第五話 ガダルカナル
八月七日、今日は敵の一大基地ラビを攻撃することになっている。
「かかれっ!」
号令とともにみんなが愛機に向かって走り出した時、指揮所の中から声がした。
「発進やめ!」
中から、基地司令の小園中佐が出てきた。
「早く航空図を持って来い!」
素早く指令が飛び交い、士官搭乗員が集められる。
やがて、中島少佐がわたしたちの前に立った。ゆっくりと口を開く。
「本日明朝、敵の優勢な攻略部隊がソロモン群島のガダルカナルに上陸した。同時に、ツラギにいた横浜航空隊の飛行艇部隊は全滅した・・・・・・・・・」
中島少佐はここでみんなを見回すと、言った。
「本日は、ラビ空襲を中止し、ガダルカナルに向かう!では、かかれっ!」
『はいっ!』
みんなが一斉に返答し、走り出す。
わたしも自分の零戦「サクラ」に乗り込んだ。
わたしの零戦は、機体に八重桜が描かれている。岩本さんのいたずら書きだ。わたしは気に入ってるけど。
「回せーーーーーーっ!!」
キュンキュンキュンキュン・・・・・・・・・・・
エナーシャが音を立てて回る。
「コンターック!」(作者注:『コンタクト』がなまったもの)
ガコン!バタバタバタバタ・・・・・・・・・・・
エンジンがかかり、プロペラが回り始める。
必要計器を二秒で確認。坂井先輩に「発進準備完了」の合図を送った。
先輩が全機に合図を出す。
「チョーク外せーー!」
整備兵がチョークを抱えて退く。
「出撃!」
『おう!』
左手でスロットル全開!右手で操縦桿を押し倒す。
ヴァラララララララララ!
エンジンのうなりとともに、先輩、わたし、本吉二飛曹の順で離陸。空中で編隊を組むと、一路ガダルカナルを目指した。
タタタタタタ・・・・・
エンジンの響きも心地よく、わたしは、機体の一部になったような感覚を受ける。操縦桿を通して、血管や神経がサクラのいたるところに張り巡らされるような感覚。
そんな感覚に浸ってた時・・・・・・・・
《全員戦闘準備に入れ!もうすぐガダルカナルだ!》
無線機から聞こえる先輩の怒鳴り声。急いで計器盤上方の二本のレバーに手をかける。
ガシャン!
機銃の全装填を確認、航空眼鏡をつける。
遠くに、敵機の群れが見えた。
坂井機が翼を振る。戦闘開始だ!
「F4F五機か」
数の上ではこちらが不利だ。でも、こっちには日本の誇り、零戦がついている。
(自分を信じて、戦い抜くのみ・・・・・・・)
ぐんぐん近づいてくる敵機の群れ。坂井先輩が二十ミリをF4Fに放った。
ドドドドドドッ!
ボッ!
火を吹いて落ちる敵機!
《俺に続けーーー!》
わたしも、一機のワイルドキャットに狙いを定める。OPLの緑の輪の中に敵機をとらえた。
「くらえ!!」
乾坤一擲の二十ミリ機銃!
ドドドッ!
ワイルドキャットはエンジンを射抜かれ、落下していく。白い落下傘が飛び出したのが見えた。でも、そこにぶら下がっているパイロットは、だらんとしている。
(死んでいる・・・・・)
わたしの体に、悪寒が走った。
(わたしが・・・・・殺したんだ・・・・・・)
どんな理由であれ、わたしたちは「人殺し」なんだ。
「殺してしまって、ごめんなさい!」
逃げるように舵を切り、次の敵機に狙いを定める。
こちらも撃墜!
気が付くと、まわりに敵機はいなくなっていた。燃料も少なくなっている。
坂井先輩を中心に三角形の編隊を組んだ。
雲一つない南洋の青空、はるか下に見える海。とてもきれいな風景だ。わたしはちょっとだけ気を緩める。その時だった。
《敵機発見!編隊です!》
無線機から聞こえる本吉二飛曹の声。坂井先輩の答えが返ってくる。
《戦闘機だ!落とすぞ!》
『了解です!』
わたしと本吉二飛曹の声が重なる。
敵機の後部に回り込んだ。
(もらった・・・・・!)
そう感じた瞬間だった。
ババババババババババババ・・・・・・・・!
敵機から銃弾が飛んできた。
「え!?爆撃機!?」
戦闘機じゃない!後方に旋回機銃座を持った急降下爆撃機SBDドーントレスだ!
無線機から、坂井先輩の声が聞こえてきた。
《山ノ井!本吉!お前らは退避しろ!ここは俺が守る!》
「で、でも坂井先輩が!」
《俺のことは気にするな!これは小隊長としての命令だぞ!行け!》
わたしは、坂井先輩のもとを離れると、本吉二飛曹とともに一目散にラバウルへ向かった。救援を呼ぶために。
零戦を降りて指揮所に走る。勢いよくドアを開けた。
「大変です!坂井先輩が・・・・・・・・・!」
あれ?膝から力が抜けていく。
「大丈夫か!彩音二飛曹!」
西澤一飛曹が駆け寄ってきて肩を支えてくれた。
「帰り道に敵機発見、戦闘機だと思ったら爆撃機で、機銃で撃たれて坂井先輩が・・・・・・・!」
そこまで行ったところで、わたしの意識は途切れた。
「・・・・・・あの坂井も、ついに撃墜られたか。」
「そんなことない!坂井は絶対帰ってくる!」
すぐそばから聞こえる声。わたしはゆっくり目を開いた。
見慣れたわたしの部屋の天井。
ゆっくりと首を回すと、寝台のそばの椅子に座った西澤一飛曹と岩本さんが話している。
「んんんんんんんん・・・・・・」
ゆっくりと身をおこすと、気づいた岩本さんがこっちを見た。
「おお、起きたか。」
西澤一飛曹が水筒に入れた水を持ってきてくれる。それを一気に飲み干すと、気になっていたことを尋ねた。
「坂井先輩は、帰って来たのですか?」
二人は、無言で首を振る。
(やっぱり・・・・・戦死か・・・・・・・・・)
心の中で手を合わせた時、見張り隊員の大声が響いた。
「坂井だ!坂井が帰って来たぞ!」
「!?」
声にならない叫びをあげて、夜具を振り払う。
外に出た瞬間、こっちに向かって飛んでくる零戦が見えた。尾翼番号「V―173」坂井先輩だ!フラフラとこっちに向かっている。
「被弾している!あ!脚を出した!着陸失敗の場合も考えて、救護班を!」
多少フラフラしながらも着陸した坂井先輩にみんなが駆け寄る。
着陸した瞬間、コトンと音を立てて先輩の機のエンジンが止まった。燃料が尽きたんだ。
ガコン
風防を開けて出てきた先輩は、頭をやられて飛行帽が血で真っ赤に染まっていた。
「坂井!生きてたか!」
笹井中尉が先輩が翼から降りるのを手伝う。
「重傷じゃないですか!早く医務室に言って手当を!」
わたしの叫び。ところが、坂井先輩は驚くようなことを言った。
「上官のとこに行ってくる」
「え!?」
「上官に戦果を報告しに行くんだ!」
坂井先輩は自分の足で歩いて、指揮所にたどり着いた。
上官に敬礼して、戦果を報告する。
上官である小園基地司令はちょっと息をつくと、坂井先輩に言った。
「そんな状態でよくぞ・・・・・・すぐ医務室に運ばせる。」
「いいえ、自分で行けます。」
坂井先輩はきっぱりと言うと、自らの足で医務室に向かった。
保信「保信と」
春音「春音とぉ!」
みやび「みやびの~!」
三人『次回予告~!!』
―♪銀翼連ねて南の前線 ゆるがぬ護りの海鷲たちが・・・・・・・・・・
みやび「はい、今回は、あの地獄の戦いに突入してしまいました。」
春音「おばあちゃんみたいな飛行機乗りはまだマシでしたが、陸軍部隊などは補給が途絶え、飢え死にするものが絶えなかったそうです。」
保信「一説によると、戦闘での戦死者より餓死者のほうが多いそうです。」
みやび「いやですね。それは。死ぬにしても華々しく死にたいですし、何より死にたくないです。」
春音「ほんと戦争は嫌だね。」
保信「だな。」
みやび「戦争で亡くなられた方が守りたかったものを、わたしたちがこれからも守っていきたいですね。」
保信、春音(大きくうなずく)
保信「それでは、次回予告行きましょう!」
春音「次回は、坂井先輩が内地に帰り、他にもいろいろ起こります。」
みやび「それでは皆さん」
三人『お楽しみに~!!』




