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第八話 三四三空配属と戦友の死

 プシュァーーーーーー!ダン!ダン!ダン!


「まーつやまー、まーつやまー。終点、松山でございます」

 機関車の音と車掌さんの声。わたしは、ハッと目を覚ます。

 大船での横須賀線から東海道、山陽本線の鈍行に乗り継ぎ、さらに宇品で連絡船の乗り換えて瀬戸内海を渡る。そして、高松からは予讃線の鈍行に乗り換えたわたしたちは、横須賀を発った次の日に松山に到着した。

 郊外にある飛行場に向かい、隊長の源田大佐にあいさつする。

「坂井三郎一等飛行兵曹、本日十一時ニ十分ヒトヒトフタマルをもちまして、第三四三航空隊に着任いたしました!」

「同じく、山ノ井彩音一等飛行兵曹、本日十一時ニ十分ヒトヒトフタマルをもちまして、第三四三空に着任いたしました!」

 二人で敬礼して、源田大佐の前に立つ。

「うむ、よく来てくれた。期待しているぞ」

 机にひじをついて、こっちを見ている源田大佐。真一文字に結んだ唇、太めの眉大き目な目には、みなぎる闘志が秘められていた。

「身に余るお言葉であります!」

 坂井先輩が敬礼して返す。

(あれ・・・・・・・?)

 初対面のはずなのに、源田大佐とわたしはどこかで会ったような気がした。

(すごい昔、わたしがまだ国民学校に入る前のころ・・・・・・・・)

 だめだ、思い出せない。

(それにしても・・・・・・)

 この人が、海軍内の航空の第一人者、源田大佐か。

 一言二言挨拶をしたのは確かだけど、緊張して何を話したのかも覚えてない。

 この三四三空は本土防空に徹する部隊で、使う機体は零戦ではなく最新の紫電、紫電改。そして、古今東西のエースが集められている。

 さっそく飛行服に着替えて、自分の紫電改を確認する。

 紫電は、川西飛行機が開発した最新戦闘機だ。自動空戦フラップなどの採用により格闘性能を高め、誉エンジンの採用で最高時速を上げている。だけど紫電は中翼でいろいろと使いづらい。それを零戦と同じように低翼にしたのが紫電二一型、通称「紫電改」。

あくまで局地戦闘機だから、航続距離は零戦に劣るけど、いい飛行機だ。

 この三四三空は、「新撰組」、「維新隊」、「奇兵隊」などの部隊に分けられていて、わたしは新撰組の配属になった。坂井先輩は教官。









 新撰組の詰所につくと、中から一人の男の人が出てきた。手には、軍刀を持っている。歳は二十歳そこそこだろうか。しかも、かなりの美男子だ。

「今回配属されました山ノ井彩音一等飛行兵曹にございます。宜しくお願い致します」

 敬礼すると、相手も敬礼を返した。

「新撰組隊長の菅野直だ。よろしく頼む」

 その途端、うしろにいた坂井先輩が声を上げた。「心配だから」ってついてきてたんだ。

「はぁ?お前みたいなひよっこが隊長!?まったく、源田は何考えてんだ?こんな若造より岩本とか連れて来いよ・・・・・ジャクめ・・・・・」

 ジャクというのは、使えない搭乗員のことだ。

 つぎの瞬間、詰所の中からすさまじい怒号が飛び出してきた。

「なんだとテメェ!菅野隊長を悪く言うんじゃねぇ!この俺がぶっ殺してくれるわぁぁぁぁ!」

「おい、杉田・・・・やめんか」

 なだめる菅野さんを押しのけて、菅野さんより少し年上くらいの男の人が坂井先輩に向かって突進した。手には、拳銃を握っている。

「おう!こいやこらぁ!」

 先輩も腰の拳銃を抜いた。

 マズい!このままじゃ拳銃を使った大乱闘が発生してしまう。まわりの隊員たちは恐怖で固まってるし。

 わたしは二人の間に入った。

「二人とも、やめてください!これ以上やられて源田大佐に見つかったらただじゃすみませんよ」

『うるさい!山ノ井一飛曹!』

 二人が拳銃をわたしの頭に突き付けた。ひぇ~!助けてください!

 まわりにはいつのまにか、人垣ができている。その人垣が急にざわざわし始めた。

 その中を歩いてきたのは・・・・・

『げっ、源田大佐!!』

 驚いた先輩と杉田飛曹長の声。大佐はその二人に近づくと、やんわりとした口調でなだめた。

「これこれ二人とも、同じ皇国の空を守る者同士ではないか。こちらが仲間割れなどしていては、アメリカに勝てぬぞ。その無粋な拳銃をしまいなさい」

 二人ともおとなしく拳銃を腰に差す。

「それでよし。山ノ井一飛曹は、ちょっとこっちに来なさい」

「はい・・・」

















 源田大佐に呼ばれて、ついていく。司令室に入った。

「山ノ井、お前宛の郵便だ」

 大佐は、机の上から一枚の紙を取り上げた。わたしに手渡す。あて名は、わたしの名前で、「検閲済」のハンコ入り。そこに書いてあった文面を見た途端、わたしの顔から血の気が引いた。

「西澤廣義一等飛行兵曹は、昭和拾九年拾月弐拾六日輸送機にて移動中、壮烈な戦死を遂げられたるうえ、ここに通知す」

(ウソだ!ウソだ!あの撃墜王の西澤さんがこんなむざむざとやられるなんて!ウソだよね!?)

 でも、文面は変わらない。わたしの目から暖かい汁が流れ、頬を伝った。

「悲観するな。西澤は、これをお前に遺したんだ」

 源田大佐が、布袋に入った棒状のものを取り出す。

「これは・・・・・」

 中から出てきたのは、白鞘の軍刀だった。なかごの部分に「武功抜群」の文字が彫ってある。

「これは、西澤さんの・・・・・・」

 よくみんなに見せては自慢してたヤツだ。

「あらかじめ書いておいた遺言状でな。『おれが死んだら山ノ井彩音に届けてほしい』と言っていたそうだ。今日からそれは、お前のものだ」

「わかりました。ありがとうございます」

 源田さんに一礼して部屋を出ると、わたしはその場にしゃがみこんで、泣いた。

 戦死の報は坂井先輩にも伝わったらしく、先輩も部屋にこもって涙を流していたようだ。

 かつての戦友たちが、櫛の歯が欠けるように一人、また一人と戦場に消えてゆく。それは、明日の自分に待ち受けている運命なのかもしれない。

 戦闘機乗りは戦場から離れることはできない。ただひたすらに自機を操り、戦うのみだ。

 わたしは軍刀を抱きしめると、ゆっくりと立ち上がった。

(今日からは、この軍刀を笹井中尉、西澤一飛曹だと思って生きていこう。この軍刀には、死んだ仲間の魂がこもっているんだ)

 最後の最後まで、生き抜いてやる!それが、戦死したみんなに対する最大の供養だ。

 わたしは軍刀を左手に握ると、自分の部屋に向けて歩き出した。

保信「保信とぉ!」

春音「春音とぉ!」

みやび「みやびの~!」

三人『次回予告外伝番外編~!!』

♪海の民なら男なら 皆一度は憧れた太平洋の黒潮をともに勇んで行ける日が来たぞ歓喜の血が燃える・・・

みやび「さて、今回は彩音さんの戦友がまた一人減っていきます。」

春音「お祖母ちゃんが内地に引き上げた後に台南空は壊滅、ともに翼を並べた多くの若者たちが、自らの愛機とともに散っていきました。」

保信「今でも、南方の海の底やジャングルには、たくさんの零戦たちが眠っています。」

春音「そろそろ次回予告行きましょうか。」

保信「だね。」

みやび「次回は、今回初登場の二人の過去が明らかに!?」

三人『次回!二人のエースの過去、お楽しみに~!』

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