第七話 再会と新たな辞令
昭和十九年八月三十日、大日本帝国横須賀基地。
「う~!疲れた~!」
「だらしないですよ、坂井先輩」
訓練を終えたわたしは、坂井先輩と並んで指揮所に入った。
「坂井三郎一等飛行兵曹、訓練を終えてただいま帰投致しました。」
「同じく山ノ井彩音一飛曹、訓練を終えて帰投致しました。」
上官に報告をして休憩室に入る。
湯呑の中の水を飲みほして、坂井先輩を見た。
先輩は、被弾した右目の視力を失っているものの、右目が失明したらこれまで見えなかった左目の視力が回復したらしい。
(まったく、二回も被弾して生きてるなんて、先輩の生命力は底なしね。)
「ん?どうした山ノ井一飛曹」
「いえいえなんでも」
先輩の機は、これまでの二一型から五二型に変わっていた。ちなみに、わたしはラバウル時代からの二一型「サクラ」。
ほとんどの機体が迷彩として濃緑色に塗り替えられている。その中の一機だけ、機体に八重桜を描いている。それが、わたしのサクラだ。
「それにしても、戦う機会ないですね。」
横須賀航空隊は訓練部隊だから、実戦に参加する機会はほとんどない。
そんな中、わたしと坂井先輩に、辞令が下った。
「第三四三航空隊勤務ヲ命ズ」
第三四三航空隊―通称三四三空は、真珠湾攻撃の航空参謀源田実大佐が設立したエリート集団だ。そこに招かれたってことは、わたしと先輩の実力が認められたって言うことかな?
その一週間後。
荷物をまとめたわたしと先輩は、自分の飛行機をいったんおいて、三四三空の本拠地である愛媛県松山に向かうため、横須賀駅から汽車に乗り込んだ。
軍人手帳を見せて割引で改札を抜ける。
「間もなく一番線に、上り横須賀線普通大船行きが入ります。お乗りのお客様は下がってお待ちください。」
ピォーーーーーーッ!ヒュオ~、ゴトッ!
航空糧食のチョコレートに似た色の汽車が滑り込んでくる。
扉が開き、三等車からは国民服とモンペが、二等車からは士官の階級章をきらめかせた軍服が降りてくる。
最後尾の三等車、その一角のボックス席にわたしたちは陣取った。
「間もなく、一番線から横須賀線下り大船行き普通列車が発車します。」
駅員さんが叫び、車掌さんに合図を送った。
「扉、閉!側灯、滅。発車」
フィーッ、フィッ!
車掌さんが確認して笛を吹くと、列車はカクンと揺れて走り出した。
ヒョォォォォォォォォォ!ダタンダタン!
横須賀の街並みがどんどん後ろに通り過ぎていく。
「じゃあね、横須賀。」
わたしはそういうと、手をひらひらと降った。
本日の次回予告は、三人がハワイに行っているためお休みです。
誠に申し訳ございません。




