映っていた。二人とも、にっこりと笑っている。

「きれいだろう?晴美って言うんだ。」

 山脇中尉がに笑いながら言う。

 晴美さんは、まるで白百合のように美しい人だった。

「俺たちがここであきらめて、アメリカを食い止めなかったら、あいつらはどっと本土に押し寄せてくる。そういう事態、お国はきっと晴美のような女子供まで繰り出して、玉砕させようとするに違いない。時代遅れの竹槍なんか持たせてな。」

 山脇中尉は、そう言うとわたしの目をまっすぐ見つめた。

「そんな事態にさせないために、俺の愛する晴美を死なせないために、俺は志願したんだ」

 山脇中尉の目から、涙が流れる。

「できることなら、俺だって死にたくはない。晴美と一緒に、幸せに暮らしたかった。でも、晴美を死なせたくはない。ここで食い止めるのが、俺たちの責務だ」

 そういって黙り込む山脇中尉。

「では、失礼します。」

 わたしは敬礼すると、その場を離れた。

















 その一週間後の三月二十日。

 最初の神雷特攻部隊が出撃する時がやってきた。

 白鉢巻きを締めた特攻隊員たちは、水盃をぐいとあおり、地面にたたきつける。

 そして、自らの死場へと向かう飛行機に乗り込んだ。

「直掩隊、発進!」


 ヴァラララララララララ・・・・・・・・・!


 エンジンのうなりも雄々しく、直掩の零戦たちが次々と離陸していく。

そのすべてが翼端を白く塗装していた。もちろん、わたしのサクラも例外ではない。

「わたしたちの任務は、特攻機たちが無事に突入できるようにすること・・・・・・」

 この翼端の白は、自分たちが目立って特攻機への注意をそらすのものだ。

 ぐいっ

 操縦桿を引くと、わたしの乗ったサクラは軽やかに舞い上がった。

 零戦隊に続き、腹に桜花を抱いた陸攻隊が離陸。零戦隊がその上に覆いかぶさるように編隊を組む。

「目標は沖縄の米艦船群!陸攻隊を撃墜させるな!」

 無線機から聞こえてくる隊長の声。各機がおおきくバンクを振った。

















 ドドドドドドドドドドド・・・・・・・・・・・・


 雲の上を飛ぶ一式陸攻。その中の座席に座った俺―山脇基次は懐から一葉の写真を取り出す。

「晴美・・・・・・・・・」

 あの純粋無垢な笑顔を思いだす。

「お前を死なせはしない。お前のために俺は死ぬ・・・・・・・・!」

 そう呟くと、自分の桜花かんおけを見た。

「もうすぐ沖縄じゃ。山脇中尉」

 俺が乗る陸攻の機長、大山中尉がこちらを振り返って言う。

「大山中尉、敵機です。米偵察機が二機・・・・・・・・・」

 副操縦士の大岡一飛曹が雲間に目を凝らして言った。

「了解」

 大山中尉が無線機を取る。

「編隊指揮官機より護衛戦闘機隊へ。米偵察機を撃墜せよ!」

《ヨーソロー》

 護衛戦闘機隊の岩本飛曹長から返答が返ってきた。

「とうとう見つかったか・・・・・・・」

「そんなんことせんでも警戒ピケット艦と電探レーダーでとうの昔に補足されとるわい!」

 大山中尉が叫ぶと、操縦桿を倒した。

「編隊指揮官機より全機へ。高度を下げー」


 






























「高度を下げ・・・・・・ね」

 無線機から聞こえる司令。わたし―山ノ井彩音はサクラの操縦桿を押し倒した。


 ガシャン!


 七・七ミリの弾を全装填し、今日の朝、整備兵さんに言われたことを反芻する。

「二十ミリ機銃は五二型と同じものに交換しておいた。装弾数は六十発から百二十五発に増えている・・・・・・」

 つまり、ラバウルのころほど弾切れに神経質にならなくてもいいわけか。

「でも、気は使わないとね・・・・・・・・・」

 眼下を飛ぶ陸攻隊を見る。

「山脇中尉のためにも・・・・・・・・」

 眼下を飛ぶ陸攻の一番機、その腹に抱かれた桜花に山脇中尉は搭乗する。

(山脇中尉・・・・・・・・・・)

 心の中で山脇中尉に語り掛ける。

(・・・・・・あなたの最期、ちゃんと晴美さんに伝えます)

 沖縄が近づいてきた。警戒を厳となす。

「相手はおそらくグラマン。特にヘルキャットには注意しないと・・・・・・」

 遠くに目を凝らし、耳を澄ませる。


 トトトトトトトトトトト・・・・・・・・・・・・・


 すぐ近くから聞こえてくるサクラのエンジン音。その音はほかの機のエンジン音と重なり、轟々と響く。

 ぐうっ

 隊長機が大きく二回翼を振った。

「あっ!!」

 遠くに、無数の黒点が見える。あのずんぐりむっくりした形状は紛れもないグラマンだ。


 ギュイィィーン!


 零戦隊のうち、最先鋒に展開していた数機がグラマンに挑みかかる。でも、こちらの零戦に対し、、アメリカのグラマンのほうが多い!

 なんか嫌な予感を感じたわたしは、下の方を見た。陸攻隊は、強敵グラマンの来襲に臨み、戦闘態勢に入っている。


グォォォォォォォォォ!


 零戦の攻撃を逃れたグラマンがエンジンをうならせて陸攻に肉薄する。

「させるかっ!」


ドドドドッ!


 わたしも一気に降下すると、グラマンに二十ミリを叩き込んだ。陸攻は腹に重い桜花を抱えているから、思うように回避運動ができない。


 ぎゅん!


 目の前を一機の零戦が横切った。横っ腹に描かれた撃墜マーク、岩本一飛曹だ!

 でも、多勢に無勢、グラマンに攻撃されて、何機かの陸攻が桜花を抱えたまま落ちていく。

「クソがっ!クソがっ!」

 グラマンに呪詛の言葉と機銃弾をたたきつける。

 沖縄の敵船団が見えてきた。わたしは、陸攻隊の先頭に近づく。

 陸攻の腹に吊り下げられた桜花。その風防の中に山脇中尉の顔が見えた。


 ガコン!ブシャーーーーー!


 陸攻から桜花が切り離される。山脇中尉が一瞬微笑んで、こっちに向かって敬礼した。

「山脇中尉!」

 わたしも敬礼を返す。

 山脇機はそのまま滑空すると、敵船団に突っ込んでいった。火の手が上がる。

《戦果確認完了!帰投する!》

 隊長機からの無線。わたしは機首を翻すと、神之浦に機体を向けた。














 山脇基次大日本帝国海軍中尉。

 昭和二十年三月十日、最初の特攻隊神雷特攻部隊桜花隊指揮官として鹿屋より出撃。アメリカ軍駆逐艦一隻を大破させ戦死。享年十八歳

山脇中尉辞世の句

「いざかん 皇国みくにの盾と相成りて 弥生の空に散りゆく運命さだめ

保信「保信とぉ!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびの~!」

三人『次回予告外伝番外編~!』


♪我を吹き叩く神の風 散華さんげせど悠なり

万歳三唱 熱視線 勇躍征途ゆうやくせいと 晴れ舞台

お喜び下さいませ 月月火水木金金

堪え難きに堪えし日々の 忍び難きに忍びし末路

行方知れずの我が心はあてもなく彷徨さまよう ・・・・・・・・・


保信「今回も始まりました次回予告。今回は、いよいよあの特攻が出てきてしまいます。」

みやび「この桜花は、母機の一式陸攻から射出されると、三本のバーナーに点火、そのまま敵艦に突っ込むことしかできない兵器でした。」

春音「特攻用として期待を受けて作られたこの桜花、しかし、桜花を腹に抱えた一式陸攻は桜花の重さ故機動性が落ち、アメリカのグラマンやコルセアの餌食となっていきます。」

保信「この桜花により、五十五名の搭乗員が散っていきました。」

みやび「今回の山脇中尉も、そのうちの一人です。」

保信「山脇中尉をはじめとして、すべての犠牲者に哀悼の意を表します。」


みやび「それでは、次回予告しましょう。次回!『アメリカのエース』!お楽しみに」


今回のBGMは、「爾今の洋々此の蛍光にあり」でした

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ