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第十四話 神之浦での再会

 送別会から一週間後、鹿児島県は神之浦基地にて・・・・・・・

「彩音二飛曹!久しぶりだな!いや、今は一飛曹か」

「岩本さん!お久しぶりです」

 詰所の前でお互いの手を握るわたしと岩本一飛曹。列線には、零戦たちがズラリと止められていた。

 その列線から離れたところ。そこにポツンといる一機の零戦に、わたしの目は吸い寄せられた。濃緑色に塗られた機体、尾翼番号「ヨー121」、機体後部に描かれた八重桜の花。

「サクラ!?」

 あれはきっと、わたしのラバウル時代からの愛機、零戦二一型「サクラ」だ。わたしが三四三空に転属した時に横須賀に置いてったけど、まさかこんなところで再会するなんて・・・・・・・・・・

「ああ、あいつは特攻用に回されてきたヤツだ。でも、エンジンがかからなくてああやって放置されてるんだ」

 岩本さんがわたしの視線の先にあるものを見て言う。

「エンジンがかからない?整備はされてるんですか?」

「いくら整備してもかからないんだよ。ここまで空輸してきたヤツもやっとのことでたどり着いたみたいだからね。」

 わたしは、サクラを見た。ところどころの塗料が剥げてジュラルミンの地肌が見え、機体のそこら中が黒ずんでる。

 あの栄光のラバウル時代とはかなり変わっていた。

「岩本一飛曹・・・・・・」

 わたしは岩本さんに声をかけた。

「なんだ?」

 わたしは、大きく息を吸い込んで言った。

「わたしを、あいつに乗せてください」

「あいつに?もう型落ちの二一型だぞ」

 岩本さんが眉をひそめる。

「それでもいいです。わたしをサクラに乗せてください」

           








 一週間後・・・・・・・・

 わたしが再びサクラに乗る日がやってきた。

 飛行服の上から救命胴衣カポックを着こみ、安全縛帯と落下傘を装着。飛行帽をかぶる。

 滑走路には、基地司令をはじめとして整備員さんたちが整列している。これまで何をやっても動かなかった機体だから、そりゃあね。

「山ノ井彩音、これより発進いたします。」

 基地司令に敬礼して伝えると、サクラのほうに向かった。

 サクラは今回のために放置されていたところから引き上げられ、完璧に整備されている。

 コックピットに体を滑り込ませ、安全縛帯をぎゅっと締める。椅子を最高位まで上げると、整備員に指示を出した。

「エナーシャ回せ!」


 キュンキュンキュンキュン・・・・・・・・・・!


 整備員が二人がかりで始動クランクを回し始める。

「コンターック!」


 ガコン! バタバタバタバタ・・・・・・・・


 エナーシャスターターレバーを引くと、耳に心地いい音を立ててエンジンが回転を始めた。

『おぉ・・・・・・・・・・・・・』

 滑走路わきに並んでいたみんなが感嘆の声を上げる。その方向に敬礼すると、エンジンを一度空ぶかしした。

「・・・・・・・・これならいける!」

 あの一体感、機体が自分の体になった感覚がわたしを包み込む。

 フラップを下ろし、スロットルレバーをめいいっぱい押し込んでフルスロットル!滑走を開始した。

「うん、主脚あしからの振動も正常。離陸!」

 操縦桿をグッと手前に引く。

 ふわっ

 振動が消えた。手元のスイッチを操作して主脚をしまう。機体にさらに速度がついたような感覚になった。

 レバー操作でフラップを上げて、両手で操縦桿を握る。

 海上に出て、操縦桿を倒して横回転に入ろうとした時だった。


 ウー!ウー!ウー!


 鳴り響く空襲警報のサイレン。地上の零戦に駆け寄る搭乗員たち。


 ピッ!


 無線機が鳴った。

《山ノ井一飛曹。そのまま敵機迎撃に移ってください》

 通信兵の声が聞こえてくる。

「了解!」

 返答すると、無線機から聞こえる声に耳を澄ませた。

《敵機は米軍B29『スーパーフォートレス』と認む。高度約八千メートル。機数は五機ほど。護衛戦闘機の機影は電探に写らず。》

 わたしは操縦桿を手前に引くと、スロットルを上昇出力まで開け、プロペラピッチを「低」に調節した。

 高度五千メートルを過ぎると、零戦の性能はガクッと落ちる。

「くっ、もっと高高度性能が良ければ・・・・・・・・」

 サクラはあえぎあえぎなんとか高度八千メートルに到達した。型落ちの二一型だからかな?やっぱり少し動きが鈍い。

 地上からも次々に零戦が上がってくる。そのほとんどは新しい五二型。二一型に乗っているのはわたししかいない。

 そして、遠くの地平線に糸くずのようなものが見えた。

「こちら山ノ井機敵機発見!」

 無線を入れると、高度を高くとって敵を待ち受ける。

 糸くずはどんどん大きくなり、やがて線を結んでくっきりと敵の形を見せた。

(やはり、B29五機か・・・・)

「日本海軍も、ナメられたものだね。」

 ぼそりとつぶやく。

「山ノ井機、攻撃を開始します!」

 そういうと、わたしは一気に操縦桿を引いた。

 敵機より高度を高くとり、操縦桿を一気に押し倒す。

「そおれぇっ!」

 敵機のコックピットめがけて急降下!風防に向けて七・七ミリを撃ち込む。

 敵機がぐらッと揺れる。そのすきに味方の零戦が一気に襲い掛かった。

「えいっ!」

 一気に敵の腹の下に潜り込むと、エンジンに肉薄した。

「とおりゃっ!」


 ドドドドッ!


 至近距離から二十ミリを叩き込む。

 ぼっ

 敵のエンジンから火が噴き出た。


 ドドドドドドドドドッ!


 ほかのエンジンにも零戦が群がっている。

 B29の巨体がぐらりと揺れた。腹からバラバラと何かが落ちている。

「あれは・・・・・わたしたちから逃げようと爆弾を海に捨ててるんだ!よしっ!」


 タタタタタタタタタッ!


 さらに七・七ミリを撃ち込む。

 ぐうっ

 B29が機体を傾けて旋回に入った。その間にも、零戦隊は必至の猛攻を続ける。

 ぐうぅっ

 B29は完全にわたしたちに背を向け、元来た方向に去っていった。

「やった!」

 これが、わたしとサクラの再会となった。

「山ノ井彩音!B29爆撃機一機中破いたしました!」

 基地に帰投して報告する。

「うむ」

 基地司令が周りの参謀たちと輪になって話し合う。そして、わたしのほうを向いた、ゆっくりと口を開く。

「零戦二一型『ヨー121』は特攻には回さず、直掩用とする!山ノ井一飛曹、貴様は直掩隊配属とする。アイツと一緒にがんばれ!」

(やった・・・・・・・・・!)

 また、サクラと飛べる。

「ありがとうございます!」

 わたしはそういうと、基地司令に敬礼をした。

七日町「えー、作者の七日町です。今回は、いつもの三人に代わり、僕が次回予告をいたします。今回の戦闘で、彩音たちはB29一機を中破させたものの、零戦二機を失いました。それでは、次回『神雷特攻』!お楽しみに!」

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