第十一話 呉軍港空襲ヲ受ク
三月十九日の朝、布団の中でぐっすりと起床のラッパを待ってると・・・・・
ウーッ!ウーッ!ウーッ!
《広島県呉軍港方面に向かう大規模な敵機編隊を確認!迎撃せよ!迎撃せよ!》
「!!」
布団を跳ね飛ばしながら起き上がり、急いで飛行服に着替える。
指揮所前に集合し、源田大佐から訓示をいただいた。
「かかれっ!」
外の列線に止めてある機体に八重桜を描いた愛機の紫電改に飛び乗り、安全縛帯を締めた。始動クランクに整備員が取り付いてるのを確認。
「回せーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
整備員が二人がかりで始動クランクを回し始めた。
「コンターーーーーーーック!!」
バタバタバタバタ!
エンジンがかかり始めるとほぼ同時にスロットルを一番奥に押し込んで全開にして滑走開始!
ぐいっ
操縦桿を引くと、鋼鉄でできた荒鷲は、軽やかに大空へと舞い上がった。
次々に上がってきたみんなと編隊を組む。
ぎゅん!
わたしの横を一機の紫電改が通り過ぎた。横っ腹の国籍マークに重なるように書かれた「15」の文字と機体番号「343―15」、機体にまかれた黄色の帯・・・・菅野大尉だ!
菅野大尉機は、わたしの前につく。
ガーーーーーーーーー・・・・・・・・
無線機が鳴った。
《山ノ井一飛曹!》
「はい!なんでしょうか?菅野大尉!」
菅野大尉の声が無線機から聞こえてきた。
《呉には、戦艦『大和』、『榛名』、『伊勢』、『日向』。軽巡『矢矧』をはじめとする第二水雷戦隊。呉近くの三つ子島には空母『天城』、『葛城』、『龍鳳』が停泊している!なんとしてもそいつを守るんだ!》
(矢矧っ!二水戦……!)
ラバウルで別れた時の矢矧と雪風の笑顔が脳裏に浮かぶ。
(待っててね・・・・・・・・絶対に守るから。)
《山ノ井、俺と編隊を組め!》
菅野大尉が叫んだ。三四三空では、必ず二人一組で空戦にあたることになっている。
「はい!」
菅野大尉がわたしの横に並んだ。
遠くに山々に囲まれた港が見えた。その上を熊蜂みたいにずんぐりむっくりした機が舞っている。
《こちら菅野一番敵機発見!》
菅野大尉は、そういうや否やフルスロットルで敵機の群れに突っ込んでいった。
「ちょっと、待ってください!」
わたしも同じように続く。
ヴァララララララララララ!
紫電改の誉エンジンがうなりを上げ、わたしの乗った紫電改がどんどん敵機に近づいていく。さすがに気付いたのか、グラマンがわたしの前に立ちはだかった。
「てぇっ!」
機銃発射把柄を思いっきり握りしめる。
ドドドドドッ!
何発かに一発の割合で混じってる曳光弾が敵機に吸い込まれる。
ぼっ!
敵機のエンジン部から炎が噴き出た。そのまま墜落していく。
「こちら菅野二番、敵機撃墜!」
無線で菅野大尉に連絡すると、二人いっぺんに手近な敵機に挑みかかる。今度は、艦爆のSBDドーントレスだ。
ドドドドドッ!
両翼の二十ミリ機銃が火を噴く。
ボンッ!
SBDが爆発四散した。胸元まで操縦桿を引きつけて背面飛行に入る。次の瞬間・・・・
タタタタタタッ!ボッ
横を飛ぶ菅野機のエンジンから火が出た。菅野大尉は即座に落下傘で脱出したらしい。下を見ると、純白の落下傘が下に降りて行った。
広島県呉軍港に係留されている駆逐艦「雪風」艦上。
「撃―――ッ!!」
ドォン!
「次弾装填急げ!」
「装填完了!」
「よし!撃て!」
「撃――――ッ!!」
防空戦闘の指示が飛び交い、三基の12、7センチ砲が上空の敵機に向かい火を噴いた。
「くっ、もっと主砲の仰角が取れれば・・・・・・・・・・・・」
駆逐艦「雪風」艦魂の雪風は、上空を悠々と飛び回る敵機を見つめると、つぶやいた。
「そして、護衛の戦闘機がいてくれれば・・・・・・・・・・」
一機の敵機が雪風に向かって急降下してくる。アメリカ海軍攻撃機、グラマンTBF「アベンジャー」だ。
「くっ、『呉の雪風佐世保の時雨』の片割れももはやここまで・・・・・・・・」
ドドドドッ!
雪風が目を閉じて歯を食いしばった瞬間、機銃の発射音が聞こえてきた。
「えっ・・・・・・・・?」
もう一度開いた雪風の目に写ったのは、煙を吹いて落ちていく敵機とその上を飛ぶ紫電改だった。
紫電改の機体後部、国籍表記の少し後ろに雪風の視線は吸い寄せられた。そこに描かれているのは、色鮮やかな桜の花。
「あ、彩音さん!?」
ラバウルまで輸送した搭乗員の中でひときわ異彩を放っていた女性。その後の活躍は、乗員たちのうわさ話やラバウル方面に行ってきたほかの艦魂からの話しによって耳にしていた。機体に桜花を描いていることも、今度三四三空に転属することも。
「ありがとう、彩音さん・・・・・・・・」
雪風はそっとつぶやくと、空を見上げた。
わたし―山ノ井彩音は、敵機を見つけると上方から二十ミリをお見舞いし、素早く離脱した。
「さっきのは米軍攻撃機TBF。ということは、近くにアイツの攻撃対象がいるはず。」
周りを見渡すと、一隻の駆逐艦が目に入った。その横っ腹に書かれている艦名は・・・・・
「雪風!?」
ラバウルの波止場で別れた時の笑顔が脳裏に浮かぶ。その時握った掌のぬくもりも・・・・・・・・・・
雪風に乗ってラバウルに向かう途中、敵潜水艦に追尾されたとき、雪風は爆雷を落として相手を撃退してくれた。あの行為がなければ、今頃わたしたちは魚雷によって海の藻屑となっていたかもしれない。
(雪風・・・・・・あの時は守ってくれてありがとう)
そして・・・・・
「今度はわたしがあなたを守る!!」
機銃掃射をかけようとしたF6Fに上方から機銃弾を撃ち込み、素早く操縦桿を引いて離脱!
その時、わたしの頭の中に声が流れ込んできた。
「彩音さん!彩音さん!」
「その声は雪風!?」
「はい!艦魂の能力を用いて会話させてもらってます。彩音さん、ありがとうございます」
「そんなことないよ、わたしはただ任務を遂行しただけ。」
その間にも、わたしは次々と襲ってくる敵機を葬り去る。
「彩音さん!後ろ!」
雪風の声にとっさに操縦桿を左、フットバー右で機体を横滑りさせる。
「どいててください!」
タタタタタタタタタッ!
雪風に促されるままにいったん離脱すると、さっきまでわたしがいたところを敵弾が通り抜け、それを放った敵機に雪風の対空機銃弾がさく裂した。
「やるね、雪風。」
「彩音さんほどではないです。」
敵機が引き上げ、わたしたちだけが呉軍港上空に残された。
「じゃあね、雪風。矢矧にもよろしく」
「わかりました、彩音さん。」
機種を翻し、松山基地に帰投する。
その日を境に、呉軍港には多数の敵機が空襲に訪れることになるのをわたしたちはまだ知らなかった。
作者「えーどうも、この作品の作者の七日町です。今回は、僕がいつもの三人に代わり次回予告をいたし・・・・・・・」
春音「作者さん!見つけましたよ!この前コンギョを流して読者に不安を抱かせたことに対する責任はとってもらいますからね!」
みやび「簀巻きにされて小名浜沖に沈んでもらいますよ!」
保信(電話中)「もしもし、信さん?陸戦隊を派遣してもらえる?」
作者「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
みやび「と、いうわけで」(バズーカ砲を取り出す。)
みやび「作者さん、さようなら!」(引き金を引く)
ボン!
作者、無事死亡
みやび「悪は滅びました!」
春音「次回!『わたしの転属と送別会』!お楽しみに~!」




