第十話 源田実
とある日の朝、いつものように布団の中で起床ラッパを待っていると・・・・・・・・・・
「山ノ井、起きろ~。おい!山ノ井~?」
んんんん・・・・・うるさいなー。
「おいっ!起きろってば!」
目を開けたら、坂井先輩がいた。しかも、目の前五センチくらいのところに。
「うっうわあぁぁぁぁぁっぁぁ!」
ボカン!
いきなり頭をはたかれた。
「・・・・・・・ったく。大声出すな。失礼な後輩だな。」
うぅぅぅ、あんなに顔近づけておいて「失礼だな」はないと思うけど。
「源田大佐が呼んでるぞ。」
源田大佐が?
急いで身なりを整えて、源田大佐の部屋に向かう。途中、門の前で、女子挺身隊と行き会った。その中の一人に、わたしの目は釘付けになる。
ひじから先がない、かたわの腕・・・・・・・・。
「兵隊さん、おつかれさまです。」
挺身部隊のみんなが、道端によって頭を下げてくれる。あのかたわの子に、話しかけた。
「あなた、その腕はどうしたの?」
その子は、顔を上げた。まだ十五、六才だろうか。あどけなさの残った顔だ。
「ああ、これですか。B29が落としてった不発弾をうっかり触っちゃいまして、触った瞬間ドン!ですよ。」
(こんな子供まで・・・・・・・・・・・)
わたしの心の中に、どす黒い何かがこみあげる。それを押し込めるように、首を横に振った。
「忙しいのにじゃましちゃってごめんね。お国のために、がんばってね。」
『はい!!ありがとうございます!』
女子挺身隊を見送って、源田大佐の部屋に向かって再び歩を進めた。
「山ノ井彩音、参りました。」
「おう、入れ」
源田大佐は、窓際に立って、外の景色を眺めていた。
「きれいな空だな。ちょうどお前と初めて会った時も、こんな空だった。」
「え?」
源田大佐は、こっちのほうを向くと、続けた。
「覚えてないか?俺は一度、お前と会ったことがある。まだ幼かったお前とな。」
つぎの瞬間、わたしの頭の中に浮かんでくる光景。青い空、銀色にきらめく複葉機、機体から降りてきた搭乗員の誇らしげな姿、そして、搭乗員の「お前も飛行機乗りになりたいのか?」という言葉・・・・・・・
「源田大佐は・・・・あの報國號の時の・・・・・・」
源田大佐は、わたしの言葉にうなずいた。
「そうだ。まさか、あの時のガキが自分の部下になるなんてな・・・・思ってもみなかったよ。」
窓の外には、列線に止めてある数機の紫電改。整備兵がその機体に取り付き、せっせと磨いている。整備中かな?発動機覆が外されているのもあった。
その様子を一瞥すると、源田大佐はこっちに顔を向けて問う。
「山ノ井一飛曹、そもそも俺たち軍人の存在意義は何だと思うか?」
「はぁ・・・・・・・戦うことでしょうか・・・・・」
予想外の問いだった。思えば、自分たちの存在意義なんて考えたこともなかった。ただ無心に機体を操り、敵と戦ってただけだ。
源田大佐は、首を横に振った。
「『守ること』だよ。戦うことは、守るための手段にすぎん。」
「守ること・・・・・・・・?」
源田大佐は、窓の外の空を見て言った。
「B29は、前までは軍需工場や軍事基地だけを狙って爆撃していたんだ。でも今は、住宅地だろうが何だろうが無差別に爆撃している。そのせいで、罪のない女子供が死んでいくんだ。まぁ、俺たち日本も、中国で同じようなことはやったが。」
源田大佐は、窓の外を見た。紫電改が三機、訓練のため離陸する。
「そんな人間を一人でも多く守るのが、俺たち軍人の仕事なんだよ。」
フッとため息をついて、続ける。
「軍の存在意義は『守ること』。これが、一番大事なことだ。だけど、俺たち日本は、そのことを忘れて、『攻め』ばかりしてしまったんだ。陸さんの暴走に引きずられた面もあるがな。」
たしかに、これまで日本は、満州だけでなく中国の奥地まで侵攻している。南京の占領では、戦闘機で城内に向けて機銃掃射を行って、民間人が死んだとのうわさも聞いている。
「でも、陸さんの暴走を止められなかった海軍にも責任がある。」
源田大佐は、わたしに桐でできた小箱を渡した。開けると、中には使い込まれた飛行眼鏡が収められている。源田大佐が言った。
「もしかしたら、俺は戦犯として処刑されるかもしれん。何しろ、『真珠湾攻撃の航空参謀』だからな。そうなったときのための、形見だ。」
「戦犯?・・・・・・・・処刑・・・・・・・?」
わたしは、何が何だかわからない。源田大佐は、わたしの目を正面から見据えて、言った。
「この戦は、先が見えた。おそらく、日本が負けるだろう。」
「えっ・・・・・・・・・・・・・・」
「大本営がいつ降伏を受け入れるのかは、わからない。でも、その時が来るまで、一人でも多く、一般人の命を守る。それが、俺たちに課せられた任務だ。」
(一人でも多く・・・・・・・・守る。)
わたしの脳裏に浮かんだのは、あの片手をなくした女の子。
(ああいう子を、一人でも多く守るんだ!)
家族がなくなって悲しむのは、誰だって・・・・・・・・そう、日本だろうがアメリカだろうが変わらない。
「では、失礼します」
わたしは源田大佐に敬礼をすると、部屋を退出した。
保信「保信とぉ!」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびの~!」
三人『次回予告外伝番外編~!』
♪海路一万五千余哩万苦を忍び東洋に 最後の勝敗決せんと寄せ来し敵こそ健気なれ・・・・・
春音「今回も始まりました次回予告!」
保信「今回は、ネタがありません!」
春音・みやび『え!?』
保信「マジでネタがない。と作者さんが言ってました。以上!」
春音「じゃあ、次回予告行っちゃいましょう!」
みやび「次回は、三四三空編初めての戦闘シーンです。それでは皆さん」
三人『お楽しみに~!!』




