表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/31

第十話 源田実

 とある日の朝、いつものように布団の中で起床ラッパを待っていると・・・・・・・・・・

「山ノ井、起きろ~。おい!山ノ井~?」

 んんんん・・・・・うるさいなー。

「おいっ!起きろってば!」

 目を開けたら、坂井先輩がいた。しかも、目の前五センチくらいのところに。

「うっうわあぁぁぁぁぁっぁぁ!」

 ボカン!

 いきなり頭をはたかれた。

「・・・・・・・ったく。大声出すな。失礼な後輩だな。」

 うぅぅぅ、あんなに顔近づけておいて「失礼だな」はないと思うけど。

「源田大佐が呼んでるぞ。」

 源田大佐が?






 急いで身なりを整えて、源田大佐の部屋に向かう。途中、門の前で、女子挺身隊と行き会った。その中の一人に、わたしの目は釘付けになる。

 ひじから先がない、かたわの腕・・・・・・・・。

「兵隊さん、おつかれさまです。」

 挺身部隊のみんなが、道端によって頭を下げてくれる。あのかたわの子に、話しかけた。

「あなた、その腕はどうしたの?」

 その子は、顔を上げた。まだ十五、六才だろうか。あどけなさの残った顔だ。

「ああ、これですか。B29が落としてった不発弾をうっかり触っちゃいまして、触った瞬間ドン!ですよ。」

(こんな子供まで・・・・・・・・・・・)

 わたしの心の中に、どす黒い何かがこみあげる。それを押し込めるように、首を横に振った。

「忙しいのにじゃましちゃってごめんね。お国のために、がんばってね。」

『はい!!ありがとうございます!』

 女子挺身隊を見送って、源田大佐の部屋に向かって再び歩を進めた。

「山ノ井彩音、参りました。」

「おう、入れ」

 源田大佐は、窓際に立って、外の景色を眺めていた。

「きれいな空だな。ちょうどお前と初めて会った時も、こんな空だった。」

「え?」

 源田大佐は、こっちのほうを向くと、続けた。

「覚えてないか?俺は一度、お前と会ったことがある。まだ幼かったお前とな。」

 つぎの瞬間、わたしの頭の中に浮かんでくる光景。青い空、銀色にきらめく複葉機、機体から降りてきた搭乗員の誇らしげな姿、そして、搭乗員の「お前も飛行機乗りになりたいのか?」という言葉・・・・・・・

「源田大佐は・・・・あの報國號の時の・・・・・・」

 源田大佐は、わたしの言葉にうなずいた。

「そうだ。まさか、あの時のガキが自分の部下になるなんてな・・・・思ってもみなかったよ。」

 窓の外には、列線に止めてある数機の紫電改。整備兵がその機体に取り付き、せっせと磨いている。整備中かな?発動機覆(エンジンカウル)が外されているのもあった。

 その様子を一瞥すると、源田大佐はこっちに顔を向けて問う。

「山ノ井一飛曹、そもそも俺たち軍人の存在意義は何だと思うか?」

「はぁ・・・・・・・戦うことでしょうか・・・・・」

 予想外の問いだった。思えば、自分たちの存在意義なんて考えたこともなかった。ただ無心に機体を操り、敵と戦ってただけだ。

 源田大佐は、首を横に振った。

「『守ること』だよ。戦うことは、守るための手段にすぎん。」

「守ること・・・・・・・・?」

 源田大佐は、窓の外の空を見て言った。

「B29は、前までは軍需工場や軍事基地だけを狙って爆撃していたんだ。でも今は、住宅地だろうが何だろうが無差別に爆撃している。そのせいで、罪のない女子供が死んでいくんだ。まぁ、俺たち日本も、中国で同じようなことはやったが。」

 源田大佐は、窓の外を見た。紫電改が三機、訓練のため離陸する。

「そんな人間を一人でも多く守るのが、俺たち軍人の仕事なんだよ。」

 フッとため息をついて、続ける。

「軍の存在意義は『守ること』。これが、一番大事なことだ。だけど、俺たち日本は、そのことを忘れて、『攻め』ばかりしてしまったんだ。陸さんの暴走に引きずられた面もあるがな。」

 たしかに、これまで日本は、満州だけでなく中国の奥地まで侵攻している。南京の占領では、戦闘機で城内に向けて機銃掃射を行って、民間人が死んだとのうわさも聞いている。

「でも、陸さんの暴走を止められなかった海軍にも責任がある。」

 源田大佐は、わたしに桐でできた小箱を渡した。開けると、中には使い込まれた飛行眼鏡が収められている。源田大佐が言った。

「もしかしたら、俺は戦犯として処刑されるかもしれん。何しろ、『真珠湾攻撃の航空参謀』だからな。そうなったときのための、形見だ。」

「戦犯?・・・・・・・・処刑・・・・・・・?」

 わたしは、何が何だかわからない。源田大佐は、わたしの目を正面から見据えて、言った。

「この戦は、先が見えた。おそらく、日本が負けるだろう。」

「えっ・・・・・・・・・・・・・・」

「大本営がいつ降伏を受け入れるのかは、わからない。でも、その時が来るまで、一人でも多く、一般人の命を守る。それが、俺たちに課せられた任務だ。」

(一人でも多く・・・・・・・・守る。)

 わたしの脳裏に浮かんだのは、あの片手をなくした女の子。

(ああいう子を、一人でも多く守るんだ!)

 家族がなくなって悲しむのは、誰だって・・・・・・・・そう、日本だろうがアメリカだろうが変わらない。

「では、失礼します」

 わたしは源田大佐に敬礼をすると、部屋を退出した。

保信「保信とぉ!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびの~!」

三人『次回予告外伝番外編~!』


♪海路一万五千余哩万苦を忍び東洋に 最後の勝敗決せんと寄せ来し敵こそ健気なれ・・・・・


春音「今回も始まりました次回予告!」

保信「今回は、ネタがありません!」

春音・みやび『え!?』

保信「マジでネタがない。と作者さんが言ってました。以上!」

春音「じゃあ、次回予告行っちゃいましょう!」

みやび「次回は、三四三空編初めての戦闘シーンです。それでは皆さん」

三人『お楽しみに~!!』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ